敬愛するお兄さまに恋人がいないと知った黒い刺客はやばい 作:オティレニヌス
評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
別小説の方でも大変助かっております。
あと、人選は私の趣味です。
もう おきることのない ねむりについてしまった しらゆきひめ。
「もう あのこのえがおは みられないんだ」
こびとたちは たくさんなきました。
せめて やすらかにねむらせてあげよう と、うつくしいひつぎに いれられるしらゆきひめ。
するとそこに おうじさまが やってきました。
「ああ ひめ どうしてこんなことに ぼくは きみを あいしているよ」
そういって おうじさまは かおをちかづけて ───
「───」
ぽーっとしながら絵本を見つめるライスシャワー。ボーっと、ではなくぽーっとである。少々頬が朱色ということだ。
「ライスさん?何を読んでるんですか?」
声をかけるのは同室のウマ娘、ゼンノロブロイ。英雄に憧れる読書好きのウマ娘だ。図書委員もやっている。
絵本を描いたり読んだりすることが趣味のライスシャワーとは気が合うウマ娘。
そして、何やら上の空になってしまっているライスシャワーの様子が気になって、何の本を読んでいるのか聞いてしまうのは自然なことである。
「ふえっ!?え、えと……白雪姫……」
読みながら色々考えてしまっていたライスシャワーだが、すぐに気を取り直して絵本の表紙を見せる。
『白雪姫』。白雪姫の美しさに嫉妬した王妃が白雪姫を殺してしまうが、最終的には白雪姫と王子の愛の力でなんとかなる───というのが現在一般的に知られている白雪姫である。
ライスシャワーが読んでいたのもそれだ。
それを見たゼンノロブロイは、色々と察する。
絵本に精通しているライスシャワーが、今更白雪姫のあのシーン……そう、王子と白雪姫の愛のキスシーン程度で頬を染めるはずがない。
つまり、そこから連想して、何らかの想像───例えば、それを自分に当てはめてみたり、だとか。
「……ふふ、ライスさん」
「ち、違うの!あの、これは……その……あぅ」
ライスシャワーは隠しているつもりだが、彼女が担当トレーナーに抱いている感情の件を、同室のゼンノロブロイは知っている。
普段からふとライスシャワーの方を見てみると携帯の写真で彼の顔を眺めていたり、寝言で何か言っていたりする。
ゼンノロブロイはそんなライスシャワーのことを心の底から応援していた。
「ロ、ロブロイさん!もう寝よ?ね?」
「そうですね、そろそろ消灯時間ですから……」
と、そうやって床につきながらも悶々としているライスシャワーはとてもかわいらしいなと思うゼンノロブロイであった。
突然だが、ライスシャワーの担当トレーナーは担当ウマ娘に恋をしている。
自分のことを何かと慕ってくれて、何かと距離が近い美少女ウマ娘にオとされてしまったのだ。
中央に限らないことだが、元来トレーナーはそういった誘惑にも負けない人材のみを採用している。
厳しい試験を乗り越えて、思春期の純粋無垢な少女たちの将来を預かることができる人間のみがトレーナーの資格を与えられるのだ。
つまるところ、そんな簡単に教え子に対して恋に落ちたりしないのがトレーナーなのである。
なのに何故トレーナーがライスシャワーを好きになってしまったのか。それは簡単である。
ライスシャワーの魅力の前に、その程度の意志などは無力であったというだけだ。
とは言うものの、実際そういうトレーナーは少なくない。
そもそもウマ娘とは見目麗しく産まれてくることが決まっている存在である。
そんなウマ娘たちと極めて近い距離感で数年間過ごすとなると、精神の鎧のみでは理性を護りきることができない者がいたりするのだ。
だから仕方ないのだ、と彼は自分に言い訳をしている。要は意志が弱かっただけであるが。
さて、何故こんな話をしているかというと、今現在の彼の状況を把握してもらいやすくする為である。
彼がライスシャワーに対して恋愛感情を抱いている、それも理性が壊れる形での開花であるので、それはそれは重い想いを抱いているということを理解していただければ良い。
更に言えば、普段から「素敵なお兄さま」と誇ってもらえる人物であれるよう、脈を見せずにひた隠しにし今まで感情を抑制して過ごしてきた、ということも認識してもらいたい。
それを踏まえて現状である。
「ふぅーっ、ふぅーっ」
「……」
───明らかに掛かり気味なライスシャワーが目と鼻の先にいるのだ。
30分程前、今日のミーティングまで時間を潰そうと、ミーティングルームのソファーに仰向けになって仮眠をとっていた。
そして5分前くらいに目が覚めて、そのときには既にこの状態のライスシャワーがいた。そのまま膠着状態になり現在に至る。
目覚めた瞬間危機を察知し、そのまま寝たふりを継続している。一度も瞼を開いていないので表情までは見えないが、息がかかる程の距離にいるのでまず間違いなく近い。とても。
だが、この状況でも彼は冷静にいられた。ライスシャワーのことが大好きな彼が、こんなにも近くにその顔があるのに、である。
その理由は、彼が脳内で行っている───
(観自在菩薩般若波羅蜜多時……)
般若心経である。
中央トレセン学園トレーナーの間では、こんな噂が流れている。
『自らの鋼の意志を奮い立たせるとき、お経を唱えるトレーナーがいる』と。
彼が最初にその噂を聞いたとき、全くもって意味が分からなかった。そもそも鋼の意志とはなんだと、真に受けていなかった。
