敬愛するお兄さまに恋人がいないと知った黒い刺客はやばい   作:オティレニヌス

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タウラス杯プラチナ頂きました。ありがとうチアネイチャ。



あいあいジュースと壁ダァン

喧噪。それぞれがそれぞれの世間話をして、まるで一つの楽曲のように鳴り響く。

 

音色の一つ一つに人生があって、思いがあって。それは注文した食べ物が美味しかったことかもしれないし、勉強の話かもしれない。

面白かった映画の感想かもしれないし、職場の愚痴かもしれない。

 

はたまた───

 

「ね、お兄さま。ライス、これ飲んでみたい」

 

「お、どれどれ───カップル、限定?」

 

───将来と恋心を懸けた攻防戦かもしれない。

 

 

(さて、どうするか)

 

ここは喫茶店である。トレーニングの息抜きに来たライスシャワーとトレーナーは、現在メニューを選んでいるところだ。

 

そこでライスシャワーが指したのが、カップル限定!とデカデカと書かれたジュースだった。見た目もまさにカップルのもの。

具体的にはストローが二本刺さってるやつである。

 

(色々難しい盤面、と言わざるを得ないな)

 

ここでトレーナーが取れる選択肢はいくつかある。

 

まず、素直に一緒に注文するというもの。

これはあんまり良くない。ライスシャワーはあくまでも生徒。二人きりでお出かけしているだけでも絵面がちょっとアレなのに、カップルジュースなんてした日にはトレセンの者に連行される恐れがある。

あとトレーナーの身が持たない。色々と。

 

次に注文しないルート。

正直こうしたい。各々で適当に頼んでゆっくり過ごしたい。だが───

 

(ライスのもの欲しそうな目……!そんなに飲みたいんだな)

 

ライスシャワーは飲食が好きだということをトレーナーは知っていた。ライスは普段頑張ってるし、食べたいもの飲みたいものを摂取させてあげたい。

だからできれば注文してあげたいが……

 

ちなみに、もちろんだがライスシャワーの脳内を占めるのは食欲などではない。

 

(お、お兄さまとこれを一緒に……お、お顔が近くなったりして……!)

 

見た目は真っ黒頭脳はピンクその名もライスシャワーである。今日も今日とてお兄さまへとアタックだ。

 

さて、常にディフェンス側であることに定評のあるお兄さまはここで周囲を見渡してみる。すると、

 

「美味しいですわ……来てよかった」

 

「ふふ、そうですね」

 

そう、ウマ娘同士───つまり女の子同士で例のカップルジュースを飲んでいるのだ。それはつまり……

 

「なあライス、それはまた友達と来た時にしないか?ほら、わざわざ俺と飲まなくてもさ」

 

ということである。これが今トレーナーである彼が取れる最善手であることは客観的に見て間違いない。

こうすることで今回はライスシャワーに我慢してもらう形になるがまたいつか飲めるというもの。体裁は守られ、防衛成功である。

 

ただまあ、それはライスシャワーが本当に飲みたいだけであった場合の話である。

 

それを聞いたライスシャワーは、笑顔が少し曇った。

 

「……うん、そっか。ごめんねお兄さま、ライスとなんて嫌だよね」

 

困ったように微笑む担当ウマ娘の顔を見た瞬間、トレーナーの思考は停止した。

 

パアアアアアアアアン!!!

 

お兄さまが愛バを曇らせたクソ野郎(トレーナー)の頬を全力で張り手したときの音である。ライスシャワーのみならず周りの客もビックリ。

 

「いやいや全然嫌なんてそんなことありえないようんうん俺も丁度飲みたかったしもしライスが嫌だったらなと思っただけだから全然全然飲もうな飲もう」

 

「ほんと……!?えへへ、やった……!」

 

こうして二人は仲睦まじくカップルジュースを飲むことになった。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「ありがとうございます」

 

問題のジュースのご到着だ。うん、カップル。それはもう清々しい程までに愛し合う二人がイチャイチャと飲料を吸い合うカップルジュースである。グラスは一つなのにストローが二本もそびえたっていらっしゃる。

ストローの交差点では愛のドライブ───通称ハートマークが展開されているタイプのアレである。

 

さて、勢いに任せて頼んでしまったトレーナーだがここにきて少し冷静になってしまった。待機時間が意外と長かったのである。

 

(いや、これやっぱダメだよな……頼んじゃったもんはしょうがないとはいえ)

 

対面には目をキラキラさせてジュースを見つめるライスシャワー。その表情の眩しいこと。

 

「うん、美味しそうじゃないか。ライスが先に飲んでみていいよ」

 

