Fate / Violaの花言葉   作:白銀一誠

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雨(5)

 「つまり、俺はその願望器を巡る競争にエントリーしてしまいこれはその証ということか。見えないよう隠すことはできるか?」

 「それは、私のマスターとして聖杯戦争に参加するという認識でいいのかしら」

 

 キャスターから聞いた話は一般的な価値観で言えば即座にその手の病院を勧められる程荒唐無稽なものだった。万能の願望器、聖杯を巡り7人のマスターと7騎のサーヴァントが競い合うという少年漫画にありそうな話の数々。

この右手に宿った令呪はサーヴァントとの契約の証であり3回までサーヴァントにバフをかけることができるらしい。ただし3回使い切ればサーヴァントとの契約は切れて失格になってしまうので実質使えるのは2回までだとか。

 

 「どうしても知りたいことがあるんだが多分、聖杯戦争が関係しているんでな。ただし条件がある」

 「何かしら」

 「全部隠さず話すこと。キャスターってのも本名じゃないだろ。この際素性は詮索しないがせめて聖杯戦争の細かいルールや魔術師の実情、あんたの能力くらいは余さず教えてくれ。じゃないと作戦が立て辛くて仕方ない」

 「⁉」

 

 キャスターの話は確かに筋道が通っていたし一見説得力もあったがはっきり言って綺麗すぎた。例えば彼女は「サーヴァント同士の競い合い」と表現したがそれは恐らく嘘ではないにしろ真実でもない。だって母さんは恐らくその聖杯戦争で死んでいる。

 

 「何故‥‥」

 「あんた自分が思ってるほど嘘つくの上手くないぞ。あと気配というか存在感って奴かな‥‥覚えがあるんだよ。10年前母さんと一緒にいた奴とどことなく似ている。そいつもキャスターって呼ばれていた」

 

 10年ほど前。今と比べ物にならない程当時の俺は体が弱く、ちょっとしたことで体調を崩しては寝込んで酷い時は入院なんてこともざらだった。自宅でぶっ倒れて冬木中央病院に搬送された時は医者に「万が一の時は覚悟しておいてください」と言われたほどにやばかったそうだ。よくもまぁそんな状態からここまで回復したものだと我ながら思う。

 

 辛うじて覚えているのは高熱に魘される俺の額に当てられた大きな手と、こちらを覗き込む青空のような髪とルビーのような真っ赤な目を持つ男の人の険しい顔。朦朧とする意識の中で少しだけ会話を交わした気もするが内容はすっかり忘却の彼方で覚えていることなど片手で足りる程だがその人は確かに母さんに「キャスター」と呼ばれていた。

 その人と今目の前にいるキャスターの気配はどことなく似ていた。親類縁者とかじゃなくて存在の次元が違うというべきか。

 それは純も感じていたらしく夕食時に「人間‥‥じゃないけど幽霊‥‥も違う気がするし‥‥うーん?」と珍しく首を傾げていた。直感が優れているのか核心を突くのが上手い純でも把握しきれない何か。それが彼女でありサーヴァントというものなのだろう。

 

 そして、最後に俺の頭を撫でていった母さんの右手には俺のものとよく似た模様があったことも今確信した。

 

 ただ当時は病院の関係者にも家族にも誰一人その人物を見た人も知る人もいなかったしあの頃は熱に浮かされて幻覚を見ることも珍しくなかったからあの夜の出来事も夢だったのだろうと思っていた。

 

 「魔術も知らない俺にマスターが務まるかは甚だ疑問だが美味い話で気を引こうとしたってことは少なくとも俺にある程度の利用価値はあるんだろ?万能の願望器なら10年前母さんが何をしていたのか。何を思って聖杯戦争に参加したのか。誰が母さんを殺したのかくらいは分かる筈だ。俺はそれが知りたい」

 

 母さんの遺体ごとあの日の証拠も手がかりもとっくに燃えてこの世から無くなった以上、最早真実はその願望器とやらに頼るしかない。つまり、俺たちはお互いの目的が一致している。ただ互いに協力する以上隠し事があるのは困るのだ。

 

 「教えてくれキャスター。勝つ為に俺に出来ることは何だ」

 

 沈黙が部屋に満ちる。普段おしゃべりな純もこの時ばかりは真剣な面持ちでキャスターをジッと見つめていた。

 

 「‥‥ほんと、誰に似たのかしらね」

 

 観念したように肩で大きく息をつきまるで俺たちの両親を知っているかのような口ぶりのキャスターに純と顔を見合わせる。すぐさま「こちらの話よ。気にしないで」と話を逸らされた上にこれ以上話す気は無さそうなので引き下がったが内心めちゃくちゃ気になる。

 

 だがそれも腕から青い石のブレスレットをするりと外されたことで全部吹っ飛んだ。

 

 「なん‥‥!?」

 

 令呪を通して体の奥底から何かが急速に引き出される感覚。けれど空っぽになるわけではなく引き出される端から湧き上がってくるそれに思わず瞑りその流れに集中すると、ぼんやりと体の中を走る線のようなものが頭の中で鮮明に浮かび上がった。

 

 「それが魔術回路よ。貴方には魔術の才があるの。それも超一流のね」

 

 俺の手を取り微笑むキャスターの姿が急速に変化する。頬にあった擦り傷などの細かい傷はすっかり消え失せ、貸していた純の寝間着姿から出会った時のローブ姿へ。それもすぐに解けて紫を基調としたロングドレスへと変貌した。

 

 「王女様みたい‥‥」

 

 月並みな表現だが純の言う通りだ。食事の時も所作がやたら綺麗だったが恐らく本来の衣装を身に纏ったキャスターにはまさに王女というに相応しい風格があって、けれど不思議なことに気圧されることは一ミリも無い。それどころかどこか懐かしさも覚えて言語化できない感情に襲われている間に俺の中の流れは治まっていた。

 

 「キャスター、真明はメディアよ。叶えたい願いはあるけどそれは追々。まずは貴方を一流の魔術師にする所から始めましょうか」

 




第三再臨メディアさん爆誕
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