Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第45話『軍師』

 先に動きを見せたのは、日向。

 

 試合開始と同時に、地を蹴ると上空へと跳躍する。冷静に術式を構築する諸星へと、先制攻撃を撃ち込むべく双腕を振り抜いた。

 

 火属性攻撃術式

 

『戟衝破・双連』

 

 放たれた二つの熱線は魔力による防御障壁を一瞬で打ち破るが、僅かに威力が落ちたその攻撃を諸星が蹴りで迎え撃ち叩き散らす。

 

「まだまだァ!!」

 

 そのレーザーを見せ技に、日向は左脚へと収束させた魔力を術式に換えて蹴り込んだ。

 

 火属性魔力×形成術式

 

『大輪破』

 

 追撃の炎輪をスウェーで躱した諸星は、その背後で形成していた無数の魔力弾を一気に撃ち放ち反撃する。

 

 無属性魔力×形成術式

 

連弾(チェインブラスト)

 

 

 

 開始早々に、激しい乱射戦(撃ち合い)を展開する両者。しかし弾幕に包まれた筈の日向の姿は、無数の弾丸に穿たれた制服をその場に残し空中から忽然と消えていた。

 

 装衣を囮として敵の攻撃を回避する体術。忍法『空蝉』。

 

 そして後方に出現する、収束した膨大な魔力の気配。渾身の一撃を叩き込むべく日向は、高速移動で相手の背後を取り肉薄していた。

 

 

 

 火属性攻撃術式

 

『爆皇破』

 

 発動する超火力攻撃。対して諸星は――――

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 旧校舎裏スラムにて。

 

 東帝学園に属する生徒達の中でも、一大派閥を形成する不良集団『大文字一派』。彼等の多くが一堂に会し、騒がしく語り合いながら一つの映像を注視している。

 

 映写機から巨大な壁面へと投影されていたのは、現在演習場(スタジアム)で繰り広げられている日向と諸星の戦闘中継だった。

 

 

 

 集結している不良達の中でも、一際強い存在感を放つ四人の二年生。中央のソファに座る壬生 閃九郎と愛染 光陰、そして積み上がった廃材(ジャンク)の山に腰掛けている斯波 一太朗と鬼丸 コージ。

 

 彼等は大文字一派でトップ3である獅堂達三人の三年生に次ぐ、学園内でも屈指の実力者だった。

 

 

 

「やっぱ強ェな、春川……!!」

「……そこのキミは、日向君が勝つと思うかい?」

 

 周囲の不良達の中で、ふと声を漏らした一年生らしき少年の声に愛染が反応する。

 

「あっ、いや……諸星先輩が敗けるとか、そんな事は全く思ってないんスけど……正直言って、春川とか御剣は一年(オレら)の中でも頭一つ抜けてると思うんで……」

近接戦(クロスレンジ)じゃ敦士先輩に分が悪いんじゃねェか、ってか?っカ〜……なんも分かってねーなオメーらは」

「つってもまァまだ新入り(一年坊)だしな。知らねェのも無理ねェだろうよ」

 

 頭にバンダナを巻いたその少年の意見に鬼丸が呆れたように言葉を返すが、斯波が愉快そうに笑いながら彼を諌めていた。

 

 

 

「……技巧派(テクニカル)なイメージが先行してんだろォが――――」

 

 そして刀を抱えた壬生が、壁面の映像に目を向けたまま口を開く。

 

 

 

 

 

「――――あの人は元来、ゴリゴリの武闘派(インファイター)だ。殴り合いはクソ強ェぞ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 叩き込まれた筈の、爆炎の剛拳。

 

 しかしその一撃が届くより速く、日向の身体は吹き飛ばされていた。

 

 

 

 正確無比なカウンターの後ろ回し蹴り。

 

 射撃魔術で相手を釣り出し、背後からの攻撃を敢えて『誘導』して近接格闘で反撃する。高度な『予測』によって成り立つその戦術は、単純ながらも極めて強力だった。

 

「クッ、ソがッ……!!」

 

(完ッ全に、読まれた……!!)

