Wizard Wars -現代魔術譚-   作:空色悠

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第51話『幻炎、鬼王』

 道化の仮面を外した"その人物"を、本郷達は知っていた。

 

 

 

「風……切……!?」

「ふふっ、やーっぱ――――だーれ、も、気付――――かなかったね〜。これまで起こってたおかしなコト、実はぜーんぶアタシの仕業でしたー⭐︎」

 

 青年のような声が、雑音(ノイズ)の後に()()の物へと変化していく。

 

 

 

 そこに立っていた『JOKER』ーーーー『風切アラン』の言葉に、依然として銃口を向けたまま本郷が異を唱えた。

 

「ちょっと待て……この一年、各国で起こった魔術戦闘の現場でお前(JOKER)の姿は目撃されて来た。風切――――お前はその期間、学園に居た筈だろうが……!!」

 

 世界各地で魔術関連の事件が起こる度に、姿を現していたJOKER。"彼女"の正体が東帝学園に在籍する生徒であったとするならば、その間のアリバイによる矛盾をどう説明するのか。

 

「本郷さんねー……肝心なコトを見落としてるよ」

 

 その指摘に対してJOKER(アラン)は、平然とした様子で嗤っていた。

 

 

 

「学生が内通者なワケ無いって、心のどっかでタカ括ってたっしょ。固定観念は視野を狭めるから良くないよね」

 

 響く声と、新たな足音。JOKERの背後から姿を見せたのは、東帝の制服に身を包んだ一人の少女だった。その手には、炎のような紋様が入った仮面を持っている。

 

 二人は知る由も無かったが、その仮面は天城鎧を扇動した魔術犯罪者『陽炎(ミラージュ)』の物だった。

 

 

 

「理解出来た?

 

 ーーーー()()()()()()()()なんて最初からどこにも居なかったってワケ」

 

 

 

 新たに現れた、()()()()()()()()

 

 そして本郷達の視線の先で、二人の身体は()()()()()()()()()()()()()()()。始めからそれが、()()()()姿()であったかのように。

 

 

 

 彼女が告げた言葉によって全ての『点』は繋がり、一つの答え(事実)が浮かび上がる。それは余りにも単純であったが故に、思い至る事が出来なかった真実(からくり)

 

 

 

 

 

 ーーーー『風切アラン』は、独立し行動していたJOKERの()()()だった。

 

 

 

 番号刻印の入国幇助、情報流出による追跡捜査の妨害、獅堂の殺害未遂と凪への捜査誘導。あらゆる工作を可能にしていたのは、アランの規格外の性能を誇る幻術だった。

 

 

 

「んじゃ、余興の種明かしもこの辺にしとこうか。ショーの本番は、まだまだこっからだからね♪」

「ッ、待てコラ!!」

 

 そう言い残し、二人の捜査官に背を向けるJOKER。

 

 叫ぶ本郷の隣では、その返答を待たず柊が射撃魔術と拘束魔術を同時発動していた。しかし、術式がJOKERへ到達するより速く――――

 

 

 

 ――――凄まじい衝撃が、彼等を襲う。

 

 

 

 異常な膂力で首を掴まれ地に叩き付けられたと二人が理解したのは、そのコンマ数秒後だった。

 

「がッ……!!」

「ぐッ……」

 

 血を吐く本郷達の前で、JOKERを守るように立ち塞がる一人の影。ローブのフードに素顔は隠されており、その表情を窺う事は出来ない。

 

 そこに立っていたのは、以前JOKERとと共に出現した正体不明の番号刻印(ナンバーズ)。――――『ゼロ』と呼ばれていた謎の人物だった。

 

 

 

「クソ……何なんだあの野郎ォ……」

「沢村さんから報告挙がってたっしょ……ナンバーズの内の一人っスよ。只者(タダモン)じゃねェコトだけは確かだ……!!」

 

 使用術式は不明であり実力の底は未知数だが、少なくとも管理局の精鋭二人を一切気取らせず叩き伏せるだけの戦闘能力を有している事は見て取れた。

 

