Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第13話『Sudden Turn -急転-』

 食堂での夕食を終え、大浴場で風呂に入って来た日向は、

 

 

 

「やー、今日も何事も無く終わりましたなァー」

「寛ぐなら部屋に帰れテメェ」

 

 伊織の寮室にて、スナック菓子片手に横になっていた。啓治は未だ治療が続いており病院へ、陣は夜の散歩、創来は恭夜と共にどこかへ行っているようで、暇を持て余した日向は伊織の部屋に転がり込んで来たという訳である。

 

「つーか夜だけどまだ全然みんな学校いるよな」

「お前もヒマなら演習場でも行って来たらどうだ。誰かしら居んだろ」

「そォだな〜……なんか今日はあんまし気が乗らねェや」

 

 窓から一望出来る学園の景色は未だ煌々と明るく、多くの生徒が各棟に居残り訓練している様子が伺えた。

 

「そういや明日、天音との模擬戦だよな。やっぱ緊張したりするか?」

 

 テレビのリモコンを手に取りながら日向が言及したのは、遂に前日となった伊織と天音との再戦について。以前の『開幕戦』にて熾烈な決闘を繰り広げた二人に、日向のみならず多くの生徒が注目していた。

 

「別に誰が相手だろうと、やる事は変わらねェ。全力のアイツを倒して、勝つだけだ」

「作戦とかあんのか?」

「無ェな……強いて言うなら、アイツの術式を片っ端からブッた斬ってくコトぐらいか」

「めちゃめちゃIQ低そうな脳筋節である程度何とかなりそうなのがスゲェよなァ」

「喧嘩売ってるか?」

「いやめっちゃ褒めてる」

 

 自身の得物である刀を入念に手入れしている伊織に軽く睨まれながら、笑い混じりの声で日向が返す。リモコンを操作しチャンネルを変えると、東京を騒がせる連続殺人のニュースが扱われていた。

 

「そういやお前さ……いっつも一本しか使わねーのに何で二本持ってんだ?」

 

 その時日向は、ふと生じた疑問を伊織に放つ。伊織が常に腰に備えている二刀は、侍のような『打刀』と『脇差』からなる『大小拵え』ではなく、同じ長さの二本の打刀。しかし戦闘に於いて伊織は一刀流の剣術しか用いておらず、二本目の刀を抜いている場面を日向は見た事が無い。

 

「呪い的な魔術で封印されてて二本目は抜けねェ……みたいな妖刀だったりすんのか?」

「バーカ、ンなワケねェだろうが。俺はそんな妙な武器には頼らねェ」

 

 伊織は淡々とした口調で返答しながら、二本目の刀の手入れに入る。日向が見る限りではそれらの刀は二本とも極普通の日本刀であり、何か魔術的な効果が付加されているような物には見えなかった。

 

「片方しか使わねェのは、単純に――――」

 

 伊織がその理由を口にしかけたが、日向の携帯端末から鳴った着信音に遮られる。

 

「おー、わり。電話だ……沙霧からだ。珍しいな?」

 

 画面に表示されていた連絡して来た相手は、二人の隣のクラスに所属する少女だった。通話ボタンを押した日向は、寝転がったまま端末を耳に当て口を開く。

 

「ほいほーい、どした?……んん?…………や、知らねーケド……うん、今一緒に居っから聞いてみるわ」

「……………どうした?」

 

 最初は普段通りのヘラヘラとした表情だったが、次第に神妙な面持ちになっていく日向。異変を感じ取った伊織へと、沙霧との通話を一旦中断した日向が問い掛ける。

 

「お前さ、天音が今日どっか行ってんのとか見た?」

「藤堂が……?いや、見てねェ。アイツがどうかしたのか?」

「いや……沙霧と今日の夜会う約束してたらしいんだけど、いつまで経っても来ねェ上に連絡も取れねェんだとよ」

 

 告げられたのは、僅かな不穏さを感じさせる報せだった。

 

 ◇◇◇

 

