東方時求鉄 ~とんずらを使い普通なら過ぎ去りし時をきょうきょ求めて~ 作:地歴現経
このせかいにいったいの じゃしんとよばれるものがいました
じゃしんはせかいをやみでつつみこみ まっくらでじぶんごのみのせかいにかえようとしました
もしせかいがまっくらになってしまったら ひとびとはこまりはててしまいます
しかしじゃしんのちからはとてもつよく みんなとてもかないません
そんななか ひとりのナイトがじゃしんをたおそうとなのりをあげました
そのナイトは3にんのなかまをあつめ ゆうきをむねにかかえじゃしんへとむかっていきます
そしてながいながいたたかいのすえ ついにじゃしんをたおすことができたのです
たたかいをおえたそのナイトは ふたたびこのせかいがあくにおかされないよう せかいをみまもることにきめました
ナイトはそのみをほしにかえ そらたかくへとまいあがりました
じゃしんをたおし せかいをみまもりつづけるかれを ひとびとはゆうしゃとよんでまつりました
そう みんなもしっているでしょう?
サマディーおうこくのそらにかがやくあのほし あれがほしとなったナイトさま ゆうしゃのほし
ゆうしゃさまはいつまでもいつまでも わたしたちをそらからみまもっているのです……
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「おしまい……」
優美な衣服を身にまとうその女性は読み聞かせを終えたその本をパタンと閉じる。この世界で最も有名なそのお話は、何度もそれを聞いたであろう2人の少年少女を夢中にさせていた。
「ふふ……。やっぱりお母さまは読み聞かせが上手ね! 私、完全にお話の世界に入っちゃってた」
「……ま、しゃくにさわるがでんせつのナイトってやつもなかなかやるよな。まぁいまのじだいはにくだてよりかいひだてなんだがな!」
7歳ほどだろうか。暗い色をした肌のその少女は、その肌と対比するかのような鮮やかな銀色の髪を揺らしながら隣に座る少年に向き直る。
対する少年は4歳ほどの外見。少女からの視線に、そっと少女から目をそらす。茶色い短髪の奥、幼児特有のぷくぷくとした頬はほのかに赤く染まっていた。
「こらこら……そんなことを言ったら、またあの子が————あら?」
女性は何かに気付いたように本を抱えながらきょろきょろとあたりを見渡す。そう、彼女が読み聞かせを始める前、この場には3人の子供がいた。彼女は3人に向けて読み聞かせを始めたはずだったのだが……しかし、今この場には2人しかいない。
「はぁ……あいつ、きっとお父さまのところにいってるのね。私たちが読み聞かせに夢中になってる隙を狙って……。お母さまと一緒に待ってなさいって言われたじゃない」
溜息をつきながら、少女は立ち上がり部屋の出口の方を向く。
「私、あのバカを連れ戻してくるね。」
「あ……俺も————」
そして少年は少女に追従しようと立ち上がろうとするが————
「きっとまた喧嘩になっちゃうからここで待ってて? いやまぁ、戻ってきた段階でどうせ鉢合わせるんだから同じではあるんだけどもね……」
少女はそう言って1人部屋から出ようとする。そのとき————
「うひゃあぁぁぁ!?!?」
窓の外から眩いばかりの光が差し込んだかと思うと、それからほとんど間もなくまるで
「……私もついていきましょうか?」
「ちょっとびっくりしただけだよ! お母さまもここで待ってて!」
まくしたてるようにそう言い切ると、少女はやや小走りで部屋を出ていった。部屋に残るのは女性と少年の2人だけだ。
「ふふ……大人ぶってるけどまだまだ子供よね。立派な大人になるのが楽しみね。……3人には過酷な運命を背負わせてしまうかもしれないけど…………」
彼女はそう呟きながら、窓から空を見上げる。いつの間にか立ち込めた暗雲は幾筋もの雷を伴って強い雨を吐き出している。その重い雨粒が窓に打ち付ける度に、部屋の空気が重くなっていくようにも感じ取れた。
「それにしてもひどい天気……。何事もなければよいのだけれど————と、そういえば……さっきの雷、こっちは大丈夫だったかしら?」
「…………オウフ」
「あら、気絶してる…………」
雷に驚き飛び上がる7歳の少女と気絶してしまった4歳の少年。そのリアクションが、重くなりつつある空気の唯一の緩衝材だと彼女は感じていた。
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「その子が……そうなのですか……?」
雷鳴轟くある薄暗い一室。その女性がそう言葉にしたのを皮切りに、円卓を囲む4人の男女は真剣な面持ちを円卓に座るもう1人の男に向けた。いや、正確には彼ではない。彼の真正面の卓ですやすやと眠る、赤子の方に目を向けたのだ。
「あのアザがある。間違いあるまい……」
恰幅の良い老人がつぶやく。彼の言う通り、赤子の右手の甲には普通ならつくことはないであろう、特徴的な形のアザが浮かんでいた。それはまさしく太陽、世界を照らす永遠に曇らぬ光のようなアザであった。
