Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第14話『Dual Wizard -双属性魔術師-』

 鎧が隠していた、二つ目の属性性質。

 

 光属性と共に、闇属性の魔力を半身から放出しながら、鎧は膝を突いている日向へと開口する。

 

「藤堂天音の八属性魔術は確かに脅威だ。だが、明確な弱点も存在する……何か分かるか?」

 

 その言葉と共に鎧の槍へ収束していく、光と闇の二属性。

 

「奴は複数の属性を、同時使用出来ない事だ。だが…………俺は違う」

 

 

 

 光+闇属性攻撃術式

 

双魔一穿(デュアルスラスト)

 

 白と黒、相反する力を融合し纏った刺突が、日向へと叩き込まれる。咄嗟に飛び退き躱す日向だったが、鎧の槍はその背後の壁を貫き打ち砕いた。

 

 

 

 ――――二つ以上の属性性質を有している人間は、世界に一定数存在している。しかし一つの術式に複数の魔力属性を付加する事は極めて難度が高く、扱える魔術師は多くない。

 

「闇が色濃い程光は輝き、光が眩い程闇は深まる……互いを喰らい合う相乗効果(シナジー)によって、力は際限無く高まって行く。これが、双属性魔術師(デュアルウィザード)の真髄だ」

 

 天音は八属性全ての魔力を有しているが、彼女が一度の術式で使える属性性質は一つだけ。天音を倒した鎧の力の正体は、二重属性を同時付加する事で飛躍的に威力を高める『双属性術式(デュアルフォーミュラ)』だった。

 

 

 

「もう解っただろ。単一属性の術式じゃ、俺に傷一つ付ける事すら叶わねェんだよ」

「…………」

 

 闇属性の魔力が影響を及ぼしているかのように口調が変化しつつある鎧だったが、日向は強く地を蹴り高速移動を発動させる。

 

(まだあの速度で動けるのか……)

 

 相当な深傷は負わせた筈だが、未だに日向の敏捷性は落ちていない。そのタフネスに内心で興味を示す鎧だったが、依然として自身の優位に変わりは無いと余裕を見せる。

 

 

 

「……どんな理想を掲げよォが、テメェの勝手だ。好きにしろよ……けどな」

 

 鎧の背後を取った日向が、左右の拳を交差させるように振り抜く。

 

「その下らねェ目的の為に、俺の仲間に手ェ出すんじゃねェよ!!」

 

 火属性攻撃術式

 

『戟衝破・双連』

 

 怒りの侭に撃ち放たれる爆速の熱線。二発同時に射出された日向の炎のレーザーを、鎧は防御能力に長けた光の魔力で迎え撃つ。

 

 

 

「オイオイ、関係無ェとでも思ってんのか。無知ってのは(つくづく)罪だなァ……魔術は、選ばれた者だけに与えられる権能でなくちゃならねェ」

 

 光属性を纏った槍を戟衝破へと叩き付け、強引にその軌道を変化させる。

 

「だが、最強なんぞと宣いやがったあの女は、あろォコトか魔力すら持たねェ"劣等種"に勝利出来なかった……そんな弱者にこの力は"相応しくねェ"んだよ」

「ッ……!!」

 

 誰を侮蔑しているのかなど、日向には容易に想像がついた。しかしレーザーを弾き斬り裂いた槍刃を返した鎧は、日向に開口させる間もなく反撃の魔術を炸裂させる。

 

 光属性魔力×形成術式

 

聖獣衝角(グロリアス・ホーン)

 

 撃ち込まれた閃光の槍は、防御を物ともせず日向を豪快に吹き飛ばした。

 

 

 

「『魔術師』は!!力を持たねェ弱者を須く支配する存在だ!!魔術こそが、この世界の新たな秩序足り得るモノなんだよォ!!春川日向ァ!!」

 

 夜天を仰ぎ、鷹揚に大義を騙る。

 

「だからこそ……力の足りねェ術師は淘汰する。魔術を振るうに値するのは、畏怖される程の力を持った強者だけだ」

 

 邪悪な闇をその瞳に宿し、日向へと槍を向ける鎧。しかし体勢を立て直した日向は、全身から爆炎を噴出させながら突進した。対して鎧は繰り出される拳と蹴りの連撃を難無く受け流し、日向の腹部へと容赦無く槍を突き立てる。

 

 

 

 その刃に刺し貫かれて尚、日向の拳は止まらない。

 

「ッ……!」

 

 鎧は僅かに瞠目しながらも、迎撃すべく左拳へ魔力を集中させる。

 

 火属性魔力×強化術式

 

『炎撃』

 

 闇属性魔力×強化術式

 

『デッドストライク』

 

 交錯する二つの拳が互いへと叩き込まれ、両者を大きく後退させた。

 

 

 

(冗談かと思っていたが……あの話、強ち嘘というワケでもなかったらしいな……!!)