 

 

 

 悪態を吐きながらも、咄嗟に体勢を立て直そうとする日向――――

 

 

 

 ――――の、顔面を容赦の無い衝撃が再び襲う。

 

「、ッ!?」

 

 理解するよりも先に、日向は後頭部から地へと叩き付けられた。

 

 

 

 疾走して来た威力を余さず乗せた、鋭くも豪快な膝蹴り。相手に隙を与えない連続追撃が、次々と日向へ撃ち込まれていく。しかし学園内でも指折りの体術使いである、日向の実力もまた伊達では無い。

 

 攻撃と攻撃の隙間、諸星の僅かな予備動作を阻害する牽制の蹴りを放ち、そのまま大きく距離を取る。

 

 

 

「痛ってーな……ハナ折れちゃったぞコノヤロー」

 

 少し曲がった鼻を力技で元の位置へ戻すと、再び突撃を仕掛けるべく駆け出した。そして交錯の寸前、再び掻き消える。

 

 しかし真横に現れた日向の攻撃もやはり回避され、代わりに諸星の三連撃が叩き込まれた。

 

 鼻柱、顎下、鳩尾。正中線の急所を的確に撃ち抜く拳撃。更にそこから畳み掛けるように、周囲全方位に展開していた魔力弾丸を収束させるような軌道で撃ち込む。

 

 

 

「……お前は近接戦では絶対に真正面からは仕掛けて来ない。が……それはつまり、死角に防御を回しておけば大方は対応出来るという事だ」

 

『必ず真横もしくは後方から攻めて来る』と判っていれば、直線的な攻撃よりも寧ろ却って回避は容易い。

 

 諸星の静かな独白に対し、日向は全身に連弾を浴びながらも辛うじて包囲網から飛び出していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「何をやってんだアイツ……いきなし出バナ挫かれてんじゃねェか……!!」

「まだ始まったばっかだ……こっから巻き返して来るだろ」

 

 序盤から怒涛の展開を見せる両者の戦闘に、啓治は苛立たし気に呟くが創来は日向が持ち直すと予想していた。

 

 

 

 しかし現状では、オーソドックスながらも弱点の無い安定した戦闘スタイルの諸星へと戦勢は傾いているように見える。『(ブラスト)』や『(シールド)』といった魔術戦闘の基盤技術のみならず、肉弾戦に於いても卓越した技量(センス)を持ち併せており付け入る隙は一切無いと言って良い。

 

 

 

(総合的な戦闘技術なら間違いなく諸星先輩だけど……振り幅を考えるなら、春川が勝つ可能性も十分ある……!)

 

 日向の戦闘能力は、状態(コンディション)状況(フィールド)によって大きく変動する。勝敗の分かれ目は、日向が諸星の計算を上回る『進化』を戦いの中で起こせるかどうか。カギを握るのはその一点だと、天音は戦場を見下ろしつつ考えを巡らせていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「クッソ……」

 

 魔力弾掃射を紙一重で躱し切った日向は、滴る血と汗を拭いながら前方を睨んでいた。

 

(こっちからは一発も当たらねェってどういうこったよ…………!!)

 

 

 

 ――――あらゆる戦闘行動が先読みされ、次の一手を尽く潰される。思考を見透かすかのような諸星の分析力を前に、日向の攻撃力は完全に封じ込められていた。

 

 事実諸星は、これまでの戦いで日向が見せた全ての技を研究して来ていた。

 

 

 

 基本技の『炎撃』と『炎刀』。

『戟衝破』は速度はあるが決定力に欠け、『散輪破』は炎輪の軌道制御が不安定な為手数重視の陽動用。

『大輪破』と『豪嵐破』は威力はあるが速度が無い為回避が容易く、主に地形破壊に用いられている。

 そして『爆皇破』は日向の全術式中最高火力を誇るが、構築時の隙が大きく『忍法』や高速移動と併用される事が多い。

 

 

 

 ここまで徹彦、亜門、伊織といった強敵を相手取って来た日向は、緻密な戦略を立て戦いに臨む術師(タイプ)の諸星に対しあまりに()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「フーーー……………よし、やめだ」

「……?」

 

 その時、日向が唐突に放った声が諸星の足を止める。

 

 

 

「……どうせ全部読まれるなら、もう小細工は使わねェ。こっからは……魔術一本で勝負する」

「ほう……自分の武器(アドバンテージ)を棄てるという事か」

 

 日向のその宣言の意味を理解した諸星は、小首を傾けながら言葉を返した。

 

 

 

 これ以上囮や陽動を多用しても、全てを分析する諸星には意味を成さない。()()()()()()

 

 日向は最も得意とする戦術である『忍法』と『武闘』を融合させた隠密格闘術を使わず、魔術のみによる真っ向勝負で諸星に挑もうとしていた。

 

 

 

 掌へ打ち合わせた拳から、全身へと展開されていく蒼色の炎。

 

 火属性魔力×強化術式

 

