Fate / Violaの花言葉   作:白銀一誠

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雨(3)

 日本の冬木市で開催された聖杯戦争のキャスター枠のサーヴァントとして召喚されたメディアは、現界してからというもの良かったことなど一つもなかった。

愛した男に裏切られ、故郷に戻る事すら許されずに人生を終えた彼女に『どんな願いでも叶う』という謳い文句はまさに一縷の望み。

 

 例えどれほどの時間が過ぎているとしても、せめてもう一度だけ故郷の景色を見てみたい。

 

 その一心で召喚に応じたと言うのにかつて自分を裏切った男に勝るとも劣らない顔だけのクソ野郎がマスターになった時点で嫌な予感はしていたし、実際その予感は正しかった。

 

 マスターのアトラム・ガリアスタは召喚後すぐに己の力を誇示するかのように自らの工房や魔術を彼女に見せつけたがはっきり言って英霊というものについて知らなさすぎる行為である。魔術とは無縁の三騎士クラスなどならまだしもメディアはキャスター、すなわち同業者である。それも現代より遥かに色濃い魔力が充満した神代において名を遺した超一流の。

 彼女にとって現代の魔術や工房など文字通り児戯にも劣るレベルの代物だということはよく考えなくても分かる筈なのに、生まれてこの方他人を見下して生きてきた彼にはその当たり前のことも分からず‥‥そこから崩壊するのはあっという間だった。

 メディアが力の一端を見せる度にマスターの顔は挫折と嫉妬に歪み、そして今まで見下してきた者たちと同じように負け惜しみの言葉を吐く自分に気付き憎悪を募らせる悪循環。

 

加えてメディア自身聖杯戦争の事に気を取られて忘れていたのだ。嫉妬に狂った人間は時に思いもよらない行動に出ることもあるということを。

 

 そして遂にアトラムはあろうことか他のマスターを雇い入れ、自らのサーヴァントを殺害するように仕向けるというかなりリスクの高い賭けに出た。

 自分にはもっと優秀で従順なサーヴァントが相応しいと。

 裏切りの魔女など必要ないのだと。

 

 本人の言い分としてはこんな所だがサーヴァントを失ったマスターなど格好の餌。

 次の聖遺物を用意し召喚するまでに他のマスターに狩られる危険性は跳ね上がるのは明白だがそんなことにも気が回らないほど嫉妬に狂い果てていたのか本人なりに勝算があったのかは定かではないが、結果としてアトラム・ガリアスタは聖杯戦争が始まる前に自身のサーヴァントから見限られ契約を破棄され死亡という魔術師としてもマスターとしてもあまりにもお粗末な末路を辿ることになった。

 

 マスター殺しに関してはメディアは一切後悔などしていない。ただ、キャスタークラスである彼女は本来後衛支援型のサーヴァントである。寧ろ魔力も抜きの肉弾戦オンリーなら現代の一般人にも負けかねない程度には一対一の戦闘には全く向いていない。何しろ彼女のそもそものルーツは箱入りの王女様だ。

 

 そんな彼女が全身に重傷を負い、魔力の大半を失いながらも彼女は何とか差し向けられたサーヴァントから逃げ馳せたこと自体奇跡に等しかったが奇跡はそう何度も続くものではない。

 

 「(――折角この世に戻って来たのに、こんな終わりだなんて)」

 

 傷を回復するだけの魔力すら無く、霊核も砕けてこそいないがボロボロの崩壊寸前。降り出した雨を吸い重くなったローブに足を取られ濡れた地面に倒れ込んだメディアには最早嘆きを音に出す余力すら無い。

 それでも、魔女として良いように利用されるよりはずっとマシだと薄れていく視界に抗うことなく、消滅を待たずにその意識を二度と醒めない暗闇に落とした。

 

 筈だった。

 

 「ううー…難しいよぉ」

 「だからあれだけ授業中に居眠りはするなと‥‥ほらこの構文だ」

 

 声が、聞こえる。

 快活そうな少女の声と、青年というにはまだ高くそれでいて落ち着きのある少年の声。その二種類の声に導かれるようにキャスターことメディアはゆっくり意識を浮上させた。

 

 まず視界に入ったのは古ぼけた木の天井。続けて魔力不足からか重い体を何とか持ち上げれば引き戸のような仕切りの隙間から先ほどの声が漏れ聞こえてくる。

 辺りに工房に使われるような結界や魔術の気配はなく、どう見ても魔術とは無関係の一般家庭。加えて子供となれば警戒する要素はほぼ無いが念のためにと僅かに回復した魔力で軽い暗示の魔術を編み後は2人にかけるまで、といった段階でスパーンと仕切りが開け放たれた。

 

 「あ、やっぱり起きてた!おねーさん大丈夫?お腹空いてない?何か食べる?まこ君のごはんすっごく美味しいよ!」

 「純、一気に捲し立てすぎだ。困ってるだろ」

 

 屈託のない笑みを浮かべかつて自分を裏切った男のものを彷彿とさせる金髪を煌めかせるその少女と、口調こそ素っ気なくはあるが少し距離を置いて気遣わし気にこちらの様子を伺う自分とよく似た青みのある髪色の少年にメディアは一瞬で目を奪われ指先に編んだ魔術は乱れて霧散した。

 魔術のエキスパートである彼女らしくない初歩中の初歩のミス。けれどそこに意識を割けないほどに彼女の精神はかき乱されていた。

 

「メル、メロス‥‥ぺレース‥‥?」

 

 後世に脚色されているため諸説あるがメディアとイアソンの間には子供がいたという説がある。2人の息子がいた説と7人の息子と7人の娘がいた説の2つが現状通説ではあったが、少なくともこの2007年の冬木市に召喚された彼女にとってその2つは正確ではない。

 

 強いて言うなら前者が近いが性別が間違っている。

 

 父親譲りの端正な美貌とは裏腹に思慮深く、メディア譲りの髪色と魔術の才を受け継いだ兄ぺレースと顔立ちこそ幼い頃のメディアに瓜二つだが父親譲りの金髪とカリスマ性を持ち明るくお転婆な妹のメルメロス。

 

 かつて、嫉妬と憎悪に狂い果てた彼女が自らその手にかけた我が子とよく似た少年少女がそこにいた。

 

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