敬愛するお兄さまに恋人がいないと知った黒い刺客はやばい 作:オティレニヌス
急ぎで考えて急ぎで書いたので短めです!
「お兄さまっ」
「おっ、ライス。主役がこんなとこにいていいのか?」
「う、うん。ゴールドシップさんが盛り上げてくれてるみたいだから」
ライスが視線を向けた先には、色とりどりのお米を鼠小僧さんみたいにばら撒くゴールドシップさんの姿があった。
釣られるように振り返ったお兄さまは、「あー…」と苦笑していた。
「…やっぱり呼びすぎだったか?ライスは静かな方が良かった?」
「ううん!とってもとっても楽しいよ!お誕生日会、本当にありがとね、お兄さま!」
今日はライスの誕生日だった。カフェさんとマーチャンさんも同じ誕生日だったので、この際3人同時に開催しちゃおうとお兄さまたちトレーナーさん方や、知り合いの間で決まったみたいで。
結果的に食堂丸々貸し切りでパーティ、なんてすごく規模の大きい集まりになった。ライスがこんないっぱい祝われちゃってもいいのかな、なんて戸惑いもちょっとだけあったけど、それよりも嬉しさの方が大きかった。
たくさんの人に祝福してもらえて、ライスは幸せものだった。
「そっか、それなら良かった。じゃあなんでこんなとこに?」
「もう、それはお兄さまもだよ?お月様でも見たくなったの?」
そんなパーティの途中のこと。ライスはふとお兄さまを探して、食堂の外に辿り着いたのだ。
お兄さまは空を見上げて、物思いに耽っているみたいだった。
「…まあ、そうなるのかな?黄昏れたくなるときもあるっていうかさ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
ほんの少しだけ天使が通る。気まずいとかそういうのじゃなかったけど、なんとなく喋る必要がないように思った。
ライスも空を見上げてみると、今日のお月様は満月…なような、そうじゃないような。端っこがちょっと欠けてる気がするくらいの、つまり明るいお月様だった。
「何考えてたか、聞いても良い?」
「ん、そうだな。まあ、感慨に浸ってたっていうかさ。色々思い出してた」
「色々?」
2人でお月様を眺めながら、浮かんでいた疑問を口に出す。お月様と喋ってるみたいで少しおかしくて、頬が勝手に緩む。
「そう、色々。今まで──そうだな、特にライスとの3年間のこと」
「…」
「あったよなあ、色々。ミホノブルボンに中々勝てなくて、やっと勝ったと思ったらアレで──っと、ごめん、ライスは思い出したくないよな」
「ううん、そんなことないよ。もちろん辛くて苦しかったけど、お兄さまがいてくれたから頑張れたもん。今はもう思い出だよ」
「そっか。──で、まあそっからずっと走り続けて、春の天皇賞も2連覇。宝塚も勝って、有馬も勝って、ファイナルズも勝って──今は、これだもんな」
と、笑いながらまた食堂を振り返るお兄さま。ライスも一緒に振り返れば、ゴールドシップさんがマックイーンさんに黒いお米を投げつけているところだった。
こぼれ落ちたカラフルなお米を観察するタキオンさんが、興奮した様子でカフェさんに話しかけていた。
カフェさんは見向きもせず、隣に座るロブロイさんと談笑していた。
その後ろではオペラオーさんとドトウさんが何やら大げさに手を動かしていて、アヤベさんが呆れた目で嘆息して、隣でトップロードさんが困ったように頬を掻いていた。
ゴールドシップさんの方に目を戻してみると、マックイーンさんがゴールドシップさんに関節技をキメ…だ、大丈夫かなあれ。それを見ながらテイオーさんが手を叩いて笑っていて、スペシャルウィークさんが散らばったお米を見てよだれをたらして、スズカさんがそれを拭いていた。
ウオッカさんとスカーレットさんはマーチャンさんに翻弄されているみたい。スピカのみんなもいつも通り楽しそうだった。マーチャンさんはスピカじゃないけど。
他にもたくさん。みんな──ライスを祝ってくれていた。もちろん、今日はライスだけの誕生日会じゃないから、カフェさんとマーチャンさんも一緒に。とにかく、みんながライスに祝福をくれた。
「こうやってたくさん人が集まったのを見るとさ、そりゃ一人抜け出して月眺めたくなっちゃわないか?」
「──そう、だね」
さっきお兄さまが言葉を詰まらせた、思い出したくないこと。今ではライスの──ライスとお兄さまの思い出になったこと。
努力の果てにライスが貰ったのは、祝福ではなくその反対とも言えるものだった。