 

 

「いやーナイスタイミング、助かったよゼロ。あ、任せて行く前に術式付与(エンチャント)だけお願い出来る?」

 

 軽々しく声を掛けるJOKERに対し、ゼロは一言も発さないまま片手を差し出す。そして魔力を集めたその手から、他者へと向けた強化術式を発動した。

 

 光属性魔力×強化術式

 

『光速』

 

 JOKERへと翳されたゼロの手から光属性の魔力が放たれ、速度強化の術式が施されて行く。

 

 

 

「ホイありがと。それじゃ、お二方……またいつか会おうね」

 

 そして術式付与が完了するとJOKERは、二人に再度言葉を残すと未だ倒れ伏している日向へ歩み寄る。そして魔術によって手元に召喚した、一枚のカードを差し向けた。

 

 その瞬間、日向の身体が光子状に分解されながらカードの内部へと()()()()()()()()

 

「確保、完了っと……」

 

 日向を()()()()()カードを手にしたJOKERは、全身から魔力を放出し上空へと飛び立った。ゼロに強化された移動速度によって、瞬く間に天井を突き破り空の彼方へと消えて行く。

 

 

 

「おいテメェ!!フザけんじゃね――――」

 

 追走しようとする本郷だったが、またしても強烈な一撃によって叩き飛ばされる。

 

「本郷さ――――」

 

 更に柊にも術式を発動させる隙すら与えず、視認出来ない程のスピードで蹴りを叩き込むゼロ。

 

 吹き飛ばされた二人は通路の壁を突き破り、協会拠点ビルの最下層に存在する地下訓練場へと転がり込んだ。

 

「クッ……速過ぎんだろ……!!」

「光属性でしょうね……いや、問題はスピードよりあの威力っスよ……!!」

 

 広大な空間に悠々と足を踏み入れたゼロに対し、本郷と柊は悪態を吐きながらも立ち上がる。

 

 

 

「速攻で倒して……取り返す……!!」

「了解……!!」

 

 本郷は体表へ、柊は空間中へと魔術を展開し、迫り来るゼロの一撃を迎え撃った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 氷属性魔力×形成術式

 

氷刀(ヒダチ)・陸連』

 

 氷の属性魔力によって創り出された、六つの刃が頭上から迫り来る。

 

 叩き下ろすように繰り出された六連撃を、紅蓮は炎を纏った薙ぐような一蹴りで全て消し飛ばした。

 

 

 

「なんだ……もう万策尽きたかァ!?オイ!!」

 

 依然として余裕を崩さない紅蓮に対し、畳み掛けるように術式を撃ち込み続ける久世。

 

 攻撃のみならず防御にも高い能力を誇る紅蓮の戦闘センスを前に、完全に攻め手を欠いている。しかし魔力属性の相性や生徒の避難完了及び増援が到着するまでの時間を稼ぐ為に、一対一で久世に任せるしかないというのが現状だった。

 

 

 

「……久世(アイツ)の魔力が尽きたら、次はアタシが行きますよ」

「いや、時間を稼ぐなら俺の方が適正だろう。冴羽、お前はギリギリまで奴の能力を分析しろ。……必ず勝機はある」

「っ……はい、分かりました」

 

 紅蓮の足止めを買って出ようとした冴羽だったが、戦況を静観したまま万丈が彼女を制する。

 

 出来る限り敵の戦術(カード)を引き出し、最後に澄香に繋ぐ。勝利を捨てる気など微塵も無いと示す万丈に、冴羽もまた力強く頷いた。

 

 

 

 しかしその時、久世の範囲術式を押し返した紅蓮が耳元のインカムに反応する。

 

『――――、――。――――』

「…………あァ、分かった」

 

 何らかの通信を受けたと思しき紅蓮は、全方向へ牽制するように強力な熱波を炸裂させた。

 

 

 

「っ…………?」

 

 狙いが見えないその行動に警戒を強める久世だったが、戦闘を俯瞰していた澄香が一早く『それ』に気付き叫ぶ。

 

