Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第2話『Wizards School -東帝魔術学園-』

「……なんでこんな事になっちまったんだろな……」

「しゃーねーだろ、今更グダグダ言ってもどーにもなんねーよ。楽しんでこーぜ」

「テメェが楽しめんのは他人事だからだろォが」

 

 楽観的な日向の物言いに、伊織が腹立たし気に言葉を返す。

 

 今二人が居るのは、東帝学園の『闘技場』のワンサイド。そして伊織はこれから一対一の模擬戦に臨もうとしており、日向は入場直前の彼に一声掛けようとゲート付近へやって来ていた。

 

「まァ……やるからには勝てよ」

「……当たり前だ」

 

 ニヤリと笑いながら突き出された日向の拳に、自身の拳をぶつけ合わせた伊織は入場ゲートを潜り闘技場へと足を踏み入れる。

 

 全方位を取り囲んだ観客席から、響いて来る歓声。向かい側では、既に入場して来ていた伊織の対戦相手が彼を待っていた。

 

 新入生最強と目される少女。

 

「……まさかお前と戦う事になるとはな……」

「アンタがあの時言った言葉を……ここで撤回させる」

 

 天音から放たれた挑発的な言葉を受けながら、伊織もまた好戦的な笑みを浮かべつつ腰の刀へ手を掛ける。

 

「面白ェ……あの時の義理はあるが、敗けてやるつもりは更々無ェぞ」

 

 第一学年能力順位1位『藤堂 天音』VS同学年能力順位4位『御剣 伊織』。

 

 学年屈指の実力者として注目されている二人の対戦に、多くの生徒達が興味を示し観衆としてこの闘技場へと足を運んでいた。

 

 遂に戦いの幕が上がる。その発端を知るには、数日前に遡る必要があった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

「オラァ!!」

 

 その声と共に、魔力で強化された脚力による前蹴りが繰り出された。強烈な一撃を、相手は手に持った刀の腹で防ぎ止めるがそれでも大きく後退する。

 

「ヒューッ、やるじゃねーの」

 

 蹴りを放った少年、春川 日向はそう言いながら両の拳に魔力を集めると再度突撃した。

 

「ーーーーフッ!」

 

 対して刀を構えた少年、御剣 伊織は小さく息を吐き出しながら鋭く刃を振り抜き迎撃する。

 

 現在この訓練室(トレーニングルーム)ではクラス1-Aの戦闘演習が実施されており、生徒達は一対一での模擬戦を行っていた。

 

 多くの現代魔術の基盤(ベース)となっている『汎用魔術(ジェネラルマジック)』。その内の一つであり日向が得意としている『強化術式(ブーストフォーミュラ)』は、魔力によって身体機能や物体強度を上昇させる効果があった。

 

 打撃威力を強化する術式『(ストライク)』を、日向が保有する魔力に備わった『火属性』の性質が異なる術式へと派生させる。

 

 強化術式×火属性魔力

 

炎撃(エンゲキ)

 

 右腕全体へと纏った魔力を火炎へと変換しながら、その拳を眼前の相手へと叩き込む日向。

 

 しかし伊織はその炎の拳撃を、刀の峰で受け止め滑らせるように後方へと受け流す。同時に鳩尾へと肘打ちを炸裂させ、更に全身をバネのように捩らせ撃ち放った回し蹴りで日向を大きく吹き飛ばした。

 

 剣術と体術のコンボによって痛烈なカウンターを喰らい跳ねるように地を転がる日向だったが、驚異的なタフネスで平然と起き上がる。

 

「まだまだァ!!」

 

 またしても何の芸も無い突貫。と、見せかけて何かを仕掛けようとしていると読み警戒する伊織。日向は基本馬鹿だが戦闘のみに関しては相当に頭が切れるという事を、まだ短い付き合いながら伊織はよく理解していた。

 

 地を這うような低い姿勢からの突進で肉薄し、そこから全身を反転させ撃ち上げるようなサマーソルトキックを繰り出す日向。人体の急所である顎をピンポイントで狙って来たその蹴りを、伊織は大上段から振り下ろした一刀で迎え撃つ。

 

 しかし右脚と刃が衝突する寸前、日向の掌からジェットのように放射された炎が強引な方向転換させその身体を伊織の上方へと飛び上がらせた。行き場を失った剣撃を地へと叩きつけた伊織の上空から、必殺たり得る爆炎の一撃を振りかぶる日向。

 

(入ったーーーー!!)

