第4話 邂逅と共闘
バルタン星人は無事に撃破、と思ったのもつかの間、白い光弾が氷壁の向こうから放たれ幻想的に乱反射する。白色破壊光弾、バルタン星人の用いるもうひとつの光線技であり、ただ破壊にのみ特化したものだ。流は背後へバク宙して砕けた氷の破片を回避すると、続けざまに発せられた何発もの光弾をバク転で回避して見せた。
「チッ、流石にしつこいぞ!」
悪態をつきながら光弾を避け、僅かに残った氷壁を遮蔽物として利用しながらバルタン星人に少しずつ近付く。
夜の闇にあってなお昼間と錯覚する程の光弾と爆発のストロボに、オレンジめいた光が乱入する。怯えきって泣きながらハンドルを回すトラックの一般男性だ。
「なんだよ、なんなんだよ!俺が何したってんだよッ!」
車外からでも聞き取れる程の大きな声で中年男性が泣きじゃくりながらトラックを転がしていた。
あれは唯一生き残った目撃者の地球人だ。バルタン星人の執拗な光弾攻撃は大本命の接近によって止むことになった。正にネギを背負ってきたカモだ、バルタン星人はトラックの進路を遮る位置へ一飛びして勝ち誇ったように光弾を放つ。
「避けろ、死ぬぞッ!」
駆け出した流が叫ぶ。ベティに窓ガラスを叩き割られた事もあり、その声が聞こえた運転手は唐突にハンドルを切った。放たれた光弾はトラックの側面にぶつかると勢い良く爆発してトラックをスクラップにする。運転手は爆発の勢いでフロントガラスを突き破る、バルタン星人とすれ違うように投げ出されて砂利の駐車場に顔面から激突する。
流は素早くトラック運転手に駆け寄ると、自分が乗ってきたバイクの鍵を握らせる。
「門のそばにバイクがある。それで街まで逃げるんだ。」
振り返って光弾の追撃を放とうとハサミを構えるバルタン星人に流が飛びかかってマウントポジションを取る。何度も殴りつけるがバルタン星人の外骨格に阻まれて流の殴打では決定打にならない。
二人が組み合っている間に運転手はバイクを目指して走っていった。焦ってよそ見をしたバルタン星人の隙を突いて流は無理やり立たせると、
「おらァッ!」
思いっきり背負い投げを決める。背中から地面に落とされたバルタン星人はこの一撃で内蔵が破裂したのか、苦悶の唸りをあげて空を仰ぐ。
「もう一発ッ!」
今度は背中ではなく頭から地面に叩きつけられるバルタン星人、脳の一部を破壊され完全に平衡感覚が失われる。苦痛と恐怖で発狂寸前の中、流は死刑を宣告する。
「これで、トドメだッ!」
両足を脇に挟んで腕でガッチリとホールドすると、コマのようにその場で回転を始める。このジャイアントスイングを受けたバルタン星人は遠心力でさらに脳をやられ、頭が破裂するような気分を味わった。ついに発狂してしまったバルタン星人は叫び声を噛み殺した様な独特の呻き声を上げる。
「はッ!」
掛け声と共に投げ飛ばすと、バルタン星人は自分で破壊して炎上させたトラックに叩き込まれる。ガソリンの燃える臭いと肉の焼ける臭い。発狂して喚き散らし、手足をバタつかせるが全く消火になっておらず、徐々に動きが鈍っていくバルタン星人。
そんな残念な異星人を尻目に、流は建物へと足を踏み入れた。感覚はまだある。殲滅すべきバルタン星人はこれで最後じゃない。
散乱した機械を掘り返しながらベティは蹴り飛ばしたバルタン星人にトドメを刺そうとどこかに横たわっているはずの獲物を探す。整列していたはずの機械類は一方向にえぐれるように崩れていたので、透視の範囲狭めて精度を上げながらバルタン星人の居場所を探す。
「おっかしいなぁ、絶対この辺で伸びてるはずなのに・・・」
奥へ奥へと掻き分けていくと、ようやく透視にバルタン星人の鱗に覆われた足が引っかかる。
「いたいた、見っけ!」
倒れた機械類を掻き分け腕を突っ込むと、そのまま勢い良くガラクタの山から引っこ抜く。
「あッ!?あいつゥ・・・」
引っこ抜いたのは着ぐるみのように背中が開いた脱皮後のカラだった。
過去、人類が初めてバルタン星人と戦った時のこと。核ミサイルの直撃を受けた巨大化後のバルタン星人は、その場で脱皮をする事で傷を癒して戦闘続行して見せたという。
「えーっと、本部、聞こえる?」
ベティは新科特隊本部の作戦室との通信を試みると、すぐにアナスタシアがその声に応答した。
