走り出したら止まれない/Runaway Baby 作:Avigale
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「さて、府中駅から学園までは徒歩10分とかからん」
「案内するか?」
彼女はそう聞いてきた。
「僕は電車の乗換と路線が分からなかっただけです」
「徒歩でならスマホで調べて一人で行きます」
彼女がちょっと驚いたかのように、そして少しだけ落ち込んだかのように見えた。
「そうか」
「ワガハイは一度ホテルに泊まる、貴様もそうだろう」
「ここで別れようか」
僕はそれに頷いた。
僕は一度学園に寄らなければならないので、必然的に彼女と別れることになる。
それでいいんだろう。
「じゃあ、さよなら」
「また会えたらいいな」
僕は彼女に手を振って、それぞれ逆方向に進んだ。
横断歩道で彼女の方向を振り向いたとき、彼女の特徴的な、威厳のある帽子は見えなくなっていた。
僕はスマホを眺めながら、無事にトレセン学園へとたどり着いた。
見渡しても、視界が全部学園の敷地だ。広い。
僕はこんな、巨大な場所に足を踏み入れた挙句、自分のものにしないといけないのかと思うと、怖くなってきた。
「あれ? もしかして新入生の人?」
後ろを振り返ると、制服を着たウマ娘がいた。
「スーツ着てたから先生かと思っちゃった! 背高いね~! 名前はなんていうの?」
「え、サードディグリーです……」
「私はマチカネマクラウド! よろしく!」
僕はマクラウドさんに押されるがまま、学園の敷地内に入れられてしまった。
もう、戻れないんだ。
「……」
「多分寮に入る手続きのために来たんだよね?」
「はい、そうです……」
「だったら寮の事務室の方に行けばいいと思うよ」
「栗東? 美浦?」
「確か、美浦だった気がします」
「じゃああっちの方に行けば寮があるよ! 案内しよっか?」
「あ、大丈夫です」
僕はだんだん怖くなってきて、分からないはずなのに大丈夫と言ってしまった。
「そっか! じゃああたしはこれで!」
そういってマクラウドさんは校舎の方に向かっていく。
僕は美浦寮のある方向へと歩く。
スマホの通知が来たので、画面を覗いて確認しながら歩いていると、誰かにぶつかってしまった。
「……先生が歩きスマホとは感心しませんね」
「……いえ、先生ではなく生徒です」
「ほう、でもキミ、歩きスマホはだめだよ?」
「……はい、反省します」
「私はアンノウンエス。よろしく」
「サードディグリー、です」
彼女はなんだか不思議な感じを身にまとっている。
アンノウンエスという名前の通り、まさしく未知というべきか。
「制服を着てないってことは、手続きに来た新入生ちゃんかな?」
「トレセンは良いところだよ、いろいろな人が、ウマ娘がいて、互いに高めあえる。そんな場所さ」
「……でも、それはレースを走る人だけ、かもしれませんよ」
「ふーん、事情アリ、って感じだね」
「僕の目的がレースじゃないってだけです……」
「それでも、君の目的が達成されるよう、私も期待しているよ」
「じゃあ、またね」と言ってアンノウンエスさんは歩いて行った。
彼女から目を離すと、美浦寮の看板が目に入る。
僕はそこへ向かっていった。