 

 完全に不意を打ったと確信した日向が、その炎拳を振り下ろす。瞬間、日向は顎に強烈な衝撃を受け宙を舞っていた。刀を振り切った伊織の姿が視界の端に映り、返す太刀で放たれた超高速の峰打ちによって自分が吹き飛ばされたのだと察する日向。

 

 脳が揺らされ今度は立ち上がれない日向の様子を確認した伊織は、勝負ありと判断し刀を収めると彼の元へと歩み寄った。

 

「生きてるか?」

「おー……くっそー、なんで読まれたんだ」

「蹴りの速度(スイングスピード)が若干遅かったからな、引き戻そうとしてんのが直前で分かった。それと、移動の為の左手に意識を向けさせねェために右に派手に魔力を集めてたんだろォが、『右か上に飛ぶ』っつー当があの時点で付けばギリギリ対応は出来る」

 

 日向は大の字で寝転んだまま、最後のフェイントを伊織に見破られた事を悔しがっている。周囲でその模擬戦を見ていた他の生徒達は、二人のハイレベルな戦闘技術に感心したような視線を向けていた。

 

「オラ、立て」

「やー、完敗だわ。流石俺の相棒」

「誰がだ」

 

 軽口を言っている日向に手を貸し、立ち上がらせる伊織。同じクラスに属するこの二人は、学生寮の個室が隣同士だったという事もあり入学して以降共に行動する機会が多かった。とは言え会ってたかだか数日で相棒認定までして来る日向の距離感には、伊織も少しばかり辟易していたが。

 

「やーっと昼飯だなー。午後からの授業って何だっけか」

「術式理論講義」

「あー、あの眠いやつか……」

「テメェは座学全般そうだろが」

 

 そう言いながら日向と伊織はその場所を後にしようとしたが、隣の訓練室から響いて来た轟音に気が付き足を止める。他の生徒達に混ざって二人もそちらを見に行ってみると、そこには五人を相手にたった一人で圧倒している少女の姿があった。

 

 彼等と同じく、クラス1-Aに所属する彼女の名は藤堂 天音。新たに学園へと入学した一年生らの中でもトップクラスの実力を持つと言われており、尚且つ魔術社会で大きな影響力を持つ名家の一つ『藤堂家』出身の人間である事も有名だった。

 

 多対戦を終え訓練室から出て行こうとしていた天音だったが、退室直前にふとギャラリーの中に紛れていた伊織の姿を見つけ一瞬鋭い視線を向ける。そしてすぐに、何事も無かったかのように立ち去って行った。

 

「……なァ伊織」

「何だ」

「オマエ最近あの不良ガールにめっちゃガン飛ばされてるよな。なんかキレさせるようなコトでもしたんか?」

「一切心当たりが無ェ。そもそも関わりすら殆どねェんだがな」

「ほとんどっつーと?」

「入学式の日に道聞いただけだ、別に大した事じゃねェだろ」

「お礼言った?」

「俺の保護者かテメェは……言った」

 

 その様子に気付いていた日向は、何か事情があるのかと伊織に尋ねる。しかしその返答は、至ってぶっきらぼうな物だった。

 

 ◇◇◇

 

「おーっす不良ガール。ん?オマエ意外とジャンクフード好きな感じなんだ。まー俺も好きだけど」

 

 4号館と5号館の最上階を繋ぐ連絡通路に設けられた、学園を一望出来る屋外テラス。そこでバニラシェイクのストローに口を付けていた天音に声を掛けたのは、彼女と同じチェーン店から買って来たと思われる大量のハンバーガーを抱えた日向だった。

 

「……別に私、校則違反とかは何もしてないけど」

「や、ゴメン。めっちゃ見た目の偏見(イメージ)だけで喋ってた。気ィ悪くしねーでくれ」

 