「はい本部、状況は?」
「うん、一般人は逃がしたよ。とりあえず危険域は抜けたと思う。」
「わかったわ、あとはドローンで探してこちらで保護しておく。で、敵は?」
「予想通りバルタン星人だったよ。一体と交戦したけど逃げられて脱皮されちゃった。確認した限りだと全部で六体だったから一人でなんとかなる数だよ。」
「わかったわ、隊長にも伝えておく。何かあったらまた通信をお願いね。」
報告を終えると、奥の壁にある扉が半開きなことに気がつく。おそらくは脱皮を済ませて直ぐに部屋を移動したのだろう、よくこんなハサミのような腕でドアノブを回せたなと感心しながら戸を開いて中へ進んで行った。
戸の先は廊下になっていた。右側のガラス扉を抜けた先には階段とエレベーターが、左には突き当たりのガラス扉まで続く廊下の壁に等間隔で木製のドアが着いている。手前のガラス扉は閉じていたが、向こうの扉は反射の様子から空いていることがわかった。
「あっちか。あの個体は絶対に性格雑だよね。どっちに逃げたかバレバレ。」
辺りを警戒しつつ対面のガラス扉まで行くと、次の手がかりを期待してゆっくり半開きの戸を押した。
景色はあまり変わらず、階段とエレベーター。そして今度は階段はないので登るか降りるかしかなかった。
チンッ
エレベーターがタイミングよく降りてくると、真っ暗な工場の廊下にオレンジ色の光が指した。開いたエレベーターを覗くと、中は無人。とても不気味な光景に、ベティはむしろ心を踊らせる。
「誘ってんの?ふふ、粋なことしてくれるじゃん。良いよ、乗った。文字通りね!」
どうせ聞いているだろうから、聞こえるようにと大きな声で言うと、先ずは一階上にエレベーターのボタンを設定してドアを閉める。
機械の箱はゆっくり引き上げられると、先程の廊下が遠ざかっていく。ベティはこの先に何が待っているのか心を踊らせながら上階へたどり着くのを待った。
バルタン星人を追って先ず差し掛かったのは下駄箱だった。スノコを挟んで一段上がったところに四角い収納スペースを何列も並べた身長ほどの棚が二つ程設置されていて、そのうちいくらかにはスリッパが入っていた。おそらく常に出入りする人が置いたままにしているのだろう。左を見れば受付らしきガラス戸とカウンターが、右には突き当りで二股に別れる廊下と仁王立ち状態のバルタン星人がいた。
バルタン星人はおもむろにハサミを下駄箱辺にいる流に向けると、赤色凍結光線を放った。攻撃は流に回避されるが、バルタン星人は光線の射線を変えない。すると、長距離であるにも関わらず光線に晒されていた一面が分厚い氷の壁と化した。これまでのバルタン星人たちの攻撃を考えると、この厚さの壁なら白色破壊光弾でも一発は耐えるだろう。
「閉じ込めたつもりか。いいぜ、相手になってやる!」
駆け出した流に、バルタン星人は両バサミを向けると白色破壊光弾を各ハサミ交互に発射した。
流は向かってくる光弾を、身体を翻し、前転で回避したり、あるいは廊下の壁を三角飛びして器用に避けきると、目と鼻の先までバルタン星人と接近する。
「おらァッ!」
パンチを放ったその瞬間、バルタン星人の体色が僅かに薄くなりパンチがそれを貫通する。当のバルタン星人は無数の残像を残すようにして後方へ何体も連続して発生すると、各々が左右や真上に飛んで壁を抜けた向こうへ抜けて消える。
「分身した?いや、でもあれは・・・」
流の考察は凡そ間違っては居なかった。
バルタン星人は自分の分身を投影する事で敵を翻弄する技を有する。そしてこの分身たちは各々が別々の動きを可能とするのだ。この特性に加えて、バルタン星人は極短距離の瞬間移動をも可能とする。これも緊急回避や敵の翻弄に利用する技能だが、今回はその両方が使われた。先ずは分身で流の攻撃を受け、その勢いで廊下突き当りの壁まで移動するそして分身たちをデタラメに飛ばしながら本体の動きをカムフラージュし、自分は瞬間移動で壁、もとい天井を抜けた。
バルタン星人は頭上と死角の有利を利用すると、上階から聞き耳を立てながら光弾で流を撃ち殺す準備をしていた。下階の廊下でバルタン星人を探して流が動けば、その音で場所がわかり、階層越しに流の頭上から光弾で撃ち抜ける。この程度の床を貫通する程度は造作もないのだ。
