通報を受けて一般人救助とバルタン星人の殲滅に出動した新科特隊。同じ頃、星降流も不思議な感覚でバルタン星人の存在を直感する。
新科特隊のベティと科特隊とは無関係の流は、奇跡的にも同じ場所で同じ人を助け同じ敵と戦った。そして、お互いの素性を知らないまま二人の『ウルトラマン』を託された若者はやはり同じ敵を前にして邂逅し、協力してバルタン星人を撃破する事に成功した。
一般人は無事に危険地帯を抜けられ、ベティと流の共闘して勝利を収めた。これで一件落着に思えるが、果たして?
第五話 強敵
手を握り微笑むの男女。幻想的な月明かりに照らされた横顔は、それ以外の全てを忘れてしまいそうになるほど綺麗なものに思えた。それこそ、ここが異星人の跋扈する戦場だということさえも、流を見上げるベティには忘れてしまうほど瑣末なものに感じられた。
「ひゃだっ、えっ!?」
微笑む流の顔が真剣な眼差しに変わる。手を握ったままベティを抱き寄せると、押し倒すように、あるいは床に二人で飛び込むかのように抱いたまま倒れ込む。
何が起きているのか理解に苦しむベティ。鼓動が早まる。これから何が始まるのか、不安と緊張と、少しの恐怖と期待に胸を膨らませて目を閉じようとした時、
閃光、爆音。次いで、壁が消滅して砂煙が立ちのぼるーーーー
ベティが期待したほど状況はロマンチックでは無かったようだ。
「くッ、追撃、来るぞッ!」
短い警告を済ませると、流は両手でベティを抱き寄せ廊下をゴロゴロと転がる。
追うようにして閃光と爆発が二人の軌跡をなぞった。窓と床の間にはコンクリートの壁があり、その裏に隠れて退避しているためか、窓の外から白色破壊光弾を放っているバルタン星人の射撃は正確さを欠いている。それでも光弾を受けた床は弾け、砕け、粉塵と化していく。ギリギリで廊下を抜けることに成功した流れたちは、完全にバルタン星人から死角となる角を曲がった先で立ち上がった。
「立てるか。よし、急ぐぞ!」
「ど、どこへ?」
先程握った手を離さず引いて走る流、ベティも強く握り返すが、不安の声が口をついてでる。
「とりあえず仕切り直しだ、ここを離れる。」
「ダメだよ、走って巻ける相手じゃないって!」
「足になるものを探すんだ。大丈夫、心当たりはちゃんとある。」
ここへ来るまでに通った下駄箱と受付のエリア、流の目的地は受付横の狭くも広くもない程度の事務室だった。そういう所には決まって外回りに必要なものが一式揃っている。必要書類だったり名簿だったり、或いは社のロゴが入った上着だったり。もちろんそんな物は今の流にはどうでも良くて、興味があるのは社用車の鍵だった。外の駐車場にはロゴ入りの軽自動車も止まっていた、つまりあれは特定の誰かの車ではなく会社でみんなが使ってるものと考えられる。ならば鍵もみんなが使える位置にある筈だ。
急いで来た道を戻り、階段を降りる。
「ちょっと、そこ床が抜けてて通れないじゃん!どうすんの?」
「大丈夫、あそこは案外底が高いんだ。ほら、来てみ?」
そう言いながら余計に崩さないよう慎重に歩いて穴まで近付くと、流はひょいと軽いジャンプで下に消えた。
ガラガラっという何かが僅かに崩れる音、ベティが見下ろすとそこには瓦礫の山を器用にサーフィンでもするかのような姿勢で滑り降りる流がいた。そもそも人造人間であるベティにとって高所からのジャンプなど造作もなかったが、目の前の人間の思い切りの良さには驚きと少しの恐怖を覚えた。
「よっと。あッ!」
「どうした?」
流に習って飛び降りるも、大きな声をあげるベティ。足でもくじいたのかと心配して流は振り返ると、ベティは瓦礫の先を指さしていた。
「なんだ、あれ?」
指さす先には、白いバルタン星人の着ぐるみのようなものが転がっている。縦にパックリ割れていて、まだ少し湿り気が残っているなんとも気持ちの悪い外観だ。
