第四十六話 絆 終わりのない終わり
めちゃくちゃに破壊され尽くした麻帆良に、想影真心は二人の少女に抱きつかれながら立っていた。すでにすべてを壊したいという欲求はない。ただまっすぐと麻帆良学園があった荒地を見つめている。
瓦礫と化した街並み。至る所で火の手が上がり、黒煙といまだ悲鳴が上がり続けている。一体どれだけの被害が発生したのか。どれだけの人間が死んだのか。さしもの真心も分からない。
だが真心は目をそむけることはしなかった。この惨状を産み出したのは、間違いなく想影真心だ。ゆえに受け止める。それが罪滅ぼしにもならない積亡ぼしを行おうとする、愚か者の責任だ。
積んできたものを
「さあて、あたしももう帰るとするか。久方ぶりにいい汗かいた。ついでに糞親父をぶんなぐるとするか?」
人類最強が、伸びをしている。もう戦う意思はないようだ。晴れ晴れとした顔で、破れた赤いスーツを指でつまみ、「新調するか」と独り言をしている。
麻帆良学園の駐車場があった方角を
「じゃあな、真心ちゃん。いい大人の癇癪に付き合ってやったお姉さまの偉大さに感謝しろよ。そして周りにいるお友達にもな」
豪快で、
帰っていく、赤が。『哀川潤の踏み込んだ建物は例外なく崩壊する』というジンクスを達成して。むしろ土地そのものを崩壊させるというジンクスにさせて。
「変わらねぇなあの人は。だけど、俺様は変わんねえと、な」
真心はひょうひょうとした普段の態度ではなく、どこまでも真剣みを帯びた表情でつぶやく。その言葉を聞いた二人は、抱き着くのを止める。
「マー君?」
不安げに顔を上げる木乃香と刹那。二人の頭をなで、真心は瞳をみて語りだす。心の底でたまりにたまったヘドロのような思いを。
「ずっと俺様は独りだった。いや、独りと思いこんでいた。だって、そうだろう? 人間の限界である力。そんなもの持っているのは俺様だけだ。人類最強だってスペックなら突き放せてしまう。だからすべて一人で終わらせようとしてきた」
その言葉で二人の顔は悲しげなものへと変わってしまう。二人のその表情を見て痛くなく、真心は空を仰ぐ。不思議なことに、空は地上と違いどこまでも澄んで、広々と、高々としていた。それでいて霞む黒煙がうっすらとその青をかき消そうと躍起になっている。だけど空の青さはかき消されない。
力強く、真心は二人を引き離す。そしてもう一度二人を見る。
「だけど違った。俺様がもし一人だったのならば、今頃麻帆良を滅ぼして、
笑みが浮かぶ。馬鹿みたいな、気が狂ったような嘲笑と違う、純粋なうれしさから生まれたものが。
「でも、だからこそ俺様は償わなければならない」
想影真心が作り出したこの惨状の罪を。
「だから俺様は行く。二人とも」
「うん、分かった」
「いってらっしゃい」
期間も、内容も言わないというのに、想影真心を信じてくれる二人が、真心にとってただありがたかった。
だからこそその期待を裏切るわけにはいかない。二人が離れると、真心は目をつむり、息を吐く。
「ありがとう。すぐ会いに行くから」
そのまま指を噛み、血を出す。
ゆっくりと噛みしめるように紡ぐ。
「のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず まるさこる・まるさこり・かいぎりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす にゃもむ・にゃもめ にゃるら!」
血が魔法陣を形成する。血液に込められた魔力が、世界樹もかくやといわんばかりの膨大さで。それが一斉に輝いていく。魔法式に魔力が充填され、かちりとパズルのピースをはめるかのように繋がっていく。
使う魔法はたったひとつ。すべてをやり直すために。
「属性は『水』。種類は『時間』。顕現は『操作』」
時間を操る魔法が発動される。
過去へ渡るという大魔法が。
暗く淀んだ空気が漂う部屋に、真心はたどり着いた。時間だけでなく、空間への時空という概念を用いた干渉の結果、元いた場所とかけ離れた場所に転移していた。
そこは暗く、湿っている。様々な機械やコードがあるが、今は全く使われていない。
部屋の中央に立つ真心の正面には一人の男が立っている。狐の面をかぶった男、想影天が。想影真心が一度負けた相手。悪意もなく、最悪と呼ばれる物の怪のような男が。
狐は驚くことなく、口を開く。
「ふん。お前がここにいるということは、未来の俺は
「ああ、そうさ。願いをかなえたよ、人類最悪。世界を終わらせるという願いをな。だけど、いやだからこそ俺様はここにいる」
それだけだった。想影天はそれ以上なにも言わず、笑いながら真心の横を通り抜ける。その背へ、真心は投げつける。
「最後にひとつだけ言っておくことがある」
「『最後にひとつだけ言っておくことがある』か、ふん。言ってみろ。聞いてやる。今の俺は機嫌がいい」
「次はつぶす」
「く、くく、くくく!」
こらえきれないと腹を抱えて笑う想影天。
「そうか。なら次は俺もお前を潰すとしよう。
狐面を外し、端正な顔立ちを見せながら想影天はそう言った。そしてそのまま去っていく。
真心もまた、想影天が去っていた方へ足を進める。道中下水道にたどり着いたが、特に気にせず真心はマンホールから外へ出た。
晴れ晴れとした青空が覗ける。
真心の心に、二人の少女の顔が浮かび上がってきた。
すべてを無かったことにする。どこかの大嘘吐きがしそうなことですが、それこそが狐面の男のもう一つの狙いでした。というより、本命ですかね。