「くそ、どこへ行きやがった!出てこいっ!」
ニヤリとしながら流は上着を脱いだ。内ポケットに収納していたウルトラフラッシャーをジーパンのポケットに移動すると、さらにいくらか大きな声で悪態をつく。
バルタン星人にはまたと無いチャンスが訪れた。流の様子は伺えないが流石は下等生物だ、わざわざ自分から居場所を教えて殺されてくれるなんて優しいな。そんな事を考えていたバルタン星人は嬉々として流の真上まで駆け寄り白色破壊光弾を惜しみなくめちゃくちゃに連射する。
「ぐわーっ!」
光弾の発射音に紛れて断末魔が木霊し、その声は光弾の爆発音でかき消される。建物を成す鉄筋コンクリートはいとも簡単に破壊され、瓦礫は落下し砂埃も舞い上がる。乱打された光弾のスコールが止むと、下階の瓦礫の山と砂埃の霧の中に死体を確認しに来たバルタン星人が降り立った。
大きなハサミで瓦礫を掻き分けると、穴だらけの焦げた衣服が目に入る。先程の地球人のものと色柄は同じ、形状も随分変わったが同じだろう。勝ち誇ったバルタン星人はハサミでそれをつまみ上げようと姿勢を屈める。
バルタン星人を唐突に襲ったのは浮遊感だった。砂煙の霧から伸びた腕がバルタン星人の背後からウエストを固くホールドする。次の瞬間、僅かコンマ数秒の出来事がバルタン星人にはスローモーションに感じられた。浮遊感が落下に転じる。巨人の手で握られて地面に叩きつけられるような感覚。襲いかかるのは、無力感と激突の痛み。そして浮遊感ーーー
流はバルタン星人にスープレックスを決めると、ブリッジの体勢から元の姿勢に戻る。ぐったりしているバルタン星人は再度の落下を経験する。再度の恐怖、再度の激痛、そして浮遊感。バルタン星人は三度目の落下と激突、そして激痛を経験する。何度も何度も頭を叩きつけられることでバランス感覚はグチャグチャだ。そのままぐったりしていると、徐々にバルタン星人の身体は干からびたように乾いて白みを帯びる。
「殺ったか。よし、次だ。」
まだまだ嫌な感じは拭えない。撃破したバルタン星人をよそに、流は階段を駆け上がる。
エレベーターが上階へ着くと、扉の向こうにはバルタン星人がハサミを開いて待機していた。頭部の傷こそ無くなっているが、おそらくはベティが蹴り飛ばした個体だろう。当のバルタン星人は長くタメていたのか、エレベーターごと吹き飛ばしかねない極大の白色破壊光弾を、エレベーターが開くのと同時に発射した。ほとんどゼロ距離、四角い箱の中では避けようが無い。
「考えたじゃん。でも相手が悪かったね、私じゃなきゃ君は勝ってたよ。」
バスケットボールサイズの大きな光弾をベティは手のひらで受け止めると、握りつぶすように指に力を入れる。光弾は急速に縮み、やがてベティの手の中で消えてしまった。これはベティのエネルギー吸収能力によるものだ。彼女、つまり人造人間ベータは長年の地球人類と侵略宇宙人の戦いの中で、宇宙人をとことんまで研究した結果生まれた、対地球外勢力決戦兵器としての側面も持ち合わせる。変身さえ封じればなんとかなる、などという甘い考えは通用しない。そんな人類の本気度を科学力を介して結晶化した存在がベティだと言える。
バルタン星人は慌ててハサミを構え直して光弾を放とうとするが、もう一度チャンスを与えてやるほどベティは甘くはなかった。
「だーめ。今度は私の番だから、吹っ飛べッ!」
突き出した手のひらから青白い光波が放たれる。光に包まれたバルタン星人は何とか耐えようと両腕をクロスするが、そんな事で耐えられる訳がなかった。ベティの放つ光はウルトラマンと同じスペシウム光線だ。しかも理想のコアユニットとして製造された彼女の放つ光線は極めて強力で無慈悲だ。今回放たれたのは破壊光線としての光ではなく、ただ明るいだけの光線だ。彼女なりに建物を気遣っての事だった。しかしバルタン星人にとってはあまりにも無惨な最期だった。全身のくまなくをスペシウムで照らし出され、光に撫でられた場所はただれてグチャグチャ分解し始め、やがて蒸発する。スペシウムは僅かでもバルタン星人の身体には猛毒で耐え難い苦しみを与える物質だ。時には死に至らしめる事もある。しかしベティが放ったものは最早その次元ではない。
