第七話
第七話 物語の始まりのための始まり。
関東の埼玉県に建設された麻帆良学園
その地にかつて魔法世界を救った英雄が訪れる。
「ここが麻帆良学園か。ふん、正義バカたちにはもったいない」
彼は侮蔑を込めてそう言い放ち、学園長室へ向かう。
彼が歩み初めてすぐに、
「お久しぶりですね。神先さん」
声が聞こえ、神先と呼ばれた男はその方向へ向く。
「ああ、高畑か。案内か?ごくろうだな」
「あははは、変わりませんね。相変わらずに」
最後の部分はぼそりとつぶやくようにタカミチは返す。
基本的にタカミチは赤き翼のメンバーには敬意を表すが、この目の前にいる存在にだけはどうしても好きになれず、敬意を表せない。
「ん、なんか言ったか?」
「いいえ、何も言ってませんが。こちらが学園長室です」
そうして二人は歩き出す。学園長室を目指して。
「ようこそおいでくださったな。神先・L・暁殿」
「ああ、来てやったさ。元老院の愚図どもに頼まれてな」
この時点で近衛門はこの英雄の本質を見抜くことができた。権力のある存在に公式の場ではくことではない。しかもここはその権力組織の下部組織なのにこんなことを言うとは信じられない。自分勝手でおそらくは思い通りにならなければ力で脅すことしかできない幼稚な存在だと近衛門は分析をした。
「神先殿、今回ここに来ていただいたのは」
「ああ、いい。わざわざ言わなくてもわかっているんだろう。いちいち言うな。面倒くさい」
自身の状況を確認せず神先は話を進めたがっている。それを感じ取り近衛門は落胆を深める。
「でっ、俺は何をすればいいんだ。魔法先生をやれってか」
「うむ、お願いできんじゃろうか」
近衛門は少し言いよどむ。そもそも彼はこの英雄がここへ来ることを反対し続けたのだ。しかし、メガロメセンブリアの元老院たちの手により、彼を招かなければならなくなった。所詮、関東魔法教会はメガロメセンブリアの下部組織でしかないのだ。
「はん、当然だな。俺にかかれば、教師なんて簡単に勤まるさ」
そんな訳が無い。近衛門はそう思う。もしその程度ならこの学園の教師の質はもっと悪くなる。
新田先生たちの協力なくして魔法先生たちは、まともな授業は行えない。一般の先生たちには魔法教師の戦闘を見回りという形で納得してもらっている。この広い麻帆良学園を業者では見回り切れないためにとうそを付き、一般の先生たちに協力してもらっているんのだ。だからこそ、教師を甘く見ているこの男に対して近衛門は怒りを覚えずにはいられなかった。
「では、研修生という形で新田先生のもとで二、三か月働いてもらおうかの」
その怒りをかくし、そう言うしかなかった。
自身の力のなさを無力という事実を歯を食いしばるしかなかった。
「任せときな。ついでにこの学園の魔法使いすらも教育してやろうか?」
彼はそういった後に笑い始めたが、もはや呆れて言葉も言えなくなった近衛門はこの話を打ち切り、終わらせる。
「では、研修ののちに、先生として働いてもらおう」
そうして英雄と学園長の対面は終わった。
「まさか、あそこまでひどいとは思わんかった。そう思わんかね?真心君」
英雄が去った後、近衛門は独り言をつぶやくように言う。
近衛門しか
「まあ、そうですね。あそこまでとはさすがの俺様も思いませんでした」
突然真心は空間から出てくる。
「相変わらずすごいのう。『空間制作』というたか。魔法でもなく気でもない。なのにおぬしのことを認識できない状況を作るとは」
「いやいや、それだけではありませんよ」
「ほぅ。まだほかにもしていたのかね?」
「ええ、音使いと病毒使いのスキルで判断力を低下させていましたからね」
「えぐいのう。って、病毒使いってわしも範疇に入っておらんよな!?」