「あれはバルタン星人が脱皮したあとのカラ。もしかして流がやったの?」
「ああ、確かにここへ来る時、ちょうどこの通路でバケモノとやりあったよ。殺したと思ったんだか、まさか・・・」
「そのまさかだよ。多分脱皮したら他のと同じ様に傷が全部治ってるはずだから、ここにいちゃ不味いかも。」
「・・・目的地はこの先だ、急ごう。」
なぜ少女がバルタン星人という名を知っているのか。普通の人間は宇宙人となんて接点はない。パッと種族名が分かるのもおかしいし、その脱皮の修正や恩恵まで理解しているとは驚きだ。趣味か仕事か、この少女の強さも込みで考えると、恐らく彼女は一般人ではない。そんなことを考えながら事務室へ走る。
駆ける二人は、突如発生した地震に足を取られると事務室の扉を前にして床に転んでしまう。
「きゃッ!」
「なんだッ!」
転倒しながら振り返ると、先程走ってきた廊下が轟音を立てて埋もれる。遠く上空には二つの、淡い光を煙越しに貫通させる巨人がいた。悠然と煙の奥から突き出された大きまハサミは、月明りを照り返しながらその輪郭をあらわにし、より強烈な白いヒカリを放った。
来た道が消し飛んだ。爆ぜたでもなく、焼けたでもなく。そのようにしか解釈できないほど圧倒的で絶望的な光景だった。あと数秒バルタン星人の抜け殻を調べていたら、少しでも長く話をしていたら、おそらく今思考している自分はあの光に飲み込まれていただろう。事務室に滑り込んだベティと流はゴクリと生唾を飲んだ。
「フォッフォッフォッフォッ!」
勝利宣言のつもりか、それとも仲間への合図か。バルタン星人の高笑いが木霊する。
流は片っ端から壁のフックやデスク、引き出しなどをひらいて部屋を調べる。その隙を見て、ベティは絶対通信の能力を使って本部と交信を試みた。片耳に手を当て、念話の要領で目をつぶり仲間たちに語りかけた。
「本部、聞こえる?聞こえるよね?」
「ベティ?聞こえるよ、どうしたの?」
いつもの余裕を失っているベティに一抹の不安を覚えながら、アナスタシアは通信に応答した。
「私ね、今他の一般人を保護したっていうか・・・ああ、いや、保護されたっていうか・・・」
「ちょっと、何言ってるかわかんないよ。状況をちゃんと教えて。」
「そうだね、そうだよね。じゃあ一番大事なことだけ。バルタン星人が巨大化して襲ってきた、目視できる限りじゃ一体だけど多分残りの数体も巨大化するよ。で、変身自体はできるけど一般人が目の前にいるし困ってる。隊長が来れるならそのほうがいいかなって。」
アナスタシアは振り返ると、既に待機していた隊長がコクリと頷いた。
「ベティ、隊長が行ってくれるって。あなたたちは生存を最優先の行動をとるように。いいわね?」
「りょうか・・・」
「おい、ぼうっとしてるな。俺たち殺されるぞ。」
「あ、うん。」
チャラっと鍵を見せながら流はベティの手を取って事務室を出ようとドアノブに手をかける。
流の声は本部の作戦室にも、ベティを介して届いていた。アナスタシアは腕を組む。これが保護した一般人の声なのだろうか。一般人というにはあまりにも肝が据わっているというか、状況に慣れすぎているというか。ベティ自身の返答もどこか可笑しなものに思えた。全く”らしく”ない一般人に気圧されたか。
「ズズッ、青春ですねぇ。」
「皇顧問!」
紙コップからアツアツのコーヒーを啜りながら、皇顧問が作戦室に入ってきた。そのあまりの緊張感の無さに、アナスタシアも五十嵐隊長も思わず目を丸くする。
「ほらほら、何をボケっとしてるんですか五十嵐さん。あなたウルトラマンでしょ、さっさと行ってやりなさいな。」
シッシッ、と手で払って見せる皇顧問が自分の座席に座ると、釈然としないまま五十嵐隊長は整備班の方へ指示を出す。
