純黒なる殲滅龍の戦記物語   作:キャラメル太郎

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第60話  次へ

 

 

 

 

 

「「「──────読み終わった……」」」

 

「いやはや、まさか本当に全部読むとはなぁ……」

 

 

 

 王都を治める国王からの直々の依頼もあって岩壁を修復してから2週間が経った。この間は冒険者としての依頼も受けず、ひたすら読書に励んだ。王立図書館は非常に大きな図書館なので、一般市民も好きに読む事が出来る普通の図書館よりも本の数は圧倒的に多い。

 

 一般的な図書館の総図書数は20万冊と言われているが、王立図書館は300万冊はあった。一日に数千冊から数万冊へと読む速度を更に上げて、本当にひたすら読み続けた。児童向けの本もあったが、それを読んでいる時の3匹の龍はシュールで、思わずオリヴィアは笑った。

 

 一冊を数秒で読み切るリュウデリア達でも2週間掛けて読んだ。オリヴィアとしては、途中で飽きてやめると思ったのだが、そうでもなくて、結局全部読んでしまった。しかも全部憶えているという。恐ろしい記憶力と速読だと、素直に感嘆とする。

 

 今は読み疲れたのか、設置してあるソファに腰掛けて背中を背もたれに預け、干された布団のようにベッタリとしていた。読むのが早くて記憶力が良くても、この量を読んで疲れないわけがないリュウデリア達に、お疲れ様と声を掛ければ、力無く手を上げて返事した。

 

 

 

「俺は図書館の本を一度読破しているから慣れているが、初回でこの王立図書館の本を全て読むとは……お前達はよく続いたな」

 

「ここまできたら意地だろ。投げ出したら本に負けた気がしてゼッテー読み切ってやるって逆に燃えたわ」

 

「……投げ出すのは……簡単だが……投げ出したくは……なかった」

 

「なるほどな。それにしても……ッふぅ……疲れたな。脳が」

 

「同じく」

 

「……同意する」

 

「そんなに脱力していると溶けてしまうぞ。スライムみたいに」

 

「それは……嫌だな」

 

 

 

 気合いを入れて読んでいた反動でだらけまくってべたぁとしているリュウデリア達に声を掛ければ、のそのそとソファから立ち上がり、うんと目一杯背伸びをして伸びをした。首を曲げたり腕を回したり腰を逸らしたり、固まった体を存分に解した。

 

 2週間経った今、王都でやることは無くなった。目当ての観光も存分にすることが出来たし、冒険者の依頼もそれなりに達成して資金集めも十分な程した。岩壁を修復した報酬も合わせればじゅうぶん過ぎるものだった。

 

 

 

「つーか、おいリュウデリア」

 

「……?何だ」

 

「湖貝の納品依頼の時、お前めちゃくちゃ獲ってたのに魔力だけ使って魔法は使ってないって言ったよな?あれの正体、反響定位だろ」

 

「……私も……それを聞こうと……思っていた」

 

「あれか。やはり気づいたか。まあ、俺も本を読んで知ったから魔力で出来るか試したところ、上手くいったから使っていただけだがな」

 

「……?何だ?その反響……なんたらというのは」

 

「反響定位だ。これはな──────」

 

 

 

 反響定位(はんきょうていい)。またの名もエコーロケーションと言われているものだ。これは動物が音や超音波を発し、その反響によって物体の距離、大きさ、方向、などを知ることだ。例えば、コウモリ、イルカ、マッコウクジラなどが行っており、これを使えば目が見えなくても大体の物の大きさや、障害物の有無が把握できるようになる。

 

 リュウデリアはそれを本を読むことで知識として得て、魔力でやってみるのはどうだろうかと考えた。そして魔力を超微小な超音波状に自身を中心として飛ばし、地面の凹凸から魚の位置、形、泳いでいる速度を把握していた。

 

 だがこれだけではない。本来の反響定位は超音波を飛ばすので、当たった物の外側だけを捉える事が出来るが、魔力は超音波よりも万能なので通り抜けさせる事が出来る。膨大な魔力だと弾き飛ばしたり破壊をしてしまうので、超微小なものとし、物体を貫通させて中身すらも調べる。だから貝の中にある真珠の有無さえ把握していたのだ。

 

 反響定位の説明を受けたオリヴィアは、それなら確かに砂に紛れて隠れている貝の場所が手に取るように解るし、大きな真珠を持っている奴だけを狙うことも出来ると理解した。本はやはり役に立つんだなと納得しているオリヴィアに、体のサイズを落としたリュウデリア達が使い魔ポジションに入る。王立図書館を出るのだ。

