Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第33話『強さの在り方』

 東帝戦、2日目終了。

 

 午後8時、学生寮二年エリアにて。

 

 

 

「そんじゃ……テツ君一回戦敗退おつかれ〜」

「ハイおつかれー……」

 

 半屋外テラスの座席で、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらグラスを差し出して来るアラン。対して徹彦は普段通り覇気の無い表情で、自身のグラスをぶつけ乾杯していた。

 

「やー、まさかテツ君が敗けるたあね〜。やっぱ強かった?春川 日向」

「うん……強かったよ。それに、墜ちる瞬間にさ……笑ってたんだよね」

 

 戦いの中での日向の様子を、思い起こしながら口を開く徹彦。

 

「恐怖でも、焦りでもなく……笑ってたんだ。アレは明らかに……蒼さんとか亜門側の人間だよ」

「あー、()()()()ってコトね。…………けどまァ、蒼さんにはドヤされるだろうね〜。結局初戦で消えちゃったワケだし」

「マジでソレが目下最大の悩みだわ……」

 

 一日を振り返りながら雑談して来た二人だったが、その時入口フロア付近が俄かに騒がしくなり始めていた。

 

「お、ウワサしてたら来たっぽいよ」

「最悪だ…………」

 

 二年生達の注目を集めながら登場したのは、やはり二人が話題に挙げていた人物。

 

「オイ徹彦〜オマエ何やってんだ〜?」

「いや違うんだって蒼さん……マジで一個言い訳させて」

 

 姿を現した蒼は、胡乱気な表情で徹彦に問い掛ける。

 

「……俺は敗けるつもりは無かったよ。ちゃんと本気でやった」

「ならお前……なんであの時、座標固定(セカンド)を解いた?」

 

 

 

 

 

 日向と徹彦の、最後の交錯。繰り出された剛炎の拳撃を、『不動』の力を誇る防御魔術が迎え撃った。

 

 しかしその時、徹彦の魔力知覚が異質な波動を感じ取る。

 

 

 

『ブッ、飛ばすッ――――!!』

『ッ――――!!』

 

 嗤う日向の拳の中で、蠢き脈動する不気味な魔力。その得体の知れない圧力に、本能が危険を告げる。

 

 そして、その瞬間。徹彦の脳裏を過った、一つのイメージ。

 

 

 

(破られる――――!!)

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 何の根拠も無い、僅か一瞬の思考。しかしその直感は、徹彦の能力を無意識下に操作していた。

 

 咄嗟に術式を障壁装甲(ファースト)へと切り替えた事で、爆皇破の衝撃と慣性は後方へと受け流される。

 

 その結果。

 

 徹彦の身体はバトルフィールド外まで吹き飛ばされ、スタジアムの内壁へと叩き付けられる。そして相手を場外へと退けた事で、日向が勝者とされ戦いは決着した――――

 

 

 

 

 

「……要はオマエが土壇場でビビっただけだろうがこの野郎」

「いやちっげェから。勝手に能力が切り替わったっつーか……正直俺にも分かんねェんだって、なんでセカンドが解けたのか……!!」

 

 望んでいた戦いの機が泡と消えた事で蒼は立腹していたが、徹彦は諌めるように言葉を続ける。

 

 

 

「まあでも展開としては、コッチの方が面白ェんじゃねーのかな。多分蒼さんも、俺より日向君と戦った方が()()()()と思うよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「いやー、何とか勝てたわ。良かった良かった」

 

 一方で一年のエリアでは、頭部に包帯を巻き付けた日向が一回戦突破を喜んでいた。隣には彼と同じく二回戦に進出した伊織が座っており、向かいの席では天音と沙霧が一回戦のハイライトをモニターで閲覧している。

 

「ホント、危なっかしい戦い方してんじゃないわよ……見てるこっちがヒヤヒヤさせられたわ」

「でも、古田先輩の防御を突破するなんて本当に凄いよね。正直、どうやったの?」

「うーんそれだけがなァ〜……どうにも思い出せねェっつーか、そもそもどう勝ったのかよく覚えてねーんだわ」

「何ソレ……アンタ記憶障害でも起こってんじゃないの?」

 

 沙霧からの問いに日向は平然と首を傾げており、天音は怪訝な表情を向けつつも軽く心配するような言葉を掛けていた。

 

 

 

「…………」

「伊織、お前どうかしたのか?さっきから黙ってっけど」

「…………いや……何でもねェ」

 