「装備はどうだ?」
「A装備なら今すぐに出せます。スペシウムアックスもプロテクターも完璧ですよ。ただB装備だとガトリングしか用意できてなくて・・・スイマセン。」
「助かった、今度の敵はA装備の方がやくに立つ。射出時にアペンド出来そうか?」
「お安い御用です!」
新科特隊本部の建物は地上より地下の方が広く、そして充実しているものの、地上に突き出ている部分だけでも十分に立派な建造物の様相をなしている。螺旋状の尖塔を思わせる形状は一部のマニアからは『完成したバベルの塔』と呼ばれており、その名に恥じぬ超科学の結晶といえる。バリアやビーム砲、ミサイルなどを多数備えており、拠点防衛時には『螺旋撃ち』と呼ばれる特殊な陣形で侵略者を殲滅する多目的固定砲台としての性質も持つ。
そんなバベルの塔の真価は、地球全土に及ぶ長射程の主柱砲にある。花開くように、硬いしめ縄が解けていくように、塔の最上部がゆっくり回転して開くと、皿のように花弁のように開いた内側にてバチバチと光を放つ。そして、夜闇を切り裂き分厚い雲に大穴を穿つ一筋の極光が放たれた。その正体は、光として放たれたウルトラマン。五十嵐隊長が変身する人造ウルトラマンの初期モデル、ウルトラトルーパーアルファだ。空を駆ける速さは文字通りの光速、何物をも寄せ付けない。
駐車場へ出た流とベティは置かれている状況のまずさを再認識させられる。あっちを見ても巨大バルタン星人、こっちを見ても巨大バルタン星人、空を見てもギラギラの瞳があざ笑うようにこちらを見下ろしている。
社用車らしき車は三台止まっていた。流はその車たちに駆け寄りながら鍵のボタンを押す。すると真ん中の車がウィンカーをチカチカと光らせた。
「焦ったよ、どれかわかんないかと思った。」
車のドアを開けながらベティがつぶやくと、流はまじめな声色で返した。
「焦るのはこっからだ。これでヤツらにもどの車かばれたんだからな。」
アクセルを踏み込んで、車を発進させる。トップギア、全速力の爆速スタートにエンジンも悲鳴をあげた。ブゥンという轟音に次いで、ドカンッと車体の後ろが僅かに浮き上がるほどの大爆発。流の読み通りバルタン星人たちは一斉に走り出した車に群がってきた。とてもまずい状況だ。ジグザグに白色破壊光弾を躱しながら工場の門へいそぐ。
上空から軽自動車を狙うバルタン星人、そしてそれを狙う戦闘機が一機。
「自動車一台にバルタン星人五体かよ、ちょっとやりすぎ何じゃないの?オタクら!」
光弾を放とうとハサミの中から白い光が漏れる。その光が光弾を形成する間の数舜で、別の光がバルタン星人を強襲した。
青白い光の本流。左右の翼の先からスペシウム光線が夜空を照らし出し、翼の左右とバルタンの背中を頂点に美しくも凶悪な光の三角形が発生する。その三角形は縦に引き延ばされるようにして高空のバルタン星人を地面へと押していき、遂には国道わきの広い水田に叩きつけた。膨らむ光の爆発と、バルタン星人の断末魔、その様を流たちもバルタン星人たちも戦慄して見届けた。
「よっしゃ、一体撃破!次はどいつだ?」
勝利の雄叫びをあげたのは霧野隆之。地球防衛軍最高クラスの戦闘機の乗り手として近年その道のベテランたちを騒がせた新世代のダークホースだ。物理法則に挑戦するかのようなムシャクチャな操縦とミリ単位で正確無比な精密射撃。模擬戦で右に出るものはおらず、もはや通常兵器だけを操るには彼の才能と努力があまりにももてあまされてしまうと常々言われてきた。そんな彼の新たな現場は新科特隊のパイロットというポジション。初めて自分が一番じゃない。自分が特別じゃない。初めて誰かと肩を並べる事に喜びを感じていた霧野隊員は、このような決死の状況において初めて全力で生きていると実感できていた。