 やや不服そうな言葉を返しながらフライドポテトを摘んでいる天音は、その整った容姿も相まって昼休み中の今も多くの人目を引いていた。しかし天音の金髪は地毛であり、ピアスやチョーカーなどのアクセサリー類も東帝の校則では特に禁止されていない。

 

 そんな彼女へ軽く謝りながら、テーブルを挟んだ向かい側に座った日向は豪快にバーガーへとかぶりついていた。

 

「んっ、うっま……あのさ、天音は伊織のコト嫌ってんの?」

 

 ムシャムシャと昼食を貪りながらもいきなり本題へと入って来た日向に、天音は少し面食らいながらも返答する。

 

「…………アンタは割と仲良いわよね」

「まー、寮の部屋隣だしな。で、どうなん?」

「別に……嫌いってワケじゃないわ。ただ……少し、興味があるだけ」

「あーそう言う感じ?なんなら今スグ呼んでやろうか?」

「やめて。アンタが想像してるのとは違うから」

 

 日向を睨みながら、提案を即刻却下する天音。

 

「……魔力が無い人間が、なんでここ(東帝)に入学出来たのか……気になってるのは、それだけよ」

「ほーん…………強ェからじゃね?」

 

 天音からの疑問に日向が返したのは、至ってシンプルな答えだった。

 

「俺まだ一対一(サシ)でアイツに勝ったコトねーし。強ェヤツが多けりゃ、学園にも色々良い事あんじゃねーのか?」

「そんな単純な話だったら良いわね……」

 

 天音はそう呟きながら、制服の袖ボタンの横に取り付けられた超小型プロジェクターからホログラムを投影する。そこに表示されていたのは、彼女の学年内での能力(魔術師としての実力)の順位を示す数字だった。更にその下には、順位の算出基準である4桁の数字『S(スクール)W(ワークス)P(ポイント)』が映されている。

 

 SWPは東帝へスカウトされた入学者に事前試験として課せられた『能力測定』での得点と『講義並びに演習』での評価成績の合計を数値化した物であり、生徒にとっては学内での自身の現在地を測る指標となっていた。

 

「おーすっげ、もう1500超えたのかよ。2000とかすぐいくんじゃね?」

「アンタもあんだけ授業中寝てんのに、ほぼ戦闘演習だけで900取ってんのは相当だと思うけどね……」

 

 まだ入学して数日にも関わらず、天音のSWPは学年トップどころか上級生達にも迫る1596点。推薦入学者の日向は能力測定を免除されておりその代わりの特別得点と戦闘演習で高いポイントを獲得していたが、ほぼ全ての講義で爆睡している為座学の評価点数が著しく低く学年順位が伸び悩んでいた。

 

「てかアンタ……5限の術式理論の予習やったの?今日小テストあるけど」

「は?……ウッソだろヤベーじゃん伊織のノート見ねーとヤベーヤベー、俺ちょっと行くわ。ありがとな、んじゃ」

 

 天音の言葉を聞いた日向は、一瞬完全に停止し手からバーガーを取り落とす。すぐにそれを拾い上げ口の中に詰め込むと、頬をパンパンにしながら席を立ち慌ただしく席をテラスを後にした。

 

 しばらくその騒がしい後ろ姿を見ていたが、やがて学園の外の風景へと視線を移す天音。その一連の様子を、魔術によって強化された視力で遠巻きに見物している『誰か』がいた。

 

 ◇◇◇

 

「……入学早々、中々人気になってんじゃねーかお前。色んなトコで色んなコに噂されてんぞ」

「また『覗き』っスか。いい加減趣味悪いって気付いた方が良いっスよ」

 

 教員へと与えられた私室から学園全体を魔術で『視』通していた1-A担当教員桐谷 恭夜は、来客用のソファに腰掛けた伊織から辛辣な一言を返されていた。恭夜は伊織を東帝へ入学させた張本人であり、この二人は実は数年前からの付き合いなのだがそれを知る人間は少ない。

 

「『家柄』も『魔力』も無ェ人間が学園(ココ)に居るっつーコトが、排外的な保守派の『名家』連中からすりゃ気に入らねェんでしょうよ」

 

