純黒なる殲滅龍の戦記物語   作:キャラメル太郎

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第88話  貧弱

 

 

 

 

「何故またもゴブリンなんだ……っ!!」

 

「あー、偶然だろう偶然」

 

「まさか、これから先の階層も全部ゴブリンなんじゃないだろうな……?」

 

 

 

 少し錆びただけの剣を手にしたゴブリン3匹と対峙しながらオリヴィアは納得いかないと吠えた。折角ダンジョンに入ったのに、出会う魔物が今のところゴブリンで皆勤賞だからだ。もう見飽きたから出て来なくて良いとすら考え始めている。

 

 因みに、リュウデリアは魔力を使った察知で次の階層にもゴブリンが居ることは知っていた。傾斜の通路を進んで3階層目の広い空間に出ると、待ち構えているのが武器が変わっただけのゴブリンであると。強いていえば2階層よりも、より筋肉質な体付きになっているといった具合か。まあ結局ゴブリンなのだが。

 

 流石のオリヴィアでも苛つきが見て取れた。内部を照らす明かりをリュウデリアに任せ、カツカツと苛立たしげに靴底と地面が叩き合う音を出して前に進み、腕を軽く広げて両手の平を上に向け、直径15センチ程の純黒なる魔力で形成した球体を浮かべた。

 

 

 

「ゴブリン、ゴブリン、ゴブリンと……3回目だぞ!?いい加減に(くど)いわッ!!」

 

「──────ッ!?」

 

 

 

 1階層と2階層は、向かってくるゴブリンに魔法や魔力の槍を放って迎撃し、一撃の下に殲滅した。しかし今回は違った。剣を持ってニヤリと嗤うゴブリンが、あたかも強者感を醸し出している事に苛つき、無表情のままビキッと額に青筋を浮かべたオリヴィアが駆け出した。

 

 最初こそ突如向かってくるオリヴィアに動揺していたゴブリン達なのだが、すぐに剣を構えながら前に進んだ。駆けて両者の距離が近付くと、ゴブリン達が剣を無雑作に振り上げて、跳躍しながら振り下ろした。体重を載せた一撃で、防御したとしてもその防御ごと斬ろうという魂胆なのだろう。

 

 振り下ろされる剣がほぼ零距離まで来た時に、オリヴィアは対するが如く左手を前に突き出した。純黒なる魔力で形成された球体と剣がぶつかり合い、剣をへし折りながらゴブリンの上半身を爆発で消し飛ばした。元から爆発する予定の魔力の球体を、押し付けたのだ。例え剣越しだとしても、発生させた爆発の威力はゴブリン程度の肉体を消すのも容易だった。

 

 先頭を走って斬り掛かった仲間のゴブリンが下半身だけにされて大きな動揺が生じた。その隙を突いてオリヴィアから見て右側に居るゴブリンの顔に、右手の平に形成した魔力球を押し付けて爆発させた。頭部が完全に消し飛び、頭を無くした体は剣を取り溢しながら力無く倒れた。

 

 

 

「……ッ!!──────ッ!!」

 

「あとはお前だけだッ!!」

 

 

 

「おぉ……」

 

 

 

 2匹目もやられてしまった。もう浮かべるのは動揺ではなく、仇を討つとでも言いたげな覚悟だった。だから、ゴブリンがそう人間くさい事をするなと心の中で罵倒しながら、オリヴィアは背後から襲い掛かるゴブリンを顔だけ振り向かせながら睨み付けた。そして体を振り返りさせ、後ろ回りになりながら右脚を持ち上げた。

 

 顔面に向けての上段後ろ回し蹴りだった。完璧な軌跡を描いて、ゴブリンの横面に吸い込まれるように踵が叩き込まれた。普通の回し蹴りならば昏倒する程度の威力はあるのだが、決定打に欠けていただろう。しかしオリヴィアは、魔力で全身を覆って肉体強化をしていた。つまりこの回し蹴りには、見た目以上の威力が籠められている。

 

 ゴブリンの頭は、回し蹴りだけで首から千切れ飛んだ。ぶちりと肉が千切れて頭が飛んでいき、壁に激突して柘榴のように弾けた。ばしゃりと血が飛び散った後は、ダンジョンに吸収されて何も無くなってしまった。少しずつゴブリン達の死体が溶け込んでいく様を見て、ふんッと鼻を鳴らして視線を切り、次へ続く通路へと向かっていった。

 

 リュウデリアはそんなオリヴィアの後に続きながら、随分と美しい回し蹴りだったなと思い返していた。あの動きはやったことが無いから、恐らく彼女が独力でやったのだろう。それにしては動きが完璧だったと、どこで覚えてきたんだかと疑問を抱きつつ感嘆とした。

 

 

 

「……っ!リュウデリア、見てみろ。今度はゴブリンではないぞ!いや待て……あの背後の半透明な球体はなんだ?」

 

「……さぁな?」

 

「あの魔物が護っているようだが。つまりは重要な物なのだろう。それに他の階層に続く通路が無い。此処で終わりに見える」

 

