ウルトラマンガンマ   作:無銘@気ままに執筆

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暗躍

 新東京にウルトラマンが現れて三週間、世間は未だに同じ話題で持ちきりだった。マスメディアは毎日のように特集を組み、新科特隊は説明を求められ、その裏で多発していた神隠しに興味を示す者はあまりにも少なかった。例えそれが何か深刻なものであっても、そうなのであればウルトラマンが何とかしてくれるはず。そういう認識が人々を支配していた。

 

 

 

「隊長!新たに三名が行方不明との情報が。警視庁からの報告書には彼らのデータも添付されていましたがいずれも一般的なサラリーマンの男性です。」

 

 

「ありがとう、引き続き警視庁とは連絡を取り合ってくれ。」

 

 

アナスタシアの報告に五十嵐隊長は短く返すと、類似の事件を記録したデータベースを調べながらうーんと唸った。何せ宇宙人による誘拐はとても多い。観察や実験動物として利用されるケースが主だが、中には地球の犯罪組織にドナーとして売りつける者や趣味でコレクションする変態もいるらしい。これだけの情報では何も見えてこない。隊長は新たな情報を待つしかなかった。

 

 

 同じころ、流も奇妙な現象に遭遇していた。抱えていた借金は消えていて、しかも銀行で聞いてもそのような記録はないとの事。さらにお金はどれだけ使っても口座の貯金は全く減らない。二人組についても、文句の一つでも言いに来るかと思いきや、待てども待てども音沙汰なしだ。ここまで来ると、むしろ彼らはウルトラフラッシャーを自分に託したのではないかと疑いたくなったが、それなら普通に渡せばいいじゃないかと疑問が疑問を呼ぶ。

 

 

ピキーンッ

 

不思議な錯覚を起こす。

 

 

 考え込みながら路地を行き、ここ最近入り浸っている喫茶店へと向かった。唐辛子コーヒーというのを怖いもの見たさというかゲテモノ目的で頼んでみたが、ホットで飲むと以外にも辛さが熱さに変わっていて、体の芯から温まる感覚があった。ゲテモノどころかかなりの掘り出し物に出会ってしまった流は気が付いたら唐辛子コーヒーなしでは生きられない体になっていたのだ。

 

 歩いていると、前方から騒音。何かと思えば行きを切らした中肉中背の男が必死に走ってきていたのだ。道を開けてやろうと思った矢先、その表情が目に入る。闘技場時代に嫌とお言うほど見た表情だ。本気で生命の危機を感じた人間が恐怖と悲しみと苦しみをぐちゃぐちゃにして顔面に吐き出したときに現れる断末魔のようなものだ。そんなものを見せられては、流も無視するわけにはいかない。そういう性分なので、考える前に体が反応した。

 

 

「こっちだッ!」

 

 

男の手を引くと横道にはいる。そのまま走って何軒かの調理屋んお室外機を通り過ぎると、男の腕を首の後ろを通して肩にかけ、勢いをつけてフェンスを飛び越える。

 

 

「あの、なんで?」

 

 

 フェンスの先はマンションの敷地で、大きなゴミ捨て場の小屋のような建物を背に、二人は背を低くして隠れた。しばらくして追手が来ていない事を確認するように何度か左右を見回した男は、困惑と安堵が入り混じった表情で問うた。

 

 

「なんでかな。なんか大変そうだったから。それよりアンタだ、追われてたんだろ。何があった?」

 

 

「そっか、いい人なんだな。へへ、これじゃ話しずらいし、もういいだろ。」

 

 

男はパンパンとビジネススーツに付いた砂ぼこりを払うと、フンッと表情筋に力をいれる。すると姿が徐々にぼやけ、再度鮮明になった時には人間ではないものの姿になっていた。茶褐色の肌に金属質を思わせる頭部、侵略宇宙人の一族とされるザラブ星人だ。

 

 

「う、宇宙人!?」

 

 