人類を百年も置き去りにした知能のバケモノ、ウルトラマンへの憧れだけで新科特隊なんてものを完成させた執念のバケモノ、正真正銘の禁忌のバケモノ。ここにはバケモノしかいない。いつものあの目もない。この環境を用意してくれた一因が侵略宇宙人だというなら、ちょっとぐらいは感謝してやる。そんなことを思いながら照準を次のバルタン星人に合わせた。
バルタン星人達の意識が爆発四散した同胞に向いた時、硬直してしまったその時、もう一つの光が流たちに一番近いバルタン星人を襲った。
「ヘアッ!」
光は収束し、輪郭をなし、徐々にヒト型へ。それは飛び蹴りの体勢でバルタン星人の頭をすれ違うように通り抜け何度か空中でスピンさせて地面に叩き伏せた。
もがくように立ち上がろうとするバルタン星人、しかし赤と銀の光輝く巨人は無慈悲にも掲げた斧を振り下ろしてとどめを刺した。斬り飛ばされた首は宙を舞い、何度かバウンドしては蜘蛛の巣状の地割れを作り、ガリガリと地面を削って摩擦するがやがて止まった。
五体もいたバルタン星人は瞬く間に三体まで数を減らした。ここまでは順調に想定通りに事が運んでいる。人類がウルトラマンとなって戦い、ウルトラマン並みの大火力で援護する。この初期コンセプト通りに戦いは運んでいく。
バルタン星人達は空中へ飛びあがると、まずは容易に倒せそうなハイビートルに光弾を集中する。それをスレスレで躱す霧野。ウルトラマンである五十嵐隊長と相棒の霧野隊員はアイコンタクトすらなしに息を合わせた。飛び上がりながらスペシウムアックスを構えるウルトラマン、光弾や光線を器用に躱してバルタン星人達をひきつけるハイビートル。
「フン、ハァッ!」
声に合わせてハイビートルは急降下し、入れ替わるように放たれた渾身のスウィングによる光線攻撃、拡散スペシウムスウィングは三体のバルタン星人を確実に仕留めようと襲いかかる。
いち早く攻撃に気が付いた個体が攻撃を中断すると、近くにいた味方バルタン星人を光弾で集中放火した。撃ち落された個体はスペシウムスウィングの有効範囲を逃れ、もはや下がっても逃げ切れない位置まで拡散スペシウムスウィングの光線が迫ったバルタン星人二体は、まるで違う行動を取った。バルタン星人のうち一体はハイビートルに何か攻撃を続けようとして真正面からスペシウムスウィングの光線を受ける。その様は正に光のシャワーだった。シャワーの水滴を避けられるだろうか、答えは否である。バルタン星人の正面は隅から隅までくまなくスペシウムスウィングの光線を受け、スポンジのように穴だらけになり、そのほとんどがバルタン星人を貫通して背後にぬけていく。
二体撃破、残り一体。誰もがそれを確信した中、光のシャワーに逆行して何か黒い影が飛んでくる。ウルトラマンの目でも追えないスピードだが、それは間違いなくバルタン星人だった。その豪速をいかんなく発揮して拡散スペシウムスウィングの光線を全て躱し切り、ウルトラマンのすぐそこまで来ていたのだ。豪雨の中を駆け抜けて一滴も濡れないがごとき偉業を軽々と成し遂げた黒いバルタン星人は一直線にウルトラマンへ迫った。
「フンッ!?」
斧を振り上げるウルトラマン、しかしそれすらもバルタン星人には隙だらけに見えた。バルタン星人は斧が振り下ろされるより先に赤色凍結光線を放つと、ウルトラマンの急所であるカラータイマーに寸分違わず直撃させた。
「隊長!?」
叫ぶ霧野隊員。流たちもその光景に戦慄する。たった一筋の赤い光で、ウルトラマンは垂直に落下していった。
すれ違いざまにウルトラマンを突き飛ばす黒いバルタン星人、ウルトラマンは錐もみ状態で落下し昏倒してしまう。
「あいつ!ベティ分かるか?きっと俺たちが一緒にやった奴だ。他の奴らとは次元が違う!」
「やろぉぉぉ!!!」
