オカルトと幽霊とNKTIDKSG   作:yamasuge

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 私はね、○○○。今の付き合いに満足してるんです。

 ──?

 私の友達は少ないですがね。みんな良い奴ですよ。

 ───………。

 嫉妬しないでくださいよ。当然君も大切な友人です。

 ────………うん。





1話『転機ですぅ』前編

 

 

 

 日本国内下北沢自治区。某所。

 20XX年、8月2日。

 

 今が昼であるせいか、人気のない公園のベンチに腰掛けた一人の青年が、電話をかけて来た相手に相槌を打っていた。汗を拭きながら時折頭をカクンカクンと下げている。どうやら謝っているつもりらしかった。

 

「えぇ…はい……」

 

 イマイチ間の抜けた空返事をスマートフォンに向ける青年の男。携帯に耳を傾けながら平謝りを続ける姿は非常に日本人的で、そして悲しい事に半ば彼の日課になりかけていた。

 

「はい……はい……誠に申し訳ありませんでした、以後このようなことがないよう、精一杯努めます……」

 

 失礼しますと続けて男は電話を切った。プツリ、ツー、ツー……電話が切れ、付近に誰もいないことを確認して………。

 

 

 

「何が『君の調査は少し無理矢理すぎます(キリッ)』だ……大体なんですかあの説教は。『こんなんで興奮すんのかよ』ってなんですか。何に興奮すると言うんですか。そもそも具体性のない依頼をしないでほしいものですね。もっとハッキリしてくれれば『以後』もないでしょだって。やっぱナニが小さいんすかね」

 

 愚痴る。溜めてた文句が口をついて出ていく。グチグチ()()()の文句を連ねていると、後ろから声をかけられる。

 

「おっすネクタイ。仕事でなんかやらかしたの?」

「おや、豪君……」

 

 ネクタイと呼ばれた男の後ろに立っていたのは髪を金に染めて軽く肌を焼いた、ファッション雑誌に出ても違和感のなさそうな好青年だ。桜井 豪という名前のその男はネクタイの数少ない友人の一人である。豪はネクタイが座るベンチの横にどかっと座り、ひんやりと冷えた缶コーヒーを差し出した。

 

「これは?」

「お前、最近ここでしょんぼりしてんじゃん。二日前もここで見たぜ、お前の事」

「ははっ…ストーカーでもしてます?」

「馬鹿言え。ここは職場の通勤路なんだよ」

 

 からかった豪はそれを軽く受け流しながら、そんで……と、話の続きを切り出してきた。

 

「お前、なんかあった?」

「………実は……」

 

 

 

 

「へぇ、お前フリーライターなんてやってたの。しかも、探偵兼任で。バカ?」

「バ、バカとはなんですか! これでも真面目にやってるんですからね!」

 

「へー……じゃあさ、どんな依頼を受けてたのか教えてよ」

「いいでしょう、まず物事のきっかけは───ハッ!」

 

 豪の口車に乗せられかけ、危うく依頼人の内情を話してしまうところだった。ネクタイ的にはセーフだったが、豪としてはアウトだったらしく、ネクタイが口を噤んだ後に続けた。

 

「お前、やっぱ向いてないわ。辞めようぜ、もうちゃっちゃちゃっちゃと」

「し、しかし…この仕事を辞めたら私の稼ぎが…」

 

 ネクタイが渋っていると、豪が一枚のビラを渡してきた。

 

「お前さ、この後暇だろ? うちに来ねーか? ついさっき新人が入ってさ、もうひとり欲しいところなんだよね」

 

 豪の渡してきたビラを見てみると、それは豪がメインになってビラの大部分を飾り、見出しにはこう書かれていた。

 

「天才霊媒師、オカルト相談所設立!………ですか。バカにしてんのか?」

「おいおい、バカになんてしてないぜ。正真正銘マジだ」

「…………マジですか」

 

 細かい文章を読んでいけば、やれ霊障お祓いの実績ありだの、ポルターガイストを鎮めただの、神々しいだのなんだのと、あることないこと書いているんじゃないかと思えるような、突拍子も無い内容であった。

 

「で、これを信じると思います?」

「いや、思ってないさ。でも、それはお前が来て実際に確かめて、見てみればいい。きっと本物だと思うぜ」

「……………ほう。 そこまで言うのならば、行ってあげようじゃないですか」

 

 手に握っていたおかげですっかりぬるくなってしまった缶コーヒーをポケットに仕舞い、ネクタイは立つ。豪は嬉しげな表情を浮かべてネクタイに着いてくるよう促した。

 