驚く流に、ザラブ星人は近寄りフレンドリーに返した。

 

 

「おいおい、それはお互い様だろ?そっちはなんだ?ケムール人になら何人か知り合いがいるけど・・・」

 

 

「俺は人間だよ!星降流(ほしふるながれ)。正真正銘の地球人だ。まあ、宇宙から見たら宇宙人だけどさ。」

 

 

「か、隠す必要はないだろ?地球人じゃあんな動きはできないさ。」

 

 

「お前、ちょっとそれ失礼じゃないか?助けてやったってのに。」

 

 

ザラブ星人は少し考え込むように腕を組むと、唐突に両膝をついて両手を合わせ大きな声で叫んだ。

 

 

「頼む、見逃してくれ!助けてくれたついでにさ、あ、違った!こっちではこうか!頼む!」

 

 

跪いて懇願するザラブ星人は慌てて体勢を土下座に変える。なるべく失礼がないように、そういう配慮のつもりだろう。流の人並外れた身体能力に早合点してしまったが、このまま警察を呼ばれたら最悪その場で射殺されてしまう。ザラブ星人にとっては一難去ってまた一難だ。しかし流はザラブ星人の予想を裏切って片膝を付いた。

 

 

「それは悪いことしたときにする行為で、お前は俺にまだ何もしてだろ。頭をあげろよ、誰にも言いふらさないさ。」

 

 

両手の間から覗き込むように徐々に顔をあげるザラブ星人に流は続けた。

 

 

「お前っていうのもなんかやりにくいな。なんか名前はないのか?」

 

 

「イギ。ザラブ星人のイギだ。本当に秘密にしてくれるのか?」

 

 

「ああ。言って何になるんだよ。それより、何があった?」

 

 

安心したのか、ザラブ星人は尻もちをついて大きく息をはいた。そして遂に事情について話し始めた。

 

 

 

「俺はもともと銀河自由同盟っていう組織のスパイだったんだ。でもこっちの生活が気に入っちゃってさ、なんかもうあいつらがどうでもよくなったんだ。こっちで職にもありつけたし地球の友達もできたし。それで向こうとのやり取りをさぼってたら知らないうちに粛清部隊を送り込まれちゃってたってわけよ。」

 

 

「銀河自由同盟?粛清部隊?詳しく聞かせてくれ。」

 

 

確かに専門用語を使いすぎた、と反省するザラブ星人のイギ。まずは銀河自由同盟について語った。

 

 それはウルトラマンたち宇宙警備隊に対抗する為の組織だという。数々の銀河から種族問わず参加者はあとを絶えず、掲げるスローガンはただ一つ『宇宙に自由な闘争を取り戻す』だという。彼ら曰く、進化の歴史は闘争である。同種で勝ち抜き、生態系を支配し、村と村で、国と国で争い勝利し、勝ち続けるために生命は進化し続ける。であれば、さらなる進化を求めて惑星と惑星が、銀河と銀河が、果ては宇宙と宇宙が何故争ってはいけないのか。ウルトラ族の平和主義のために進化の道を閉ざされている自分たちこそが本物の被害者だ。だから何らかの理由でウルトラマン達の庇護下になかったりそこから外れた星を度々襲撃しては原生生物を絶滅させて拠点として利用するのだという。

 

 そして粛清部隊とは、そんな拠点予定地の星に送り込まれた工作員や侵略実働部隊で特に成績が悪い者や裏切り者を始末する特殊部隊だ。高い戦闘力と豊富な戦闘経験を持つ強力な宇宙人たちが送り込まれるとのことだ。

 

 

「今回来たのはバルタンだ。あいつらはほとんどが今じゃクローンらしいけど、改造や特別な訓練を受けた強力な個体も多いらしい。」

 

 

「じゃあ、最近の行方不明事件ってもしかしてお前たちみたいな社会に溶け込んだ宇宙人たちが粛清されているのか?」

 

 

