走り出したら止まれない/Runaway Baby 作:Avigale
「私は! 水橋トレーナーと一緒に走り、共に栄光を勝ち取りたいです!」
「次」
僕は昨日言われた通り、水橋トレーナーのトレーナー室に来た。
水橋トレーナーは名刺を受け取ったウマ娘たちを席に並べて、面接している。
でもその面接が問題だ。僕は面接が嫌いだ。面接が好きな人なんていないと思う。
いるとしたら、相当自分に自信があるか、おバカさんなんだと思う。
「アタシ! 水橋トレーナーみたいな人と一緒に、G1を目指していきたいです!」
「……バカにしてんの?」
昨日PCで調べてみたところ、水橋トレーナーが一流だったのは間違いない。
”だった”というのがポイントだ。
水橋トレーナーはG1競争の連勝成績があるトレーナーだという。というか、彼女自身がG1に出たことがある。
ちょっとしか描写しなかったせいで分からなかったかもしれないけれど、彼女はウマ娘だった。青い毛色をしており、僕は黙示録の四騎士の、青いウマ娘を思い出していた。
それはペイルライダーと呼ばれていて、タロットの死神のモデルとなっている。
そのウマは、疫病や野獣を用いて、地上の人間を死に至らしめる役目を担っているらしい。
それは正しいのかもしれない。何故なら、彼女は面接開始の時にこう言っていた。
「アタシは、アタシと一緒に全部ぶっ壊してくれる子を探してます。ハイ、開始」
彼女は、自分のせいではないとはいえ、自身が持っていたウマ娘を事故で亡くしていた。
破滅的になるのも仕方ないのかもしれない。
「オレは、世界一のウマ娘に……」
「君帰っていいよ」
そう言われたウマ娘はシュンとしてしまった。
こんなの圧迫面接だろ。
次はロードさんの番だ。
「……ワガハイはロードオブウォー。少し、自分の話をしたいので、時間を頂きたい」
「いいよ」
許諾を貰ったロードさんは自身のことについて話し始めた。
「ワガハイが幼い頃、ワガハイの出身地であるドバイは砂嵐に襲われ、壊滅した」
「ワガハイはその際、難民として日本に逃れてきた。母親と共に」
「ワガハイはドバイの名家の娘だ。名誉ある者だ」
「金なんて水のように湧いてくる。名誉なんて寝ていれば手に入る。しかし砂嵐によってすべて奪われた。いや、全てを焼き尽くしたというべきなのかもしれぬ」
「ワガハイの父は軍人だった。米軍のアラブ方面駐留部隊で、アフガニスタンの紛争の際も戦った」
「しかし、砂嵐に見舞われたドバイへの難民救出作戦の際、父は全てを失った。」
「救出のために向かった米軍、ドバイの治安維持部隊、そして逃げられなかった難民の間で戦闘が起こった」
「その際、父は治安維持部隊を叩くために迫撃砲を使った。それには白リン弾が込められていた」
「治安維持部隊は、その後方の塹壕に民間人を避難させていた。しかし、赤外線ゴーグルには民間人と兵隊の区別はつかん、後方の民間人ごと、父は皆殺しにした」
「これは戦争犯罪と言って、国際的に裁かれるものだ」
「ワガハイの家は軍人一家だ。ワガハイの名前はそこにあやかってつけられたものだ」
「ワガハイは名誉を失った。もはや故郷には帰れぬ」
「だが、唯一帰る方法がある。ワガハイの母の、父の、名誉を取り戻す方法がある」
「ドバイワールドカップという国際競争があるな?」
ロードさんは周りを見渡して聞いた。みんなポカーンとしていたし、僕は彼女の父が人殺しで、挙句の果てに戦争犯罪を犯していることなんて知らなかった。
彼女の名前、ロードオブウォーという言葉の意味は”戦争の王”だ。
ある意味では、彼女は名前に呪われていると言っても過言ではないのかもしれない。
「そこに出る。そして、勝つ。日本にはいい言葉があるな、”故郷に錦を飾る” だ」
「ワガハイはそれ以外は求めん、貴様なら、ワガハイをそこに導けるか?」
そういってロードさんは口を閉じた。
「へぇ」
水橋トレーナーは表情を変えずに言った。
「面白いじゃん」
何が面白いのだろうか。僕には分らなかった。
次は僕の番だ。
「僕は、サードディグリー。本当は走りたくなんかありませんが、隣の方のせいで走ってしまい、あなたの目に留まりました」
「確かに入着という結果になりましたが、僕はそんなことより、模試の結果の方が大事です」
「……というわけなので、帰っていいですか?」
そこまで僕が述べた後、水橋トレーナーは笑い出した。
「ふ、ふへへ。最高」
「アタシ走りたくないって言ってる子走らせるのめっちゃ好きなの、アタシの現役時代滅茶苦茶やられたから」
「ウマ娘はね、トレーナーと契約して地獄に落ちるんだよ。トレーナーは悪魔なの。アタシたちを甘い言葉で誘惑して、地獄に落として、魂をむさぼる悪魔」
僕はこの人と関わってしまったことを後悔していた。
「そこのデカい子と、帽子の子、採用。それ以外は帰って」
その言い方、差別的ですよ。
不採用のウマ娘たちがぞろぞろと帰っていく。
扉を蹴る子もいた。こんな扱いをされては当然だ。
「……で、採用の2人」
「はい」「何だ?」
「最初のトレーニング開始ね」
「聞かせてよ、アタシの事、”スキ”?」
僕は、本当に、この人と関わったことを後悔していた。