走り出したら止まれない/Runaway Baby   作:Avigale

6 / 12
走り出したら止まれない・その5

_________

______

____

 

僕は、手続きの後、寮の部屋の確認のため、部屋に通された。

そこにはすでに荷物が届けられていて、ベッドの上に大きな段ボールが置かれていた。

 

2人用の部屋の、もう片方のベッドにも段ボールが置かれていた。宛名を読む前に、外から音がした。

 

「……この荷物だね、全く、趣味のモノを置くのは良いけど、問題は起こすんじゃないよ?」

 

この声はヒシアマゾン寮長の声だ。先ほど面談で話したので覚えている。

 

「分かっている。ワガハイも検査で止められるなど思っておらんかった、電話が来て驚いたわ」

 

ドスン、と部屋の外で重いものが降ろされる音がした。

 

扉が開く。

 

僕は、ノブの先に伸びていた手の感触を覚えていた。

 

「あ、えっと」

 

「……貴様、何故ここにいるんだ?」

 

「ロードさん、ここは僕の部屋でもあるらしいですよ」

 

「何?」

 

「つまり、結論としては、僕とロードさんは、同室ってことになるんじゃないかな」

 

「そうか」

 

ロードオブウォーは、彼女は、ニヤリと笑った。

 

「なぁ、サード」

 

「何でしょうか」

 

彼女はちょっと邪悪な笑みを浮かべながら、部屋に入る。

 

「貴様が、トレセンに来た理由はなんだ?」

 

「……入れと言われたから入っただけです」

 

「つまらないな」

 

「僕にとっては大変なことでした」

 

「貴様の人生をもっと楽しくしてやる、と言ったら?」

 

「……何ですって?」

 

僕は彼女の言った言葉が衝撃的だった。

僕の人生は、確かにあんまり楽しくない。

けれど、そんなことを言われる筋合いはないはずだと思う。

 

「ワガハイと共に走れ」

 

「何故?」

 

「貴様の人生はまだ、ゲートにすら入っていないんだ、まだ始まっちゃいない」

 

「今、ここで、ワガハイと共に始めないか? 貴様の人生を」

 

「……口説いてるんですか?」

 

「そうかもな」

 

「……僕に走れっていうんですか?」

 

「そう言っている」

 

「……僕がそれを肯定したら、あなたのエゴに付き合わされるんですか?」

 

「その通りだ」

 

僕は迷っていた。

こんな強引で、変な提案をされるのは初めてだったし、何より彼女の表情は、魔性の物があった。

 

「……一回だけですよ」

 

僕はそう答えた。

僕はウマ娘なのに走ることがあまり好きではないから、彼女と走るのは一回だけにしようと、そう思って答えた。

 

彼女は僕に手を差し伸べながら、こう言った。

 

「きっと、走り出したら、止まれない。一回で足りるものか。貴様も、止まることなんか忘れて、羽が生えたように飛び去ってしまうかもな」

 

僕は彼女の手を握った。電車の時とは違って、それを隔てる人は、誰もいなかった。

 

「……また、羽が生えたみたいに走れれば、僕は嬉しいのかもしれません」

 

「走れるさ」

 

「そう望みます」

 

僕は段ボールの宛名を見た。

 

そこには”ロードオブウォー”と書かれていた。

 

「……やっぱり、僕は”ウォーロード”にしたほうがいいと思います」

 

彼女は鼻で笑って答えた。

 

「言いたいように言わせてもらう」

 

そんな彼女の横顔が、なんだか、ずっと言いたいことを言えたかのような、満足感に満ちていたのを、僕は知っている。

 

僕は、彼女の手の感触を、ずっと忘れられなかった。

 

最後まで、そう、ずっと最後まで、忘れられなかった。

 

 

 

 

”走り出したら止まれない” 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。