 そして日向と伊織は今、夜の魔術都市を疾走していた。日向は火属性魔力による飛翔で、伊織は純粋な脚力で、ビルの外壁や標識などの立体物を足場に街を駆け抜けて行く。

 

 あの後沙霧に会いに行った二人は、天音の行方を探すべく寮を抜け出していた。沙霧には学園周辺を任せ、日向と伊織は魔術都市の中央街へと出て来ている。

 

「単にアイツ(藤堂)が約束忘れてるっつーだけなんじゃねェのか?」

「そうだったらそうで別にいいけどなー……」

 

 心配が杞憂に終わる可能性もあったが、最も親しい筈の沙霧との約束を天音が反故にしたという事に日向は妙な胸騒ぎを覚えていた。同様の違和感は伊織も感じているようで、文句を言いつつも眼下の街を見渡しながら天音を捜している。

 

 天音が沙霧を蔑ろにするとは、どうにも考え難かった。

 

「クソ、桐谷先生が居れば一発で見つかるんだろうけどな……」

 

 恭夜の視力強化魔術ならば、この広大な魔術都市からも即座に天音を見つけ出せるのだろうと呟く伊織。しかし屋上に一度降り立ち携帯端末から連絡を試みるも、恭夜からの応答は無く留守電メッセージのアナウンスが流れるのみ。

 

 東帝の教員としての職務だけでなくプロの魔術師としても多忙なようで、恭夜はこうして連絡がつかなくなる事が度々あった。

 

「チッ……このまま捜しても埒が明かねェぞ。一旦『表』に出てみるか?」

 

 天音が魔術都市の外に出ているのではないかと疑う伊織だったが、日向はまだ捜索を諦めていないように見える。

 

「獅堂に聞いてみよう。アイツ沢山仲間いるし、ひょっとしたら誰か見かけたヤツがいるかもしれねェ」

 

 ◇◇◇

 

 

 

「およー?さぎりんじゃん。こんな夜に何してんの?」

「あっ……こんばんは、白幡先輩」

 

 ゲームセンターから寮へと帰って来ていた千聖は、誰かを捜すように学園周辺を歩き回っていた沙霧の姿を見つけ声を掛ける。パーカーとイヤホンを身につけコンビニ袋を持ったラフな格好の千聖に対し、沙霧は不安げな表情で口を開いた。

 

「その……天音ちゃんと今日の夜、会う約束してたんですけど……連絡がつかなくて」

「天音っちが?なるほど……そりゃちょっと心配だね。捜してんの?」

「その……そんなに大袈裟な事じゃないと思うし、余計なお世話かもしれないんですけど……ちょっとだけ、心配で……」

 

 そう口にした沙霧の顔を、千聖は両手で挟みながら小さく笑った。

 

「あのね、さぎりん」

「ふぁっ、ふぁい……」

「友達思いな所は、さぎりんのとってもいい所だよ。だから、そんな風にネガティブに考えちゃダメ」

 

 頬を撫で回され唖然としている沙霧に、千聖は微笑んだまま言葉を続ける。

 

「それに、天音っちはさぎりんとの約束を理由もなく破るようなコじゃないでしょ?不安になるのも当然だよ」

 

 まァ私はよく約束忘れちゃって奏とか雪華にドヤされてるけどねー、と軽口を言いながら携帯端末を取り出す千聖。そして端末を操作し、ある人物へと連絡を取り始めた。

 

「ちょっと待っててね、今から人探しめっちゃ得意なヤツ呼んであげるから。

 

 

 

 ――――あー、もしもし蒼?今アンタどうせヒマでしょ?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 ――――オッラ死ねゴラァ!!――――

 

 ――――殺すぞダボがァッ!!――――

 

 

 

 ――――御剣か。どうした?』

「……どうも、諸星さん」

「アツシ君おつかれー。獅堂と司もその辺いんの?喧嘩中?」

 

 伊織の端末から諸星へと連絡すると、マイク越しに獅堂と司の荒々しい叫びが断片的に聞こえて来た。

 