 イギは首を横に振る。地球人として生きていくからには同盟にとっての裏切り者だ。悟られまいと他の宇宙人たちからも距離を置く。ただ、その可能性は高いとイギは付け足した。ウルトラマンが倒されてからしばらくウルトラ族に放っておかれていた星で、ウルトラマンのようなものがしばらく前に突如出現した。そんな緊急事態に、おそらくあまりにも多くの工作員がまともな情報を送ってこなかったのだろう。さぼりか裏切りか、そのどちらであれクズを置いておくような同盟じゃない。そういうことなのだろうとイギは言った。

 

 

「あのさ、イギ。せめてバルタンの件が片付くまでは身を隠していた方がいいと思うんだ。一緒くたにするのもなんだけど、お前みたいなのがいっぱいいる場所がある。そこじゃ誰も素性は聞かないし、地上より色々不便だけど今のお前にはもってこいだと思うんだ。」

 

 

表情らしい表情を見せないザラブ星人の外見でも分かるほど目を輝かせてイギは食いついた。

 

 

「そ、そんな場所があるのか?教えてくれ!生きていられるなら今はどこでもいい!」

 

 

「こっちだ。」

 

 

にやりと笑った流は、チョンチョンと人差し指で地面を示す。地下には宇宙人たちの隠れ家たるヨミがある。治安が悪くて暗くて臭くて、とても酷いところではあるが問題を起こさなければ静かに暮らしていられる。今のイギにはどんな高級ホテルよりも安心を得られる絶対中立地帯だ。

 

 

 ヨミに降りるときはマンホールを伝って行く。初めて流がヨミに降りた時もこの方法だった。伝え聞いた噂と都市伝説だけを頼りに地下を迷いながら何とかヨミへと降りた経験がこうやって役に立つとは、あの時は想像もしなかった。だが今度は自分の避難ではなく人助け。少しだけあの時より気分が明るい。

 

 そんなこんなで、あれだけ迷ったヨミに三十分ほどでたどり着いた。

 

 

「じゃ、俺は地上に戻ってるわ。なんかあったら知らせに来るから。」

 

 

「ナガレ、まさかとは思うが、バルタンをどうにかしようなんて思うなよ。地球人としては強いかもしれないけど、相手は・・・」

 

 

「分かってる。俺は何もしない。ニュースとかそういうので何か重要そうなこと言ってたら伝えに来るから。」

 

 

「そうか。本当にいい奴だな、ナガレ。ありがとう。」

 

 

 

 ヨミで和む二人とは裏腹に、新科特隊本部には大きな動きがあった。襲撃を受けた地下駐車場の警備員による通報だ。曰く、『エビのような怪人が、警備員仲間を氷漬けにして破壊した。何が何だか自分でもわからない。気が動転したのでトラックで無我夢中で逃げたがこっちは工場地帯。救助を求む。』とのことだ。

 

 

 

「全員集合!」

 

 

「「はっ!」」

 

 

 五十嵐隊長の号令に合わせて、霧野隆之、東堂アナスタシア両隊員は作業を中断すると隊長のもとへ集まった。

 

 

「べ、ベティは?」

 

 

隊長が困ったように聞くと、霧野も言いづらそうに「新東京市のショッピングモールです・・・」と小声で言った。緊張感の無さはいつも通りといったところか。そんな微妙な空気で沈黙が流れている中、作戦室にベティの声が響いた。

 

 

「ごめんごめん、でもどうしてもサイバーマン2の試写会は外せなくてさ、みんなどうしたの?」

 

 

唖然とするメンバーの様子にやっと何やらやらかしてしまったようだと気付く。

 

 この声はベティの能力『絶対通信』によるもので、いかなる状況、いかなる環境、いかなる場所においても本部との通信が可能という機能を活用してのものだった。他の隊員なら怒鳴りつけている所だが、隊長は何とか平生を装って話を勧める。

 

 

