Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第39話『相棒対決』

「今日はホントに、色々ありすぎたね……」

「確かに、濃い一日だったわね……」

 

 一年(ルーキー)である伊織と日向が、東帝十席と謳われる二人の強者を打ち破り勝利した。そのビッグニュースは夜になった今でも、学園中の生徒達の話題を独占している。

 

 沙霧と天音は学生寮の交流ホールにて、その激動の一日を振り返っていた。そして彼女達の視線の先では――――

 

 

 

「えーそれではッ!!春川日向の2回戦突破を祝してェ……」

「「「「「カンパーーーイ!!!!」」」」」

 

 

 

 ――――日向のクラスメートらによる、祝勝会が盛大に行われていた。

 

 

 

「てか、なんでアンタらが騒いでんのよ……優勝したワケでもないのに」

「いやいや藤堂さん!!このスットコボケ太郎があの『風神』と名高い如月先輩をタイマンで倒したんだぜ!?」

「快挙だ快挙!!食って歌って踊るしかねェよ!!」

「「「カンパーーーイ!!!」」」

 

 男子生徒達の愉快な笑い声に、天音が呆れた様子で溜息を零す。

 

 この東帝戦に乗じた生徒達のお祭り騒ぎは、仲間同士の健闘を讃え合う恒例行事として学園に代々伝わっているとの事だった。ちなみにその中心では当人である日向が、眠気で意識朦朧としながらステーキにフォークを突き刺している。

 

 

 

「オイオイコラコラコラ、テメーら宴会に俺を呼ばねーとは一体どういう了見だ?おォ?」

「腹減ったァ!コレ俺らも食っていいメシか?」

「おォオマエらもお疲れ!!食ってけ食ってけ!!」

「オーイ誰か食堂にオードブルの追加頼んできてくれーイ」

「「「カンパーーーイ!!!」」」

 

「またバカが増えた……」

 

 更に啓治と創来を始めとした他クラスの生徒達も合流し、瞬く間にホールは大盛況となった。

 

 

 

 その騒ぎの中、啓治はウトウトと船を漕いでいた日向の首根っこを掴むと、天音達のテーブルまで引き摺って来る。

 

「食うのか寝んのかどっちかにしろやコラ。つーかよくあんな馬鹿騒ぎの中心で爆睡しようと思えるなお前……」

「多分疲れてるんだろうね……皇君も今日はお疲れ様」

「あァ、ありがとう空条さん」

 

 虚ろな瞳で半ば無意識に肉を咀嚼している日向をテーブル上に転がした啓治に、沙霧が労うように声を掛けていた。

 

 

 

「アンタもアンタで、結構ギリギリの戦いしてたわよね」

「そうだね……正直言って、かなり危なかった。認めるのは癪だが、辛勝だったよ」

 

 天音の言葉に、苦戦を振り返りながら渋い表情で応える啓治。一方で創来は、他の生徒達と熱心に意見交換や戦術談義を交わしているようだった。

 

 

 

「所で藤堂さん……アイツは来てないのか?」

「さァね……どうせまた、訓練室(トレーニングルーム)にでも居るんじゃないの?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 スラム旧校舎、屋上にて。

 

「よォ。来たか、伊織」

 

 その頃伊織は、屋上に放棄されたソファに寝転がり夜空を仰ぐ蒼の元を訪れていた。

 

「ハッキリ言って、結弦とお前じゃ7:3ぐらいでアイツに分があると思ってたが……大したモンじゃねェか。なァ?」

「……少し防御が甘いとは思いましたがね。銃撃をもっと捌けていれば、ダメージは最小限に抑えられたハズだ。……まァ、及第点と言った所でしょう」

「お前キビシーね〜。まァ何はともあれ……3回戦進出おめでとう。よくやったよ」

「……どうも」

 

 傍らにいたスティーブの厳しい講評に苦笑しながらも、蒼は伊織の勝利を称揚する。

 

 

 

「んで……晴れて新戦型(NEWスタイル)が完成したワケだが……どうだったよ?初実戦の感触は」

「……まだ、借りモンの力ってカンジが強いですかね」

「ハハ、そりゃ使い込んで慣れてくしかねェわな。その内モノになってくるさ」

 

 飛斬改式剣術の練度についての蒼の問いに、未だ発展途上であると伊織は返した。魔術と比べると応用性や拡張性で数段遅れを取っており、万能の戦闘術と呼ぶにはまだ程遠い。

 

 

 

「それよかお前、明日は『相方』と対決じゃねーか。何か思う所はねーのかよ」

「無いですしそもそも相方でもないですから」

 