『春川も居たのか。まァ、そんな所だ。今「表」に出て来てたんだが、湾岸の近くでバカ共が絡んで来てな。久々に「遊んでる」』

 

 どうやら大文字一派の面々は『表』の東京へ繰り出しているらしく、そこで荒事に身を投じているようだった。彼等に喧嘩を仕掛けてしまった一般人の不良達には、同情するしかない。

 

「表に出てるなら丁度いい。他の連中に、今日の夜藤堂を見たヤツが居ないか訊いてみてくれねェか?」

「あー、天音のコトな。アツシ君天音分かる?」

『一年の藤堂の事なら、知らない奴の方が少ないだろう。何だ、行方不明にでもなったのか』

 

 伊織達からの問いで即座に状況を理解しながら、仲間達に確認を取る諸星。

 

『悪いが、こっちに見た人間は居ないらしい。そっち(魔術都市)に戻る前にこちらでも少し捜してみるが、あまり期待はするなよ』

「おっけ。助かるわ、ありがとな。それとアツシ君さ、――――」

 

 天音の目撃情報は無い事を聞いた日向は、諸星へともう一つ問い掛ける。

 

「――――東帝の屋上で寝てるヤツのコト、知ってるか?」

「…………?」

『……天堂に会ったのか。確かに、アイツの魔力知覚なら見つけられるかもしれないが…………』

 

 日向は以前屋上で出会った、強大な魔力知覚(探知力)を持つある少年について思い出していた。面識の無い伊織は話が掴めない様子だったが、諸星は恐らく三年生と思われるあの男について心当たりがあるらしい。

 

『簡単に力を借りられるとは思わない方がいいぞ。アイツは相当気紛れだからな』

 

 そう言い残し諸星は、日向達との通話を切った。結局、天音に関する手掛かりは未だに見つかっていない。

 

「空条と合流して、情報を整理した方がいいかもな……」

 

 一度学園に戻るべきかと伊織が考えていた時、今度は日向の携帯端末から小さく受信音が響く。立体ディスプレイを投影すると、そこには差出人不明の一通のメールが届いていた。

 

 

 

 メールを開封し、その内容を目にした日向は――――

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 魔術都市のインフラを稼働させるエネルギー、その管理・制御を行なっている『工業地帯』。

 

 

 

 無数の工場やプラントが立ち並ぶその場所の一角で、一人の少女が傷を負い倒れ伏していた。その少女――――藤堂 天音の前には、炎の紋様(ファイヤーパターン)の仮面を着けた謎の人物が佇んでいる。

 

 更にその人物の背後には、資材に腰掛けた一人の少年の姿があった。

 

「やはり藤堂家の『神童』と言えど、貴方の前では一介の術師に過ぎないようですね」

 

 変声機(ボイスチェンジャー)越しと思われる、仮面の人物の不気味な機械音声にも背後の少年は反応を見せない。暗闇に隠れその表情は見えなかったが、沈黙を守っていた少年は腰を上げると天音へと歩み寄り始めた。

 

 そして、その手に握った一本の槍を天音へと向ける。収束していく魔力によって、形作られていく光の槍撃。

 

 光属性魔力×形成術式

 

穿光角(スラストホーン)

 

 少年が撃ち放った魔力の刺突が、天音へと襲い掛かった。

 

「――――ッ、…………」

 

 天音は傷が深く身体を起こす事も儘ならず、無情な一撃が既に眼前まで迫っていた。しかし、直撃の寸前。

 

 

 

 

 

 ――――上空から振り下ろされる、一閃。

 

 

 

 割って入るように飛び降りて来た少年が、一刀の下に光の槍を叩き斬っていた。

 

「っ……御剣……」

 

 突如として現れ自身を守るように立ち塞がった、その少年の名を呼ぶ天音。対して伊織に魔術を両断された謎の槍使いは動揺を見せる事は無かったが、次の瞬間新たな乱入者によって殴り飛ばされていた。

