第四話 関東魔法教会との対談1
関東魔法協会に激震が走った。
その内容は一般人と思われる男によって、一撃で鬼が還されたということだ。
魔という存在は、人間よりはるかに強い力を持ち生身では倒せない。
だからこそ、魔法使いをはじめ裏の人間は魔力や気を用い戦うのだ。
だが、今その前提が崩されかけていた。
「お姉さま、緊急集会の連絡が来ましたが、何が起きたかご存知でしょうか?」
「愛衣。私はこの会合の中身を知りませんが、学園長が必要と判断したのです。それほどの内容でしょう。気を引き締めなさい」
「ハ、ハイ。お姉さま」
少女二人が話し合っている内容は魔法先生には前もって通達してあるが、魔法生徒には知らされていない。
そのため、大人たちは緊張のみならず、警戒心を全開にしている。
生徒たちもそれを感じ取り、不安になっているのだ。
「刀子先生はどう思います。今回の話は?」
「私は・・・あり得るかもしれないと思っています」
小太りの男性、弐集院は隣にいた刀子に問いかけ、その答えに驚く。
「しかし、それはあり得ないのでは?誇張された情報だという可能性は?」
彼自身その可能性は低いと思っている。しかし、そう信じたいのだ。
「高畑先生の報告なら信頼性は高いですし、私は、こちらに来る前にそういった存在を見たことがあります」
その言葉に弐集院は驚き尋ねる。
人外に対抗できる人間などいるのかと。
「はい、気を使わない神鳴流の技を一目見ただけで完全に再現、いえその技を見せた剣士より、はるかに優れた技とキレを持って実行した少年を。彼ならおそらくそんな離れ業すら行えるかもしれません。」
「それは、・・・本当のことなのですね。その顔を見る限りは」
「ええ」
「すまぬな。みなの者、集まってもらい」
その声の聞こえた先にいたのは、後頭部が異常に長い老人だった。痩せているその体は見る人が頼りないからだと思うことだろうが、この広場にいるだれよりも高い実力を有することを彼らは知っている。
「学園長。この集まりは」
「うむ、ガンドルフィーニ君。君の想像通りじゃ」
「ええ、僕自身もいまだ信じられませんが」
森の中から声が響く。
その声は学園長を除き今の麻帆良においての最高戦力である高畑・T・タカミチの声だった。
「お、降ろしてください。体は大丈夫ですから」
突然そんな声が響く。
それにこたえるように聞いたこともない男の声が返す。
「いや、内臓にダメージを喰らっているし、歩くことすらままならん奴がそう言っても説得力がないのだが」
「そうだぞ、刹那。せっかくの再開なんだ。おとなしく背を借りておけ」
面白そうな真名の声も聞こえる。
「た、龍宮。後で覚えてろ」
怨嗟の声が聞こえ、刹那の姿が森から出て、状況がわかる。
真っ赤な顔をしており、傷ついた体を労わるように橙色をした男に担がれている。
おそらくあれが報告にあった『一般人』なのだろう。
「おお、タカミチ君ありがとう。それに刹那君を助けてくださったようじゃな客人よ」
言葉は柔らかく、感謝の意を示すがその内側に最大限の警戒を立てて翁は言う。
「いやいや、こちらこそ当然のことをしたまでだよ。それに襲われていたのは、俺様の幼馴染なのでな」
それに真心は返す。一切の警戒心すら持たず自然体で、そのあまりの姿に学園長近衛門はよりいっそうに警戒を強くしていく。
「謙遜することはなかろうて。刹那君を助けてくださったのは貴方じゃし、わしらは応援すら満足にできなかったのじゃから」
お互いがお互いに言葉から情報を得ようとする。性格、判断基準、思考力それらを図り始めているのだ。
一種の戦いと言ってもよい。どれだけこちらの情報を少なく、相手側の情報を引き出せるかという戦いだ。
舌戦をしながら真心は思い返す。なぜこうなったのかを。
「しまった。食材を買い忘れていた。俺様としたことが」
骨董アパートの一室で彼は自身の失敗に気づく。
明日菜に案内されてここまで来たはいいが、その際に食料を買うことを忘れていたのだ。