 そして蒼が続けて言及したのは、伊織の明日の対戦相手について。スティーブから投げ渡された携帯端末に目を通すと、学園SNSなどで多くの生徒がその対戦カードに注目しているようだった。

 

「下馬評はやっぱ日向か……ムカつくか?」

 

 直接対決では伊織が全勝しているにも関わらず、シードの亜門を倒した事で勝敗予想は日向の方がやや優勢となっている。端末を投げ返しながら蒼が訊くが、伊織は一切気に留めた様子も無く平然と口を開いた。

 

 

 

「別に……外野が何を言った所で、やる事は変わらないっスよ。どっちが方が強ェのか……それを明日、確かめるだけです」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 第二学年学生寮の一室にて。

 

 徹彦はベッドに寝転がり雑誌を読んでいたが、テーブルの上に放っていた携帯端末から不意に着信音が響いた。

 

「はいもしもーし」

『おう、徹彦。俺だ』

「どしたんすか結弦さん。あ、今日の試合お疲れっした。惜しかったですね」

 

 端末から聞こえて来たのは、先輩である結城の声。

 

『よせよ、完敗だったろ。正直、一年に敗けるワケは無ェとタカ括ってたが……フタ開けてみりゃこのザマだ。ダセェ姿晒しちまって、情けねェったらありゃしねェ』

「いやいや割と接戦でしたって。つーか御剣君に限らずっスけど、今年の一年全員ヤバすぎません?特に日向君と御剣君、あの二人はハッキリ言って異常でしょ。戦闘のレベルが」

『まァ確かにな……恭夜さんと天堂に目ェかけられてるだけのコトはある』

 

 自分達を倒した、二人のルーキー。彼等の実力を、結城と徹彦は純粋に認め称賛していた。

 

「で、結局何の用です?こんな時間に電話して来て」

『あー、そうだったな。お前今どこにいる?』

「え、部屋っスけど……」

 

 用件を訊いた徹彦だったが、結城から所在について問い返される。そして寮の自室に居ると応えた直後、瞬間転移(テレポート)によって結城が突然部屋の中へと現れた。

 

「ビッ、クリした……何ですかいきなり。てかどしたんスかその格好」

 

 何の断りも無く唐突に転移して来た結弦に驚いていたが、その時徹彦は彼がこれから外出するかのように制服を着込んでいる事に気づく。

 

 

 

「5分で出掛ける準備しろ。管理局に行くぞ」

「はい?え、今からっスか?」

「沢村さんが呼んでんだよ。俺と、お前を」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 二人はテレポートによって、魔術都市中心部に設置されている『魔術管理局』へとやって来ていた。

 

「何なんですかねーこんな夜中に呼び出しって」

「まァ……大方察しはつくけどな」

「やっぱそうっスよね……」

 

 魔術が関与した事件が起こった際、結城と徹彦は術式の有用性故に度々管理局へと召集されている。今回も例に漏れず、何らかの問題が発生したと考えるのが妥当だった。

 

 襟元の校章(バッジ)を取り外すと、カード型の学生証へと変形させ入口ゲートで提示する。

 

 入館証(ゲートキー)の役割も兼ねたカードスキャンによる内蔵チップ識別と、感知センサーによる個人魔力認証の二重セキュリティを通過し、局内へと足を踏み入れる二人。

 

 深夜にも関わらず多くの職員が忙しなく動き回っており、やはり結城達の予想通り『何か』か起こっているであろう事は間違いなかった。

 

 

 

 エレベーターで捜査部エリアへと昇り、会議室の自動ドアを潜る。

 

「失礼します」

「失礼します……」

 

 入室した結城と徹彦を待っていたのは、管理局『魔術捜査課』の沢村、速水、北斗の三人だった。室内には彼等だけでなく、同様に黒のスーツに身を包んだ数人の捜査員がテーブルを囲むように控えていた。

 

「おォ来たか。結弦、徹彦」

「悪いね〜夜フケに呼び出しちゃって。あ、そういや観てたよ東帝戦。結城君も古田君もお疲れ様」

「いやー観てました?ご覧の通り惨敗でしたよ。お恥ずかしい限りっス」

 

 声を掛けて来た沢村と速水に結城が軽く笑いながら応えるが、周囲の物々しい雰囲気を感じ取っていた徹彦は神妙な表情で口を開く。

 

「あの……また何かあったんスか?」

「あー、まァそういうこった。今回も面倒な事態になっててな……毎度毎度悪いが、またお前らに力を貸してもらいたい」

 

 沢村がやや気怠げな声で、徹彦達に向けてそう言ったその時。

 