「ま、まあ、今度ばかりはそこにいてくれて都合がいいか。ベティ、そしてみんなも聞いてくれ。通報の内容はエビのような怪人が人間を氷漬けにして破壊したというものだ。おそらくはかつて幾度か地球を襲ったバルタン星人による犯行と見ていいだろう。目撃者は工場地帯に逃れたというがバルタン星人は間違いなく追っているはずだ。

 

 既に新東京にいるベティは目撃者の一般男性を救助に向かってくれ。正確な座標はこちらから直に転送する。それと、くれぐれも人前で力は使わないでくれ。君は生身でも十分に強いから宇宙人に後れを取ることはないが、余計な混乱を招くことはあってはならない。」

 

 

隊長の話に割り込むようにして霧野隊員が質問する。

 

 

「俺は?俺はどうしたらいいんですか?」

 

 

「バルタン星人は巨大化する性質がある。記録によれば分身能力なども備えているそうだ。私はアルファで行くが、君にはハイビートルで援護してほしい。ウルトラマンの存在があれほど大々的に公表されてしまった以上、もはや隠す必要もないそうだ。

 

 アナスタシア隊員、君には引き続き観測と絶え間ない情報提供を頼む。スタッフの皆と協力して迅速な報告を心掛けるように。」

 

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 かくして、作戦は開始された。救出と殲滅、この二つの大目標を掲げて隊員達は各々の持ち場につく。霧野は整備ドックに走って向かうと、キャノピーが開いた状態で愛機ハイビートルが出撃準備完了した状態で待機していた。かつて戦っていたというウルトラマンと同等のスペシウム光線を発射するビーム砲二門と巨大生物を容易に破壊する劣化ウランミサイルを備えた強力な兵器であり、並みの怪獣相手や市街地では基本的に使わない。スペシウムに極端に弱いとされるバルタン星人が相手だからこその出撃だろう。飛行速度は驚異のマッハ十。高速飛行を行う際に形成する防護フィールドの性能は様々な外宇宙の侵略者の攻撃にも全く影響されないほど強力だ。

 

 

 

「ハイビートル霧野機、発信準備完了!」

 

 

「ルート、オールグリーン。グッドラック、霧野サン!」

 

 

整備班責任者トミー・ブラウンが通信とハンドサインで霧野を送り出す。片言の発音が久々の激闘を予感させ、操縦桿にも力がはいる。

ドッという重みを身体に受け歯ぎしりしながら軌道に乗るまでの数瞬を耐える。大空に飛び立つと身体に受けていた重量は徐々に緩むように解けるように消えていき、改めて任務のことだけを考えて空を切った。

 

「私はカプセルで待機して居よう。宇宙人の巨大化、またはベティから一般人救出の一報があれば、あるいはそれ以外の不測の事態に陥った時に私の任務は始まる。」

 

通信で隊員たちにそう告げると、カプセルと呼ばれる一人用の円筒状の機械に足を踏み入れる。五十嵐隊長が正しい姿勢を取ったと判断した機械はガラスカバーを閉じた。

カプセル改め、タクティカル・アシスト・トランスフォーム・システム。ウルトラトルーパーの戦略的利用について最大限の成果を得るために作られたシステムだ。基地の地下には巨大量子炉があり、そこで得られる莫大な電力をエネルギーとして基地全体やカプセルの運用に当てる。このカプセルを介して変身を行うことでウルトラマンの肉体は変身者と分離した状態で生成されることになり、変身者の肉体はカプセルの中に残る。これにより意識と肉体の癒着を断ち切らずに、肉体から意識を遠ざける事に成功した人類は、意識と肉体を繋ぐ形而上の回路を利用して変身者の意識が直接働いているウルトラマンの肉体に基地から無線でエネルギーを送ることに成功した。

つまり、このカプセルを介して変身する事でウルトラトルーパーたちは理論上時間無制限で戦うことができるのだ。

また、この基地にはフォトンランチャーという大砲門がある。基地最大の防衛兵装であることはもちろんの事、タクティカル・アシスト・トランスフォーム・システムの一部にこちらも組み込まれている。このランチャーから変身途中の純粋な光としてのウルトラマンを光弾として射出する事で任意の座標に文字通りの高速でウルトラマンを送り届けて作戦行動を開始することができるのだ。その射程は地球全土を対象としており、新科特隊の基地と人造ウルトラマンは史上最強の地球防衛システムとして世界中の防衛省から認められたのだった。

準備は万全。あとは各々が自分の出番を待つだけだった。

 

 

 

ピキーンッ!