 

 フードを深く被って準備を整えると、王立図書館の外へと出た。入口に立っている見張りの兵士2人が敬礼をしているので、その間を通って通りに出る。今の時刻は10時頃。住民は既に起きて散歩やランニング、買い物をしている。その中に紛れて歩いていると、見覚えのある女性を見つけた。

 

 

 

「メルゥではないか。買い物か?」

 

「これはオリヴィア様。2週間振りでございます。実はマルロ様がフルーツを食べたいと仰られたので買いに来ました。間が悪く切らしておりましたので」

 

「あぁ、そういうことか」

 

 

 

 居たのはメイド服を着たマルロの屋敷で働き、十数人のメイド服を束ねるメイド長、メルゥだった。私服の中に1人だけメイド服だと目立つのですぐに見つけた。見たのに素通りするのもなと思い、近付いて声を掛けると、美しい所作でお辞儀をした。改めて洗練された美しさだなと感心する。

 

 メルゥは貯蔵されている食べ物の中にフルーツが無いのに気がついて、フルーツが食べたいというマルロの為にこうして買い物に来ている。腕には藁で編まれたカゴが下がっていて、中にはリンゴやオレンジなどが入っていた。

 

 最近は王立図書館に居たのでメルゥの言う通り、2週間振りである。ここ最近来なかったが、どうしていたのかと聞かれて、魔物大群を最も斃した者に特別報酬が与えられたので、王立図書館の利用許可を貰い、籠もっていたと答えた。そんなすごい事をしたのかと、少しだけ瞠目しながら流石はオリヴィア様ですねと、純粋に称賛するメルゥだった。

 

 

 

「ところでメルゥ。このあと私は冒険者ギルドに寄って王都を出るつもりだ」

 

「そうだったのですね。行き先はお決まりで?」

 

「特に此処だ……とは決めていないが、国境は越えようかと思っている」

 

「それでしたら、マルロ様の領地へ寄られたら如何でしょう。国境の近くにありますので通り道ですし、オリヴィア様には是非来てほしいと仰られておりました。マルロ様とお嬢様は3日後に戻るとのことだったので、歩いて向かっていれば丁度会うと思います」

 

「そうか。では途中で寄らせてもらおうか。細かい方角は分かるか?」

 

「北北西に向かっていれば、人が通って出来た道もありますので自ずと見えてくるでしょう」

 

「分かった。ありがとう。では、達者でな。縁があればまた会おう」

 

「はい。どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ。そして、また会える事を心待ちにしておりますオリヴィア様。使い魔の皆様」

 

 

 

 別れの時となったので、メルゥに挨拶をしておくと、メルゥも美しい所作でお辞儀をして見送ってくれた。そんなに長い間お世話になったわけではないが、とても有能なメイドだった。マルロからの信頼も厚く、何かを頼む際はまずメルゥにというくらいだった。

 

 メイド長をしていて忙しいだろうに、客であるオリヴィア達にも進んで何か用は無いか聞いてくれる。頼めば即実行する。見ていて清々しいほどの働きっぷりだった。そんなメルゥに背を向けて冒険者ギルドを目指す。メルゥは大通りであるのに、頭を下げて見送ってくれたのだった。

 

 人で賑わっている大通りを歩いて数十分経つと、見慣れた冒険者ギルドに着いた。あの戦いから2週間も経つのでどうなっているのか少し気になりながらドアを開けて中に入ると、戦いの次の日とは比べ物にならないくらい人が居た。それでも、戦死したのは約半数なので、来たばかりの時ほどの賑やかさはなかった。

 

 王都が立て替えてくれたお陰で診療所で手当をしてもらい、元気になった冒険者達が、2週間姿を現さなかったオリヴィアを見ると、手に持った酒の入ったジョッキを上げて歓声を上げた。戦いで赤オーガを斃してくれたお陰で助けられたと解っているからだ。各々が声を上げて感謝の言葉を送ってくるのに、適当に手を上げて返事をするオリヴィアは、ニッコリと笑う受付嬢の元まで行った。

 

 

 

「約2週間振りですね、オリヴィアさん!」

 

「あぁ。少し野暮用でな。今日はあの戦いの報酬を受け取りに来た。流石にもう払われるだろう?」

 

「はい!1週間くらい前から受け取れますよ!それにもう用意してあるので受け取って下さいね!国王様より功労者として少し報酬がプラスにされてまして、金額は150万Gです!大金ですねぇ」