 

 

「ウーーッス」

「や、どーーもどーも遅れましたァーっと」

 

 悪びれもせず堂々と、黒髪と金髪の二人の男が新たに会議室へと入って来る。

 

 

 

 それらの声の主は、管理局の『魔術特務課』に所属する捜査官、本郷 正と柊 俊哉だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、7月19日。

 

 波乱が更なる波乱を呼ぶ、東帝戦『四日目』が開幕する。

 

 

 

 ――――その裏では密かに、ある一つの『事件』が進行していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 A・B・C・Dの4ブロックで行われた、本戦トーナメントの一回戦・二回戦。2日目と3日目を共に勝ち抜き、本日行われる三回戦に出場出来るのは全参加者中16名のみである。

 

 進出して来たのは、誰もが学園で名の通った実力者ばかり。更にここから三回戦・準々決勝を実施しこの4日目が終わる頃には、明日の最終日にて優勝を争う各ブロックの代表4名に絞られる。

 

 そして今日の対戦カードは、どれも目が離せない強者同士のマッチアップとなっていた。その中でも殊更に注目を集めていたのは、三組の『師弟対決』。

 

 

 

 Aブロック『天堂 蒼』VS『スティーブ・ジャクソン』

 Cブロック『神宮寺 奏』VS『皇 啓治』

 Dブロック『黒乃雪華』VS『一条 ハル』

 

 学園最高峰の実力を誇る三人の『師』へと挑む『弟子』達の戦いに、多くの人間が関心を寄せていた。

 

 昨日の日向と伊織の劇的な逆転勝利を目の当たりにしていた観衆の中には、今日も『格上』を打ち倒す番狂わせを期待している者も少なくなかったが――――

 

 

 

 ――――実際にそこにあったのは、明確かつ圧倒的な『力量差』だった。

 

 

 

 東帝の頂点に君臨する『剣聖』。

 万夫不当の戦闘術を操る『剣鬼』。

 戦場を自在に支配する『女王』。

 

『十席』に名を連ねる三人。その様は絶対的な『力』を示し、挑戦者の前に立ちはだかる『壁』その物だった。

 

 

 

 そして。

 

 学園中の人間から、今日最も注目されている一戦が遂に始まる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ホラホラ、ハルも絵恋も急いで!試合始まっちゃうよ!」

「尻を叩くなバカ!!」

 

 アランに背後から急かされハルが怒鳴りながらも、三人の少女達は演習場(スタジアム)へと向かっていた。観覧席に到着すると、既に見知った顔が揃っている。

 

「おー遅かったな、お前ら」

「良かったー、間に合ったわ。って、亜門も居るじゃん」

 

 アランに声を掛けた湊の隣には、鼻の頭に絆創膏を貼った亜門の姿があった。その横では士門が冷やし中華を啜っている。

 

 

 

「やっぱ自分を負かした相手の戦いが気になるワケ?」

「うッさいなァオマエ……何でもエエやろ別に」

「やめときやアランちゃん。コイツ珍しく根に持ってんねん」

「昨日の夜にわざわざ、一年寮まで行って春川と再戦の約束しに行くぐらいにはな」

「余計なコト言ッとんとちゃうぞお前らァ!!」

「だっはははしっかり気にしてて草」

 

 湊と士門の暴露にアランは笑い声を上げていたが、亜門は憤然としながらも言葉を続けた。

 

「……まァ、オレに勝った以上は情けない戦い見せたら承知せんとは言ったケドな」

「フン……誰が勝ち上がった所で、結局全員が師匠に倒されるだけだがな」

「あァ?」

 

 その時、亜門に反応するように彼等の背後から声が聞こえて来る。後方を振り返ると、数段上の観覧席に腰掛けているスティーブの姿があった。

 

「ウワびっくりした!アンタ今結弦さんくらい影薄かったよスティーブ」

「ホンマにな」

「ナチュラル失礼が浸透しすぎてて居た堪れねェよ……」

 

 アランと士門の掛け合いに、沈痛な表情で湊がツッコむ。

 

 

 

「何や、今日は蒼クンの金魚のフンやってへんねやなァオマエ」

「お前の方こそ、一年にああも無様に敗けておきながらよく表に顔を出せたモノだな。俺には無理だ」

 

 挑発的にそう言い放つ亜門だったが、剣呑な視線で見下ろしながらスティーブもまた言葉を返し、二人同時に無言で席から立ち上がった。

 