スペシウム光線を放ちながら襲いかかるハイビートル、そのことごくが黒いバルタン星人には当たらない。それどころかバルタン星人は分身すると、ハイビートルをぐるりと十体で囲んでしっまった。
飛び交う赤色の直線と、白色の光弾。その姿は正にリンチそのものだった。何とか避けて見せる霧野隊員のテクニックは目を見張るものがあるものの、一切の反撃ができないままイタズラに燃料を消費する。そしてついに、バルタン星人はハイビートルを蹴り飛ばして墜落させてしまった。光線攻撃による集中砲火、それにより攻撃は光線だけだと錯覚させておいての格闘攻撃。残念ながら現状の霧野より何枚もバルタン星人は上手だったようで、勝負は誰の目にも明らかな程鮮やかに決してしまった。
ハイビートルに付属された防護フィールドによって何とか爆死は免れたものの、もはやこの戦闘機は空を飛べない。ウルトラマンは助けられた方の並みのバルタン星人と漆黒の超人的なバルタン星人によって挟撃される形になってしまった。赤色凍結光線を受けたカラータイマーは既に点滅を始めている。無理もない。ウルトラマンは得てして寒さに弱いものだ、そんな弱点を急所に叩き込まれた。気力で何とか立ってはいられるが、それもかなり無理をしている。
黒いバルタン星人の赤色凍結光線が放たれた。やはり正確無比な射撃で、退路は空にしかない。それが誘導だと理解しながらも、五十嵐隊長は空へ逃れるしかなかった。右へ、左へ、振り回されるように凍結光線で振り回され、どんどん体力を消耗する。カプセルを介した変身だったのでエネルギー供給自体は実質無限だが、ウルトラマン本体が致命傷を受けていては活動も無限とはいかない。それを黒いバルタン星人は知る由もないが、この戦法が有効なのは理解しているらしい。
避けて避けて避けまくった末、待っていたのはもう一体のバルタン星人の光弾攻撃だった。受ければさすがにただでは済まない極大光弾を形成して待機していたのだ。このための時間稼ぎだったか、そう気付いた頃には光弾は既に放たれていた。
「フン、ハッ!」
五十嵐隊長は腕に力を入れると、斧を持ち替え、格闘技の防御の型を使ってで裏拳を光弾にぶつける。そんなことで防げるものか、そう思ったバルタン星人は甘かった。スペシウムプロテクション。スペシウムアシスト機能の応用で使用できるバリア機能を全力で使用することで隊長はバルタン星人渾身の一撃をはじき返した。光の盾からバウンドしてバルタン星人に向かっていった光弾は放った当のバルタン星人の両腕を吹き飛ばして大ダメージを与える。
「フゥンッ、ハァッ!」
光の巨人は斧を構えると、エネルギーをチャージして投げ放った。ウルトラマン本人ほどもあろうかという巨大な光の円環が夜闇に現れ、空を割いてバルタン星人の方て切り進む。ギガントウルトラスラッシュ。かつて地球上で戦っていたウルトラマンの八つ裂き光輪からインスピレーションを受けたウルトラトルーパーの制作班が試行錯誤の末に完成させたウルトラトルーパーもといウルトラマンアルファA装備の最強必殺技だ。威力は絶大で、バルタン星人は避ける間もなく縦に真っ二つ。ジャキンッといい音を立てて侵略宇宙人は絶命する。
このギガントウルトラスラッシュの優れた点は、ただ威力が高いだけなく、一定以上ウルトラマンの手を離れると戻ってくる所にあり、何度でもブーメランのように使って必殺技を使用出来るところにある。ウルトラマンはスペシウムアックスが帰ってくるのを待っていると、突如両腕を背後から大きなハサミで捕まえられてしまった。無理な方向に腕をひねる事も忘れていなかった黒いバルタン星人はやはり戦闘の天才だった。これでは例えどれ程ウルトラマンの力が強くても、力そのものが腕に入らず拘束を抜けられない。バルタン星人は戻ってくるギガントウルトラスラッシュを見ると、何かを思いついた様に羽交い締めのウルトラマンアルファをさらに締め上げた。苦しさに負けて海老反りをしてしまうウルトラマン、誰もがそのままギガントウルトラスラッシュをウルトラマンを盾にして防ごうという魂胆だと察して絶望した。