 伊織が冷淡な声で口にした『名家』という言葉は、魔術社会に於ける貴族的特権階級と言える『魔術旧家』を指していた。それは遥か昔の時代から多くの優秀な魔術師を輩出している家系の事であり、その旧家出身の人間は学園内部でも一般生徒より様々な面で強い影響力を有している。

 

 しかし彼等の一部には行き過ぎたエリート思考によって生徒間の身分格差の助長を招くような者が存在しており、また伊織のように高い実力を持った一般生徒を目障りに思う人間も少なくなかった。

 

「だったらよ、その下らねェ風潮を払拭すべく……お前、『開幕戦』出ねェか?」

「『ポイント変動制』解禁のアレっスか?嫌ですよ面倒クセー……何で俺が?」

「毎年学年順位が上位の奴が、初戦を派手に盛り上げるっつーのが恒例なんだよ。A組No.2のオマエならその点申し分無ェしな」

 

 その時告げられた恭夜からの提案に、伊織は露骨に嫌そうな顔をしながら手首の小型投影機(プロジェクター)からSWPを映し出す。伊織のポイントは1264点、このポイントは一年の中では第4位でありA組の中では二番目に高い実力を持つ事を示していた。

 

 ちなみにD組に所属する第2位の生徒は開幕戦出場を辞退し、E組の第3位の生徒は入学初日に乱闘騒ぎを起こし現在謹慎中の為伊織が繰り上げられたのだと恭夜が補足する。

 

 そしてポイント変動制とは模擬戦によって生徒間のSWP移行を可能とする『決闘制度』の事であり、これによって学内競争を加速させ更なる実力向上を図るという東帝の教育政策だった。

 

「……一応聞きますけど、相手は?」

「オマエが()()()()()()()()()()()()()とか大見得切ったヤツ」

「アンタどっから……!?」

「ハハッ、俺には何でもお見通しなんだよォ。……ま、アイツに勝てば旧家(クズ)共はまとめて黙らせられるぜ?まァ天音自身は連中と違って良い奴だからちょっと気の毒な気もするけどな……自信が無ェワケじゃねェだろ?」

 

 恭夜が名を口にした少女は、数値上は伊織よりも格上。しかし、伊織の表情に焦りは見えない。

 

「……ちなみに天音はこの話、何も言わずに乗ってきたぞ。アイツはお前と白黒つける気満々らしいが……どうする?」

 

 ニヤつきながら恭夜は、逃げ場を失わせるようにそう告げる。その手回しの早さに、伊織はとうとう観念したかのように一つ息を吐いた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、現在に至る。

 

 闘技場にて対峙していた両者は、決闘開始のアナウンスと同時に動き出した。

 

「おー始まった。んで、センセーはこんなトコで何ひてんの?」

「おっ、やるな日向。この幻術見破ったのはお前で二人目だ」

 

 そんな中観覧席に戻って食堂から買って来たポップコーンを頬張っていた日向は、隣に座っている人物へと声を掛ける。黒い髪にサングラスを掛け、日向と同じように東帝の制服を身に纏った少年。彼の正体は、変身の魔術によって生徒へと姿を偽装した恭夜だった。

 

「んー、勘っつーか。強ェヤツの気配で分かった」

「野獣かお前。まァ、面白ェ騒ぎはいつだって最前列で観戦に限るだろ。そういう事だ」

「野次馬根性極まってんね」

 

 恭夜は完璧に学生達に扮して歓声をあげている一方で、ドサクサ紛れに日向のポップコーンを横から摘み食っている。

 

 伊織は一刀を抜き放ち、ゆっくりと歩を進め始める。対して天音は丸腰。しかしその全身からは、今にも解放されんばかりの膨大な魔力がオーラのように立ち昇っている。

 

「日向はどっちが勝つと思う?」

「……天音だろ」

「ヘェ……そこは相棒とは言わねェんだな」

「うん……伊織は近接戦闘(クロスレンジ)はクソ強ェよ。けど、天音にはそもそも()()()()()()()単純(シンプル)に相性が(わり)ィ」

 

 意外そうな恭夜を尻目に、あくまで客観的な予想を述べる日向。同時に天音の指先へと魔力が収束し、伊織はそれを察知して地を蹴った。

 