 

 最早痛覚を疑うレベルの日向の耐久性(タフネス)を目の当たりにしながら、鎧はかつて交わした会話を思い起こす。

 

『忍者』――――尋常ならざる鍛錬の果てに、人を超えた力をその身に宿した異能者。日向へ修行を施した彼の祖父は、その末裔だと口にしていた。

 

 

 

「だったらよォ……俺が勝てばテメェは弱者だ。その理論は破綻すんだろ?…………テメェの全てを否定して、ブッ壊してやるよ」

「面白ェ……お前の屍を礎に、盤石の世界を築き上げるとしよォか」

 

 燃え盛る憤怒を宿した炎、底知れぬ悪意を内包した光と闇。

 

 

 

 決して相容れぬ意思の下に、二人の魔術師は衝突した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「……例えそうだとしても、今引き返す訳にはいかねェ」

 

 日向の元へ加勢に戻ってほしいという天音の望みに、伊織は冷静にそう返答する。

 

「アイツのしぶとさはお前も知ってんだろ。……そう簡単にくたばるかよ」

 

 今は、日向を信じるしかない。彼女を安心させるようにそう口にする伊織だったが、その表情には僅かではあるが焦燥と苛立ちが浮かんでいた。一刻も早く結界を抜けなければ、天音と日向の両方の命に危険が及ぶ。着実にタイムリミットが迫りつつあった、その時。

 

 

 

 伊織の眼前の道へと、一枚のトランプが突き刺さった。

 

 

 

「ッ!?」

 

 行手を阻むかのように何処からか飛来して来たカードに、咄嗟に足を止め周囲を警戒する伊織。その場に音も無く降り立ち姿を現したのは、謎の二人組だった。

 

 一人は道化師(ピエロ)のような仮面と服装を纏った人物、そしてもう一人は白のローブを身に付けフードを目深に被った人物。どちらも素顔は隠されており、その表情を窺う事は出来ない。

 

 

 

「やァやァ御機嫌よう、御剣伊織クン。何やら急いでるみたいだねェ」

「!!…………お前、誰だ……?」

 

 二人の内道化のような風貌の人物が、至って陽気な声色で語り掛けてきた。自身の名前が知られていた事に警戒を露わにしながらも、伊織は慎重に言葉を返す。

 

 

 

「あー、そうか……名前ね。僕はJOKER。『切り札』、の意のジョーカーだよ。そしてこちらの無口な彼がゼロ。以後、お見知り置きを」

「………………」

 

『JOKER』と名乗ったその人物は、指先で弄んでいたトランプのジョーカーを伊織へ見せながらそう告げた。その隣の『ゼロ』と呼ばれたローブの男は、依然として一言も発する事なく沈黙を貫いている。

 

「テメェら……天城の仲間か」

「そう訊かれると、答えはNOかな。彼の思想には理解こそすれど、同調はしない」

 

 伊織の問いに対しJOKERが答えとして示したのは、血に染まった一つの仮面だった。JOKERが手に持っていたそれには、先程まで鎧の傍らに控えていた人物の物と同じ、炎の紋様が刻まれている。

 

「キミを追ってた連中はほぼ全員始末したよ。その見返りと言っちゃ何だが……少しばかり、僕等に時間をくれないかい?」

「…………何が目的だ」

 

 彼等の一挙手一投足から、相当な実力を有している事は見て取れた。敵が味方は不明だが、ここで戦闘に発展した場合に天音を巻き込むリスクを考えた伊織は静かに続きを促す。

 

「僕等ね、刻印結社ってトコの幹部やってんだけどさ、」

「…………!!」

 

 

 

『刻印結社』。

 

 それは、幾人もの凶悪なテロリストが属しているとされる、国際犯罪組織の通称だった。魔術界に多少なりとも関わりを持つならば知らない者はおらず、世界各国から脅威と認識されている危険な魔術結社である。

 

 動揺を見せる伊織へと、事も無さげに続けるJOKER。

 

「御剣君、キミさァ…………ウチ(結社)に入る気はないかい?平たく言えば、スカウトってヤツだよ」

「何だと……?」

「君の()()については、大方調べはついてる。『そちら側』にいるべき人間じゃないってコトもね」

 

 提案と共に明かされていくのは、記憶の奥底に閉じ込めていた忌むべき過去。

 

 

 

()の魔術旧家に生を受けながら、その魔力を持たない体質によって迫害され、勘当された。桐谷恭夜に助けられなければ、野垂れ死んでいた未来すらあり得たワケだ。だが、それでも君をこの魔術の世界に留めていたのは……自分を虐げて来た支配体制への『復讐心』だ」

 

 人の心に潜む闇を引き摺り出すような囁きが、伊織の深層へ沈み込んでいく。

 

「……その憎悪は、解放されるべき正当な意思だ。そしてキミの(チカラ)なら、あらゆる術師を打ち倒し、この歪み切った魔術社会をも破壊出来るだろう。

 

 

 

 ――――君は、如何したい?」

 

 

 

 委ねられた選択は、自身が歩む未来への問い。背負った天音へと一瞬だけ目を向けながら、伊織はその答えを口にした。

 

 

 

「…………一つ、条件がある」

「何だい?そこにいる彼女を助けたい……ってトコかな?」

「いや、違う」

 

 JOKERの予想を、即座に否定する伊織。

 

 

 