「こっちこっち、マジで近いから。給料も凄いよ?30分で、5万! 破格でしょ」

「5万!? 器量がでかいんすかね!さあ行きましょう!」

「はいはい、行こうか。あ、そうだ。ビールとワイン買ってこうぜ!今日飲む予定だったし」

 

 それを聞いた途端ネクタイはぴょんこと飛び上がり、豪を急かした。

 

 

 

 

 

 

 

 日本国内下北沢自治区。桜井オカルト相談所。

 午後14時 30分。

 

 

「ここね。今ドア開けるわ。おーっす、こんちわーす」

「お、豪。……あれ、デカスギ?どうしてここに?」

 

 玄関の戸を開けた豪を出迎えたのは6人。4人の男と、それに混ざるように女が2人。一人、緑眼なのも相まって非常に目立っていた。ネクタイをデカスギと呼んだ男はスバルといい、豪とネクタイ共通の友人である。

 

「えーと………豪君、彼らは? スバル君はわかるんですけど」

「ああ、紹介するわ。 左からね。まず、ゆうさく。こいつは調査担当ね」

 

「俺の乳首舐めてくれよ……ぐぇっ!!」

 

 どこからともなく取り出した拡声器でネクタイの鼓膜にダイレクトアタックを仕掛けてくる。思わず耳を塞ぎ、目を伏せてしまった。目を開けた途端、隣の女性にどつかれて壁にめり込んでいた。

 

「ジョーカー、事務所は大切にな。 ……あ、そうそう。んで、こいつがジョーカーっつって、ゆうさくと同じ調査担当」

「よろしくね」

「あ、ハイ…」

 

 ゆうさくという男とは違い、ジョーカーさんは割と常識人らしい。ゆうさくに向けられた破壊力から察するに、怒らせない方が良いタイプの人だとわかった。

 

「で、AKNM。赤沼ね。こいつも調査」

「新人くんを男にしたい」

「いやまだ入ると決まった訳じゃないんですけど」

 

 赤沼という男も、それほど悪い人間では無さそうだった。ゆうさくはともかく。

 

「んで、まあお前も知ってるけど、スバル。こいつら四人で、一つの調査チームになってる。コードネームは『面白み研究会』」

「そんな昔のサークル名引っ張って来たりしちゃ…だめだろ」

「まま、そう焦んないでよ。今も使ってるんだからさ」

 

 豪がからかって、スバルは頭を掻いて肩を竦めている。ハハァ…と笑ってから業務に戻っていく。

 

「んで、五人目ね。すずちゃん。一番年下かな」

「すずと申します。よろしくお願いします」

 

 声や背格好から、まだ学生のようだ。細目に可愛らしい星の髪飾りが特徴的だ。アルバイトのようなものだろうか。そう考察しながら、ネクタイもすずに対してよろしくと返す。

 

「んじゃ、彼で最後の一人。入ってきてくれんならお前と同じ新入りになる、肉体派おじゃる丸くん」

 

 最後に紹介された肉体派おじゃる丸は、ここにいる人間の中で誰よりも逞しい肉体を持っていた。均整の取れた下半身と、それにさらに釣り合わない逆三角形と言うべき鍛えられた上半身が非常に印象的だ。

 

「クキキキキ…僕の同僚っすか?」

「多分ね? ……んでさ、どうするネクタイ。30分で5万だぜ、そんでこいつらは仲良し、賑やかと来たもんだ。入ろ───」

 

「いやそりゃこんな所に(はい)れたら気持ちえぇっすよ、そりゃあねぇ」

「よし、決まり! それじゃ肉おじゃ君に加えて、更にネクタイデカスギ君も我ら桜井オカルト相談所の一員になることだし、今日は歓迎会にしよっか!」

「おおぉー」「やったー!」

 

 事務所内に歓声が湧き上がった。豪とスバルは宴会の準備を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 午後21時00分。

 

 

 

 

 

「へー、じゃあネクタイ君元々は探偵やってたんだ」

「はい、そうなんですよ」

 

 ジョーカーの質問に答えると、次はネクタイの隣に座っていたゆうさくが質問してきた。この数時間話していてわかったことがあるが、ゆうさくは時折キツい下ネタを言いはするが、そうでなければ比較的好青年であった。

 

「じゃあよ、ネクタイは特技とかあんのか?」

「………ありますよ。人に言えないような、ね」

 

 ………ごくり。誰かの喉が鳴った。ゆうさく君のものかもしれないし、赤沼君か、ジョーカーさんか。それこそ、すず君か肉おじゃ君のものかもしれない。豪とスバルだけがこの事を知っていて、私は今初めてそれを他人に話したのだから。

