シルヴァーハートと魂の咆哮 ~Heart's Cry~   作:軽石らいと

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XX年、有馬記念。
そのウマ娘は、誰も見たことのない『衝撃』の先を見た。
「私達は英雄になれる。1日だけでも。」
全てを超えた『奇跡』にかなうその末脚は、世界への道を開いた。そのウマ娘の名は…


第1R Go This Way

「なあなあ、スゲー実力のウマ娘、転入してくるらしいってよ!」

 

昼休み中のカフェテリア、ゴールドシップは座って食事を取っている親友を見つけると、彼女の肩に手を置いてそう言った。

鹿毛の親友はその言葉を聞き終える前に理解したらしく、特にこれといった説明も無しに「その子の事なら耳に入ってますよ、シップ。」と答えた。

 

「もう知ってるのかよ!スゲーな。じゃあドンナ子なんだ?その転入生っていうのは」

「雑誌の記事とかは無かったんですか?」

「いやー、アタシはさっき掲示板のポスターで見ただけでさ……ショップの雑誌も売り切れてるし、ポスターの前も人だかりが凄くってな。遠目にこんな奴が来るとしか分からなくってよ……」

 

そう言うとゴールドシップは相手の了承を得ずに向かいの席に座り、さも早く教えてくれよと言わんばかりに視線を送っている。

それに応えて彼女は、おもむろにメモ帳を取り出した。

 

「私も詳しくは知らないですが、転入生は通称『貴婦人』。転入前の学校で凄まじい潜在能力を見抜かれトレセンに抜擢されたようです。残念ながら葦毛では無いですが……」

 

綺麗にまとめられたメモ帳をめくりながら、ライバル候補になるであろう生徒のデータを淡々と説明している友。それをゴールドシップは半分聞き流しながらうなずいていた。聞いた事もないその「単語」を聞くまでは。

 

「――それで、彼女は佐泰別学園出身だそうですよ。」

「おいちょっと待て。その『佐泰別学園』っての、どっかで聞いた事がある気がする。」

 

トレセンには日本中の優駿達が集まる学校。当然出身校なんてバラバラだし、例え知り合い相手でも気に留めない物である。

しかしその学園の名にはどこか、ずっと昔から聞いたような感じを覚えた。

懐かしいともいえるこの記憶は何だろうかと回想に浸るゴールドシップであったが、友の「この前授業で習いましたよ?」という言葉で全て吹き飛んだ。

 

「佐泰別学園は北海道にある私立校。初等部けら大学部まである名門ですよ。トレーナー養成にも力を入れていて、トレセンを卒業した先輩の主な進学先になっているくらいです。」

 

そして彼女はポスターを指差した。

『めざせ、世界のNo.1』とキャッチコピーが躍るそのポスターには、躍動感あふれる1人の生徒の写真と、佐泰別学園のロゴが入っている。

 

「優駿ばかりが集まるそんな学校の中でも、トレセンへ編入出来る人は一握り。私の先輩のように編入生同士で対決なんて事も多くあります。」

「……えぇっと、つまりそいつらは絶対王者ってことか!?」

「いえ、彼女達はただのウマ娘です。それ以上でもそれ以下でもありません。」

 

親友の言葉に目を輝かせるゴールドシップだが、すぐに否定される。

 

「確かにトレセンにスカウトされるような才能を持つウマ娘達は生まれつき強い素質を持っています。しかし彼女達が特別なのはそういった所ではなく、単に"運が良いだけ"だと私は思ってます。」

 

そう言って彼女は少し間を開けてから話を続けた。

 

「そもそもウマ娘の走る適性というのは、生まれた時に決まる物ではないんですよ。例えば芦毛のクロフネ先輩の場合、元々芝のコースに強いとされてきましたが、後になってダートの方がもっと強いという事が分かったそうですし。」

「……えっ?何の話だ??」

「要するに、血統による絶対的なものなど無いという話です。努力次第で強くなれるという事ですね。」

「なるほど!だからお前もトレーニング頑張ってるんだもんな!!」

 

そう言いつつ、ゴールドシップは目の前の少女に尊敬の眼差しを向けた。

 

「私は『あの人』に比べれば普通ですよ。それにしても、シップが佐泰別学園を知らないとは意外でしたね……。」

「あぁいや、アタシはその……勉強とか苦手でさ、そういうの全然知らなくてよ……。」

「大丈夫ですよ。これから覚えていけばいいんですから。」

 

そう言われて、ゴールドシップは自分の胸が熱くなるのを感じた。

自分の事をちゃんと見てくれている。それが嬉しかったのだ。

 

「ところで、シップはどういったタイプの子が好みなんですか?」

「そりゃもちろん、マックイーンみたいな子だよ!」

「ああいうタイプが好きなんですね。私もです。でも『好き』の強さであれば、『あの人』にはかなわないでしょう…」

「あのさ、さっきから気になってたんだけどよ、お前の言う『あの人』って誰なんだ?」

「私の尊敬する人です。今は学園を卒業し、トレーナーになるため大学で勉強しているそうです。」

「ふーん、どんな人なんだ?」

「私より一つ上の人で、とても優しい人です。私に色々と教えてくれたりして……」

 

そう語る彼女の顔はとても穏やかで、親友の目から見ても幸せそうな表情をしていた。

 

「すげー良い人じゃん!!今度会わせてくれよ!」

「はい、いつか機会があれば紹介しますね。」

 

その時、カフェテリアの入り口の方から大きな声が聞こえてきた。

 

「あっいた!ゴルシ!!」

「おぉ、テイオーか。どうした?」

 

声の主はトウカイテイオー。ゴールドシップと同じチームメンバーである。

 

「ボク今日自主練の日だったよね?一緒に走ろうと思って探してたんだよ!」

「おう、悪いな。じゃあちょっと行ってくるわ。また放課後な。」

「はい。行ってらっしゃい、シップ。」

 

会話を途中で切り上げ、彼女は席を立った。

そして去り際に「その人も、きっとお前のこと大好きだと思うぜ。」と言って去って行った。

 

ゴールドシップを見送った後、親友の子は黙ってメモ帳を開き、何かを書き始めた。

 

「私も、負けませんから……」

 

そしてそう呟くと、彼女はペンを走らせる手を止め、メモ帳の見返しに挟んだ写真を眺めた。

一枚の中では勝負服に身を包んだ長身のウマ娘が、幼い頃の彼女と共にピースサインを作っている。

その人物の名は「ハーツクライ」。才能に恵まれた名バが鍔迫り合う世代の中で自身の名を刻むまでには、前途多難の道のりがあった。

これは早熟の天才達が集う世代の中でデビューした少女が、日本で唯一奇跡との競り合いに勝利するまでの物語である。

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