走り出したら止まれない/Runaway Baby   作:Avigale

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走り出したら止まれない
走り出したら止まれない・その1


天下の東京駅で飛び込みかぁって思ってたんだけど、関東みたいな電車網が発達してる場所だと、よくあるらしい。

僕は岩手から新幹線に乗って来たんだけど、ホームで飛び込み直前の人をウマ娘の駅員さんがダッシュで止めていてびっくりした。

きっとあの人は短距離の選手かなんかだったんだろう。

あと、その時駅員さんが吹いてた笛がめちゃくちゃうるさかった。

世間のいろいろなものって人間目線で作られてるものが多いから、ウマ娘として生きてると不便がある。笛みたいに。

小学校の頃、先生の吹く笛が嫌だった。

ウマ娘と普通の人の共学だったんだけど、先生は人間用の笛を吹くから、ウマ娘の身としては人間の聞こえない(らしい)音まで聞こえて本当にうるさい。

 

僕はその笛と同じような感情を、飛び込み未遂の人に感じていた。

つまり、やめてほしいなぁってこと。

 

今もそう思っている。

電車の乗り換えなんてちんぷんかんぷんだし、都会の空気の持ってる騒がしさというか、ノイズ感というものが凄い嫌だ。

府中に着けば大分マシになるのかなって思う。

 

東京駅から中央線に乗って新宿駅まで行く。

新宿駅から京王?線に乗って府中駅まで行く。

僕はそれを頭の中で繰り返した。

東京、中央、新宿、新宿、’京葉’、府中。

 

京王線? 京葉線? どっちだ?

 

よくわからなくなってしまった。

こういう時は誰かに聞くのに限る。

僕は売店で商品を選んでいる人に向かって、声をかけてみた。

 

「あ、あの、府中駅に行くためには、何に乗ればいいですか?」

 

「……」

 

商品を選んでいる人は、直ぐレジにいって、会計をして、僕の前から去っていった。

無言で。

 

分かんなくても、分かりませんくらい言ってもいいでしょって思った。

 

これが岩手なら、僕の故郷なら、皆優しい顔で、駅員さん捕まえてきて教えてくれるのに。

 

もう既にホームシックになりかけだ。

中学受験なんてアコギなことをしてまで掴んだ、トレセン学園入学という希望なのに、僕の頭の中は絶望でいっぱいだ。

 

空気のせいだ。

こんなにいっぱい人がいるんだから、空気も汚れるに決まっている。

僕は都会というか、人のいっぱいいる場所が嫌いだった。

人のいっぱいいるところの空気っていろいろ混ざるから嫌だ。

なんというか、空気が僕の物じゃないのが嫌。

 

仕方ないので外に出て案内所に行って聞いてみることにした。

改札の外に出たらまずい気がする。戻れないと思う。

どうしようと迷っている僕がいる。

 

見知らぬ地で、それも誰も助けてくれない大都会で、僕は独りぼっちだ。

 

「貴様」

 

後ろから声をかけられた。

え、人の事、貴様って呼ぶ人いるんだ。

 

「改札の前で止まるな、愚か者」

 

はい、僕は愚か者です。

そう思いながら、振り返ると、まるで士官のような帽子を着た少女がいた。

都会って、こんな変な帽子をかぶっていても通報されないんだ。

人がいっぱいいるって、逆に周りに無関心になるのかもしれない。

人間がいっぱい居すぎて、人間の中毒になってわからなくなるんだ。

 

その子は僕より背が低いのに、威厳のある佇まいがあって、なんだかちょっと憧れを感じた。

 

「退くか進むかしろ、止まるな」

 

僕は急いで手帳入れから駅の特急券と座席券を取り出して、改札の外に出た。

 

続いて後ろの彼女も改札から出てくる。

 

僕が柱の横で手帳入れをしまっていると、またさっきと同じ声が聞こえた。

 

「貴様」

 

「はいっ、何でしょうかっ」

 

僕は驚いて気を付けの姿勢を取ってしまった。

 

「……今の手帳入れ、銀河鉄道の夜、か?」

 

彼女は僕の手帳入れを見ていたらしい、その通りだ。

銀河鉄道の夜をイメージした装丁に、猫のバッジがつけてある。

僕はますむらひろしの銀河鉄道の夜の漫画が好きで、引っ越しの荷物の中に入っているくらいだ。

 

「そしてお前、トレセン学園の新入生だな? ワガハイは、貴様が府中を目指していることを聞いたぞ」

 

この人は僕のことをよく見ている。僕がさっき売店の人に話しかけていたのを見たんだろう。

 

「もし、そうだとしたら、あなたは僕をどうするつもりなんですか?」

 

「ふむ」

 

彼女は僕の目を見上げて、顎に指を当てて悩んでいる。

悩むほどの事をするのだろうか。

僕はどうなっちゃうんだ。

あとちょっとまって、この人自分の事ワガハイって言ってなかった?

要素強すぎだろ。

 

「お茶にでも誘うかな」

 

「はい?」

 

「トレセン学園の新入生の受け入れは明日からだ」

 

「えっ、そうなんですか? というか、何で知ってるんですか?」

 

「ワガハイも新入生だからだ」

 

「ああ、なるほど」

 

僕は納得した。それなら話が早い。

 

「見たところ貴様は学園への道を知らないようだな、ワガハイが案内してやろう」

 

「その代わり」

 

「その代わり、何ですか?」

 

彼女は帽子に触れながら、僕を見上げていった。

 

「”いっぱい”奢ってもらおうか」

 

「ああ、”一杯”くらいならいいですよ」

 

僕は了承した。一杯くらいならいいだろうと思った。

でも日本語って難しいもので、”いっぱい”にもいろいろあるんだ。

 

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