ちょっと地の文が長いです。
第十一話 ジェイルオルタナティブとバックノズル
神先が魔法協会と対面し、参入した夜からもう三日が立っている。
その間に数多くの報告が近衛門に届いた。
その力の凄さや、英雄という肩書からか、多くの報告は魔法の強力さと武具をまさしく手足のように使うことから、好意的にみられている。
しかし、中にはその力をむやみに使用しすぎているという報告もある。最悪なことに彼が放つ攻撃はどれも派手な攻撃で、一般人に魔法ばれする可能性が高いものが多く対処の必要性がある。
「まずいの」
ぽつりとがけっぷちに立たされた人間のような危機感を感じさせる声が近衛門の口からこぼれる。
「こんなことしたくはないんじゃが」
近衛門は思い返す。先ほど神先と話し合ったことを
「なにかようか。近衛門」
神先は近衛門に呼び出され、学園長室まで来ていた。
「おお、よく来たの。まあ、その席に座ってくれんかの?」
「これか。粗末な椅子だな」
これでも来客を迎えるためにも最高級品を使っているのだが、どうやら神先にとってこの椅子は安物のようだ。
「おぬしに少し頼みたいことがあってな。少し来てもらったんじゃ」
「ほう、俺に頼みたいことだと?気分が良い、言ってみろ」
「おぬしには少し魔法を抑えて使ってもらいたいのじゃよ」
「なんだと?」
殺気すら放ち、神先は問いかける。
「なぜそんなことをせねばならん。面倒だ」
「簡単なことじゃ。魔法の秘匿の原則から外れかけておるからじゃ。
おぬしも知っての通りここ麻帆良には認識阻害結界が張られておる。じゃからある程度のことまでは結界の作用のおかげで問題はないが、おぬしの攻撃魔法はそのある程度を大きく超えておる。
そのために、少しおぬしに魔法を制限してもらいたいのじゃ」
「断る」
近衛門の話を神先は一言で断り立ち上がる
「そんなことで俺を呼んだのか貴様は。殺してやろうか」
その言葉を最後に神先は学園長室を後にした。
「ハァ、参ったの」
近衛門の、あくまでも非公式の場だが、学園の長として発した言葉だ。
本来協会の傘下にいる神先は従う義務が発生するのだが、それでも神先は従わない。
「結界も万能ではないし、それにメガロメセンブリアからの命令を考えると・・・」
そうして冒頭に戻る。
「しかし、実行するしかないか。
メガロからの命令を無視するのと比べて、あ奴を擁護してもメリットはほとんどないしの」
唯一メリットがあるとしたら戦力としてだが、
「真心殿の力の方が麻帆良の防衛という場合には優れておる」
派手な真名解放と何も気づかせずに相手を無力化可能な攻撃。麻帆良において必要な力は後者だ。
派手な力は魔法ばれのリスクが高くなる。
それに加えメガロからの命令もある。
そこに書かれているのは単純な内容だ。
神先・R・暁の暗殺命令。
それがメガロの元老院からの命令だった。
神先はやりすぎた。元老院にとって神先は百害あって一利なしの状態だ。
ほかの赤き翼は行方が知れなかったり、すでに死んでいるといわれている。唯一の例外の詠春は関西呪術協会のトップという地位に存在し、うかつに手を出せない。
死人に口なし。
戦争の真実を知っている神先を抹殺し、ネームバリューのみを利用しようとした元老院の命令だ。
「あ奴を殺さねばおそらくは何らかの介入が麻帆良に来る。しかし、今の麻帆良には介入されるわけにはいかん。もし殺したとしてもこちらの弱みが握られる。ならばわしが取れる手段はあ奴を自然死に見せかけ、暗殺の事実を発覚させないことができ、元老院の知らない手札である真心殿しかないの」
近衛門は決定した。神先・R・暁の未来を
「そうじゃ、では計画通りに」
近衛門の声が学園長室に響く。
特殊なケータイを使って真心と計画の進行を決定する。
電波の送信方法を通話しながら変え続けるという方法で盗聴を無効化する特別製の物を使いこの会話が外へ洩れるのを防いでいる。
ER3システムの技術を利用したものだ。
ピッ、と通話の切れる音が聞こえ、
「すまぬな、神先・R・暁。おぬしにはここで終わってもらう」
その声は決して正義ではなくエゴをはらんだ声であり、それを自覚することができた近衛門は力なく椅子によりかかり、一刻も早く自身の罪を裁かれる時を祈り、待つ。
深夜の麻帆良は危険地帯でもある。
世界樹の魔力に引き寄せられた妖怪や魔の存在が出没するからだ。
他にもほかの土着の勢力が攻撃することもあり、それを防ぐために魔法使いたちが戦っているのだ。
「この程度か。歯ごたえのない」
神先は周りにいた全ての敵を殲滅し、愚痴をこぼす。
