迫真警備部 雄英入学の裏技 作:ぢゆしそ流行れ
可愛い子には逆さ吊りと鞭攻めをしよう(提案)
ベストよし、メットよし、誘導灯よし。
5秒で戻れる距離だというのに一つ一つに指差呼称。
昨夜も備品の確認は怠っておらず、今朝も朝食を差し置いて行ったのは備品の点検だった。
代わり映えのない作業を幾度となく繰り返すことに明確な意義はあるのかいと問われれば、確かにそうだなと頷こう。
意味の無い行為だと言われれば……まあ、否定する理由もない。
しかし私はこれから神聖な任務に従事しなくてはならない。
矜恃にかけて、ミスを侵すわけにはいかないのだ。
最後に姿見鏡で身だしなみをチェックしてから外へ出る。
開口一番、奥でダンプ車を動かしていた先輩へ声をかけた。
「先輩」
「おっ
「大丈夫。それより、今日は昨日と同じ場所?」
彼は三浦先輩。土方界の智将(自称)、そして
そして私は
中卒どころか小卒──園児だったかも怪しい私が今日まで生き抜くことができたのはこの企業を営む三人の先輩のおかげである。
「おっそうだな(肯定)15時くらいでここの仕事終わりだからさ、今日はいっぱい飲むゾ〜」
「見ろよ見ろよ」と指さす建設中のビルは中途半端もいいところの出来栄えだった。
通常の建設業者であれば工期がプラス1、2ヶ月あっても何ら不思議ではないが、我々は──私は建築を担当しないのでもっぱら先輩たちの成果だが──他の建設業者と比較して異常に早い。そのため手抜き工事では?と敬遠されることもままあるが、私が見る限り彼らは真面目に業務に勤しんでいるのでそのような心配は無用だと思う。
先輩に「おかのした」と返して三角コーンとコーンバーを台車に乗せて持ち場に赴く。
昨日に引き続き業務は歩行者誘導と現場に出入する工事車両の誘導だ。
私は誘導灯を片手に、今日も神聖な任務に就いた。
⚫
学校行かなきゃと急ぐ妙にガタイのいい小学生に道案内し、怖い顔したお兄さんから「(2級の)免許持ってんのかオラ」と恫喝*1され、クライアントに電話で謝罪するSGWの人に回り道を教える。
万事滞りなく、いつも通り。私にとってはこれが日常だった。
他の人の視界から見れば、今日という日も明日という日もきっと違う景色が見えるだろう。
ヒーローを夢見る学生に、会社に務めるOLに、誰かを助けるヒーローに、裏社会に潜む893に、SMバーを営む緊縛師に、童を痛ぶる虐待おじさんに、サーフ系ボディビルダー、彼らの視点に立ってみたらどうだろうと、常々考える。
中でも私と歳のほど近い学生たちの視点を妄想することが多い。親の顔も忘れ、帰る居場所もなかった過去の自分と違い、世間一般的に当たり前の幸せを享受してきたのだろう。
ないない尽くしだった私からすれば、真っ当に夢を見れることの、なんと素晴らしいことか。
「ぬわああああああん疲れたもおおおおおおっ千由子、そろそろ現場終わりそうだからさ、片付け始めちゃって、どうぞ」
決して、今の自分を後悔しているわけじゃない。
田所工事の三人と出会わなければ尋常な人間に多少の羨望を抱くことすら叶わなかった。
この身一つしかなかった私を不器用ながらに育ててくれた彼らとの今まで。それは私にとって大切なもので、進んで捨てたい記憶ではない。
そして彼は鈴木先輩。24歳楽聖(自称)、田所工事の作業員だ。楽聖を名乗るだけあって尺八が上手いらしいが、聴いたことはない。他にも水泳部と迫真空手を兼部していたとか、邪剣『夜』を片手に世界の危機を救っていたとか何とか。多分8割くらいはホラ吹きだろう。
「今日の店は?」
「こ↑こ↓」
「あーいいっすね~」
確か、10歳くらいの頃だった。
それまで蝶よ花よと先輩たちになでなでされてすくすく育っていた私はどうにかして彼らの力になれないかと思考を巡らし、警備員の仕事に志願した。
それまでは二人が現場、一人が警備を担当し、交代で仕事を回していた。そこに私が警備員専任として入れば三人は集中して本業に取り組めると考えたからだ。
私の初めてのおねだりが彼らを1週間と3日か4日ほど悩ませてしまったことに思うところはあったが、私は先輩たちの役に立ちたかった。空っぽだった私を満たしてくれた彼らに渡せる唯一の返礼だと、そう考えていたから。
先輩たちは最後まで頭を突き合わせていたが、「しょうがねぇなぁ(現場に)立たしてやるか!」と渋々受け入れてくれた。
それから7年余りの間、私は“警備員”という神聖な任務に携わることができている。
「飲み屋の近くに美味いラーメン屋もあるらしいね。じゃけん二次会で行きましょうね」
「その時悪酔いしてたらナシね」
「ファッ!?クゥーン(懇願)」
当たり前だよなぁ?