瞬殺。その言葉がこれ以上似合う様もなかなかないだろう。広がった光は正に瞬きのものだったのだから。
駐車場で炎上していたトラックも流石に燃料が切れたのか、僅かな火の手を残して真っ暗に焦げた残骸になっていた。そんな残骸が、突如金切り声にも似た異音を立てて真っ二つに千切れる。黒煙の中に見え隠れするのは、銀色の大きなハサミと甲殻類特有の外骨格、そして怪しく光る眼光。
眼差しの先には氷柱に串刺しで月を仰ぐバルタン星人の姿があった。その個体にも異変が起こる。ペキペキと音を立ててバルタン星人の身体が開くと、中からもう一体のバルタン星人が起き上がるように目覚めるように出現する。
二体のバルタン星人はお互いに歩み寄ると、何かを確認し合うようにハサミを持ち上げたり前後に揺れたりする。
バルタン星人を追って工場内を探索する流は、反対の棟から唐突に眩しいほどの光が発生するのを見た。窓から漏れた物だけでも目を痛めるほどの光だった。
「あれはッ!」
白い光、そこから最初に連想するのはやはりバルタン星人の白色破壊光弾だ。もしかしたらあそこにも一般人が閉じ込められているのではないか、そしてバルタン星人の攻撃に遭ったのではないか。そう考えた流は光の方へ走っていった。
駆けるに連れて嫌な感覚も強くなる。ここまでの経験からすれば、これは新たなバルタン星人に近ずいている証拠だ。自分になぜこういうレーダーのような機能が付いているのかは今のところ謎だが、それを深く考える様な状況でもない。虫の知らせなどは昔から言われてることだし、その類のものだろうと結論付けた。
同じ頃、ベティの透視にもバルタン星人の姿が引っかかっていた。しかし奇妙なことにバルタン星人は三体で集まって行動している。しかも感じ取れるエネルギー反応は三人もいるのにさっきの一人分とそれほど変わらない。個体差と言うにはあまりにも大きな差に困惑しながら、「弱っちいに越したことは無いか」と楽観してバルタン星人に近づいていく。
直感に似た感覚を頼りに廊下を駆ける流と、透視を頼りに階段を降りるベティ。見つけたバルタン星人は奇しくも同じ個体だった。方や曲がり角を抜けて、方や階段から廊下に出るガラス扉を乱暴に開いて、二人は邂逅する。
バルタン星人達を挟んで、二人のウルトラマンはお互いの共通点も知らずに全く同じ事を思った。
(一般人がこんなところで何やってるんだ?早く逃がしてやらないと・・・!)
挟み打たれたバルタン星人達はピタリと止まって一列に並ぶ。流とバルタン星人三体組とベティ、しばらくの膠着状態を破ったのは真ん中の一体を挟んだ格好で佇んでいた二体のバルタン星人だった。何の予備動作もなくバルタン星人達は一方が流に、一方がベティに同じような型とタイミングで飛びかかる。
「ッッ!?」
「・・・!」
ベティは反射的に防御の姿勢を取り、流は無造作な立ち姿から構えのポーズに切り替える。
このバルタン星人達は何かがおかしい、同じことを二人の戦士は直感するが、ここに戦闘経験の差があらわになる。
「フォッ!」
真ん中のバルタン星人が唐突に片膝の体勢になると、両サイドへ腕を伸ばして向かって右のベティと左の流に白色破壊光弾を放った。
永遠の様なコンマ数秒が刻まれる。流の脳裏にフラッシュバックするのは、バルタン星人とのこれまでの戦いだった。光弾攻撃、分身能力、全て今まで見てきた通りだ。これまでの経験が無意味でないのなら、
「はッッ!」
飛びかかるバルタン星人に向かって飛び込むように飛び上がり、光弾をスレスレで避けようと空中で前転する。
読み通り、襲いかかるバルタン星人は分身だった。光弾を発した中央のバルタン星人が本体で、それ以外は撹乱のためにバルタン星人が用意したニセモノらしい。
バルタン星人は正直なところ驚いていた。今回使った技は彼なりの初見殺しだったのだが、見事に見切られ破られてしまった。分身体が襲いかかり、反射的に防御姿勢を取った者は認識外からの光弾によって撃ち抜からる。それで死ねばよし、死ななくても虫の息と言う戦法だ。地球人とやらもなかなかやるじゃないか、などと考えてフォフォッと小さく笑う。