 

 咄嗟に防御しながらも吹き飛ばされる程の、爆炎の一撃。伊織と共に姿を現した春川 日向は、その視線の先で体勢を立て直していた『槍使い』へと言葉を放った。

 

 

 

 

 

「何のつもりだ?…………説明しろ。――――」

 

 

 

 そして射し込む月光によって、影に隠されていたその人物の素顔が照らし出される。

 

 

 

「――――鎧」

 

 

 

 そこにあったのは、彼等が知っている()()()()人物の姿。天音を殺害しようとしたその槍使いの正体は、天城 鎧だった。

 

 

 

「何故この場所に……!?」

 

 鎧の傍らで炎の仮面を纏った人物が疑問の声を上げるが、日向は携帯端末から一通のメールをホログラムで展開し提示する。

 

 

 

『【無題】

 

 

 

 工業地帯 藤堂天音

 

 

 

 ――――SB――――』

 

 

 

「……誰が送って来たのかは知らねェけどな」

「……成程。何者かに感知されていたようですね」

 

 天音達の居場所を突き止めていたのは、日向の端末に送信された謎のメールだった。『SB』という差出人には一切心当たりが無かったが、唯一の手掛かりであるその情報を信じ日向達はこの場へ急ぎ現在に至る。

 

 

 

「天城……オマエ、何が目的だ……!?」

 

 天音を抱き起こしながらも、動揺を隠せない様子で問い掛ける伊織。

 

「――――君にも春川君にも伝えた通りさ。僕の目的は初めから一つ。魔術の公表だよ」

 

 ここに来て初めて口を開いた鎧は、普段と変わらぬ穏やかな声音だった。しかしそこに含まれている感情は一切見通す事が出来ない。

 

「巫山戯んじゃねェ……それと藤堂に何の関係があるって聞いてんだよ……!!」

「君に汲み取れない真意を、僕が明かす必要は無いだろう。……一つだけ教えるとするなら…………」

 

 怒りを押し殺すように辛うじて冷静さを保つ伊織へと、淡々と言葉を続ける鎧。

 

「僕の作る社会に、藤堂さんは不要だった。それだけだよ」

「テメェ……!!」

 

 それと同時に鎧と仮面の人物の背後から、十数人の集団が姿を現す。皆一様に強い魔力を有しており、鎧の仲間の魔術師である事が見て取れた。

 

「目撃された以上、貴方達三人には消えて頂きます。……一つ伝えておきますが、この一帯からの魔力及び通信は遮断しています。脱出も救援も不可能ですので、悪しからず」

 

 仮面の人物が空を示すと、既に工業地帯全域を覆うような巨大な結界が張られている。端末は圏外になっており、外部への連絡は取れないようになっていた。

 

 

 

「…………伊織、天音担いで逃げろ」

「……お前はどうすんだよ」

 

 見る限り天音は相当な深傷を負っており、早急な治療を施さなければ命に関わる危険性もある。しかし伊織の剣で結界を斬り脱出出来れば、彼女が助かる可能性も確かに存在していた。問題は、結界の端まで辿り着けるかどうか。

 

「俺は残るよ。……守りながら戦うなら、多分お前の方が得意だろ」

「…………分かった。俺が戻って来るまで持ち堪えろよ」

「おう。任せたぞ」

 

 あらゆる追撃の魔術を斬って無効化出来る伊織が天音を守りながら脱出を試み、日向は敵を足止めし追走を阻む。日向をこの場に残していく事は苦渋の決断だったが、天音を救う為にはそれが最善の選択だと伊織は即座に理解していた。

 

 天音を抱え上げ、駆け出す伊織。

 

 

 

「行かせると思いますか?」

 

 仮面の人物の声と共に、周囲の魔術師達が二人を追うべく動き出そうとした。しかし――――

 

 

 

 火属性攻撃術式

 

『戟衝破・捌連』

 

 

 

 ――――閃く、烈火。

 

 