 

「……まぁ、話してもいいかな。このネクタイが持ってる特技。俺はそれを知ってるから、こうしてこいつを誘ったんだ。来てくれれば百人力だったからな」

「そういう事だったんですね。だから誘ったと…」

「そそ。気悪くしたら悪いね」

 

 豪が申し訳なさそうな顔をする。

 

「いえ、構いませんよ。私と豪君の仲ですからね。それに()()()もしばらく暇してたでしょうし」

「そっか、サンキュ。 ……乾杯しようか! あ、すずちゃんはオレンジジュースね。まだ未成年だから」

「チッ…はーい」

「え、今舌打ちした?」

 

 全員に飲み物が行き渡り(すずはどうにも苦虫を噛み潰したような、納得していない顔だったが)、豪が乾杯の音頭を取る事となった。

 

「んじゃ、肉体派おじゃる丸君とネクタイデカスギの今後に! 乾杯!」

「「カンパーイ!」」

 

 豪がサイダーで割ったワインをぐいっと飲み干した。それに合わせて、ネクタイデカスギも渡された缶チューハイを一気に喉に通す。喉の灼けるような感触がより一層味を引き立てていて、やはり美味かった。

 すずはオレンジジュースにちびちび口をつけている。ゆうさく、赤沼、ジョーカーの3人はビールを飲んでいて、スバルは豪と同じワインを飲んでいる。

 

 ふと、肉体派おじゃる丸が居ないことに気付く。部屋周辺を見渡しても居ないし、トイレの電気もついていない。ベランダを見てみると、カーテンの隙間からちらりと筋骨隆々の上半身が見え、そして同時に何をしているのか気になって仕方なくなった。

 

「ちょっと失礼しますね」

「おう」

 

 隣の席のゆうさくに席を立つ旨を伝え退いてもらい、ベランダへ向かい、戸を開けて外に出、戸を閉めてから話しかけた。

 外は暑いが、昼と比べればまだ涼しい方だった。肉体派おじゃる丸は風に当たっていたようだ。

 

「おじゃる君」

「肉おじゃでいいっすよ。子供の時のあだ名がそうだったっすから」

「そうですか? では肉おじゃ君と呼ばせてもらいますね」

 

 肉おじゃはベランダの柵に身体を預けながら、先程持っていたであろう2Lコーラを時々ラッパ飲みしていた。

 

「豪快ですね」

「いやぁ、お酒飲めないんすよね、僕」

「苦手だったんですね」

「まぁ、そうっすね」

 

 ネクタイも、ポケットに入っていた缶コーヒーに口をつける。ぬるくはなっていたが、それが逆に喉を通りやすかった。つい飲みやすくて、気付いた時には一口で全てなくなってしまっていた。

 

「ネクタイさん…」

「ネクタイデカスギです。ネクデカでいいですよ」

「ネクデカさん、歳は幾つっすか?」

「29ですね」

 

 ネクデカがそう答えると肉おじゃの表情は一気に明るくなる。

 

「そうなんすか? 僕も29です!」

「おや、それなら敬語は使わなくっていいですよ。同じ仕事をする仲で、しかも同じ年齢なのに敬語を使うのはなんか変ですしね」

「それはネクデカも一緒じゃないっすか」

「私のは口癖なのでいいですぅ」「僕もっす」

 

 談笑が進んだところで、後ろのガラス戸が開いた。振り返ると豪が立っていた。豪は持っていたグラスの中身を飲み干した後に、二人に話しかけてきた。

 

「おう、主役ふたりが居ないからどこかと思ったらここか。戻ってこいよ、みんな待ってんぜ」

「おや、そうでしたか」

「じゃあ行くっすよネクデカ」

 

 豪と肉おじゃの二人が事務所内に戻っていき、ネクタイもそれに続いて入っていった。

 

 

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 時計を見るのも忘れていた頃。騒がしかった事務所内も既に静けさを取り戻している。何人かは帰ったり酔い潰れていて、残ったメンバーだけでちびちびと酒を飲んでいた。最後の一本を飲み切ったことをみんなが確認した後に、豪が切り出した。

 

「じゃあ今日はここらでお開きにしようか。ジョーカーも赤沼も遅くまで悪いね」

 

