走り出したら止まれない/Runaway Baby 作:Avigale
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「まさか、ハンバーガーを10個も頼むなんて……」
「言っただろう? いっぱいって」
「まぁ、払いましたけど」
「随分持っているな、盗まれたら大変だぞ」
「お金がとられるのは別にいいですけど、身分証がとられるのは嫌ですね」
「そういう問題か」
「多分」
「分からん奴だな」
どん、とテーブルにハンバーガーが置かれていく。
都会というものは何もかもが目まぐるしい。
店員さんも10個のハンバーガーを一気に作ることなんて手慣れているのかもしれない。
「そろそろ自己紹介してもいいだろう、私の名前はロードオブウォーだ」
「戦いの王という意味らしい」
「……それを言うなら、”ウォーロード”じゃないんですか?」
彼女はニッと笑って答える。
「”言いたいように言わせてもらう”。」
僕はそんなセリフの映画を見たことがある気がした。
「貴様は学生に見えん、スーツなんて着て、働きづめのサラリーマンに見えたぞ」
「ああ、よく言われます。スーツが一番落ち着くんですよ。あと、都会ですし」
「都会だからと言ってスーツを着なければいかん理由にはならん」
「そうなんですか?」
「学生がそんなことをするのは、砂漠でスーツを着るようなものだ、合わない」
「砂漠でスーツを着るのは意外と快適って、MASTERキートンで言ってましたよ?」
それを聞いた瞬間、彼女は身を乗り出した。ハンバーガーの山が揺れる。
「MASTERキートン知ってるのか!?」
「まぁ、はい、読みました」
「貴様、中々だな」
彼女はなんだか満足げな表情を浮かべて笑う。
「今の時代のガキにしては、中々やる」
「あなたも子どもじゃないですか」
「確かに子どもだが、ワガハイは格が違う」
「はあ」
「で、貴様の名は?」
「……サードディグリー。です」
彼女は僕の名前を聞く前にハンバーガーにかぶりついていた。
「……まぁ、僕の名前なんて覚えていなくていいですけどね、きっともう会いませんし」
「ほむ」
「お行儀悪いですよ、食べながらしゃべらないでください」
彼女はハンバーガーを飲み込み、指についたソースを舐める。
何かエロいな。
いや、そうではない。抑えろ。
「食べ終わったら府中へ向かおう」
「ワガハイが案内してやる」
「それは助かります」
「貴様、切符の買い方は分かるか?」
「えっと、QRを読み込んで……」
「それは新幹線の買い方だ」
「向こうに券売機がある、そこで切符を買え」
「ああ、はい、わかりました」
僕は、彼女がハンバーガーを頬張っている間、ずっとコーヒーを啜っていた。
こうやって、駅の人の往来を見ていると、みんなシャカシャカ動いている。
古い映画のフィルムみたいに、皆早送りだ。
そこまでして急ぐ必要があるのだろうかって考えてしまう。
「サード、変なことを考えているな?」
彼女が聞いてきた。
「いや、なんか、皆動きが早いなって」
「ふん、ただ定刻に縛られているだけだ」
「みっともない」
彼女の言った、みっともないという言葉に僕は少し同感だった。
「自由の意味を知っているか?」
「……縛られていないこと?」
「合ってる、だがもっとある」
「自らを由(よし)とすること。自分を肯定することだ。奴らにそれが出来ているようには思えん」
「他人に認められなければ生きていけない人も居ます」
「そんなの、生きてるなんて、自分の足で立ってるなんて言えるのか?」
「ワガハイはちゃんと自分で自分を良しと言える、だから、格が違うのだ」
僕はそんなことを言う彼女に、少し、呆れと憧れが混ざった感情を抱いた。
「……凄いですね」
「ああ、凄いのだ」
机に目を戻してみると、彼女の目の前に積み重なっていたハンバーガーは外袋だけになり、ぺちゃんこになっていた。
僕が手に持っているアイスコーヒーも、いつの間にかなくなっていた。ズーズーと音を立てて、氷水が口に入ってくる。
「頃合いだな」
僕たちは席を立って、改札の前にある切符売り場に向かった。