「天川純です!好きなものはまこ君のごはんと運動!」
「天川誠。俺も純も近くの高校に通っている学生だ。別に怪しいもんじゃないとだけ言っておく」
「‥‥キャスターよ。ここは、貴方たちの家なのかしら」
「そうだよ!私とまこ君の2人暮らし!」
保護者がいないという俺たちの最大な社会的な弱点を初対面の人間にノータイムで晒す片割れに頭が痛くなる。キャスターと名乗った彼女も彼女でその無警戒っぷりに思うところがあるのか困惑した目で俺を見てくるが生憎どうこうできるものならとっくにやっているので諦めてほしい。
「目が覚めて早速で悪いがあんた、これが何か知ってるか?」
「それは、令呪⁉」
目を真ん丸に見開いてかざした俺の手の甲を凝視するキャスターにやっぱ関係者かと改めて「れいじゅ」と呼ばれたその模様に目を落とす。中指辺りを中心に左右線対称なこの模様は彼女を家に運び込んだ時に急に浮かび上がって来たものだ。
不意打ちで痛みが走ったものだから驚いてキャスターを落としそうになったのは言わないでおこう。というか、反応速度がずば抜けてる純が咄嗟に支えてくれなかったら間違いなく落としてた。
「嘘、契約が既に完了している‥‥」
「何か都合が悪いのか」
呆然と俺の手を取り血を彷彿とさせる赤で描かれた模様に目を落とすキャスターに問いかければ僅かに目が泳ぐ。率直に抱いた感想としては「分かりやすいなこの人」だった。
俺は人の心の内を察するのが得意だ。目線、言葉の端々、ちょっとした仕草。それらを総合的に判断すればその人が今どう思っているかを悟るのは容易い。便利ではあるが人嫌いが加速した要因でもある特技だ。
今の反応は「自分にとっては都合がいいけど俺にとっては都合が悪い」ってとこだろう。その上でこの人は俺を利用すべきか否か悩んでいると見た。こっちに情報が無い以上あること無いこと吹き込んで利用しちまえばいいのに。まぁそれを許すか許さないかは別問題だが。
ぱっと見怪しいけど結構お人好しだなこの人。
「まぁ、少なくともあんたが結構な訳ありなことは承知の上で招き入れたんだ。回復するまではゆっくりしていけばいい。食事はできそうか?」
「え、ええ」
「純、ちゃぶ台こっち持って来てくれ」
「はいはーい」
純が宿題のテキストなどを片付けちゃぶ台をキャスターの近くに設置している間に夕食の残りを手早く温め、自分たち用に作っておいたプリンを冷蔵庫から取り出す。1人で食うのは味気ないからな。
「口に合わなかったら残してくれて構わない。純はこっちな」
「まこ君のプリンだぁ!いただきます!」
「‥‥いただきます?」
純の真似をして小首を傾げつつも手を合わせるキャスターはやっぱり不審者というよりは世間知らずの箱入り娘という印象の方がなんか強い。元々自分でも不思議なほどに警戒はしていなかったが純がアレなので俺がしっかりしなきゃな、と新たに気を引き締め食事に顔を緩ませるその人を横目にプリンにスプーンを突っ込んだ。