 しかしその傍らでは、伊織が考えに耽るように沈黙している。

 

 

 

 

 

 ――――実はあの時伊織だけが、戦いの中で日向に現れた一瞬の『異変』に気付いていた。

 

 

 

 徹彦へと爆皇破を叩き込んだ、あの瞬間。

 

 日向の拳には、啓治や獅堂との戦いでも現れていた『謎の魔力』が纏われていた。

 

 八属性中のどの魔力とも似つかない、暗色のエネルギー。恐らく日向自身も気付かなかったであろう一瞬の展開を、伊織の動体視力は見逃さなかった。

 

 

 

(――――まさか…………いや、あり得ねェか……)

 

 その時伊織は、日向の『謎の力』の正体についてある可能性に思い至る。それは――――彼の師である人物が持つ、"九番目"の『属性性質』。

 

 

 

 

 

 桐谷恭夜と同じ、『"影"属性』。

 

 

 

 

 

 しかしあの『影』の魔力は、全世界で恭夜以外に誰も発現者が存在しない彼だけの特異属性である。日向が持ち得る筈は無いと、伊織は即座に自身の考えを否定した。

 

 

 

「まァそれはともかく……アンタは明日の相手について考えた方がいいんじゃないの?」

 

 一転して天音が言及したのは、日向の明日(二回戦)の対戦相手について。

 

 Bブロックから出場している"第3シード"、如月 亜門。

 

『学園最速』と謳われる程のスピードと、『風神』の異名を持つ男。二年の中で戦闘能力トップかつ『十席』のNo.4でもあり、強大な壁として日向の前に立ちはだかって来る事は間違いなかった。

 

 

 

「あー、あの双子のヤツらか。どっちがどっちだったか忘れたけど……まァ確かに結構強かったな」

 

 タッグロワイヤルで交戦した、亜門の実力に考えを巡らす日向。

 

「けどお前、ログ見る限りでは押し勝ってただろ。……大文字より順位も低いなら、特段気張る必要も無ェんじゃねェか?」

「意外ね、アンタからそんな慢心じみた言葉が聞けるなんて。……あんまりあの人の事を甘く見ない方がいいわよ」

 

 以前日向が獅堂と互角に渡り合った事を引き合いに出す伊織だったが、彼がタッグ戦の映像を見ていた端末を取り上げながら天音が忠告する。

 

「亜門さんと士門さんは二人でも相当強いんだけど……その分、頭が回ってないのよね。だから正直、一人の時の方が戦う相手としては手強いわよ」

「しかも……亜門先輩も、模擬戦で大文字先輩と引き分けた事があるらしいよ……!!」

 

 更に天音に続いて沙霧が、自身の端末で調べていた情報を日向と伊織に表示して見せた。

 

 学園のデータベースに記録されていた戦闘成績。そこに映し出されていたのは、亜門が獅堂や雪華と決闘し引き分けていた事に加え、一対一戦闘での勝率が9割を超えているという驚異的なデータだった。

 

「マジか……タイマン強ェんだなコイツ……!」

 

 その戦績に目を通した日向は、驚きと期待が入り混じったような表情を浮かべている。

 

「ところでアンタも明日二回戦なんでしょ?大丈夫なの?」

「あァ、"相手"の戦術はもう頭に入ってる。問題無ェよ」

 

 一方で天音にそう応えた伊織もまた、ある"強敵"との戦いを翌日に控えていた。

 

 

 

 そしてその頃、啓治と創来は――――

 

 

 

 ◇◇◇

 

 風紀委員会専用トレーニングルームにて。

 

 

 

「フッ……!!」

 

 鋭く息を吐き出しながら、上段蹴りによってサンドバッグを叩き飛ばす啓治。

 

「よォ。……随分気合入ってんなァ」

 

 その背後から声を掛けたのは、入口の扉に寄り掛かっていた湊だった。

 

「お疲れ様です。湊さんも勝ち進んだらしいっスね」

「あァ、つっても明日は黒乃さんだからなァ……流石に厳しいと思うわ」

 

 互いに初戦を突破し、明日の二回戦へと進出していた二人。

 

「……お前は同学年対決か、明日は」

「……ハイ。これ以上……アイツらに遅れを取るワケにも行かないので」

 

 湊からの声にそう応えた啓治は、再びサンドバックへ蹴りを叩き込み轟音を響かせた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 スラム旧校舎屋上にて。

