英雄の魔法と最終の人類   作:koth3

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第十二話

第十二話 栄優の史と災襲の所為 英雄の死と最終の生

 

関東魔法協会で一人の魔法使いが死んだ。

英雄 神先・R・暁

彼の死亡したという情報は協会を戦慄させ、厳重な調査が行われた。

その結果は心臓麻痺。心不全によって引き起こされた病死と判断された。

この情報は最重要の秘匿としたが、どこから漏れたのかまほネット中がこの話で盛り上がっていた。

 

「安らかに眠れ、立派な魔法使い」

 

神先の顔はどこかほっとした微笑みを浮かべていた。

近衛門がその顔を見、苦いものがこみ上げながら弔辞を上げ、この葬式も最後になる。

 

「別れの挨拶を」

 

神父の言葉により魔法使いたちは感謝を述べ、別れを終える。

 

「天に召します我らの父のもとへ、この魂に安らかな眠りと祝福を。この魂に哀れみを」

 

ラテン語の詠唱を終了すると、彼を収納していた棺が十字架の下、地面へもぐっていく。

 

 

 

 

学園長室にて、近衛門と真心はこれからについて話し合っている。

 

「英雄は死に、元老院は麻帆良に手を出せなくなりました」

「うむ。おぬしのおかげでアレに余計な者が近づくことはなくなった。感謝するぞ、真心殿」

 

ちらりと窓からのぞける世界樹へ視線を向けながら近衛門は感謝を告げる。

 

「別に気にする必要はありませんよ。こちらとしても必要なことだったので」

 

特に気にもせず真心は答える。

実際、刹那のことを周りに話したかどうかそれだけが知りたかっただけ。

知っていた理由はおそらく能力の一部だろうと、それ以外に知る方法がないため、予測を立てながら、真心は考えを深めていく。

本来真心はもっと確実に相手から安全に情報を回収する方法があるが、それは危険すぎるため使わない。使えない。いくら人を超えた存在でも他者の心を見続けるなど不可能なのだ。あの占い師のようにはいかない。

 

「フン、必要なことか。身内に甘い貴様のことだ。お前の身内にとって排除しなければならない存在だったんだろうが、あの程度の奴を殺す必要性は考えられんな」

 

二人しかいなかった空間の影からずぶりと一人の少女が出てくる。

金色の髪をなびかせながら、彼女は真心へ問う。

 

「今回のことで貴様はどれほどの力を使った?こちらは神先だけではなく貴様も処分する必要があるのだがな。ずいぶんと対応策をこちらも取れるぞ?」

 

面白がった顔と声を仮面にし、エヴァは内心で感心し舌打ちする。

今回の戦いで真心の能力について分かったことは多い。視るだけでも高額な魔法具をいくつか使い、自身も別荘内でまとまった魔力を行使することでようやく観察できた戦いだ。情報の価値は計り知れない。

今まで真心の使った魔法は特殊すぎたがゆえに対抗策を練れず、分析することもできなかったが今回真心が使ったのは気を用いた分身だ。こちらはエヴァも精通しており、ここから真心の戦闘力の一部を図ることもできる。

またそれだけではない、まほネットに入り情報の誘導、改ざん、火消しそのすべてを行ったことにより機械関連の技術の高さと情報操作能力の高さも発覚した。(こちらは茶々丸が分析したが)

それでもこのくらいしかエヴァと茶々丸は分からなかった。

 

確かに今回真心が使用したのは数多くのスキルを使った。

空間制作で神先の周りをだれもよらせないよう空間にした技術。気による分身を使ったかく乱方法。

ジグザグによる拘束術。さらにオリジナルの楽曲での音使いのスキル。

操想術による対象への洗脳による操作。魔眼による誰も疑わない暗殺技能。

あの日だけでこれほどの技能を見せたのだ。真心の能力についてある程度この場にいる二人は把握し始めている。

 

「問題ないさ。対応されたところで対応できないようにすればいい」

 

簡単に、自身のスキルを変質できると真心はこともなげに言う。

 

「気に入らんが、その程度できてもらわなくては話にならん。

この闇の福音を倒したお前にはな」

 

かつて真心に興味を示したエヴァは幻想空間を利用し戦った。

その話は後程語るが結果は真心がエヴァを1000回以上殺し続けたことにより、エヴァ自身が負けを認めた。それからエヴァはさらなる魔法の研鑽を行い麻帆良学園祭の時期程度の魔力の使用を可能とした。

学園長室に入ったのは回復した魔力を使った影の転移魔法だ。

 

「いつの間に戦ったんじゃおぬしらは」

 

近衛門はあきれてものも言えない。

彼らが戦ったのは真心が麻帆良に来てから、一か月ほどたったある日、その日は満月でエヴァ自身の魔力もある程度は回復していたために、すれ違ったその瞬間に幻想空間で戦った。

 

「まあ、よい。おぬしに頼んだことによって今回のことはあらかた方が付くじゃろう。

ならば、最初に頼んでおいたことはどうなっておる?」

 

かつて真心に頼んだ少女のことを思い出し近衛門は尋ねる。

 

「ああ、長谷川のことか」

 

それにエヴァが反応し

 

「それは大丈夫でしょう。カウンセリングで彼女の鬱憤はある程度晴れています」

 

彼女、長谷川千雨には初日は木乃香の折檻により行えなかったが、二日目以降はカウンセリングを行いながら超音波療法、病毒の一つによる嗅いだものの興奮を抑えリラックスする薬をアロマとして嗅がせたのだ。さらに、操想術の初歩での催眠により、少しずつその精神に良い影響を与えていった。

 

「ならば、大丈夫であろう」

 

近衛門はそう締めくくり彼らに話す。

 

「英雄のことは片付いた。

これからの話は、英雄の子のことについてじゃ」

 

物語は変わっていく。

確実に、確実に。異物を取り入れいびつな物語、歪物へと

世界は変わっていく物語を内包し、運命の先で待つ。

かの英雄の子が世界を救うのを。




今回の題名は神先の死の原因である災襲(災いとし襲いかかった)のその後をイメージしつけました。史は、最後の歴史つまりお葬式を上げられたことを指します。
今回は試しとしてこんな形をとりました。次回から思いついたらこうしますが、やめたほうがいい、という意見が来たらやめます。


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