しかし、そこはこの黒いバルタン星人だ。他の戦士たちの予想を裏切ってさらに一捻り加える。黒いバルタン星人は先程真っ二つになったバルタン星人が作ったものと同じ大きさの光弾をチャージして、ウルトラマンの両腕をハサミで拘束したまま撃ち放った。
「グアァァァッッッ!!!」
千切れることこそ無かったが、プロテクターに覆われていない左手は完全に破壊されて全くの不自由、右はプロテクターのお陰で何とか無事だが装甲は完全に消し飛んだ。そして勢いよくギガントウルトラスラッシュの方へ飛ばされたウルトラマンアルファは、またしてもジャキンッといい音を立ててすれ違うと、光の飛沫を上げながら垂直に落下して行った。
黒いバルタン星人は難なく回転するスペシウムアックスをハサミで捕まえると、悠然と降下してウルトラマンを追った。落下したウルトラマンは大きな砂埃を激突と同時に巻き上げるが、バルタン星人は難なくそれを切り払うとガリガリと斧を引きずって地面を破壊しながら大股でウルトラマンに近付いた。
五十嵐隊長の機転によって空中で身体を捻ってプロテクターでギガントウルトラスラッシュを受ける事に成功したウルトラマンは真っ二つこそなんとか逃れた。それでも斧の傷や落下の衝撃は凄まじく、力尽きてしまった。白っぽく光っていた両目は光を失い、ただイタズラにカラータイマーの点滅だけが最期の時をカウントダウンする。
もちろん黒いバルタン星人は待ってくれない。カラータイマーが消えるより早くウルトラマンを滅多斬りにして自分でカラータイマーを消してやろうとしか考えていない。
「クソォ!ベティ、今のうちにシートを下げてベルトを外しとけ。合図を出したら車を降りるんだ。」
「どういう事?説明してよ、一体何をするつもりなの!?」
言い知れぬ不安に駆られたベティは思わず語気を強めた。そんな彼女を尻目に、流はアクセル深々と踏み込んでハンドルを切る。
「あの情けないウルトラマンを叩き起す。そのままの意味だ。お寝んねの時間にはまだ早すぎるぜ・・・ウルトラマン!!」
「バッカバカバカバカバカァァァッッッ!!そんなの上手く行かないよ!死んじゃうよ!」
「うるせぇ、やって見なきゃ分からないだろ!」
アクセル全開で猛突進する車。それが目に入っていながらも特に気にした様子を見せないバルタン星人。意図は分からないが、この状況で勝利が揺らぐとは思えなかった。
「今だッ、降りるぞ!」
飛び降りる二人。お互いが背中合わせに、真反対に飛び出ると車はウルトラマンアルファの顔面に激突する。
「ゴアァァ!?・・・ア"ア"ア"ッッッ」
顔面に大爆発を受けたショックで目覚めたウルトラマンは痛みのあまり顔を抑えて反対側へゴロリと一回転した。
だからなんだと言うのか。もう一歩近付けば済む話だ。そう思ったバルタン星人は、一瞬だけ向けられた殺気に硬直する。どこからだ、辺りを見回す。ウルトラマン、あれはまだ痛みにもがいていて立ち上がれてすらいない。次に目に入ったのはウルトラマン以上のエネルギーを放つ青髪の地球人。それはそれで目を見張るものがあるものの、様子を見る限り殺気を放っているという風ではない。
「はァ、はァ・・・心臓止まるかと思ったァ・・・」
両膝を折って砂利に手を着いた状態で目を見開いた状態のベティは、バクバクと心音を聞きながら下を向いて悪態をついていた。
「バカじゃないのアイツ、あんな無茶なことしてさぁ。どう言うつもりだよ、全く・・・」
両手も両足もプルプル震えて立てそうにない。そんな彼女には殺気などは愚か、僅かな戦意も残っていない。
