英雄の魔法と最終の人類   作:koth3

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第三十九話

 第三十九話 赤と橙 最強と最終

 

 瓦礫の山となった麻帆良の広場に紅い飛沫が飛び散る。

 全く同じ瞬間、二つの腕が真正面から衝突し、その威力にお互いの腕が耐えきれず壊れていく。その腕からは既に情人ならば致死量となるほどの血をたらしている。

 最強と呼ばれる力。最終と呼ばれる力。二つの、概念にまで至った力がお互いを倒すために荒れ狂っているが故の結果だ。

 

「さあ、歯を食いしばりな。愚弟」

「テメエこそな。暴虐姉」

 

 

 

 

 麻帆良祭三日目に、学園は建設史上最大の危機を迎えた。

 生徒の一人である超が機械の大群や鬼神を使い、麻帆良を攻めるという事が学園の関係者にネギから伝えられたのだ。その情報を信じた学園は急遽作戦を練り、学生すら利用してこれに対処することを決定した。

 防衛作戦は魔力だまりを守護し、超が発動する魔法の条件をそろえさせないというものだ。

 しかし、それはあくまでも防衛の策。守っていただけではやられるだけ。攻撃の策もまた準備しなければならない。そこで、白羽の矢が立ったのが真心だ。彼はすぐさま一つの考えをその驚異的な頭脳から弾きだした。

 鬼神を使うには学園結界を落とさなければならない。それには魔法的干渉よりも、科学的干渉をするほうが簡単だ。おそらくは、ハッキングをする事で学園結界を落とすつもりだと考えた。

 そこまでわかった真心は、自身の持つ力によってネットの世界を利用したカウンターを行う事にした。彼の技量ならば、銀河系だろうがそこにネットが有ればすべてを支配できる。だからこその考え。その為の準備に彼は一人になった。

 だから、彼はそれと出会ってしまった。赤い彼女に。

 風がはためき、その赤いスーツの裾を揺らす。その赤は歓喜していた。彼女とともにいられることを。彼女の二つ名であることを。

 人類最強。人類最終と並び立つ、赤き征服。全てを破壊しつくす彼女はシニカルな笑みを浮かべ、軽快に真心に言い放つ。

 

「よお、まー君。初めての姉弟喧嘩でもしようか」

 

 

 

 

 麻帆良防衛大作戦が開始して、ネギたちは動き出した。幾人かの仲間が敵の襲撃によって離ればなれになってしまったが、それでもネギたちは後ろを振り向かずに走り続けていた。もはや今いるのはネギと夕映の二人だけしかいない。足止めをしてくれている仲間たちの為にも、止まる訳にはいかないのだ。

 しかしある地点にたどり着いた時、彼らはそれ以降前に動くことができなかった。たった一人の男が彼らの前をふさいでいたというだけで。

 

「よお。そう慌てなくとも彼奴は逃げやしないぜ?」

 

 狐の面を被った、和服の男性。魔力があるわけではない。だからと言って気を使いこなせるとは到底思えない。それに何より立ち方だけで分かる。彼は弱い。だというのに、まるで世界、いや世界に内包されたものが彼という人間に引きずり込まれるような錯覚を巻き起こす。

 そんな男が広場のど真ん中に立ち、親しそうに話しかけてきた。無視すれば良い。そのはずなのに、ネギと夕映は彼を無視する事が出来なかった。

 

「さて。まあ、まずは自己紹介でもさせてもらおうか。俺は人類最悪、西東天。いや、今はこう言うべきか。想影天と」

 

 唐突に出てきた想影という苗字。そこらに転がっている名前ではない。かなり珍しい苗字だ。だが、そのファミリーネームを持っている人物が、この学園にはいる。

 

「真心さんの、家族?」

 

 無意識のうちに、ネギは構えをほどく。真心の知り合いであるならば、安心だと思い。しかし、それは残念ながら違う。彼以上に危険な人間などは存在しないという事を知らずに。

 

「『家族』、か。ふん。確かに間違ってはいない。しかし、正しくもない。俺と彼奴は足の引っ張り合いをしているだけだ。俺が目的を果たそうとすると、彼奴ら(・・・)は足を引っ張り。俺はあいつらの妨害を妨害して、只目的を果たそうとするだけさ」

 

 ネギの質問に対し、全く見当違いの返しをしながら、彼は楽しそうに笑う。そんな彼がくっくっくと口をゆがませて思わず零れてしまったかのような口調に、ネギは怖気が奔った。

 

「それにしても、なるほど。確かにお前はあの男の息子だ。中々奇妙な縁を持ち得ている。だが、だからと言って俺の敵ほどではない」

「何を?」

「何、ちょとした助言をするだけだ。味方と言ってすらない男を信用するなよ。なあ、少年」

 

 敵。その言葉と今までの男がしてきた態度で判断を下したネギは、構えを取り相手に注意を払う。そして、今自分の味方であり、戦闘能力を持たない夕映に大声で指示をする。彼女を守るために。

 

「夕映さん下がって!」

 

 しかしその叫びに、誰も答えなかった。

 

「夕映さん!? いるのなら返事してください!」

 

 敵と思わしき狐面の男に目を向けているが為、周りの状況をネギは把握できていない。だからこそ、気が付けなかった。今、ネギの近くには男しかいなかったことを。

 

「悪いな。お前以外には興味が無かったんでな。木の実の『空間制作』で、お前だけ招待させてもらったわけさ」

「『空間制作』? いや、それよりも何の為に貴方は僕を?」

「『何の為に、僕を?』、か。ふん。決まっている。お前が本当に俺の敵になれるかどうかを調べるためだ」

 

 これから始まる闘いは、ネギの知るものではない。ネギにとっての戦いとは結果だ。勝つことですべてを丸く収めるというもの。しかし本来戦いというものは究極的に相手を否定するものだ。相手が気に入らないから。今の自分が気に食わない。だからライバルと戦い自分を高める。結局この二つに大別される。だが、目の前の男の理由は違う。彼にとっての闘いは、過程でしかない。勝利も敗北も取り返しのつく失敗でしか。

 だからこそ、ネギはこの男に勝てない。ネギは英雄である。しかし英雄であるからこそ人には勝てない。人類の中で最悪の人間に。

 

  

 

 

 

 

 

 


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