しかし、彼は気付けばこの手法をとるようになっていた。
初めてはライスシャワーと買い物に出かけたとき。
唐突に手が繋がれて、脳内が真っ白になる───直前に、彼は扉を開いた。
それから邪心が生まれる度に何度も何度も仏となった。
そうしているうちに、お経を唱えながらもクリアな頭で思考をすることができるまでになったのだ。
トレーナーってなんだよ。
さて、ライスシャワーは現在もずっと彼の寝顔に顔を向けたまま息を荒くしている。
圧が凄まじい。見ずともわかるこの気迫は、またしても鬼が宿っているのだろうなということを容易に想像させる。
そんなライスシャワー。一体何を考えているのかと言うと───
(お兄さまの寝顔お兄さまの髪の毛お兄さまのおでこお兄さまのまつげお兄さまのお鼻お兄さまの───)
想い人の寝顔を存分に堪能していた。幸せ者である。
『白雪姫』を読んだ昨夜が思い出される。白雪姫も丁度こんな風に綺麗なお顔で寝ていたな、と思い。
(お兄さまの───おく、ち)
ゴクリと生唾を飲む音。トレーナーはビックリしたが表には出さない。
───したら、起きるのかな。
正常な判断ができない彼女は、そのまま顔を近付ける。
息が更にかかる。
お経が加速する。
彼の肩に優しく触れる。
お経が加速する。
そしてそのまま、唇が───
コツ、コツ、コツ。
外から聞こえてきた足音と話し声で、ライスシャワーは正気に戻った。
そしてこれは、偶然などではない。トレーナーが既に行動を起こしていたのだ。
ライスシャワーは気付かなかったが、彼は片腕をソファーから下げ、
「ええー、でも仲いいじゃないですか~」
「仲が悪かったら私はここまで来れてないでしょ」
「ん、まあ、そう……ですね?」
「はあ……」
声が近付くにつれ、ライスシャワーはその足音の正体に気付く。彼女は、お兄さまのもう一人の担当ウマ娘。
つまり、ここに入ってくる可能性が───!?
と、一瞬で思考を回したライスシャワーは、音を立てず、しかし素早く会議用テーブルに着席し、携帯を眺める。
常習犯を疑うレベルで手慣れた動きだが、初犯である。
そしてドアが開く。
「トレーナーさん、いる?ちょっと用事があるんだけど」
そこに現れたのは鹿毛で無表情なウマ娘、アドマイヤベガ。彼女こそが彼のもう一人の担当ウマ娘であり、現状の彼にとっての救世主だ。
「あ、アヤベさん!えと、お兄さま、寝てる……よ?」
「……そうですか、ライスさん。起こしますね」
言いながら狸寝入りしているトレーナーの前に立つ。
「ほら、起きて。大人の手がいることだから」
そしてトレーナー、極限まで加速させていた般若心経をここで止める。
今の彼視点、目の前に立ち呆れた表情で自分を見るアドマイヤベガこそが本物の仏に見えた。
「ん、ああ……すまん、仮眠がちょっと長引いちゃったみたいだ」
眼を擦り、今起きましたよアピールを徹底するトレーナー。これで、あの事態を知る者はライスシャワー一人だと安心できることだろう。
「あ、ライスも来てたんだな。ごめんな、寝ちゃってて」
「う、ううん!全然!ライスこそ起こしてあげられなくてごめんね?とっても気持ちよさそうに寝てたから……」
何事もなかったかのように会話する二人を、アドマイヤベガは今にもため息が漏れ出そうな表情で見ていた。
「楽しいお喋り中申し訳ないけど早めに来て、トレーナーさん。急ぎだから」
ちなみにライスシャワーに一人の時間を作らせてあげるため、少しだけここを離れることにしている。
アドマイヤベガはその口実としても都合が良かった。
つまり、「急ぎ」とは「こんなことに付き合わせないでさっさと終わらせて」の意味である。
「あ、ああすまん。じゃあライス、後でな」
「……うん、お兄さま」
これにて一件落着。お兄さまは難を逃れることができ───
トレーナーの足が止まる。止めたくて止まった訳ではなく、後ろから服の裾をつかまれたから止まったのだ。
振り返ると、ライスシャワーがそこにいた。
「───早く、帰ってきてね?」
親指と人差し指で服をつまみながら、上目遣いでお願いしてくる美少女がそこにはいた。
その瞬間、彼の脳内でこれまでで一番の速度の般若心経が回転する。
平静を保ったまま、彼はアドマイヤベガとともに部屋を出た。
「───」
扉の前で黙りこくるトレーナー。その様子を冷めた目で見るアドマイヤベガ。そして、知らなかったけど中の会話を聞いてある程度察した付き添いの妹系ウマ娘、カレンチャンが面白そうに見つめる。
「はあああああ……」
緊張の糸が解け、力を抜くトレーナー。そして───
「それは反則だろうがよ……」
危うくマジで仏になるところだったトレーナーであった。
ロブロイさんは資料が少なすぎてこれ以上はあんまり出す予定がないです。(そもそもこの後の予定もない)
それと、人選は趣味ですと申し上げましたが、割とアヤベさんが丸いんです。
というのも、私がここに置きたいウマ娘として「恋愛関係に発展しなくても違和感がない」子が欲しかったんです。そこで浮かび上がってくる候補の中から、私が書くことのできる育成経験がある子を選んだときにアヤベさんになりました。
ということでよろしくお願いします。
どちらが読みやすいですか?
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会話一行開け
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会話詰め詰め