「「「「「…………」」」」」
5人の表情からは、その赤子に対する感情をまるで読み取ることができない。その感情が否定にせよ肯定にせよ、彼らはそれを簡単に顔に出せる立場ではないからだ。ざあざあと滝野ような雨音と時折聞こえる雷鳴、そして一定のリズムを刻み続ける時計の針の音。それらだけが、空間を支配していた。
永劫とも思える沈黙。そういったものが破られる瞬間というものは案外あっけなく、そして思いがけないものだ。それはこの瞬間も例外ではない。
その音は突然部屋に鳴り響いた。その音の正体————部屋の入口の方に、5人は目を向ける。
そこには、開け放たれた扉と廊下のきらびやかな明かりを背景に威風堂々と立つ1人の少年がいた。
「おれはとうちゃんたちのはなしあいにおくれてしまったんだがちょうどはなしはじめたみたいでちんもくじょうたいだった
おれはかあちゃんのへやにいたのでいそいだところがアワレにもサイレナもつかえないとうちゃんがくずれそうになっているっぽいのがLSかいわでさけんでいた
どうやらほかのやつらがたよりないらしく『はやくきて~はやくきて~』となきさけんでいるとうちゃんのためにおれはとんずらをつかってふつうならまだつかないじかんできょうきょさんせんすると
『もうついたのか!』『はやい!』『きた!たてきた!』『メインたてきた!』『これでかつる!』とだいかんげいじょう————「んなわけあるかーーーーー!!!!」
逆光の中突然現れ、つらつらと言いよどむことすらなく戯言を吐く少年の言葉はさらに突然現れた少女の拳によって止まることになる。
少年の頭頂部目掛けて降りぬかれた甲に月のアザを持つ拳骨はそのまま会心の一撃を与え、少年の意識は痛みとともに遠く、遠く————薄れていった。
「——————おいィ…………?」
寝相が相当悪かったのか、ベッドから落ち床に頭を打ち付けた青年は目を覚ます。彼は体の丈夫さには人並外れた自信を持っているものの、不意の一撃にはさすがにどうしようもない。ひりひりと痛む、短い銀髪を携えた頭をさすりながら彼は立ち上が————
「おっとと、また頭をぶつけてしまうところだった。メイン盾として身長は確かに大事ですが起きるときにいちいちダメージを食らっていてはMPの宿の意味がないんですわ? お?」
————身をかがめながらそっと立ち上がり、部屋から出ようとする。驚くべきはその身長であろう。2mを優に超える背丈、強靭な体つき、薄黒い肌、ピンととがった耳。
「長い首はまるでアルパカを思わせ「アルパカ呼ばわりは止めろと言っているサル! 俺はもこもこ生物ではないと何度言ったらわかるんですかねぇ…………」
青年は部屋の入口に立つ少女に対して叫んだ。それは怒っているという感じではなく、毎度毎度のテンプレート、軽口といった風であろう。
「えへへ~……おはようブロントさん!」
赤い大きなリボンで鮮やかな金髪を巻く少女はその青年、ブロントさんに朝の挨拶をした。彼に見せているその屈託のない笑顔は、その関係性を示しているといっても過言ではないだろう。
「おう、うr-みあ、おはよう」
そしてその笑顔に答えるようにブロントさんもまたその少女、ルーミアに対し朗らかな笑みを見せる。彼女の笑顔を見ているうちに、つい先ほどまで見ていた夢のことなど忘れてしまっていた。
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「ごちそうさま~!」
「ごちそうさま……今日も美味かったぞ、ネムノ母ちゃん」
「お粗末様だべ。ちゃんと満腹まで食ったか? 今日は大事な成人の儀式だ、途中で腹空かして倒れるなんて馬鹿な真似すんじゃねえぞ?」
空っぽになった皿を前にして手を合わせる2人に、白髪の女性がからからと笑う。彼女の名前は坂田ネムノ。16年間ブロントさんを育てた、いわゆる母替わりとなってくれた女性だ。
彼女のいう成人の儀式とは、このイシの村で行われている大人になるための儀式だ。それは16歳の誕生日に村の南に位置する大きな一枚岩、神の岩の頂上で祈りを捧げ、そこで見えたものを村長へと伝える。それを果たすことでようやく一人前の大人として認められるようになるのだ。
つまるところ、今日はブロントさんとルーミアの誕生日なのだ。…………いや、正確には違う。今日が本当の誕生日なのはルーミアのみ。ブロントさんの本当の誕生日は村の誰も知らない。なぜなら、ブロントさんはこの村で生まれた者ではないから。
16年前の今日、ブロントさんは村の近くの滝壺に浮かんでいるのを1人の村人が発見したのだ。どこから流れてきたのかどれだけ流されてきたのか、それは彼の身体が示していた。彼は体中傷だらけで、一歩間違えれば死んでいたかもしれない状況だ。その村人の賢明な看病で彼はどうにか一命を取り止める。目を覚ました彼に、いったい何があったのだと問いかける。しかし——————
『————おれは…………』