「ふむ、かも知れないな?」

 

「…………──────4階層しか無いではないかっ!」

 

「………………ぶふッ」

 

 

 

 ちょっと噴き出して笑ってしまったリュウデリアに振り返り、ジトッとした目を向けてくるオリヴィアに手を振って誤魔化す。楽しみにしていたダンジョン攻略が、通路と広い空間が繰り返し繋がっただけの一本道で、たったの4階層しかないことに気付いたのだ。

 

 彼女の頭の中では、枝分かれした通路などを迷ったりしながら少しずつ進み、何十という階層を突破して、最深に居るだろう魔物を倒し、ダンジョンの核を破壊して達成感に満ちながら出て来るという想像が広がっていた。結果がこんなショボいダンジョンだったともなると、想像と現実との落差が酷すぎて笑えない。

 

 だが、最後の最後でオリヴィアはホッとすることがあった。それは最後の階層の、壁に埋め込まれたダンジョンの核を護る魔物が、ゴブリンではなかったからだ。甲冑に身を包み、地面に直剣を突き刺し、柄頭に両手を置いて侵入者を待つ、騎士のような姿をした魔物だった。

 

 背丈が高いので、背丈の小さいゴブリンではないと察し、流石に全部ゴブリンだけということは無くなった。これが皆勤賞ものだったら、魔力にモノを言わせた魔法を叩き込んでダンジョンの核ごと諸共に消し飛ばしていたに違いない。

 

 4階層目に到達してオリヴィア達が近付くと、地面に刺していた直剣の柄を握って引き抜き、中段に構えた。如何にも人間の騎士と戦おうとしている気分になる。これは最深に居るのだから前までのゴブリンとは戦闘力が違うだろうと期待して、オリヴィアは風の刃を横一閃に放った。

 

 結果、甲冑を着た魔物は腰辺りから直剣ごと真っ二つになって地面に転がった。は?とオリヴィアが呆然とした声を漏らし、リュウデリアはその一幕を後ろで眺めながら、ぶふッ……と再び噴き出した。

 

 

 

「な、何故今のだけで……?」

 

「手にしていた剣で斬り払おうとしたはいいが、風の刃が鋭すぎて諸共両断してしまったという訳だ」

 

「避ける暇も無かったと……?」

 

「うむ」

 

「……こんな呆気なく終わるなんて……」

 

「まあ、こんな小さいダンジョンなのだ、配置されている魔物が弱くても不思議ではあるまい。だがそれよりも……甲冑の中身を見せてもらおうか」

 

 

 

 口を尖らせてつまらなそうにしているオリヴィアの横をクツクツと笑いながら通り、真っ二つになって動かなくなった甲冑の傍による。しゃがみ込んで、頭部を護るフルフェイス型のヘルムに手を伸ばし、雑に正面から掴んで力を籠めた。みしりと金属が拉げる音を出しながらヘルムを無理矢理握力だけで千切って毟り取る。

 

 オリヴィアからはリュウデリアの背中しか見えず、ヘルムを毟り取ってから彼が動かないので何かあったのかと思い近付くと、彼の肩が細かく震えている事に気が付いた。何かあったのは間違いないようだと思い、近付いてくるオリヴィアに、彼は立ち上がった。

 

 甲冑を着た魔物の後頭部を掴み、上半身を宙吊りにしながら、やって来たオリヴィアに見せつけた。ヘルムを毟り取った事で中身である顔が見えるようになっていた。人差し指の先に灯した光がそれを映し出す。何度も見た、今となってはもう見たくないと思っていたもの。そう、ゴブリンだ。

 

 

 

「結局ゴブリンだったのかっ!!」

 

「ブフォ……ッ!!」

 

「なんだこのダンジョンは!出て来るゴブリン……じゃなくて、出て来る魔物はゴブリンだけか!何の嫌がらせだ!それに此奴……明らかに8頭身はあるぞ!?気持ち悪い!」

 

「…っ……ククッ……はっははははははははははッ!?ま、まさか……っ!甲冑の中身までゴブリンだったとは!?それに……ぶふッ……このゴブリンは随分と脚が長いな……っ!スタイルが良すぎて変に気持ち悪い……っ」

 

「私の初ダンジョン制覇が……ゴブリンダンジョンになってしまった……っ!」

 

「ははははははははははっ!!はぁ……はぁ……はーッ。これは逆に運が良いと言って良いのではないか?ふふ……」

 

 

 

 掴んで宙吊りにしていたスタイルの良いゴブリンが砂と変わり始めたので、リュウデリアは適当に放り投げて捨てた。そして面白くて腹を抱えて笑う。尻尾が地面をバシバシと叩いて罅を入れていき、背中に生えている翼がバッサバッサと羽ばたいた。目尻に笑いすぎて涙を浮かべて、それを指で拭ってまた笑う。

 