まわりは、まるで災害が起きたといわれても納得できるようなありさまだ。
麻帆良の森の中で発生した魔を倒すために神先はここまで来たが、神先の戦闘によって発生した被害は決して無視できない。
神先の攻撃により木々はえぐれ、岩盤はめくり返っているのだから。
「それともお前が相手してくれるのか?」
神先は森の奥へ向かって話しかける。
そこから出てきたのは奇妙な男だった。
和服を着ていて、その顔は狐の仮面で覆われていた。そして何より、橙色の髪が目立つ男だった。
「神先・R・暁だな?」
その男は確認するかのように言う。
「そうだ。関西呪術協会か、詠春も、下くらい抑えられないのか」
神先は男の和服姿から関西呪術協会の構成員だと予想した。
「退屈しのぎにはなるか、踊れ」
その背後から黄金の鎖が伸びてくる。
狐面の男を縛り上げ、拘束する。
「あっけない。暇つぶしにすらならんか」
そう言い、神先は無銘の名剣を取り出し、振り下ろす。
そして、まるで
「なに?」
陽炎のように狐の面の男は消えた。
「分身だと!?」
拘束とはいえ、攻撃を喰らってしばらく過ぎてようやく消えるような分身など普通作れない。
しかし狐面の男は、それを可能とした。
「
後ろからの声。神先は急いで振り向こうとして、体が動かないことに気付いた。
「始めま死て、神先・R・暁さん。死んでもらいます」
独特な口調で男は神先に話す。
狐の面は外されており、素顔が見える。
「貴様!!何をした」
「わざわざ答えるバカはいませんよ」
神先は自身を拘束した男に警戒し、怒りを持って問い詰めようとしたがまるで相手にされずに会話を打ち切られた。
「殺してくれる」
その一言ともに神先の背後の空間が歪み数多の武器が出てくる。
そして、
「死ね」
射出される。
だが、彼の目の前にいる存在は英霊ではないが、英雄へ至った人間を越えた、人類として最も能力の高い存在なのだ。
故に射出された武器を掴み取り迎撃するくらいは簡単に行える。
「何!?貴様!俺の宝具を」
「もう終わりに死ま死ょう。操想術師、想影真心が命じる。抵抗するな」
その一言ともに神先が使った王の財宝は閉じていく。
「き、貴様何をした!?」
体も動かず自身の切り札を簡単に無効化してしまった目の前の男に神先は恐怖を感じ始める。
それが遅すぎる感情だと知らずに。
その強大な力で自身の身に危機を起こさなかった神先にとってこれが初めてなのだ。
死への恐怖という名の感情は。
「ぐ、は、離せ。この不敬者」
「想影真心が命じる。桜咲刹那の秘密を他者に話したか答えよ」
「誰にも言っていない」
神先は話すつもりもなかったことを自身の口がしゃべりだしたことに驚き、恐れる。
自身の体を操れるこいつはなんだと。
「そうか、ならばここで終わりだ」
「な、めるな!!」
渾身の力でジグザグと音での操作、操想術を無理やり破り手にしていた剣を振るう。
男の体を切り裂き剣は、その輝きを発し続ける。
人を切ったというのに血もつかずに。
「ふははは、英雄である俺にはそれでもかなわなかったか」
二度あることは三度あるというのに。
「お前が英雄なら俺様は魔眼使いだ」
その瞬間、今まで神先を遠巻きで見ていた本物の男が近寄り、その瞳を見せた瞬間に神先の心臓は停止した。
心臓麻痺。
誰もが起きる可能性のある死因。
それを引き起こす魔法こそ究極魔術と言われた魔眼だ。
これにより、視認した対象に一切の傷を与えず直接、神経および筋肉に電撃を与え、異常を発生させる。
電気抵抗のある皮膚を無視し、魔法障壁すら無視できる避けられず、耐えられない一撃。
しかも受けた対象は電気信号によるショックを受けた状態だからこそ何の異常も出ない。
だからこそ誰も気づけない。英雄はここで心不全をおこし倒れたと全ての人間は思う。
元老院ですら命令を与えてからの時間から考え、暗殺ではなく病死と判断する。
この方法が可能な真心だからこそこの暗殺は行われた。
真心はそのまま去っていく。自身の存在した証拠を一切残さず。
ここに英雄は倒れ、最終が生き残った。物語は英雄を拒絶した。
神先はあくまでも代理品、ジェイルオルタナティブでしかなく、バックノズルを崩壊させる要因であるために。
もし、神先が世界を破壊しようとしなければ、この戦い、いや、不用品の処分にあったのは真心だったかもしれない。彼もまた代理品であり、物語を変質させる力を持ち、物語を変えてきたのだから。
しかし、ifの話をしたところで何も起きない。
英雄が死に、最終が生き残った。ただそれだけなのだから。