ブロントさんは名前以外のすべての記憶を失っていた。彼が覚えていたのはブロント、という自らの名前とやや個性的な口調のみ。
そしてそんなブロントさんに対しその村人はこう考えた。彼の年齢は外見から見て4歳程度。記憶を失うほどの何かがあったのは想像に難くない。むしろ今の彼にそれを思い出させようとする方が酷という話だ。そう、彼は4歳。まだまだ人生をやり直せる年齢だろう。
かくしてイシの村の少年、ブロントさんはその日生まれたのである。偶然同じ日に本当に生まれた1人の赤子とともに。
「————それじゃあブロントさん、行こ?」
「うむ、そうだな。……それじゃあ、行ってくるぞ。ねぬの母ちゃん」
「あぁ。……ま、2人なら大丈夫だと思ってるが気を付けんべ~!」
笑顔で手を振るネムノに、2人もまた笑顔で返しながら家を出る。玄関を出ればすぐにあたたかな日差しが肌に射す。まさに絶好の儀式日和という天気であった。
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「おはようブロントさん、ルーミアちゃん、今日は頑張るんだよ?」
「今日は成人の儀式だもんな。大丈夫、おじさんだって20年前にはサクッと終わらせられたんだから、2人なら大丈夫さ!」
「ブロントさん、儀式が終わったらまた剣を教えてよ! 僕だってブロントさんみたいなしこーのナイトになるんだ!」
家を出て村を歩けば、通りかかる村人が元気に声をかけてくる。イシの村はまるで隠れ住むように山間の中に位置する小さな村だ。村としては隠れるつもりなど毛頭ないのだが、自給自足が成り立ち周辺の街や村とかかわりを持たないこの村は、もしかすれば存在すら気づかれていないのやもしれない。そんな村であるから、村人同士の仲の良さは折り紙付きと言えるだろう。あそこのおばさんもおじさんも、小さな子供に至るまで2人にとっては家族のようなものだ。道中1人1人に挨拶を済ませるまで十数分、歩くだけなら数分程度の道をようやくたどり着く。
「ブロントさん、ルーミア、ようやく来たか……約束の時間より少し遅れているが、まぁ形として時間を決めていただけじゃからな。別に問題はない」
神の岩の前ではイシの村の村長が2人を待っていた。村長は豊かな髭をなでながら、曲がりかけた腰をグイッと伸ばして、2人に話を続ける。
「イシの村の村長として、村の子供が無事に成人を迎える瞬間ほど嬉しいものはない! じゃが、2人はまだあくまで16歳になっただけ。ブロントさんは正確には違うが……それはひとまず置いておこう。……そう、16歳になっただけでは、まだ村として大人と認めるわけにはいかん。大人として認められるにはこの成人の儀式を————」
「……そうゆうたぐいの話しならさんざん聞いたんですわ? お? 俺は不良だからよ、始業式の校長の話しも9秒で寝るし気づいたら退場支持になってる。長い演説は選挙でも嫌われるって知らないんですかねぇ……」
「は、はは……ブロントさんの言葉はいつも切れ味が鋭いのう……。……そうじゃな、前置きはこれくらいにして本題に入るとするか」
ブロントさんの文句に村長は半笑いを浮かべながらおほんと軽く咳払いをする。
「……おほん、これからこの神の岩の頂上まで登ってもらう! そしてその頂上で祈りを捧げ、頂上で何が見えたのかをワシに報告するのじゃ」
村長のその発言を聞いて2人は目の前のそれを見上げる。今まで何度も見てきたそれ、成人の儀式まで入ることを許されなかったそれを今、登る。大きい大きいとは昔から思ってはいたものの、いざ自分がそれに登るのだと考えた瞬間、その大きさに辟易してしまう。
「ほっほっほ……今更怖気づいたのかね? いやならやめても————」
「おいィ!? 誰が怖気づいたって証拠だよ! 俺はこれからゆゆうと神の岩を盗聴するからそれで怖気づいてないのが証明された以下レスひ不要です!」
「わ……私も平気だもん! 私も平気だしブロントさんも平気という2乗のパワーで神の岩はそのまま骨になるから!」
「ほっほ……それだけ元気なら大丈夫じゃろうて……。道中モンスターも出るが……そこまで強いモンスターでもないし、2人なら心配することなかろうて。それでは2人とも、気を付けて行ってくるんじゃぞ?」
「「hai!!」」
かくしてブロントさんとルーミア、2人の成人の儀式が始まる。
彼は知らない。この成人の儀式を機として、彼の大いなる旅立ちが始まろうとしていることを。16年間続いたのどかな日々が終わりを迎えようとしていることを…………
本作を読んでいただきありがとうございます。
頭のおかしい怪文書(東方でもブロントさんでもない)は別媒体で投稿したことあるのですが、一見まともに見える二次創作は書くのが初めてでドキドキしております。
ハーメルンは初めてで勝手がわからないのと、とりあえず最低限の区切りがついたということで投稿しました。2話目以降はある程度書き溜めをしてから投稿したいと思います。ゆっくりゆ~っくり書いていくので、もしよろしければお付き合いください。