「食わなくても良いとはいえ、やはり何か口にしたほうがよいのは事実だしな」
彼の体のもとになった人物は一週間ほど食事をしなくても平気なのだ。
とはいえ、精神的にも食事をするほうが負担は少なく、効率を上げることもできる。
「仕方ない。コンビニかどこかで何か買ってくることにしよう」
そう言い、彼は食料を買うために外へ出かける。
それにより、今夜が眠れなくなるということも知らずに。
「コンビニはこっちか」
驚異的な視力により、彼はコンビニの場所をただ見渡すだけで把握する。
そうして彼が歩き出すと同時に、音が聞こえてきた。鉄と鉄がぶつかる音が。
とはいえ、自身に関係ないこととして歩もうとしたとき声が聞こえる。
「そんな猶予はない龍宮。……」
その声は彼がここ麻帆良に来る理由である少女のうち一人の声だった。
だからこそ彼は動き出す。自身の身うちである彼女らを守るために来た。ただその理由を胸に。
彼が声をした方角へ向かって走りだし十分程度は立っただろうか。
ようやくその姿が見えてきた。
鬼に殴られ、吹き飛ばされた彼女の姿を。
それを見た瞬間彼は腕を爪で切り裂いた。
えぐなむ・えぐなむ・かーとるく
詠唱と同時に彼が飛ぶ。
空を飛んだのではなく、時空間上を。
それこそ赤き時の魔女の魔法。
血液上に魔法陣で魔法式を書かれており、詠唱すら本来必要とせず魔法の即時発動を可能とする。
だが、精度を高めるために詠唱し、彼は飛んだ。
そして、鬼の一撃を受け止め倒した。
ただそれだけなのになぜこうなるのだろうか。
彼の前には一人の男がいた。
常に浮かべる笑みは消え去り、何か彼が行動した場合に備えてポケットに手を入れ。
「こんばんは、こんな遅くにこんなところで何を」
「おいおい、冗談はよしとけ、見ていたくせに」
タカミチは驚いた。
確かに自分は刹那君たちの救援要請に駆け付けた。しかし、間に合わなかった。
居合拳では遠すぎ、豪殺居合拳では刹那君を巻き込んでしまう。
鬼の一撃が来た際、その一瞬に彼は唐突に現れた。
その風景にタカミチは戦慄するしかなかった。
縮地ではないのなら、何らかの門を使った転移系の魔法を使える高位の魔法使いかと思ったために。
だからこそこうして彼を警戒していたのに。あれだけのことしておきながら、まだ周りを見る余裕があるというのか、この男は。
「まあ、どちらかというとたまたまお前さんが見たという感じか」
そうひとり納得すると彼は刹那君を介抱し始める。
背を向け、隙だらけの状態を見せるが、タカミチにはその隙をつけるか自信がない。
「う、うん? ここは」
タカミチが考えていると刹那が起きたようだ。
「ま、まー君? 何でこんな所に?」
「ちょっとした野暮用でな、刹那」
驚いた。刹那君がああも心を開いている存在だとは思わなかった。
「まあ、とにかくお前さん」
彼がタカミチに話しかける。
「な、なんだい?」
「何を動揺しているだ。それより報告しなくてもよいのか?」
「と、そ、そうだね。真名君少し頼むよ。それと刹那君もあとで彼とどんな関係なのか教えてくれるかい」
「ああ、分かったよ。高畑先生」
そして刹那にも返事を聞こうとしたら
顔を真っ赤にしどこにそんな力があるのかというほどの声で、
「か、かかか関係って、そんな不純なことはしていません」
「なにを言ってるんだ君は!?」
「何をカミングアウトしてるんだ刹那」
いきなりそんなことを言われ彼らは驚き、思わず怒鳴り返す。いや、一人はあきれていたが。
それを見ていた彼も思わず腹を抑え、
「げらげらげらげらげらげら」
まさしく抱腹絶倒といった面持で笑い出し、
それに対して「笑わないで下さい!!」という刹那の言葉はむなしく森に響くだけだった。
次回は関東魔法協会との対談内容に入ります。
気が付いたらたくさんの方がお気に入りをしてくださっており、驚きました。
厚かましいお願いですが、できたら、評価や批評をお願いできませんでしょうか。