「俺を引き入れる事以外の、()()()()()を今ここで明かせ。全てだ」

「…………やっぱり鋭いねェ。流石はあの桐谷恭夜の私兵と言った所か」

 

 

 

 伊織の言葉にJOKERは、別空間から転送魔術によって召喚した大鎌を手に取りつつ応える。

 

「ただ、キミの勧誘に関しても嘘じゃァない。本命のミッションを複数並行させてただけさ。『藤堂天音(八属性術師)の確保』と、『春川日向に対するデータ収集』、のね」

「日向の……?」

 

 JOKER達の狙いは自分だけではないという、伊織の予測は的中していた。相手に天音を無事に帰すが無いと判った今、交渉の決裂は免れない。

 

 

 

「天城鎧の介入は想定外だったけど、彼程度なら障害にはなり得ないだろうからね。今は放置。脅威度なら、キミの『退魔ノ剣』が一番危ない」

 

 魔力を纏わせた無数のトランプカードを空中へ展開しながら、JOKERは伊織の刀へと指を指す。背後の壁際に天音を座らせた伊織は、振り返りながら一刀の柄へと手を掛けていた。

 

「こっちは急いでるんでな。押し通らせてもらう」

「一つ言っておこうか。……キミが選ぶコトが出来る2択は同行の可否じゃない。大人しくついて来るか、力尽くで連れて行かれるか、だ」

 

 肩に担いでいた大鎌を伊織へ向けながら、JOKERは一縷の望みをも断つようにそう告げる。

 

 

 

 しかしその肩口から、突如として鮮血が噴き出していた。

 

「――――ッ!?」

 

 

 

 瞬き一つの間の、剣閃。

 

 

 

「言ったろ。時間が無ェんだ」

 

 

 

 退魔一刀流・『鳴神』。

 

 

 

 抜刀すら悟らせぬ居合の刃が、目にも留まらぬ超剣速でJOKERを斬り裂いていた。雷の如き神速の剣技によって、伊織への警戒度は更に跳ね上げられる。

 

「コレは……悠長にはしてられないね。今すぐにでも、キミを捕らえる必要性が出て来た」

 

 JOKERは周囲に浮遊させていたトランプを、魔術によって操作する。

 

 

 

 無属性魔力×強化術式

 

『4カード・Qs(クイーンズ)

 

 

 

 魔力を纏い撃ち放たれた4枚のカードを、伊織は大上段から振り下ろした刃で迎え撃った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 魔力によって強化された、超脚力による跳躍。

 

 上空から突き下ろされた鎧の槍は、地を穿つ勢いで日向へと叩き込まれた。半歩引いて辛うじてその一撃を躱すが、眼前の地面に突き刺さった槍からは猛烈な衝撃と風圧、そして魔力が噴出している。

 

 八大属性の中でも、融合する事で爆発的なエネルギーを生み出す光と闇の二重属性は、ただの一発の術式にすら必殺級の威力が秘められていた。更にその双属性の真価は、攻撃能力のみに留まらない。

 

 繰り出された前蹴りを槍刃の腹で打ち返す鎧だったが、その胴元へと突き込まれる日向の拳。そこから放たれたのは、零距離で発動された戟衝破だった。

 

 しかしその猛炎をも、鎧の双つの力は抑え込む。

 

 あらゆる威力を呑み込み吸収する闇の性質と、自在に形状を変化させ力を塗り替える光の性質。重ねて施された二属性の盾は、鎧を大きく後退させながらも日向の炎を完全に遮断する。

 

「この場所は……お前が到達し得ない高み(領域)だ。支配者たる魔術師としては、お前じゃァ力不足だよ」

 

 間隙無く繰り出される魔槍の連突を、体術によって紙一重で弾き続ける日向。しかし全身に負った傷によって、集中力と防御能力は確実に低下している。

 

 それでも尚、その瞳に宿る意思に変化は見えない。

 

 

 

(目障りだ…………)

 

 

 度重なる流血は、着実に日向の肉体を消耗させている。後は、その精神を完全に圧し折るのみ。

 

 

 

 闇属性攻撃術式

 

『デッドリーランス』

 

 貫通能力を強化された、一点突破の闇の槍が撃ち込まれる。そして日向は――――防御ではなく、更に一歩鎧へと踏み込んだ。

 

 

 

「ッ!!」

 

 身体の軸を僅かに傾け、頬を斬り裂かれながらも槍刃を受け流す。そして瞠目する鎧の手首を掴み取った日向は、右手へと紅い魔力を収束させていた。

 

 

 

「一々ウザってェんだよ……お前の、理屈は………!!」

 

 振り抜かれるのは、火炎を纏った手刀。

 

 

 

 火属性魔力×強化術式

 

『炎刀』

 

 渾身の一閃は、鎧の胸元を深々と斬り裂いていた。

 

 

 

「何……!?」

 

 鎧の視覚と魔力知覚が捉えた、理解を超えた光景。既に限界へ近付いている筈にも関わらず、日向の体内に宿る魔力は一際激しく燃え盛っていた。

 

 

 

 ――――暴れ回るように、脈動する炎。日向を追い詰めていたこの窮地が、彼に新たな進化を齎そうとしていた。

 

 


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