病毒使い ありとあらゆる毒または薬により対象に気付かれずに殺すことすら可能とする技術。それ以外にも筋弛緩剤を散布するなどの方法により、敵を無力化したりすることもできる。今回は麻酔に近い性質を持つ薬により神先の判断力を低下させたのだ。
「ああ、大丈夫ですよ。雇い主に攻撃するわけないじゃないですか。神先とかいう男の周りにだけ散布したんですよ」
「よ、よかった。おぬしの技は見えぬし認識できない技が多いからいつ誰がかけられているか分からんので心配なんじゃ」
彼が今までつかった技の多くは魔法と比べて恐ろしいほどの隠密性を放っており、まさしく暗殺者の見本と陰でいわれているほどなのだ。
まあそれを聞いたところで、真心は闇口ほどじゃないと否定するだろうが。
「うむ、では冗談はここまでとし、請負人である君に一つ仕事を頼みたい」
「ええ、どうぞ。金との折り目さえつけば何でもする。それが請負人ですから」
そう、彼はほかにも依頼された多くの仕事をこなしている。防衛のみならず、テロ組織の壊滅、失われた秘法と言われるような魔法具の発掘など関東魔法教会に多くの理となる行動をとっている。
とはいえ少なくない金額を請求されるが、結果と換算してもはるかに利はある。
「おぬしに教師となることを願いたい。期間は未定。報酬は四十万の追加」
「細かい話は後で詰めるとしてその仕事を請け負いましょう」
彼がここに来た理由は二人の少女を守るために来たのだ。ならばその話は渡りに船。故に彼はその仕事を請け負う。
「うむ、教員免許はこちらで作るとして、何の教科を担当してもらおうか」
「いや、学園長。教育免許ぐらい持っているんですが」
「そ、そうなの?ま、まあ良い。教科はっておぬし全部教えられるしな。現に刹那君の成績おぬしが教えてからトップクラスに上がったしの。全教科」
そう、真心はあまりにも刹那の成績がひどかったために刹那に特別に授業を行った。その結果、刹那自身は自身がこれほど勉強できるのかと驚くほどテストの点数が上がっていたのだ。
「まあ、全教科教えられますし。それにカウンセリングの資格も医師免許、応急処置に関する技術もあるので基本的に総合科目及び特殊な科目も行えますね」
「四教科。つまりは、技術科家庭科、保健、音楽、美術の四教科を担当してもらおうかの」
「いくらなんでも多すぎません?それに保健はセクハラでは?」
「ああ、大丈夫じゃ。二-Aの授業のみ活動してもらえばよい。それに彼らの様子を見るためにもおぬしを副担任にさせてもらうぞ」
真心は少し思う。それってどう考えても労働基準法超えないかと。というか保健に関して回答してねえしっと。
「それとおぬしにもう一つ頼みがある」
真剣な表彰で近衛門は彼に話す。それは彼が何とかしようと常々懸念していた内容なのだから。その表情に真心も気を引き締める。
「おぬしに担当してもらうクラスに長谷川千雨という子がいる。認識阻害結界の作用を受け付けないようでな。周りとの齟齬により苦しんでおる。彼女のことも任せられんかの」
「クライアントの依頼を一度受けたんだ。その程度のことはアフターケアとして行うさ」
そうして、真心は物語に関わり始める。かつて因果を崩壊させ、物語に関われなくなった彼を世界は、否物語が彼を関わらせる。英雄の子の物語に。
英雄と英雄の子。そして、そこに加わる人類の最終存在。物語は捻じれ狂い、崩壊を迎えていく。
この物語が紡ぎ終わったのなら世界は修正を完了する。
それまでに彼がこの世界から存在しなくなったのならこの世界は崩壊する。
さあ、最終よ。生きて、生きて、生き抜け。それが世界の望みにしてお前の望み
我はまっているぞ。この始まりの場で
次回は2-Aとの顔合わせです。