「言葉は慎重に選べやアメ公が……今スグ母国まで吹き飛ばすぞボケコラ」

「ほォ……まだそんな大口が叩けるだけの威勢が残っているとはな。その僭上さだけは賞賛に値する」

「ちょっ、やめなさいって……!!アンタ達も見てないで止めなさいよ……!?」

「エエやんけ。ほっとけほっとけ」

「だな。好きにやらせときゃイイ」

 

 至近距離で互いに睨み合っている一触即発の状況に、流石に止めようと声を上げるハル。しかし士門と湊は何の危機感も無く、ただ愉快そうにその様子を眺めているのみだった。

 

 

 

「ハイハイやめなやめな。主役はアンタらじゃないっての」

 

 しかしその時、座ったままのアランの指先から紐状の魔力が放たれる。流れるように空中を走るその光は、目にも留まらぬ速度で亜門とスティーブの額を続け様に通り抜けた。

 

「ッ!?」

「くっ……」

 

 その瞬間、アランの『魔術』に頭を貫かれた二人は眩暈を起こしたようによろめきその場で膝を突く。

 

「ったくどーーーしてキミら二人はそんなに血の気が多いかね?ちょっち落ち着きな?」

「おォ……相変わらずエグいな……」

 

 意識が混濁しているかのようにフラついている亜門とスティーブを、淡々とした口調でアランが咎める。士門は慄然としていたが、湊は上空の浮遊モニターを見ながらトーナメント表について言及した。

 

「結局、この中で残ってんのは士門と風切だけか……」

 

 ここまでの本戦の間に、湊と亜門と絵恋は2回戦で、スティーブとハルは3回戦で敗退している。準々決勝進出を決めたのは、この中では士門とアランだけだった。

 

 そして今、3回戦最後の試合が始まろうとしている。

 

 

 

『御剣 伊織』VS『春川 日向』。

 

 

 

 彼等以外のベスト8の七人は既に出揃っており、この戦いではどちらが勝利しても唯一の一年生として準々決勝に進む事が確定していた。

 

「……どっちも大したモンだよなァ。来年にはアイツら(一年)が主力になってんじゃねーか?」

「そうならないように……私達ももっと、強くならないとね……」

 

 感心するようにそう零す湊に絵恋が頷きながら、静かだが力強い意志を感じさせる声で応えた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「――――まーたこりゃ面白い組み合わせ(カード)になってんね。アンタどっち応援すんの?」

「そうだな……まァ実際、どっちが勝っても面白くなんのは間違いねェだろ」

 

 観戦エリアへと向かう、五人の男女。談笑している千聖と蒼の後ろでは、雪華と奏と未来が並んで歩いていた。

 

「二人はどちらが勝つと思う?」

「勢いに乗ってるのは春川だろうが……今の御剣は遠近両方で強力な武器を持っている。勝てる人間は学園の中でも一握りだろうな」

「でも、日向君も新しい『形態変化』使ってたよね?タッグ戦でも活躍してたし、またミラクル起こしそうじゃない?」

 

 学園の人気を席巻する美女グループに、道ゆく生徒達の多くが目を奪われていたが、蒼と同じ三年の男子数人が通りすがりに声を掛けて来る。

 

「おー何だ天堂、今日はハーレムじゃねーか。スティーブが嫉妬すんぞォ」

「派手にブチのめされた挙句放置される弟子が不憫だなァー」

「ハッハッハ、敢えて突き放すオレ流愛のムチ」

「あんだけ大っぴらにボコっといて愛もへったくれもあんのかよバーカ」

 

 ギャハハハ、と愉快そうに男子達と笑い合っていた蒼だったが、背後から不意に奏が彼の太腿を蹴り上げる。

 

「っと、急にどしたい奏」

「……お前が私達を侍らせていると思われるのは気に食わない」

「いやもうそれはアイツらに文句言ってくんねーかな」

「ねえ天堂君、タッグ戦で私を蹴散らしたのも愛の鞭なの?」

「お前は弟子じゃねェだろまず……」

「ちょっと!!雪華とSMとかアンタ各方面から殺されるよ!?」

「ちーちゃんが一番語弊あるよ……?」

 

 不毛なやり取りを交わす五人だったが、そうこう言っている間に観覧席へと辿り着く。

 

 

 

「お、アッ君だ!司もいるし。おーい!」

 

 千聖が指差した先には、諸星と蛇島が座っていた。しかし蛇島は雪華や奏の姿を見るや否や、露骨に不愉快そうな表情を浮かべ席から立ち上がる。

 

「え、司お前どっか行くのか?」

「……テメェらと連む気は無ェよボケ」

 

 蒼達へとそう吐き捨て、観覧席を後にする蛇島。

 