 

 夜空の下、座禅を組み瞑目していた創来。彼が思い起こしていたのは、以前恭夜と交わした言葉だった。

 

 

 

『成程な……"あの時"の力を、いつでも引き出せるようになりてェってか』

『……あァ。身に余る力ってコトは、自分が一番解ってる。けど……』

 

 創来が恭夜に相談を持ち掛けていたのは、ある"力"の再現について。

 

 ――――かつて啓治達と戦った時、半ば暴走した状態で発動させていた『強化形態』の事だった。

 

『簡単だ――――』

 

 

 

 恭夜から告げられた、一つの答え。記憶を呼び起こしながら、ゆっくりと目を開いていく。

 

(『感情を、制御する――――』)

 

 

 

 怒り、恐れ、憎しみ。『枷』によって縛られた、魂の内側に渦巻く力の本質(感情)

 

『魔術ってのは"心"の力だ。自分自身が"信じて""望めば"……力は必ず、お前に応える』

 

 抑え込むのではなく、受け容れる。律する事、御する事とは――――心の形を、魂の在り方を見つける事。

 

 己の中核に座す『信条(心情)』が、解き放たれ、共に戦う力へと変わっていく。

 

 

 

 彼等の真価を問われる戦いが、始まろうとしていた――――

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「オイ……お前いつまでやんねん」

 

 学園地下の訓練施設にて。

 

 内壁には凄まじい威力の刺突による物と思しき、幾つもの穿痕が刻まれていた。

 

 

 

「全然アカンわ……"風神"じゃ蒼クンには勝てん……!!」

 

 士門の声に振り返る事もなく、亜門は壁を睨みながらそう吐き捨てる。

 

「付き合い切れるか……先帰っとくぞ」

 

 呆れたようにそう言い残し士門はその場を後にするが、亜門は無心で剣を振るい続けていた。

 

 驚異的な集中力で、剣の世界へと没入していく。

 

 

 

 彼を突き動かすのは、飽くなき強さへの探究心のみ――――

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、7月18日。東帝戦3日目。

 

 三人のシードが、参戦する。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 第二演習場(スタジアム)

 

 本戦トーナメント、二回戦。バトルフィールドにて相対する、二人の少年。

 

『さァ、本戦2日目のトーナメント二回戦!!Cブロック注目の対戦カードが間も無く始まります!』

『上級生達を押し退け参戦した四人の一年(ルーキー)、その内二人が早くも激突!!目が離せない一戦となりそうです!!』

 

 

 

『皇 啓治』VS『漆間 創来』。

 

 歓声と実況の声を一身に受けながら、互いに不敵な表情で対峙する。

 

「……あん時の再戦と行こうじゃねェか」

「あァ……受けて立つ」

 

 啓治の言葉に応えながら、創来は背負った大剣の柄を掴み取った。

 

 RHインダストリー製展開式大剣『クラレント』。

 

 

 

 一方で啓治もまた、自身の魔術武装を起動させる。

 

 A(アーマーズ)G(ギア)『ナックル・R/L』

 

 一対のメリケンサックを握り込むと同時に、両腕のブレスレットから装甲が展開され籠手(ガントレット)へと変形した。

 

 

 

 鳴り響く、戦闘開始の合図。双方ほぼ同時に動き出すが、先に攻撃態勢に入ったのは啓治だった。

 

 自ら施したアップデートにより、新たにナックルに搭載された追加機能。予め充填(ストック)されていた魔力が、掌部のエネルギー変換コアへと収束し『弾丸』を形成する。

 

『ガントレット・ブラスト』

 

 両手から撃ち出される、無数の魔力弾。挨拶代わりとばかりに放たれた連弾が迫り来るが、対する創来は真っ向から突進を仕掛けた。

 

 戦場を駆ける強靭な脚力を以て、魔弾の尽くを打ち払う。更にトップスピードのまま疾走する創来は、弾幕を蹴り破ったその脚で力強く地を踏み込んだ。

 

 そして上空へ跳躍すると同時に、天高くその刃を振り翳す。『クラレント』へと集中していく、闇属性の魔力。

 

 

 

 闇属性攻撃術式

 

『ダークネスカリバー』

 

 振り下ろされる、渾身の斬撃。

 

 

 

 しかし。

 

