敬愛するお兄さまに恋人がいないと知った黒い刺客はやばい   作:オティレニヌス

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オリ主ものの小説の難しさから逃げるために初投稿です


ライスシャワー!まくって上がってくる!

ここは日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。今日も今日とてウマ娘たちが勉学、トレーニングに明け暮れている。

 

そんな学園の中に、見るからに上機嫌な顔で歩く黒鹿毛のウマ娘がいた。それはもう頭上に音符が浮かび上がって来そうなレベルの上機嫌っぷりである。

 

「♪~」

 

表情に出すだけでは収まりきらない正の感情を鼻歌に乗せ、彼女はスキップ一歩手前の速度で進む。

 

彼女の名前はライスシャワー。高等部にしては低い背丈と片目が隠れる程長い漆黒の髪が特徴的なウマ娘である。

最も格式の高いレースであるG1の冠をいくつも取り、URAファイナルズ長距離部門においては見事頂点に輝きうまぴょいをした、トレセン学園でも上澄みに位置するスターウマ娘の一人である。

そんなエリートウマ娘であるとは思えない、威厳の欠片もないにへらとした顔で彼女はとある場所に向かっていた。

 

その道中にて、声をかけられる。

 

「ライスさん、こんにちは」

 

「あっ、ブルボンさん!こんにちは~」

 

ライスシャワーがニコニコ笑顔をそのままに返事をしたのはミホノブルボン。彼女もまた上澄の一人だ。ライスシャワーと同じ世代を走った良きライバルであり友人。

 

「……ステータス『ご機嫌』を検知。ライスさん、何か良いことでもありましたか」

 

練習に妥協をせず淡々とこなすその姿からサイボーグと称された彼女は、喋り方でさえもサイボーグのようである。

 

「え?あったっていうかこれからあるっていうか……えへへ、実はこれからミーティングなんだ」

 

何故自分の機嫌がいいことがわかったのか本気で不思議に思ったライスシャワーだが、鏡を見るべきであろう。

 

「なるほど。……では、ライスさんはこれからのミーティングが楽しみである、ということですか」

 

「ふえ?えと、そうだけどそうじゃなくて、お───」

 

と、そこまで口にして初めて冷静になったライスシャワー。あれ?自分は今、もしかしてすごく恥ずかしいことを言おうとしているのではないか、と。

そう認識した瞬間、ライスシャワーの顔から長い耳まで真っ赤にそまる。

 

「っっっ!!!あ、あのあの違うの!!そ、いや、違くないけど……!!」

 

「……?」

 

ミホノブルボンは困惑した。何が違って何が違わないのかよくわからなくなった。

 

「えと、あ、そう!ミーティング楽しみだなって思って!」

 

自分でもびっくりするくらいの早口と大きめの声が出たライスシャワー。相手がミホノブルボンでなければもっと怪しまれ追及されること請け合いであっただろう。

 

なんとか誤魔化せたライスシャワーは、途中までミホノブルボンと雑談しながら向かうことにした。

幾分か冷静になった彼女は、少しだけ表情が普段通りに戻ったのであった。

 

「では、ライスさん。また」

 

「うん、またねブルボンさん」

 

ミホノブルボンと別れ、ライスシャワーは目的地に辿りついた。ここはライスシャワーの担当トレーナーに与えられたミーティングルーム。

普段はここでレースに関する会議などをしている。

 

またもやにやけてしまいそうな顔をなるべく抑え、でも抑えられなくて、ちょっと口角が上がった状態で扉を開く。

 

「お、お疲れさまです……」

 

そっと開けると、机の書類とにらめっこしている男がいた。

 

「お、ライス!お疲れさま!」

 

顔を上げて穏やかな表情でこちらに挨拶を返してくれる男。

 

「お兄さま!」

 

にやけ顔が一気に満開の笑顔に花開いたライスシャワー。今日一番の幸せそうな笑顔である。

 

「じゃあ早速ミーティングを始めようか。たしか次のレースは───」

 

彼こそライスシャワーのトレーナーであり、ライスシャワーが「お兄さま」と慕う人物であった。

 

そう、ステータス『ご機嫌』の原因は彼である。

 

 

「そう、だから第三コーナーではちょっと溜めた方が……」

 

「うん、でもそれだとこの子が……」

 

この二人のミーティングは、基本的に相互にアイデア出し合って進めていく形式だ。

内容はレースのことなど事務的なことだが、こうやってお話しする時間がライスシャワーはたまらなく大好きだった。

 

トレーナーである彼とは、自主トレーニング中に出会った。そのときは自分の不幸に巻き込んでしまっただけの人だったが、選抜レースに出られずに落ち込んでいたところをスカウトしてもらったことで契約を結んだ。

その次の選抜レースに出られなかったときも励ましてもらって、そこから彼のことを絵本の登場人物と重ね合わせて「お兄さま」と呼ぶようになった。

それからもずっと、彼はライスシャワーのことを支えてくれた。皐月賞、日本ダービーを取ることはできなかったが、菊花賞で一着に輝くというとても名誉なことを成し遂げられた。