 

今度は見逃さない。流はこの感覚をさっきも感じていた。錯覚だろうと断じてすぐにザラブ星人のイギ、そしてそいつを追うバルタン星人の存在が露呈した。どういう訳か、自分には助けを求める何者か、もしくは悪意を持って凶行に走る何者かを感じ取る力が芽生えたようだ。そんな事を考えながら、たまたまコンビニの前に止まっていたバイクに乗ると全速力で疾走した。

向かう方角は感覚があった場所だ。そんな曖昧に思える基準でもかなりの精度に感じられた。急を要するため交通ルールなどはお構い無しだ。限界までスピードを出して走っているはずなのにマシンが妙に遅く感じる。そんなこんなで郊外へ出ると、感覚は工場地帯へ近付くほどに強力ものになっていた。ほとんど誰も通らない国道を、あたかも独り占めしたように疾走すると、門が不自然に半開きの工場に差し掛かった。感覚は最高に強い。ここだと確信して門へ突っ込んだ。

 

同じ頃、少しタイミングを逸してベティも同じ工場にたどり着いた。基地から送られた一般人の車の位置情報の他に、彼女にも流に似た感覚があった。こっちだと訴える何か。正直に言って、基地の情報よりこちらを頼りに空を飛んでいた。

屋上に着いたベティは透視能力で工場内部をスキャンする。トラック内には確かに縮こまってガタガタ震える警備員姿の男がいた。他にも、入口近くに二体、建物内部に三体、トラックに近寄るのが一体と、合計六体のバルタン星人が確認できた。自分の任務は人命救助だ、それを最優先にと、スキャンをやめてトラックにジワジワ接近するバルタン星人を止めようと屋上から跳んだ。

 

「そっから先は、行かせないよッ!」

 

飛び降りながら空中で回転すると、落下と回転で大きく威力を上げたキックがバルタン星人を襲った。

バルタン星人に地球の言語は分からない。しかし、発せられた音声が自身に向けたものでそれが敵意だとは理解出来た。地球人の戦闘レベルなどたかがしれている。加えて自分はあの銀河自由同盟粛清部隊の一員だ。こんな小さな地球人の一撃など防ぐ間でもない。

 

瞬間、バルタン星人がサイドミラーから消えた。もちろん運転手は怪人をバルタン星人とは理解して居なかったが、瞬きすらせずに早まる鼓動を最後のカウントダウンだと思い一時も目を離さなかった。充血した眼は間違いなく怪人だけは逃すまいと見開いていたのに、怪人は青髪の少女に変わっていた。

バルタン星人もまた理解に苦しんでいた。一切の防御をしなかったとはいえ、今の一撃で頭部が砕けてしまった。複眼は潰れて、いくらかの外骨格の破片は脳にも達している。瀕死の重傷だ。早急にどこかへ隠れて脱皮しなければこのまま死んでしまう。粛清部隊のエリートが小型の地球人に一蹴されて死ぬなどあってはならないことだ。これでは死んでも死にきれない。

そんな事を虚ろな頭で考えながらバルタン星人はシャッターへツッコミ、突き破って溶接機械が整列する中をめちゃめちゃにしながら建物奥へ消えていった。

 

「ーーーッ!ーーーッッ!」

 

ベティが何かを言っているが、窓を締め切っている運転手にはよく聞き取れない。その様子を見て少しムスッとしたベティはトラックに近付くと、強くノックして窓を叩き壊す。

 