 叩き付けられた筈の刃は、ガードすらしていない啓治の首筋で止まっていた。その一撃を防いでいたのは、体表を走る魔力によって形成された不可視の装甲。

 

 無属性防御術式

 

『鉄身』

 

 性能としては、単なる身体硬化に過ぎない防御魔術。しかし奏との格闘訓練によって、その練度は大きく引き上げられていた。

 

 

 

「こんなモンじゃねェだろ……本気で来いよ、漆間……!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 スタジアム、出場者控室(バックルーム)にて。

 

「どっちが勝つと思う?」

「漆間だろ。一年の中ではアイツがNo.2らしいしな」

「いや……でも皇の方が押してねェか?」

 

 設置されたモニターに映し出された啓治と創来の戦いを、待機場から観戦している他の出場者達。彼等が勝敗予想に興じている中、自身の試合を間近に控えた日向もまた静かに戦況を注視していた。

 

「…………」

 

 恐らく、二人の実力は拮抗している。ならば、局面を動かす事が出来るのは――――

 

 ◇◇◇

 

 

 

 無属性攻撃術式

 

『撃鉄拳』

 

『硬化』性能を付与されたカウンターの一撃が、武器防御の上から創来を吹き飛ばした。更に体勢を立て直す間も与えず駆け出した啓治は、『撃拳』と『撃脚』による猛攻を間隙無く叩き込む。

 

 連撃に纏われた魔力が、空中に描き出す光の軌跡。流れるように炸裂する波状攻撃に、創来が次第に押し込まれていく。

 

 魔力(エネルギー)を最適化し攻防へと利用するA・Gの性能と、奏や湊との鍛錬によって強化された戦闘技術。相乗効果によって引き上げられた啓治の格闘能力は、目覚ましい進化を遂げていた。

 

 大剣を弾かれた創来だったが、襲来する蹴りを迎え撃つべく自身もまた魔力を脚部へ流し込む。

 

 

 

 無属性魔力×強化術式

 

『撃脚』

 

 闇属性魔力×強化術式

 

『イヴルストライク』

 

 両者が繰り出したハイキックが交錯し、周囲の空間へと衝撃が走り抜けた。衝突の反動を利用し互いに大きく距離を取るが、戦勢は著しく一方へと傾いている。

 

「やっぱ強ェな……!!」

「あ……?」

 

 しかし笑う創来の瞳は、依然として好戦的な光を湛えていた。

 

「けどこっちも……黙ってやられるつもりは無ェぞ……!!」

 

 

 

 轟音と共に、大剣を地へと突き立てる。そして目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。

 

「何だ……?」

 

 訝し気に警戒していた啓治の眼前で――――創来の全身から、爆発的な魔力波動が放たれた。

 

 

 

 柱の如く立ち昇る、黒い力の奔流。荒れ狂うエネルギーの圧力が、創来の身体を呑み込んでいく。

 

(抑え込むんじゃねェ――――制御するんだ――――!!)

 

 体内で魔力が暴れ回る激痛に、歯を食い縛り耐える創来。

 

 抑圧されたままでは、魔力は完全な性能を発揮出来ない。一度は暴走させた"力への渇望"を、己の武器へと変え再び行使する。

 

 今度は、強さを追い求める自らの"意思"として。

 

 

 

『――――お前を絶対、引き戻してやっからよ』

 

 もう、あの時とは違う。自分を止めてくれる、仲間がいる。

 

「そうだよな……日向……!!」

 

 

 

 迷いは消え、最後の『枷』は破られた。

 

 そして――――

 

 

 

 ――――解き放たれた獣が、目を醒ます。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ッ…………!!」

「へェ…………」

 

 観戦スペースの一角にて、周囲に凄まじい威圧感を放っていた二人。

 

 創来が見せた"進化"に、諸星は瞠目し、蛇島は興味深そうな視線をバトルフィールドへと向けていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 再び呼び起こされた力。

 

 魔力によって形成された、爪牙の如き装甲が身体各所に備えられている。

 

 全身に魔力を纏う事で更に戦闘能力を引き上げる、より高度な強化術式(ブーストフォーミュラ)。大文字獅堂や如月亜門が到達した、その領域()の名は――――『形態変化』。

 

 

 

 闇属性魔力×強化術式

 

()()()()・ダークナイトモード』

 

「最ッ高の気分だ……!!まだまだ勝負は……こっからだろ……!!」

 

 

 

 暗黒の猛獣は遂に、覚醒した。

 

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