そのとき「三冠」に王手をかけていたミホノブルボンの、その「三冠」を阻止してしまったことによってブーイングを受けてしまい、一時はもう走ることを諦めかけた。

それでも彼は献身的にライスシャワーを支えてくれた。

 

ライスシャワーはヒールではないと。彼にとって最高のヒーローだと。ライスも咲けるんだよと、ずっと励まし、レースのサポートをしてくれた。

そうして最後にはURAファイナルズでも優勝を果たし、彼女はたくさんの祝福を受けることができたのだ。

 

三年間、ずっとずっと一緒に走り続けて、ライスシャワーは彼のことが好きになっていた。

 

そう、「好き」である。

 

最初は、ただひたすらに尊敬していた。優しくしてくれる姿が「お兄さま」みたいで、私もあんな風に誰かを照らせる人になれたらいいなとずっと思っていた。

そういう意味で好き、なハズだった。

 

でも。そうやって自分に夢を見せてくれて、叶えてくれる姿。何度も折れそうだった心を、何度も支えてくれる姿。

それらを見ている内に、いつのまにか憧れとはまた別の感情が芽生えていることに気付いたのだ。

 

私はこの人に恋をしている、と。

 

初めて自分でわかったときは、どうしたらいいかわからなかった。ライスシャワーは、恋なんてしたことがなかったのだ。

 

そうして悩み、最終的に選んだ道は───この気持ちは仕舞っておく、という結論だった。

 

理由としてはまず、いわゆる世間体的な理由だ。

ウマ娘はアイドル業のようなものであり、そういったことを好まない人ももちろんいる。それと、「ウマ娘とトレーナー」は「生徒と教師」のような関係である。それ以上の関係になるのはよろしいこととは言い難い。

しかし実際のところ、引退したウマ娘がそのトレーナーと結婚することなどはざらにあること。

だからそこはあまり問題ではない。

 

そして次が最大の理由だが───おそらく、彼には既に意中の人がいる。

推測でしかないし、実際に彼の話を聞いた訳ではないが、彼はよくヒトミミの女の人と一緒にいることが多い。

それは同期のトレーナーさんであったり、事務員の人であったり、はたまた理事長の代理であったり。

もしかしたら、ライスシャワーの知らないところで、トレセン学園の外で好きな人とお付き合いしているかもしれない。

こんな素敵な人を放っておく訳がないと、ライスシャワーは半ば確信していた。

だからもし、彼にライスシャワーより大事な人がいて、それで自分がアタックをかけてしまったら?

それは、彼を苦しめることになってしまうのではないだろうか。彼は優しい人だから。

 

そういった理由から、ライスシャワーは諦めるという結論に至ったのだ。彼を「優しい人」だと言うが、ライスシャワーも大概優しすぎるきらいがある。

 

それでも、彼のことが好きなのは本当だから、一緒の時間を共有するくらいは許されるだろうと、なるべく二人の時間を楽しむようにしているのである。

つまり、上機嫌の理由は「彼と二人で話せるから」である。かわいい。

 

「───ふう。ライス、一旦休憩しようか。お茶淹れるよ」

 

「え、そんな、ライスが淹れるよ?」

 

「いやいや、普段はライスがいっぱい動いてるんだから、こういうときくらいは、な?」

 

「そ、そっか……ありがとね、お兄さま」

 

彼は満足そうに頷くと、ティーポットの方に向かう。

こういう細かい気配りができるところもだなあ、とライスシャワーが少し頬を赤らめていると。

 

「おーい、いるかー?例の書類届けに来たんだけどー」

 

トレーナーがお茶を置いたと同時。コンコン、とノックの音とともに声がした。誰だろう、と首を傾げるライスシャワー。

 

「ああ、同僚だな。待っててくれライス、ちょっと行ってくる」

 

彼は新人トレーナーながら初担当ウマ娘にURAファイナルズを優勝させ、有能な人材として知られている。

それが原因で、彼に育成のアドバイスを求める声が同期や後輩のトレーナーの間でチラホラあるのだ。この書類というのはそれ関連の話である。

 

「おーすまん待たせた、この子だな───」

 

と、ドアを閉めて外で会話するトレーナー。ライスシャワーはやることもないので、お茶を飲みながらなんとなく耳を澄ませてその会話を聞いてみることにしてみた。

 

「───なるほどな!いやーありがてえわほんと、マジで助かる」

 

「はは、まあ困ったらまたいつでも相談してくれよ」

 

しばらく育成に関する話が続き、一区切りついたようだ。

 

「いやー羨ましいわー、こんなデキるんだしさぞかしモテモテなんでしょうなあ」

 

「からかうなって……つかねえよそんな浮ついた話」

 

いつもと少し違うワイルドな口調のトレーナーにギャップを感じていると、ライスシャワー的にも少し興味のある話題に移ったようだ。

 

「えー?でもお前、桐生院さんとか理事長秘書さんとか理事長代理さんとかと仲いいじゃん?ないの?なんか」

 

うんうんと首を縦に振りながら聞き耳を一層立てるライスシャワー。自分は今ちょっと良くないことをしているような気がして、少しの罪悪感を感じ始めていたが。

 