「逃げろってさっきから言ってんじゃ。おじさん聞こえないの?」

 

「ひぃぃぃ!!!」

 

何が何だかもはや理解できない男に、はぁ・・・と溜息を着いてベティは続けた。

 

「クラッチ踏んで。」

 

「はい!」

 

「ギア入れて。」

 

「はい!」

 

「ハンドブレーキ下ろして。アクセル踏んで、早く行きな。国道まっすぐ行けば街に着くから。」

 

「あの、どっちに曲がれば・・・」

 

ここまで脳味噌を停止して支持に従う運転手。何とか言葉を絞り出すも、ベティ手を額にペチンと当てて呆れる。

 

「どっちでも良いよそんなの!早く人目の多いところに行きなよ!殺されちゃうよ、バカッ!」

 

怒鳴られた男はそれ以上何も言わず、ハンドルを強く握って深々とアクセルを踏んで、駐車場を門へと疾走した。

 

ズチャリッズチャリッ、駐車場の砂利を静かに踏みしめながら流は周囲に集中する。辺りは、日が沈んで街灯が点くまでの僅かな闇の時間。目に頼ったところで得られる情報などしれている。

 

ズチャリッズチャリッ

 

ズチャリッ

 

ズチャッ・・・

 

「そこかッ!」

 

飛び退いた先で前転すると、そのまま砂利をつかみ暗闇へ投げつける。

飛び退いた流が巻き上げた粉塵は、白い光弾が押し潰し、爆発を伴ってより大きな砂煙を巻き上げた。対して投げた砂利は闇から跳ね返って勢いなく駐車場に同化すると、セミを思わせる頭部にエビのような胴体と大きなハサミを持つ怪人、バルタン星人が飛び出した。

 

「フォッ!」

 

高空から降下しながら、バルタン星人は流に向かって赤色の光線をハサミから放つ。射線を外れようと飛び退いた流は前転で光線を回避すると間髪入れずに駆け出した。流の読みが当たる。バルタン星人は着地までに関節の可動域限界まで腕を動かして光線で流を追尾した。

このバルタン星人が放ったのは赤色凍結光線。あらゆるものを凍り漬けにしてしまう強力な能力であり、初めて人類がバルタン星人と邂逅した時はこの光線で科学センターをたった一人のバルタン星人に攻略されたこともあった。ことごとく外れた赤色凍結光線は流の背後に氷柱を屹立させて半円状の壁を作った。

自らで作った氷壁で流を見失うバルタン星人、しかしすぐに流とは再開することになる。

 

「こっちを見ろッ!」

 

反射的に声の方を振り返るバルタン星人、しかしそこには誰もいない。バルタン星人はここで初めて、自分が狩人のつもりが、その実獲物だと直感的に理解した。戦慄した時にはもう遅かった。足払いでバランスを崩すと、肩に引っ掛けるように流に抱えられる。スムーズな動作で流は氷壁を駆け上がると、

 

「死ねぇぇッ!」

 

「フォフォッッ!?」

 

咆哮して氷壁にバルタン星人を叩きつけると、完璧に決まった投げにプラスされた落下の勢いにはバルタン星人の外骨格も耐えられず、バルタン星人は無惨にも自分で作った氷柱の壁に串刺しになる。

現実がまるで信じられないとばかりにバルタン星人は空を仰ぎ見る。下等生物に完敗した屈辱と無力感の中で消えゆく意識を何とか繋ぎ止めようと必死に酸素を求めた。

 

バルタン星人にはとりあえず勝利した。しかし例の嫌な予感は未だに消えない。流の戦いはまだ続くのか。

 

 

 

 

 

 

 

つづく




第三話、お楽しみ頂けましたか?
Pixivでシリーズを最初から読みたい方はこちらへ!キャラクターのイメージや細かい設定がご覧いただけます→novel/series/8703459
次回はバルタン星人編の完結です。お楽しみに!
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