彼らがバッチェ冷えたビール!ビール!で酔い潰れる度に未成年の私が運転代行をオナシャスしなければならないのだ。シラフのうちにちゃんと電話して、どうぞ。
「……じゃ、今日はほどほどにしとくか。朝っぱらからラーメンの口なんだよな〜俺もな〜」
別に私はラーメンを食べたいとは口にしていないのだが……。
鈴木先輩はスキップしながら現場の最終確認に行ってしまったので、私は片付けを初めて行く。
私の業務の中では一番の重労働だ。台車があるとはいえ一度に運べる量には限界がある。今日は台車で現場と荷物を積むトラックを2、3往復しても足りないくらいだ。
「お疲れ様、千由子。手伝おうか」
「あっどうも、木村先輩」
彼は木村先輩。田所工事の現場作業員と会計を担当している。他の2人よりも比較的デスクワークをしている姿を見かけることが多い。
自称の智将よりも木村先輩の方が頭がいいのでは?と聞いたことがあるが、三浦先輩と木村先輩では得意な分野が全く別なので比べることに意味はないようだ。
「珍しい。私の手伝いなんて」
「まあ、今日くらいはね」
……?
今日は何か記念日だっただろうか。
首を傾げる私に先輩は微笑むだけで回答らしきものを示してはくれなかった。
そうして頭に疑問符を浮かべたまま二人で最後の荷物を運び終えた矢先、絹を割くような思わずデスボイスが現場に響き渡った。
木村先輩は渋い顔をしている。きっと私もそうだろう。
「ライダー助けて!!」
ともすれば田所工事の信用問題に関わる危機かもしれない。
木村先輩に確認も取らず、声の聞こえる方へ急いだ。
「あ゙あ゙あ゙も゙お゙お゙や゙だあ゙あ゙あ゙!!」
悲鳴は今朝見かけたけっこうガッチリしたボディの小学生が吐き出したものだった。
彼にこれといった外傷は見受けられないが、鮮魚のようにのたうち回り、非常に取り乱していた。
理由は語るべくもない。見ればわかる。
仮囲い鉄板のど真ん中に穴が空いている。
融解するように溶けた穴から巨躯の人影──俗に言う
「やだ!やだ!なんで小生がこんな目にあわなきゃいけないんだにょ!!」
泣き声から意識を逸らしながら、私は腰に取り付けていたもう一本の誘導灯を引き抜いた。
一転攻勢に出ようとしたところで後ろから走ってきた息を切らした木村先輩が私の肩を掴む。
「千由子、その子と一緒に逃げましょう!ヒーローを待つんです!!」
ヒーロー、この超常社会における抑止力の名。弱きを助け強きを挫く、みんなの味方。
だけど、私が消えそうだった時に助けてくれたのはヒーローでも警察でもない、ただのお人好したちだった。
ここで逃げて助かるのだろうか。敵意が迸る
──いや、無理だ。私の『個性』が、警鐘を鳴らしている。その判断はこの場において不適切だと。
「……木村先輩、おねがいします」
「おねがいって、まさか──」
返事は聞くまでもない。
『個性』で先輩と小学生を
このままでは私の恩人たちも、ヒーローに頼れなかったあの子も、みんなみんな死んでしまう。
そんな
────ならば警備員、己の任務を達成せよ。
「覚悟はいいか」
問いかけたのは相手か、自分か。
返事も聞かずに誘導灯を回せば、カランカランと音が鳴る。
「エンドロールにはまだ早い。故に、ここから先は通行止めだ」
タイトル詐欺許してください!何でもしますから!