片膝の姿勢から立ち上がるバルタン星人、空中回転の勢いを殺さず飛び蹴りに移行する流。足裏がバルタン星人の顔面に激突すると思われた瞬間、流は戦慄したそれまで何の反応も見せていなかったバルタン星人がハサミで足首を取って防いでみせたのだ。バルタン星人はそのまま勢いよく流を振り回すと廊下に沿って並んでいたガラス窓に叩きつける。その勢いで流はガラス窓からを突き破って外へ投げ出されてしまった。
同時に光弾を受けたベティは床に倒れ込んで飛びかかるバルタン星人の分身と光弾をやり過ごす。背後での爆発音を聞きながら寝そべった状態で顔をあげると、窓から投げ出された流の姿が目に映る。
「しまったッ!」
ここは地上三階に位置する廊下だ。ここから自由落下して人間が無事でいられるはずがない。人前で力を使うなという言いつけを守っていたとはいえ、あまりにも不甲斐ない自分に嫌気がさす。
「っらァッッ!!!」
投げ出された流は、突き破ったガラス窓の枠に手を引っ掛けて難を逃れると外から内へ今度は窓を突き破って戻ってきたのだ。
勢いをそのままに、ドロップキックの体勢で両足蹴りを放つと、流石にそれは想定外だったようでバルタン星人は何歩か壁側へ後ずさる。
「今だッ、やぁーッ!!」
立ち上がったベティが殴り掛かろうと拳を握って駆け出す。対してバルタン星人はハサミをベティに向けると、白色破壊光弾を再度発射した。
「こン…のォッ!」
駆ける少女と応戦するバルタン星人を見て、流は発砲するバルタン星人の腰にタックルする。唐突な衝撃で狙いを外したバルタン星人はそのまま壁に叩きつけられた。
「くらえッ!」
壁を三角飛びしてベティは光弾を避けると、壁から離れながらバルタン星人の顔面を殴りつける。
ベティと流の連携による波状攻撃は休むことなく続いた。顔面を殴られた事でベティに意識を向けた隙に流のボディアッパーがバルタン星人にクリーンヒットする。バルタン星人は二人を引き剥がそうと大きなハサミを振り回すが、その攻撃は全てスレスレで回避される。そして何度目かのハサミ殴打を回避すると、ベティの足払いでバルタン星人はバランスを崩した。
「今だよッ!」
「おうッ!」
流はバルタン星人のハサミを捕まえると、自分ごと回転して窓にバルタン星人を叩きつける。
「ダメ押し、行くぜッ!」
「落ちろッッ!!」
流の掛け声とアイコンタクトで連携をとると、割れたガラス窓の枠に持たれる様な体勢でいるバルタン星人に二人は渾身の後ろ回し蹴りを放った。
「フォォォッ!!!」
断末魔の様な声を上げてバルタン星人は窓の外へと落下していく。同じフォームで足をあげていた二人はほぼ同時に足を下ろして構えを解いた。
「いぇーいッ!」
「ナイスッ!」
コツンと軽く拳をぶつける。ここでやっと初めてお互いの顔を確認した。外見だけなら歳も近そうな二人だ。少しの沈黙が訪れると、気まずくなったのか先に口を開いたのはベティだった。
「やるじゃんお兄さん。なんかやってるの?」
ジェスチャーでファイティングポーズを取って見せる。なんか、というのは空手やキックボクシングをイメージしての事だろう。それに対して流は少し困った様に頬をかきながら答えた。
「ちょっと前までな。それより君の方こそすごいな、女の子なのにあんなバケモノとやり合えるなんて。」
何かを察したのか、ベティは不敵な笑みが月明かりに照らされる。
「なーんか、お互いワケありって感じだね。もしかして、お兄さん宇宙人だったりする?」
「バーカ。俺は地球生まれ地球育ちのれっきとした地球人、星降流だ。全く、最近やたらとみんな同じ勘違いしやがって。」
少し前に助けたザラブ星人のイギにも同じ事を言われた。確かに人並みからはやや外れているかも知れないが、そこまで言われるほどだろうか。そんな事を思ってムッと少女を睨むと、少女は我慢出来なかったらしくふふっと笑った。
「分かった分かった、そういう事にしとくよ流。私はベティ、よろしくね?」
ベティが握手しようと手を伸ばすと、流も表情を緩めた。そして砂埃で汚れた手を衣服の裾でパンパンとはたくと、「よろしく」と笑顔で握り返した。
バルタン星人編の完結を書く予定が筆が進んで中編になってしまいましたね。次回こそ完結です。お楽しみに!本シリーズを初めから楽しみたい方はこのリンクからどうぞ!→novel/series/8703459