 空を薙ぐような回し蹴りの動作(モーション)から、八本のレーザーが撃ち出される。放たれた熱線が魔術師達を吹き飛ばし、建造物の外壁へと叩き付けた。

 

「行かせねェよ」

 

 揺らめく火炎を纏う日向は、その瞳に静かな激情を封じ込めながらそう告げる。

 

「…………流石だね、春川君。学園では力を隠していたのかい?」

「そりゃお互い様だろ…………」

 

 学生のレベルを凌駕する程の日向の戦闘能力に、微かに笑みを浮かべる鎧。

 

「彼は僕が抑えます。貴方は御剣君達を追って下さい」

「承知致しました」

 

 仮面の人物は命を受け動き出し、それと同時に地を蹴った鎧が瞬く間に距離を詰めた。『(ソニック)』によって一気に肉薄した鎧の槍刃が、日向の頭上から打ち下ろされる。

 

 炎を纏った両腕を交差させ防ぎ止めるが、凄まじい衝撃が日向へと襲い掛かった。

 

 

 

「……君はあまり、僕の事を信用してなかったみたいだね。この状況への適応が早すぎる」

「……初めて会った時から胡散臭ェヤツだとは思ってたよ。お前の言葉はいつも本心じゃなかった。疑う理由には充分だろ」

 

 光と炎の魔力が鬩ぎ合う中で、言葉を交わす鎧と日向。

 

 日向は伊織よりも明らかに、鎧の本性に対して動揺していなかった。その理由は単純。鎧の危険思想を直感的に感じ取っていたからこそ、日向は彼を警戒し続けていた。

 

 

 

「……認識を改めよう。君は僕が思っていた以上に、冷徹な人間だったみたいだ。あの明朗な性格は、本心じゃなかったのかい?」

「……今更お前が知る必要は無ェよ」

 

 愉快そうに――――僅かな歪みを湛えた笑みを浮かべる鎧へと、日向は凍てつくような声音でそう応えた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「……クソ……しっかりしろ、死ぬんじゃねェぞ……!!」

 

 次々と迫り来る襲撃者を斬り伏せながら、結界の出口を目指し疾駆する伊織。背負った天音へと懸命に声を掛け続けていたが、彼女の呼吸は浅くなっていく一方である。

 

 鎧の配下の人間達による追撃は激しさを増し続けており、未だ多くの魔術師がこの工業地帯に潜んでいる事が推測出来た。

 

「みつ……るぎ……」

「っ、気が付いたか……!!喋らなくていい、もう少し辛抱しろよ」

 

 しかしその時、伊織の背中で天音が意識を取り戻す。息も絶え絶えになりながら、天音は訴えかけるように声を発した。

 

「お願い、春川の所に戻って……」

「分かってるよ……!けど今は、お前を安全な場所まで運ぶのが先だ」

 

 それでも尚引き返そうとはしない伊織だったが、続けて天音が放った言葉に目を見開いた。

 

「殺されるの……春川だけじゃ、天城には勝てない……!!」

「ッ……!?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「疑問には思わなかったのかい?何故藤堂さんがあそこまでの重傷を負って、完膚無きまでに敗北していたのか」

 

 両手を広げ、一人悠然と語る鎧。その眼前には、全身を無数の穿孔に貫かれ膝を突く日向の姿があった。

 

「答えは一つ。君達と僕の間に、超えられない壁があるだけさ。絶対不可侵の、実力の差だよ」

 

 日向の眼に宿る闘志は未だ消えてはいないが、流血は夥しく身体内部の魔力波長も不安定に揺らめいている。

 

「純粋な、格の違いを教えよう――――」

 

 鎧が掻き上げた黒い頭髪の右側が、魔力の影響を受け白色へと変化し始めていた。

 

 

 

 

 

「――――"『お前』じゃ、『俺』には勝てねェ"」

 

 

 立ち昇る魔力の色は『純白』と『漆黒』。光と闇、双つの力を纏った少年の、残忍な宣告が静かに響いた。

 

 


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