「フン……相変わらず癪に触る男だな」

「嫌われてるねー、私達……」

 

 去って行くその背中を睨みながら奏は忌々し気に呟き、未来は溜息を零しながら席に着く。

 

 

 

「アッ君はあたしらと連んでて、他のヤツらに何か言われたりしないの?裏切りものー、とか」

「……俺が誰と付き合った所で、他の人間に口を出される筋合いは無い。そもそも俺が気に食わないのは、権力を笠に着るような旧家の連中だけだ。……お前達が奴等と違うという事は解ってる」

「え、ちょ……急にデレ見せて来るのはやめなよもォ〜〜〜」

 

 当然のような口振りでそう応えた諸星に、珍しく千聖は言葉を詰まらせていたがすぐに嬉しそうな表情を浮かべ笑っていた。

 

「……果たして今のはデレか……?」

「諸星君も意外と、天然の人たらしみたいな所があるわよね」

「あの誠実さは天堂君も見習うべきだよ」

「蛇島と一緒に爪垢でも分けてもらえばどうだ」

「なんか今日は辛辣ですねキミ達」

 

 その様子を雪華と一緒に後ろから眺めていた蒼だったが、突然未来と奏から矛先を向けられ苦々しい顔でそうぼやいていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 演習場のバトルフィールドへと続く、通路を一人進んでいた伊織。その視線の先で、入場ゲート前に誰かが立っている事に気付き足を止める。

 

「……遅かったわね」

「お前か。……何してんだ、こんな所で」

 

 そこで伊織を待っていたのは天音だった。

 

 

 

「別に……試合前にアンタがどんな顔してんのか、気になって見に来ただけ」

「そりゃヒマそうで何よりだな……」

 

 伊織は普段と変わらず淡々とした声を返しながら、彼女の横を通り過ぎる。

 

「……春川は随分と、色んな人達から期待されてるみたいよ。亜門さんを倒したあの技なら、天堂先輩にも通用するかも……だって」

「そうかよ。……わざわざそんな事言いにここまで来たのか?」

「アンタだって、"魔術師相手なら敗けない"のにね」

「…………桐谷先生といいお前といい、今更掘り返して来んじゃねェよ……」

 

 過去の自分の傲慢とも取れる発言に、渋面で振り向く伊織。しかしそこに立っていた天音は、真剣な表情で真っ直ぐに彼を見据えていた。

 

 

 

「……アンタは、私には無い物を全て持ってる。アンタの事を……尊敬してる」

「……?」

 

 突然の言葉に伊織は僅かに戸惑っていたが、天音は構わず続ける。

 

 

 

「私を救ってくれた……アンタの剣は、最強だって証明してほしい」

「っ……!」

 

 そう言って少し照れたように笑いながら、彼女は拳を突き出した。

 

「……応援、してるから」

 

 

 

 その言葉を受け止めた伊織は、天音と自身の拳を突き合わせる。

 

 

 

 そして微かな笑みを零しながら、彼女に背を向け歩き出した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「――――……来たな、相棒」

 

 歓声が響き渡るバトルフィールドにて。

 

 戦場に上がって来た伊織を待ち構えていたのは、不敵に笑う一人の少年。

 

 

 

 不思議な力で万人を引き寄せ、驚くべきスピードで進化し続ける。共に戦って来た"仲間"であり、打ち倒すべき"好敵手"。

 

 相手に取って、一切の不足無し。

 

 

 

「今日という今日は……俺が勝つぜ」

「馬鹿言ってんじゃねェ。……今日も、俺が勝つ」

 

 

 

 新たな時代の中核を担う、『魔術師』と『剣士』が相対する。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 東京某所、高層ビル屋上にて。

 

 

 

『やっぱり、紅蓮は連れて来ておいた方が良かったんじゃないかしら。もしも荒事になった時を考えたら……』

「いいのいいの、そもそも荒事にしない為に置いて来たんだからさ。彼等はもうアレですよ、根本的に隠密行動に向いてない人種なワケよ」

 

 通信機から聞こえて来た、クロックの声に応えるJOKER。

 

『ハッハッハ、何も案ずる必要は無いだろうクロック!!用心のつもりなら、このオレだけで充分だッ!!』

「ホントはキミも留守番させるつもりだったけどねバスター。必要以上に騒ぎデカくしたら速攻帰らせるからね?」

 

 続いて豪快にそう言い放つバスターに釘を刺しながら、JOKERは手にしていた大鎌を担ぎ上げた。

 

 

 

「それじゃ各自……抜かり無くいこう」

 

 

 

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