ご丁寧にラブを象徴しているダブルストローだが、別に二人で飲まなくちゃいけない決まりなんてない。そもそもライスはこれが飲みたいだけ(トレーナー談)なんだから、俺が飲むとしても交代制にすればいいのでは?とトレーナーは考えた。

 

そうするとライスシャワーはまたも残念そうに俯く。そんなにあいあいジュースやってみたいのか……?と見当違いに折れかけたトレーナーだが、こればっかりはダメと譲らない。

 

「ん……わかった、ありがとお兄さま」

 

そうしてライスシャワーはツインラブラブストローの片方を持って限定ジュースを飲み始める。

 

(美味しそうに飲むなあ)

 

ライスシャワーは大食いに分類されるウマ娘である。前述の通り食べたり飲んだりすることが大好きなので、それをしているときのライスシャワーは極めて幸せそうなのである。

この様子を人に見せるだけでライスシャワーの夢である「みんなに幸せを届けるウマ娘」になれそうなものだ。

 

「ん~~~っ、お兄さま、これとっても美味しいよ!」

 

「はは、良かった。限定ってだけはあるみたいだな」

 

「ふふふ、うん!ね、お兄さまも飲んでみて!」

 

といってずずずとグラスを動かすライスシャワー。

 

「おお、じゃあ遠慮なく」

 

そうしてライスシャワーが使わなかった方のストローに口を付けて───

 

 

ちゅ、ともう一つのストローが動く。

 

ライスシャワーが身を乗り出し、片割れに口を付けた。

 

つまり現状───ストローが紡ぐハートを挟んで、二人が同時にジュースを飲んでいるのだ。

 

「ね、お兄さま。こうしたら、ないしょのお話ししてるように見えるから大丈夫、だよね?」

 

「───……」

 

ライスシャワーは、二人の顔と顔の間を横から見えないように手で塞いでいた。使っているのは片手のみなので、店の外から普通に見えてるとか、見えないことによって更によくない構図にすらなってるとか。

そういう細かいことを考える余裕もない。

 

もはやトレーナーには、ジュースの味すらわからなくなっていた。

 

 

 


 

 

 

「そっからも拷問だったよ……飲んでる最中目が合う度に笑いかけてくれるもんだからさ、衝撃でジュースを吹き出さないように必死だったよ」

 

「そう……」

 

相槌を打つアドマイヤベガは一切男に視線を寄越さない。家具のカタログを見つめたままだ。

 

ここはいつも通りのミーティングルーム。中にいるのはトレーナーとアドマイヤベガの二人だけ。

 

トレーナーも人間だ。一人でこの気持ちを抱えて抑えながら生きていくのは至難の業。ある日一人でブツブツ言っていたところをアドマイヤベガに聞かれ、その日からアドマイヤベガが愚痴───という名のノロ気を聞いてくれるようになったのだ。

 

「いつも悪いなアヤベ、付き合わせちゃって」

 

「別に、私があなたの独り言を勝手に聞いているだけ」

 

「はは……」

 

アドマイヤベガにとってこの男は勝手についてきて───勝手に支えてくる存在。

この行いはどれだけ突き放してもついてきたこの男に対しての、ちょっとした歩み寄りのようなものだ。

 

正直ちょっと気持ち悪くてウザいからこの役回りを引き受けてあげたことを後悔していたりしていなかったりするが。

 

「というかあなた、ずっと真顔で声のトーンも変わらずにその話しするから怖いのだけれど」

 

「あー、思い出すだけで尊みが溢れて精神がおかしくなるから脳内で写経してるんだよな」

 

「……とっくにどうかしてると思うわよ」

 

ドン引きアヤベさん。ライスシャワーや某妹系ウマ娘の担当をする上ではこのくらいではないと務まらないのだ、多分。

 

「いい加減告白でもしたらいいんじゃないの。そうしたらそうやってウジウジと苦しむこともなくなると思うけど」

 

「おまっ、それはお前……想像してみろよ、俺がライスに告白したとこ」

 

 

 

『ライス、俺は君のことが好きだ!付き合ってほしい!』

 

『えっ……お兄さま、ライスのことそういう目で見てたの?』

 

『ライス、お兄さまのこと好きだけどそれは尊敬してるから……ううん、してたからっていうか……』

 

『ごめんね、えっと……トレーナーさん

 

 

 

ゴガアアアアアン!!と机に頭をぶつけるトレーナー。

 

「俺そんなこと言われちゃったら死ぬんだけど……」

 

「自分で想像しておいて……」

 

はあ、とため息を吐くアドマイヤベガ。

 