 豪はジョーカーと赤沼の二人に緩く謝っている。酒を飲み交わして最後まで潰れずにいられたのは豪とジョーカー、赤沼、そしてネクタイデカスギの4人だけであり、肉体派おじゃる丸は家に帰っていき、すずは話をしている間に寝落ちしてしまい、机に突っ伏している。ゆうさくとスバルは酒で潰れてしまい、それぞれ床とソファにだらしなく体を預けて眠っていた。

 

「まぁ楽しかったし。いいわよ」

「久しぶりに飲んだしな」

 

 ジョーカーも赤沼も満足したように返事をした。ネクタイデカスギは大きな欠伸をしてから時計を見る。既に短針は1時を回っており、もうすぐ30分になるだろうか、というところだった。

 

「お……っと、もうすぐ寝なきゃですかね。豪君、今日はありがとうございます」

「おう、いーよいーよ。これからよろしくな、ネクタイ」

 

 豪が笑顔で答える。

 

「あ゛あ゛い゛」

 

 

 

 

 

 

 

 二日後。

 午前6時15分。

 

 

 

 

 

 

「くぁ……あ、ネクタイさん。おはようございます」

 

 早朝からネクタイが豪に与えられた机へ向かっていると、客室から起きてきたすずがネクタイに会釈してきた。

 

「おや、すずさん。お早いですね」

「私より早いのに何を言ってるんですか」

「それはそうですけれども…」

 

 元々仕事の癖でこの時間に起きるようになったネクタイとは違い、すずは学生だろうから、こんな早くから起きては睡眠不足なのではないか? という不安が生まれた。

 ネクタイは高校時代から野球をしていて、野球部に所属していたので朝早く起きるのは慣れているが、すずはネクタイの主観からするとあまり運動が得意ではなさそうなタイプに見えたからだ。

 

 がちゃり、と玄関の扉が開いた。

 

「おーっす、すずちゃん。 ……あれ、ネクタイ? 随分早いねぇ。寝れなかった?」

 

 入ってきたのは豪だった。豪はシャツのボタンを緩めて暑そうに手うちわを仰いでいる。エアコンが効いた室内に入るや否や、冷えた汗をティッシュで拭いてゴミ箱に捨てている。

 

「まあ前職からの癖ですね、えぇ」

「ふーん。ま、いいけどさ。 それより昨日話した()()()の件、忘れてないよな?」

「ええ、覚えていますよ」

 

 ネクタイが返事をすると、豪は満足そうに頷く。

 

「よっし。いいね。じゃあ()()()ちゃん共々、よろしく!」

 

「はいはい、行ってきますかっと。 それでは……」

 

 重い腰を上げる。事務所の玄関から一歩外に出れば、先程相談所へ向かっていく時にも襲いかかってきた熱波が、再度押し寄せてくる。

 

「暑すぎですよー? ………さてと、聞こえてますね?」

 

 独り言を話している。 いや、それは独り言ではなかった。

 

 

 

 

 ────ネクタイデカスギには、とある『()()』が備わっている。豪以外にネクタイデカスギのその能力を知る人間はおらず、また彼本人もその能力をひけらかす事はしなかった。

 

 それは、彼自身にとっては当たり前のものでも、唯一の理解者たる豪や、彼の親友スバルを除き、全ての人間が忌避するべきものだからだ。両親も、友人も、親しい人間は全てネクタイデカスギに信用されていなかった。

 

 ──本当の事を知れば、みんな逃げていくから。

 

 

 

 

 

「………さぁ『DIYUSI(ぢゆし)』。仕事ですよ」

 

『…………デカスギ。 今は大丈夫なの?』

「ええ、貴女に会えないのも寂しいと思いましてね。それに、これからは貴女を嫌う人に構わなくてもよくなりそうですから、ね」

 

 ネクタイデカスギの後ろに、緑髪と交通誘導員の服装という奇特な格好をした少女がふわふわと浮かんでいる。背景が見えるほど透けており、輪郭すらおぼろげなその少女は、誰も、本人すら自分の名前を知らず、妖精のような風貌からネクタイデカスギからは暫定的に【DIYUSI(大妖精)】、名を縮めて『ぢゆし』と呼ばれていた。

 

 ぢゆしは、物珍しそうにネクタイデカスギを見る。自主的に出すのは久しぶりだからだった。

 

『それならよかった。 私もデカスギの狭い胸囲の中で窮屈だったから』

「110弱です! いい加減覚えてください…」

「100ピッタリのくせに」

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 今日から、桜井オカルト相談所での1日が始まる。

 

 




 本小説におけるキャラクター間の呼び名や一部口調が、イメージと違う場合があります。大目に見ていただけると幸いです。
 次の話あたりでメンバーの詳細とか書きたいですね。

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