あのときはもう、何もかもが嫌になってしまっていた。走ることが怖かった。ブルボンさんやスピカのみんなが元気付けようとしてくれたけど、それでも恐怖が勝った。
怖かったのは、お兄さまにも
でも、一番嫌だったのは、お兄さまがライスから離れてしまうことを恐れてしまう自分自身だった。お兄さま自身のことを考えれば、ライスには関わらない方がいいのに、ライスは離れて欲しくないと思ってしまっていた。
そんなライスの気持ちとは関係なく、お兄さまはずっとそばにいてくれた。なんでって聞いたこともあった。なんで、お兄さまはずっとライスを支えてくれるのか。
『好き、だからさ。──ライスの走りが』
好き、と聞いたときにドキッとしてしまった。その胸の高鳴りで、ライスは自分の気持ちに気付いたんだけど…今は関係ないよね。えへへ。
そうやって、お兄さまはずっと祝福をくれた。それからブルボンさんやスピカのみんな、ロブロイさんやその頃から新しくお兄さまの担当ウマ娘として一緒にいることが多くなったアヤベさん。色んな人がライスを応援してくれていることに気付いて、ライスに向けられるのは悪いものばっかりじゃないことを知って。そんな小さな祈りたちを束ねて、頑張って頑張り続けて、ついにたくさんの祝福をもらえた。『幸せの青い薔薇』になれた──かどうかはまだわからないけど、間違いなく近づけた。そんな3年間だった。
食堂の中で広がっている楽しそうな光景は、そんな祝福が実感できるものだった。ずっと一緒に頑張ってきたお兄さまも、きっと同じ気持ちで、感傷に浸りたくなったのかな。
「まあ、そういうわけで…ライスがここに来た理由も聞きたいな」
「ふえ?そ、それは…」
そもそもお兄さまを探していたのは、なんとなくお兄さまと喋りたくなったからで、でもそれを言うのは恥ずかしいような気がして──
「お兄さまと、お喋りしたくなったから、だよ?」
「──そっか、そりゃ嬉しいな」
むう。頑張って言ってみたのに、やっぱりお兄さまは無反応。ちょっとくらい動揺してくれてもいいと思うな。
思えば、お兄さまにアタックしようと決めたあの日から、やっぱり攻めが弱い気がする。お兄さまは結局、ライスのことを妹みたいにしか思ってくれていないんだ。
…もしかして、お兄さまって呼び方がダメ?いやでも、これだけは譲りたくない。お兄さまはお兄さまだもん。
うん、やっぱりもうちょっと頑張ってみよう。いつまでもこの感じだったら引退まで間に合わないかもしれない。まだ引退する気はないけど。アヤベさんも応援してくれてるし、あと多分ロブロイさんにもバレてるし──もっと踏み込んでみるしかない。
「ねえ、お兄さま」
「ん?どうしたライス」
またお月様に視線を戻しながら話しかける。
うーっ、いざ言うとなるとこれ結構恥ずかしいよう…がんばれーライス、がんばれー!おーっ!
「──月が、綺麗ですね」
出典がはっきりしていないから、ただの噂、都市伝説でしかないと最近は見られているアレ。でも、大事なのはそういうことじゃない。
この言葉に、そういう意味が込められているっていう風潮が大事なんだ──!
「そうだなー、やっぱ星とかって手が届かないところにある分特別に見えるよなあ」
「ピエ」
「えっちょライス!?なん、なんで泣い、待って!?なに!?えっと、えーっ…アヤベさーん!!どうしたらいいのー!?」
さっきまでオペラオーさんに向けられていたアヤベさんのジトっとした目を、正面から見ることになったのは言うまでもないことだった。
書いてるうちに最終回でやりたい感じのことを消化してしまった気がするけどヨシ!
オチがパターン化してる気もするけどヨシ!
本編は現在執筆中ですので、気長にお待ちいただけるとありがたいです。
ちょっとネタバレをするとライスが泣きます。お前担当泣かすのやめろや。
Twitter絡んでくれたら嬉しいです!承認欲求モンスターが暴れています!
マシュマロにリクエスト送って頂ければ本編終了後にでも書かせて頂ければなと。
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マシュマロ→https://marshmallow-qa.com/i_am_oniisama?utm_medium=url_text&utm_source=promotion
ライスシャワーに、あらん限りの祝福を。
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