「ないってそんな……」

 

「えー?好きな人くらい流石にいるだろ?」

 

一気に核心に触れてくれたことに感謝するライスシャワー。先述の通り彼女はほとんど諦めているとはいえ、真偽は確かめておきたい。好きな人にこういうことを直接聞くのは、とても勇気のいることだ。

もし、万が一にここで彼にそういった話が一切ないと判断できれば、ライスシャワーにとってチャンス。

 

「いないが?」

 

「いない」、らしい。しかし、こういう話は簡単に口を割るものでもない。同僚さん、もうちょっと頑張ってくださいと心でエールを送るライスシャワー。

 

「照れんなって、美人さんばっかだろ?お前も男なんだからさ」

 

「んな訳ねえだろ……大体な」

 

と、一拍置かれる。そして、

 

「今は担当ウマ娘が一番大事な時期なんだから、誰かとそういう関係になるような暇はないんだよ」

 

お兄さま……!目をキラキラさせるライスシャワー。しかしそこで、待てよ……?と思考の海に沈む。

 

彼は今たしかに「担当ウマ娘のために女性とは関係を持たない」と言った。それは即ち、他の女性よりも担当ウマ娘の方が大事、ということである。

つまり、それって。

 

もしかして。これ、お兄さま、ライスのこと好きなのでは……!?と。

 

ライスシャワーは会話の時間による幸福感と、盗み聞きをしている背徳感で判断力を欠いていた。かかり気味である。

 

「真面目ちゃんだなあ。まあお前に限って担当ウマ娘にそういうこと考えてる訳ねえし……悪かったよ、からかって」

 

「いいよ別に、言われ慣れてる」

 

「それはそれで腹立つ言い方だが……まあ、助かったよ、ありがとな」

 

その後の会話は耳に入らず、興奮気味のライスシャワーは───燃えていた。

心を燃やしていた。

 

仮にこの「お兄さまライスのこと好き説」が間違っていたとして。それでも問題はないとライスシャワーはほくそえんでいた。

それくらいなら───自分のことを好きにさせればいいだけ。現在彼から、少なくともヒト娘に矢印が向いていないことは分かった。あそこまで詰められて誤魔化す意味はない様に思う。

誰も不幸にならず(ファンの人にはちょっとだけ申し訳ないかもしれないけど)、自分が幸せになれるのなら。少しくらい欲張ってもいいのではないか?

 

そのときのライスシャワーを見た者がもしいたなら、思わずこう呟いていただろう。

 

「鬼だ」、と。あまりの気迫に黒いオーラのようなものや、目が青い炎を纏っているように幻視してしまい、恐怖に震えただろう。

 

肉体───いや、魂は精神を超越する。

 

極限まで削ぎ落された恋心に、鬼が宿った。

 

 

「ライス、おまた、せ……?」

 

戻ってきたトレーナーは、ミーティングルームの空気が変わっていることに気付く。その源はライスシャワーである。

 

「どうした?走りたいのか?」

 

さながらあのときの天皇賞───メジロマックイーンを打ち破った春の天皇賞かのような圧迫感と集中力に、トレーナーは動揺した。

 

「あ、お兄さま、お帰りなさい」

 

と、圧迫感はそのままに今日来たときのような笑顔で迎えてくれるライスシャワー。

座っているにも関わらずライスシャワーが大きく見えるレベルで怖いのである。俺は今からどうなるんだと内心ビクビクしながら対面に座るトレーナー。

 

すると。

 

ちょこん、とライスシャワーが隣に座ってきた。

 

「じゃ、じゃあお兄さま、続きしよ?」

 

先ほどまでのオーラはなりを潜め、いつものにこやかライスに戻った。少し頬を赤らめているのが普段との違いか。

 

「うん、そうだな、じゃあこの資料から───」

 

と、仏のような笑顔で何事もなかったかのように、トレーナーはミーティングに戻った。

 

 

「じゃあライス、お疲れさま。明日はトレーニングだからね」

 

「う、うん!またね、お兄さま!」

 

手始めに積極的なスキンシップをとってみたライスシャワー。お兄さまはいつもと変わらない反応だったが、これから頑張ってみようと意気込んで退室した。

 

「ふぅー」

 

と一息つくのはミーティングルームに残ったトレーナー。

 

「はぁぁぁ……」

 

一息ついた後に更にため息を吐くトレーナー。幸せが逃げちゃうよ、なんてライスシャワーに怒られそうだが、彼にとって今はそれどころではなかった。

まるで地獄でも見てきたのかと言わんばかりの疲れっぷりで、手で顔を覆うトレーナー。

そして───

 

 

 

 

 

 

クッッッッッソかわいかったあ……

 

そう、「お兄さまライスのこと好き説」、正解である。両想いであった。

 

これは、自分の担当ウマ娘が好きになってしまったが立場上我慢し続けているトレーナーと、敬愛するお兄さまに恋人がいないことを知って黒い刺客と化したライスシャワーの、熱く激しい攻防戦である───!




ライスシャワーはかわいいのでみんなもすこれよ

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