殺気の正体は、とても小さくてとても弱々しい地球人の男だった。炎上する車を背に、巨大なバルタン星人を真っ直ぐ睨んで眼光を鋭くする。バルタン星人は混乱した。戦慄した。恐怖した。それは人間がスズメバチのターゲットにされた時のような、状況の冷静な分析から導き出される危機感ではなく、もっともっと野性的な何か。本能的に、脊髄反射的に「こいつを今、すぐに潰さなければ!」と脳より先に身体が動いた。
顔を上げるベティ。眼差しの先には、炎上する車と、バルタン星人の大きな足と、そして微動だにしない仁王立ちで斧を振り下ろすバルタン星人を睨みつける流の姿があった。ベティは思わず叫んだ。
「ナガレェェッッッ!!!」
流はポケットにさっと手を当てる。服の上からウルトラフラッシャーのスイッチを探り当て、それを押す準備は出来ていた。あとは覚悟の問題だ。バレたくない。知られたくない。ウルトラマンガンマが自分だと知られたら、きっと逃亡生活をしなきゃいけなくなる。せっかく知り合ったベティともこれでお別れだ。地上で人生をやり直すはずだったのに。それでも、ここのみんながこんなエビ野郎に殺されるよりは・・・
「オォォォッ!」
ベティの悲鳴に似た叫びを聞いたウルトラマンアルファ、もとい五十嵐隊長が奮起する。最後の力を振り絞り、雄叫びを上げて黒いバルタン星人の腰に抱きつくようにタックルを決める。
流を殺し損ねたバルタン星人は怒りに任せてウルトラマンに膝蹴りを放ち、腕が緩んだ所に背中への肘打ち、そしてハサミの側面でウルトラマンの顔を薙ぎ払ってダウンさせた。すぐさま立ち上がるウルトラマン、苛立ちを隠せないバルタン星人。しばらく二人は睨み合う。
先に動いたのはバルタン星人だった。スペシウムアックスを大きく振り上げる。ウルトラマンは両腕にスペシウムをできる限り蓄えると、胸の前でバツの字を作り、それを発光させた。振り下ろされる斧、距離を詰めるウルトラマン。破壊された左腕はスペシウムのコントロールを失っているために轟々とスペシウムフレアを燃え上がらせていた。ウルトラマンの炎の一撃がバルタン星人に迫り、バルタン星人の放ったスペシウムアックスの一撃は深々とウルトラマンの右肩に切り込んでいく。無事だった方の右腕はこれでもう使えない。左手は結局バルタン星人には届かなかった。
勝った!バルタン星人が確信したその瞬間だった、
「ハァァァ・・・ア"ア"ア"ア"ァァァッッッ!!!!」
左腕のスペシウムフレアが暴発する。フレアに炙られたバルタン星人はスペシウムの炎で炎上し、何度も何度も地面を転がって火消しした。
このウルトラマンの死に際の爆発力、決して侮れないな。そんな事を考えてか、バルタン星人はよろめきながらその場を撤退しようと空へ消えた。
満身創痍のウルトラマンアルファの肉体は、役目を終えたのか光の粒子となって消えた。辛くもバルタン星人を追い払う事に成功するも、その場の新科特隊の面々は揃いも揃って満身創痍。今度ばかりは力の差と言うものをこれでもかと言うほど見せつけられる戦いだった。
「良かった、何とかなったね流。流?あれ、流?ナガレェェ!」
呼んでも叫んでも返事はない。流は忽然とベティの前から姿を消してしまった。
つづく
いかがでしたか?
シリーズ一覧はこちらから!→novel/series/8703459
遂に現れた強敵、バルタン星人ブラックの実力は現状の人類を圧倒して余りあるものでした。果たして新科特隊と人造ウルトラマンの力で地球は銀河自由同盟から守りきれるのか?
バルタン星人ブラックのイメージ画像やウルトラマンアルファの必殺光線の様子はイラストの方に投稿させて頂きました。
気に入っていただけた方はそちらもチェック!
それでは次回もお楽しみに!