 オリヴィア的には全く面白くないので、眉間に皺を寄せてムッとしながら足音を鳴らして、笑うリュウデリアの横を通り過ぎて半透明の、壁に埋まったダンジョンの核の前までやって来て、魔力で形成した槍で一思いに刺し貫いた。びしりと罅が全体に広がって砕け散る。思い入れも何も無い、つまらないダンジョンの核を破壊したオリヴィアも、つまらなそうだった。

 

 暫く笑って落ち着いたリュウデリアは、ダンジョンを形成している、壁や地面に張り巡らされた魔力の筋が不安定になっているのを視て、崩壊速度から4日辺りでこのダンジョンが完全に自壊すると当たりをつけた。

 

 その後、最早居る意味は無いということで一本道を戻っていき、地上に出た。リュウデリアは面白い事を見れたのか上機嫌で、オリヴィアは全く面白みが無かったからムスッとしている。街に帰る為に歩きながら、機嫌が悪そうなオリヴィアに苦笑いして、後ろから頭を撫でた。

 

 

 

「そう機嫌を悪くするな。笑いすぎた事は謝ろう、すまなかった」

 

「……もう気にしていない。だが……尻尾を貸してくれ」

 

「良いぞ。ほれ」

 

「……街に入るまでこのまま。周りには幻覚の魔法か何かで誤魔化して」

 

「あぁ。了解した」

 

 

 

 歩きながら尻尾を差し出すと、オリヴィアは両腕を使って抱き締めた。まだ少しムスッとしているが、尻尾を抱き締めた事で幾分か和らいだように見える。機嫌が直るならば尻尾を差し出すくらい軽いものだ。

 

 尻尾を抱き締めながら、尖った先端の部分を指でクルクルと絡めたり、指先でぴちぴちと弾いて弄ったり、純黒の鱗を指の腹で擦ったり、頬擦りしたりとやりたいことを自由にやり続けた。街へはそんなに離れている訳でもないので数十分歩いて到着し、ギルドへ直行した。

 

 リュウデリアは体のサイズを落としてオリヴィアの肩に乗っている。ギルドの中へ入り、冒険者達が入室したのがオリヴィア達だと解ると少し静かになった。カウンターへ真っ直ぐ歩みを進めていても、途中で絡んでくる者は居なかった。四肢を斬り落とされるリスクを態々負おうとは思わないだろう。

 

 個人情報を勝手に漏らしてしまった受付嬢のヒナは引き攣った笑みを浮かべていた。まあそこら辺はもうどうでもいいので、早速依頼の討伐対象だった壊れたゴーレムの核を3つ分カウンターの上に置いて確かめさせ、本物だと判断したヒナは報酬の5万Gをトレイに置いて渡した。

 

 ゴーレムの核と、金を入れるための内部が異空間になっている袋を、何も無いところから取り出すときにざわめいたが、オリヴィアから膨大な魔力が膨れ上がるのを感じ取ると途端に黙った。そして報酬を受け取るついでに、近くにダンジョンが発生して攻略したことを報告した。

 

 

 

「あ、はい。畏まりまし……はい?えっ、ちょ……ダンジョン攻略終わったんですか!?」

 

「……4階層しかなく、出現した魔物はゴブリンだけ。それも3匹から5匹のみ。本当に下らない攻略だった」

 

「えぇっと……ではダンジョン内にあった宝物とかは……」

 

「無い。錆びた果物ナイフと薪割りに使う斧。私が両断してしまった直剣ぐらいだ」

 

「それは……稀に見る小さなダンジョンですね……。報告を受けたのでオリヴィアさんからいただいた情報は書き記して保管しますが、他に何かありませんでしたか?」

 

「何も無い。話は以上だ。もうこの話はするな。良いな?」

 

「あ、はは……」

 

 

 

 受付嬢のヒナは、オリヴィアさん機嫌悪いなぁ……と思いながら引き攣った笑みを浮かべながら対応をした。ダンジョンが発生したことは記録して領主などに報告することが決められているので、ヒナはオリヴィアが話した内容を紙に書いていった。

 

 達成した依頼の報告を終えて報酬を受け取り、ついでにショボいダンジョンの詳細を話したオリヴィアとリュウデリアは、もう今日のところは依頼を受けるつもりは無いのでギルドを出て行った。

 

 

 

 

 彼等は泊まる宿を探すために散策をし、使い魔同伴可のところを見つけ、仲良く食べ歩きをしてその日を終えた。眠る頃にはダンジョンの事は頭の中から捨てたオリヴィアだった。

 

 

 

 

 






 ダンジョン

 全4階層しかなく、核を護るために配置された魔物はゴブリンオンリーだった。強さも全く大したことはなく、冒険者の初心者でも頑張れば普通に攻略出来る。




 オリヴィア

 初めてのダンジョンなのでテンションが上がっていたのだが、蓋を開けてみればとんでもなくショボいダンジョンだったので一気に気分が下がった。




 リュウデリア

 まさかまさかのダンジョンがゴブリンオンリーだったので腹を抱えて笑った。その所為でオリヴィアを不機嫌にさせてしまったが、尻尾を差し出すことによって機嫌を直してもらった。


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