英雄の魔法と最終の人類   作:koth3

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なんか自分でもわかりづらいと思う今回の話、どうか我慢してお読みください。


第二十九話

 第二十九話 積みの密 罪の蜜

 

 刹那がこことは違う巻物で自身の闇と向き合わされているのと同じ時間、木乃香もまた自身と向き合わなければならなかった。

 引きずられ、たどり着いた空間のなかで木乃香は周りを見渡し、状況を把握する。

 正面はガラス張りの入り口があり、後ろには受付がある。綺麗に清掃されたフロアだが、一つだけ普通のビルと違う物があった。床に散らばる人間を模した人形たちだ。

 

 「ここはなんや? ビルん中であってるんよな?」

 「そうです」

 「ひゃあ!?」

 

 突然自分の真後ろから聞こえた声に驚き木乃香は声を上げてしまう。

 振り向いた先にいたのは真心だった。だが、真心がしないようなどこか女性らしさを持っている。

 

 「まー君ちゃうよね? 何もんなんや?」

 「私ですか。私は面影真心の力の一部でそれだけです。私に名前はありません。主が必要ないと判断されたのですから名前などは捨て去るのが奴隷の役目です」

 

 どうやらこの人物は精神が女性のようだ。普段よりわずかに高くなっている声と言い動作自体が女性らしさを醸し出している。

 

 「さて、一応私の試練の内容を説明させていただきます。今から私はビルのとあるところに隠れます。私を見つけ出して投げることができれば合格です」

 

 そう言った彼女(・・)はいきなり目の前から消える。それに木乃香が驚いているとどこかから声が聞こえる。

 

 「いくらでも時間をかけても構いません。どんな方法をとっても構いません。あなたに私は見つけられないでしょうから」

 

 そのままかけられた声がエコーして消えるまで木乃香は動かなかったが消えた瞬間に動き出した。まずはこのフロアから探そうと建物の奥から順々に探し始めるが見当たらない。

 

 「あなたは卑怯です。

 主として奴隷の面倒を見ていない。いえ、主と奴隷の関係を無視しようとしている」

 「うるさい!! 黙っていてくれへんか!!」

 

 イライラしながら木乃香は彼女を探し続けている。彼女を探して数十分になるがいまだに彼女を見つけることができない。先ほどから自分の近くで喋っていることから近くにいることは分かっているのに。だが、何よりも気をイラつかせるのがのが廊下にも転がっている人型の人形だ。

 

 「それは貴方のために死んでいった人達です。貴方の父親が戦場に赴いたせいで関係ない戦いに巻き込まれて死んでいた人。あなたを守るために戦って死んでいた人。あなたに危害を加えようとして死んでいった人」

 「~~~ッ!!」

 

 響いてくる声による言葉の猛毒(・・・・・・)が木乃香の体と精神を蝕んでくる。

 

 「自身のために他者に死ねと言う勇気すらなく、ただ守られ他者を殺していく貴方。自分でも最低だとは思いませんか?」

 

 声が一つ一つ響くほど木乃香の意識はぼんやりとしていく。

 うちのせいでうちのせいでうちのせいで……。

 ゆっくりと彼女の話している内容が分からなくなっていく。

 

 「貴方は次はだれを殺すのでしょうか? あの橙? 違いますね、貴方が殺すのはあの半妖でしょう。目の前で死んでいくのただ見る事しかできないあなたは奴隷の主にふさわしくない」

 

 同じように繰り返される言葉。自身にとって刹那はどういう存在だったのだろう? だんだんとそれすらわからなくなっていく。

 

 「違う……。違う……。違うんや。うちはそんなこと」

 「実際そうしているではないですか。あなたはどれだけの人間を見殺したのでしょうか? あなただけですらそうなんですからあなたの血統はどれだけの悲劇を生みだしたのでしょうか。貴方の血は流血しか巻き起こさない人殺しの血。先祖代々の人殺し」

 

 違う、違う。そうつぶやくことしかできなくなっている木乃香に最後の一言を彼女は耳元でつぶやく(・・・・・・・)

 

 「あなたにとって、あの半妖の命なんかどうでもいいでしょう?」

 「嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 心を砕かれかけ木乃香は耳を閉じて、目をつぶる。こうすれば現実を見ず、甘い逃避した世界に逃げられるからと。

 けれどもそれは許されない。なぜならそれこそが彼女の罪なのだから(・・・・・・・・・)

 

 「あなたにとって親しい存在は本当はいなかったのでしょう。だからこそ本当は半妖もどうでもいいと考えている。たとえ周りが血の海ですらあなたは普段通りに歌っていられるのでしょう。命という花を摘み、罪という蜜をすすり、暴虐という風を楽しむ。そんなあなたは誰にも守られる価値はない。そんなあなたは死蝶(デッドバタフライ)と言うんでしょうね」

 

 今の今まで木乃香に覚られず、後ろにずっと立っていた彼女は鉄扇を振り上げ木乃香の心臓に強くたたきつける。

 

 「あなたはまず自身の血にまつわる罪を理解しなさい。まずはそこから。目を閉じていれば救ってくれる人はどこにもいないのだから、いい加減自分で周りを見なさい。そして自身の羽で飛ぶことをしなさい」

 

 心臓の止まった木乃香はそのままゆっくりと意識のみがこの場を離れていく。今の木乃香の心のように。




木乃香の扱いがひどすぎるような。一応ヒロインなんですが……。
次回は二人の心をできるだけ描写できればなと思う作者です。

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