『形態変化・斬蒼炎』

 

 

 

「…………それがお前の切り札か」

 

 鋭く輝く刃の如き炎を纏う日向に、諸星が眼鏡の奥で僅かに目を細める。

 

 

 

「正面から――――ブチ、抜く」

 

 日向はそう言い放つと同時に、予備動作無しで爆炎を放出しながら地を蹴った。

 

 一直線の最短距離を、一瞬で駆け抜ける超高速突進。そして斬炎を宿した諸手の拳撃が、唸りを上げて突き込まれる。

 

 火属性攻撃術式

 

『"瞬迅"双烈破』

 

 吹き抜ける熱風と、衝撃。

 

 

 

「大した速度だ。だが――――」

 

 その猛炎を前にして尚、諸星は平然とした様子を崩す事無く静かに開口する。

 

 

 

「――――……対策を取っていないと思ったか?」

 

 無属性魔力×形成術式

 

双盾(ツインシールズ)

 

 日向が叩き込んだ渾身の双撃を、展開された二重の魔力障壁が受け止めていた。その凄まじい攻撃速度に対して、完全に防御のタイミングを合わせて来た諸星。しかし。

 

 

 

「ンなこた最初(ハナ)から織り込み済みだ」

 

 不敵に笑った、その瞬間。

 

 

 

 受け止められていた日向の双拳から、二発の戟衝破が撃ち放たれた。零距離から炸裂した爆速の熱線(レーザー)は、魔術防御ごと諸星を押し込み吹き飛ばす。

 

「クッ……!」

 

(速度、威力……性能上昇が著しい。全ての術式が強化されていると考えて良さそうだな……)

 

 超至近距離からの砲撃を受けつつも『斬蒼炎』の術式効果を分析する諸星へと、更なる追撃を仕掛けるべく日向が再度駆け出した。

 

 突撃しながら同時に放たれる、五発の戟衝破。その内急所へ迫る二発を魔力盾(シールド)で防ぎ、残りを身体操作のみで回避する。

 

 空中で不安定な体勢ながらも全ての追撃を捌き切った諸星だったが、その時既に日向は彼の眼前まで距離を詰めて来ていた。

 

 日向の右腕へと収束する蒼炎の魔力。炎拳を迎え撃つべく諸星もまた、右の拳へ魔力を集め即座に『(ストライク)』を発動する。

 

 

 

 

 

 違和感。

 

 

 

 斬蒼炎を纏った日向の速度(スピード)なら、諸星の迎撃を相殺する事は可能な筈。

 

 

 

 ――――ならば何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(ッ――――!!)

 

 その狙いを察知した瞬間に、互いの拳撃は交錯する。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 敢えて攻撃を1テンポ遅らせた日向に対し、僅か一瞬速く攻撃を()()()()()諸星は反撃に対応出来ない。

 

 火属性魔力×強化術式

 

『"瞬迅"炎撃』

 

 (ストライク)の軌道を見切り躱した、日向のクロスカウンターが突き刺さる。遂に渾身の一撃が、諸星の頬を捉えた。

 

 

 

(入った――――!!)

「マジか……!!」

 

 スラムでは愛染が目を見開き、斯波が驚きの声を上げる。

 

 

 

 叩き飛ばされた諸星は、切れた口の端の血を拭いながら立ち上がっていた。

 

「先読みは……アンタだけの武器じゃねェ」

 

『体勢を崩された諸星は、ノータイムで反撃を繰り出して来る』。"予測"に基づき『後の先』を取る諸星と同様の反撃戦型(カウンタースタイル)を、日向は戦いの中で体得(コピー)していた。

 

 

 

「……俺の攻撃が先に届くよう誘導したワケか。悪くない発想だ」

「ンなクソ余裕かましてられんのも今の内だけだ」

 

 相対する二人は言葉を交わすと、高速移動を繰り出し同時に掻き消える。

 

 

 

 現れては消え、衝突する両者。魔力波動が空間に散る中で、彼等の戦闘速度は更に引き上げられていく。

 

 しかし展開される高速戦闘に於いて、亜門にも匹敵する瞬間速度を誇る日向の近接格闘は次第に諸星を上回り始めていた。

 

 

 

 分析され防御・回避されようとも、その上から密度で圧倒する超連撃。烈火の如き猛攻に少しずつ押し込まれていた諸星へと、薙ぎ回すような日向の蹴撃が叩き込まれた。

 