 強化術式(ブーストフォーミュラ)と並ぶもう一つの汎用魔術(ジェネラルマジック)、『形成術式(モールドフォーミュラ)』。その中でも多くの術師に用いられている攻撃術式『(ブラスト)』が、天音によって『爆発』と『加速』の性質を付加され撃ち出された。

 

 形成術式×火属性

 

爆速弾(エクスプロズブラスト)十連(デキャプル)

 

 十発同時に放たれた爆炎の弾丸が、不規則な軌道を描きながら次々と襲い掛かる。縦横無尽にフィールドを走り抜けながら、追従する爆撃全てを紙一重で躱して行く伊織。しかし距離を詰められるより速く、天音は新たな魔術を展開していた。

 

 "風属性"攻撃術式

 

陣戦風(ウォーズトルネード)四連(クアドラプル)

 

 しかし新たに天音が繰り出した術式の属性は、先程の『火』から一転し『風』。

 

「出た……"二つ目"だ」

 

 天音の魔力によって形成された四つの竜巻が伊織へと襲来する中、日向はそう呟く。

 

 ◇◇◇

 

 人間が体内に保有している魔力には、『属性性質』と呼ばれる自然属性を模したかのような性質が備わっている場合がある。これには火・水・風・土・雷・氷・光・闇の八種が存在し、この中のいずれの性質も持たない魔力は無属性に分類される。魔力を用いて術式を発動する際に属性を付加するこの性質は、本来一人に一つ備わっているかどうかといった希少な物。しかし魔術師として優れた素質を持った人間の魔力には、二属性以上の性質が発現するといった事例(ケース)も決して多くはないが存在した。

 

 そして、天音の魔力に備わった属性性質の数は()()

 

 即ち彼女は、世界でも僅か数名しか確認されていない『全属性魔術師』の一人だった。

 

 ◇◇◇

 

 猛烈な暴風は間合いを詰めようとする伊織を、壁のように阻みながらその退路をも着実に断ちつつあった。

 

 日本魔術界の至宝たる、八属性魔力を自在に操る『神童』。その力の前に一方的に追い詰められつつある伊織の姿に、多くの観衆は天音の勝利が近付いていると半ば確信していた。

 

「あーそっか……そういやお前はまだ見たコト無かったんだな。アイツ(伊織)()()()()()

「本当の……?どういう意味だよ?」

「まァ見てろ。そろそろ出して来るぞ」

 

 しかし恭夜は依然として劣勢である筈の伊織へと、期待するかのような眼差しを向けている。その視線の先で、伊織は新たな動きを見せた。

 

 吹き荒ぶ烈風の包囲網を横へと飛びながら突破すると、フィールド右側から大きく弧を描くように疾走し接近を試みる。その先には既に、背後へ回り込もうとする伊織の動きを読んだ天音の罠が仕掛けられていた。

 

 雷属性攻撃術式

 

「『速戟雷(ボルトランサー)』」

 

 予め空間内に収束させていた第三の属性魔力を、詠唱によって起動し一瞬で術式へと変換する。

 

 風の壁によって絞られた、逃げ場の無い一本道。()()()()()()と気付いた時には既に、発動した神速の雷槍が伊織へと撃ち込まれていた。

 

 回避不能の一撃が迫る。誰もが勝敗は決したと思っていた、その瞬間。

 

 

 

「退魔一刀流――――」

 

 天高く刃を掲げた、大上段の構え。

 

 

 

「ッ!?」

 

 瞠目する天音の先で、その一刀は渾身の力を以て振り下ろされた。

 

 

 

「――――『峡谷(キョウコク)』」

 

 

 

 直後、轟音と共に雷撃が二つに分かたれ弾け散る。伊織の剣は、一瞬の内に『魔術』を斬り裂き両断していた。

 

「マジかよ……」

 

 刀一本で魔術を迎え撃つという離れ業を目の当たりにして、言葉を失っている生徒達の例に漏れず日向もまた絶句していた。誰もが驚愕する中、伊織を知る恭夜だけは当然のような口ぶりで日向へ声を掛ける。

 

「アレが『退魔一刀流』……アイツが魔術師と戦う為に、自分の力で編み出した武器(剣術)だ」

 


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