 

「……岩壁の件も少し含めているな……。分かった、ありがとう」

 

「いえいえ!」

 

 

 

 トレイの上に乗った多くの金貨を袋の中に入れていき、リュウデリアに異空間へしまってもらうと、今日は依頼を受けていきますか?と聞かれたので、これから王都を発つと答えると、暫くニッコリとしたスマイルを浮かべていたまま固まった受付嬢は、ハッと我に返って大変驚いたように体を仰け反った。

 

 来て報酬を受け取ったと思ったら、まさかのこれから出て行ってしまうという話になれば、それは驚く。ましてやオリヴィアはこの王都を救ったようなものだ。永住とはいかなくても、もう少し居ると思っていたのだ。だがオリヴィアは元々旅をする事を目的とした旅人。一カ所にずっと居るということはないか……と、寂しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

「残念ですが、オリヴィアさんは旅人ですもんね。寂しくなります」

 

「縁があればまた会うだろう。その時はまた、よろしく頼む」

 

「……はい!行ってらっしゃい、オリヴィアさん!また会える日を楽しみにしてます!」

 

「ありがとう。ではな」

 

「……はい」

 

 

 

 最後の返事は本当に寂しそうな、元気のないものだったが、踵を返して歩き出すオリヴィアの背中に、左手は胸元でギュッと握り込み、右手で小さく手を振った。あてもなく旅をしているオリヴィアと再び出会う事は滅多にないだろう。あったとしても数ヶ月……いや、数年は間が開くはず。

 

 出会いがあれば別れがある。死の危険が隣り合わせの冒険者の受付嬢をしていれば、別れを何度も経験する。だがやはり慣れない。悲しいものは悲しいものだ。いつかまた、会えるといいなぁ……と、出会ってからそこまで経っていないのに、何かと接するときが多かったので会って話してるときが楽しかったのだ。

 

 

 

「また会えるといいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回はなんだかんだ一ヶ月以上滞在したな」

 

「殆ど王立図書館に籠もっていたがな」

 

「本の匂いが鼻についてる気がしてやべェ……」

 

「……人間の国は……為になった」

 

 

 

 オリヴィア達は王都メレンデルクを出た。草原と湖で半々に別れている領地を進み、岩壁の下を通り抜けて外へと出て行った。魔物の大群との戦いの途中で現れたシンとクレアの戦いで地面が焦げていたり抉れていたり、砕けていたりと被害を被った大地は広範囲に渡って草木が無くなっていた。

 

 見晴らし良くなってしまった大地を、メルゥに教えてもらった北北西に向かって進む。人が通って出来た道はまだ見当たらないし、メルゥは3日後に会うだろうと言っていたので、恐らく歩いて3日は掛かるところにあるのだろう。しかもそれは1日の殆どを歩いての3日だ。それなりの距離となるだろう。

 

 空を飛べるリュウデリア達に乗っていけば、一瞬で着いてしまうが、別に急ぐ必要もないので歩いてゆっくりと向かうことにする。自然があって、動物が居て、時には魔物が現れて、そういう当然の摂理を満喫しながら自分の足で歩いて行くのも、オリヴィアは結構好きだった。

 

 歩くこと……というよりも体を動かすことは苦ではないので、リュウデリアと一緒だと楽しくて仕方ない。暫く歩いて王都が小さくなってきた頃になると、リュウデリア、バルガス、クレアは体のサイズを人間くらいにして一緒に歩き始めた。翼があるのに飛ばずに歩いてくれるんだなと思っていると、クレアとバルガスが翼を羽ばたかせて飛んで、上から見下ろしてくる。

 

 

 

「んじゃ、オレ達もここら辺でお別れだな」

 

「……世話に……なった」

 

「そうか……行くのか」

 

「おう。今回は行動を共にしてたけどよ、何もずっと一緒に居なきゃいけないわけでもねぇだろ?だから、ここらでお別れだ」

 

「……私達と……リュウデリアは……魔力と気配を……覚えているから……会おうと思えば……何時でも会える」

 

「ふふっ。じゃあまたすぐに会うことになりそうだな。人間の食べ物がまた食べたいーとか言ってな」

 

「ケッ。ま、否定はしねーよ。腹立たしいけどな!」

 

 

 