 防御体勢の上から吹き飛ばされるも、両足で地を削りなんとか立て直す。その時日向は高速移動を発動させ、周囲の空間全方位を跳ね回るようにして諸星を包囲していた。それは亜門が見せた、超速一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)の応用。

 

 目にも留まらぬ立体機動に追い込まれていく諸星だったが、その表情に変化は無い。

 

 

 

「一撃で片ァつけてやる……!!」

「面白い……受けてやる」

 

 日向の一発KO宣言に、諸星は不敵に笑い返す。

 

 そして――――

 

 

 

 ――――空を駆ける、爆炎の一撃が撃ち込まれた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 全身に蒼炎を纏った日向が、弾丸の如く突撃を仕掛ける。

 

 真っ向から疾駆するその姿に――――

 

 

 

 ――――観戦していた蛇島は、その戦いの結末を確信した。

 

 

 

 攻撃経路を一本道に絞り、純粋な速度勝負で決着をつけようとした日向。斬蒼炎の加速力ならば、諸星が防御を展開するよりも速く仕留められると恐らく判断したのだろう。

 

 ただ一つ、誤算があったとするならば。

 

 

 

 

 

 東帝学園の中でも、特に魔力知覚に長けた魔術師は"二人"いる。

 

 その内一人は、広大な索敵範囲を誇る天堂蒼。そしてもう一人は――――

 

 

 

(精度に関しては……天堂より敦士(アイツ)の方が上だ)

 

 ――――一定範囲内の全魔力を、極めて精密に感知出来る諸星敦士だった。

 

 

 

 目元へと魔力を集中させ、術式を発動する。

 

 無属性魔力×強化術式

 

(センサー)

 

 魔力によって強化された、諸星の視力と魔力知覚。

 

 

 

 斬蒼炎の驚異的な攻撃速度を以てしても――――『真正面』は、完全に諸星の『反応可能領域』だった。

 

 

 

 

 

 轟音。

 

 高速移動と共に繰り出された、瞬迅爆皇破。その一撃を掻い潜った諸星の、反撃(カウンター)の掌底が日向を叩き伏せていた。

 

 

 

「ガッ…………!!」

 

 痛烈な一打を受けながらも、飛びそうな意識を気力で保ち起き上がろうとする。しかし――――

 

 

 

「終わりだ」

 

 

 

 その場から消える、諸星の姿。

 

 瞬間、空を見上げた日向の腹部へと。踏み潰すようなドロップキックが、上空から叩き込まれた。

 

 

 

「ガハッ――――」

 

 自身の骨が圧し折れる音、吐き出される夥しい量の血。

 

 魔力で強化された諸星の両脚は、戦場を砕き割る程の凄まじい衝撃を炸裂させる。

 

 

 

 爆煙が立ち昇る、ヒビ割れたフィールドの上で。首元を掴まれ、吊り上げられた日向の手は――――力無く垂れ下がっていた。

 

 

 

「10カウントは……要らないな?」

 

 諸星の声に、返答は無い。

 

 

 

 観衆が息を呑む中で、戦いは凄絶な決着を迎えた。

 

 諸星敦士、準決勝進出。

 

 

 

 春川日向、準々決勝敗退――――

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ここまで快進撃を続けて来た日向の敗北を受け、演習場(スタジアム)各所で多くの人間が少なからず衝撃を受けていた。

 

 

 

「マジか…………」

 

 愕然とした表情で唸る創来。あまりにも呆気無い幕引きに、伊織達もまた言葉を失っていた。

 

 

 

「ま……妥当な結果だわな……」

「諸星クン、座学はともかく実技では全然本気出さへんからなァ……"8位"も実際サバ読んどるやろアレ」

 

 一方で湊や亜門達は、然程驚いた様子も無く戦場を見下ろしている。常日頃から『風紀委員会』として『大文字一派』と交戦している彼等にとって、諸星が順位以上の実力を有している事は周知の事実だった。

 

 

 

「エッグいね……アッ君……」

「…………」

 

 凄まじい威力を見せた諸星の最後の攻撃に、苦笑を浮かべる千聖と沈黙する未来。

 

 

 

陽動の魔術(射撃戦)で誘き出して、自分の土俵(近接戦闘)に引き摺り込んだ……終わってみれば、敦士の完勝だったわね」

「日向も一年にしてはよくやった方でしょ……」

 

 頬杖を突きながら冴羽がそう口にするが、久世は健闘を称えるように言葉を返す。

 

 

 

「…………行くか」

 

 そして席を立った蒼はその場に背を向けると、スティーブを伴い歩き出した。

 

 

 

 

 

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