ちなみに、アドマイヤベガがこの男のことをどう思っているかというと

 

信頼できる人だけど気持ち悪い

 

である。こういう話を何回か聞かされたアドマイヤベガは、それまでに欠片程度はあったこの男への好意的な何かの芽を全てもふもふの彼方へ葬り去った。

別に嫌いではないし丁度良い距離感で接してくれる(この気持ち悪いトーク以外)からトレーナーとしてありがたい存在だが、そういう目でだけは絶対に見れないのである。

 

というかこの鈍感さが腹立つのだ。

 

この男、上記の妄想からわかるようにライスシャワーから向けられる行為を親愛の情だと思っているのである。

家族的な存在に対してあんな顔真っ赤にしながら照れるわけないだろう普通、とアドマイヤベガはイライラしている。

 

このノロ気がさっさと終わって欲しいというのが大きいところだが、同じトレーナーの指導の下にある仲間としてライスシャワーの想いが実って欲しいと思っているアドマイヤベガ。

 

「ねえ、トレーナーさん───」

 

少し手を回してみるというのも良いな、と行動を起こしてみるのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「お兄さま、こんにちは!」

 

「お、おう」

 

翌日。いつも通りいつものミーティングルームで集合した二人。今日もライスシャワーはニコニコである。

今日はどうやってお兄さまにアピールしようかな、と考えているのだ。

 

と、ライスシャワーが着席する直前だった。

 

ダアン!とトレーナーがライスの肩越しに壁を叩いた。そして自分の限界にならない範囲で顔を近づける。いわゆる壁ドンである。

 

さて、なぜ唐突にこんな奇行に走ったかと言うと、前日のアドマイヤベガとの会話に戻る。

 

 

 

~~~

 

「良い?トレーナーさん。あなたもずっとそのままで良いとは思っていないでしょ?せめてライスさんから脈があるかどうかくらいの確認はしておくべきだと思うわ」

 

「えー……そんなんなんか……女子っぽくて気持ち悪くない?」

 

「今の自分がどれほど気持ち悪いか理解できていないならこの話はなかったことにするわ」

 

「わーごめんごめん!頼むアヤベ、どうにかして助けてくれ!」

 

「はあ……それで、確認する方法だけど……距離感が大事」

 

「距離感?」

 

「ええ、物理的な意味での。好きな異性と距離が近付いたらドキドキして顔にも出るものだし、そうじゃない人なら何もないハズ」

 

「なるほど……?でも、どうやって?」

 

「え。……、壁ドン、とか」

 

「あー、あの恋愛漫画とかでよく見ると噂の……俺は見たことないけど」

 

「まあなんでもいいのよ。とにかく距離を詰めて反応を見てみなさい、それでまず脈を測りましょう」

 

「うーん……わかった、やってみるよ」

 

~~~

 

 

 

なお、アドマイヤベガの知識の全ては彼女のルームメイト(恋愛つよつよウマ娘)が源である。

あと、こういう会話があったにしても雑過ぎである。青春の全てをウマ娘に関する勉強に捧げた恋愛Gランクは格が違う。

 

「す、すまんライス!虫、虫がいたもんだから!」

 

もちろん嘘である。嘘も雑である。どんなデカい虫がいたらあんな勢いで叩くのだ。というか虫潰したらどけよ。

 

さて、これに対しライスシャワー。先ほどから全くの反応を示さない。それを見たトレーナーは段々頭が冷えてくる。

 

あれ、これもしかして引かれてるのか?嫌われちゃうのか?俺死んじゃうのか?

 

「き」

 

「き?」

 

やっと口を動かしたライスシャワー。そして───

 

きゅう~~~~

 

バタン。ライスシャワーは気絶してしまった!攻めに回られることに慣れていなかったのである。予期しない形でお兄さまの顔が急接近してきたのでビックリしちゃったのだ。

 

「ちょ、ライス!?ライス!?えこれどっちなの!?アリなの!?ナシなの!?助けてアヤベ~~!!」

 

なお、気まずかったのでライスシャワーが目覚めた後は何事もなかったかのように業務に戻ったという。




ブライダルイベント、配布ライス可愛すぎて泣いちゃった……シナリオ読んだあとネタと時間があればここにもそれ関連で何か投稿したいですね。

お気に入り、評価ありがとうございます!皆さんもライスをたくさん愛でましょうね

このシリーズ、投稿したあと絶対「シャワー」って書き足す修正作業始まるんですよね…いつもライスって呼ぶし書いてるから慣れないのです

どちらが読みやすいですか?

  • 会話一行開け
  • 会話詰め詰め
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