 オリヴィアの言葉にニヤリと笑いながら返すクレアと、また会えると言ってくれるバルガスに手を振ると、振り返してくれる。そして今度はリュウデリアが翼を広げてクレア達と同じくらいの高さまで飛ぶ。3匹は目を合わせて暫く黙っていると、それぞれが近付いていって肩に腕を回して固まった。

 

 顔を近付けて鼻を合わせる。親しい者達にしかやらない挨拶ようなものだ。互いに認めあっている友であり好敵手だからこそやる。奇跡的に出会う事が出来た、突然変異の仲間へと別れる前の言葉を送る。

 

 

 

「ではな。また会う時までにはもっと強くなれ」

 

「はッ。今度は負けねーからなァ?」

 

「……次に勝つのは……私だ」

 

 

 

 最高の好敵手で頼もしい友に挨拶を終えたリュウデリアは、降りてオリヴィアの隣に立つ。クレアとバルガスは少しずつ高度を上げていき、最後に手を大きく振った。4人で一緒に居る時間はとても楽しいものだった。だからオリヴィアも小さくではなく、大きく手を振り返し、リュウデリアも大きく振り返した。

 

 見上げて目を凝らしても小さく見えるくらいになると、大気に衝撃波を生み出すほどの速度を初速で叩き出し、二手に別れて飛んでいってしまった。飛行速度は恐ろしく速く、目で捉える事は出来ない。一瞬で居なくなったクレアとバルガスを、少しだけ見上げて見ていたオリヴィアは、顔を前に戻してリュウデリアに見ながら手を繋いだ。

 

 

 

「2匹とも居なくなったのにマルロの領地へ行くが、何と言って誤魔化そうか?」

 

「放し飼いみたいにしているとでも言っておけ。使い魔契約をすれば離れても居場所が解るらしいからな。珍しいだろうがおかしくはあるまい」

 

「なら、それでいこうか」

 

 

 

 握られた手を振り払うことはせず、潰さないように気を付けながら握り返してくれるリュウデリアに、うっとりとした蕩けるような笑みを浮かべたオリヴィアは、一緒に歩いていく。友達になったクレアとバルガスとは別れてしまったが、また会える。それに自身にはリュウデリアが居る。

 

 オリヴィアにとってはそれだけで十分過ぎるのだ。右側にリュウデリアが居るのに、左肩をちょんちょんと突かれたので何なのかと思い振り返るが何も居らず、また前を見ていると左肩を突かれる。若しかしてと思って右隣に顔を向けて見ると、何だかすまし顔をしているリュウデリア。

 

 尻尾の先で突いてイタズラしているな?と言うと、前を向きながら左の口端を態とらしくニヤリと笑うように持ち上げた。このイタズラ龍めと、笑いながら言うとリュウデリアは口を開けて笑ったので、オリヴィアも吹き出してから一緒になって笑った。

 

 

 

 

 

 

 王都での生活は終わり、今度は国境を超える為に北北西を目指す。そして途中にあるマルロの領地へと寄っていくために、歩いていくのだった。女神と黒龍が、仲良く手を繋ぎ、笑い合いながら。

 

 

 

 

 

 






 メルゥ

 何度もお世話になったマルロの屋敷で働いているメイド長。買い物をしているところで偶然会い、オリヴィア達が王都を出て行く事を知り、是非マルロの領地を寄って言って欲しいと告げる。

 帰ってからマルロにオリヴィア達のことを伝えると、3日後が楽しみだとマルロが言って、ティネも楽しみと言って笑うので、心の中でニッコリとしていた。




 受付嬢

 結局、オリヴィア達の依頼の受注などをしてくれていた女性。世間話などをしたりとしていたので、王都を出て行ってしまうと知って悲しくなったが、いつかはまた会えると思って涙をぐっと飲み込んだ。




 クレア&バルガス

 一ヶ月以上行動を共にしていたが、王都を離れると共にお別れをした。ずっと一緒に居ても良いが、別けない理由も無いのでお別れへ。

 次に会う時までにはもっと強くなって、他の2匹を打ち負かそうとそれぞれが考えている。魔力を高めれば場所が解るので、呼べば飛んで来る。




 リュウデリア&オリヴィア

 クレア、バルガスと別れた後は、国境を越えることを目指しながら、その途中にあるマルロの領地へ向かっている。また2人だけの旅になったが、寂しくないし、とても楽しい。

 オリヴィアは2人っきりなことにドキドキしているし、手を繋ぐだけで心臓がバクバクしている。そして顔がニヤけそうになるのを必死に我慢しているが、残念ながら我慢出来ていない。



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