 

 

「久世!!上だ!!」

 

 その瞬間轟音と共に、上空から複数の人影が紅蓮の周囲へと降り立った。

 

 咄嗟に魔力障壁を張り巡らせた久世に続き、僅かに遅れながら万丈と冴羽も更なる敵の襲来を察知する。蒼と雪華を守るように防御魔術を展開する彼等の前に現れていたのは、現代に見合わぬ"異様な"装備を纏った四人の『戦士』だった。

 

 

 

「よォ、邪魔するぜ」

 

 最初に口を開いたのは、黒い短髪の東洋人らしき青年。目を引くのはその容貌よりも、全身を包んだ古代ローマ兵のような『甲冑』だった。

 

 刻印結社の構成員であり紅蓮の部下でもあるその男――――『剣闘士(ウォーリアー)』に続いて、新たに二人の人物が声を上げる。

 

「成程……此処がこの国の魔術師の養成機関か。至る場所から若き戦士の気配を感じるな」

「やーめとけって。ガキと遊びに来たワケじゃねェんだぞ?」

 

 興味深そうに周囲を見回していたのは、斧や槌の意匠を落とし込んだような奇妙な形状の全身鎧(フルプレート)の男。呆れながらも彼を諌めていたのは、吟遊詩人のような装衣に身を包み巨大な笛らしき武装を背負った人物だった。

 

 名を、『武闘家(ウェポンマスター)』と『笛吹男(ゲールマン)』。彼等もまた、紅蓮が率いる部隊に属する刻印結社の構成員だった。

 

 剣闘士とは異なり、武闘家は頭部装甲で、笛吹男は帽子と仮面によって素顔を隠している。

 

 

 

 そして最後の一人は、一言も発さないまま不気味に沈黙を守っていた。

 

 藁のようなマントと帽子を身に付けており、顔を隠す布に書かれているのは――――『へのへのもへじ』の文字。

 

 

 

 一際異質な存在感を放つ謎の人物の名は、その形姿を最も端的に表した言葉――――『案山子(スケアクロウ)』、だった。

 

 

 

「……やっぱコイツ連れて来たのは失敗じゃねェか?一人だけ世界観がファンシー過ぎて敵さんがビビってくんねェよコレ」

「見てくれに関してはオメーも大差無ェだろうが」

「戦闘力以外の要素など尽く些事だろう!お前もそう思わないか?」

「…………」

 

 笛吹男の所感を剣闘士が切って捨てている隣では、熱く思いの丈をぶつける武闘家が案山子に完全に無視されている。

 

「何コイツら……」

 

 冴羽は怪訝な目を向けていたが、四人の向こう側で紅蓮は唐突に久世に背を向けた。

 

 

 

「…………逃げんのか?」

「ハッ、ほざいてろ。……目的はとっくに果たした。もうテメェらに付き合う理由は無ェんだよ」

 

 久世の挑発に対し、紅蓮は鬱陶し気に声を返す。

 

「何だ、気付いてなかったのか?お前らは今までコイツを足止め出来てたワケじゃねェぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 分かったかバカ、と嘲るように言い放ちながら、紅蓮の後に続き歩き出す剣闘士。

 

「JOKERは上手くやったようだな」

「あァ、標的(ターゲット)は捕えた。後はとっととズラかるだけのラクな任務(ミッション)だ」

 

 武闘家と笛吹男の会話を聴き取っていた澄香は、瞬時にある仮説を立てる。もしその推測が正しければ、想定を遥かに超える最悪の事態が既に起こっている可能性があった。

 

 

 

『――――白幡、聞こえるか』

「っ、学園長?聞こえてますけど、どうしました?」

 

 唐突に通信端末から聞こえて来た澄香の声に、僅かに驚きながらも千聖が反応する。

 

『御剣と藤堂、それから春川。この三人は今どこにいる?』

「すぐ確認します……!!」

 

 千聖は生徒会に所属する全生徒へ即座に指示を出し、魔力知覚による捜索網を形成した。

 

「伊織と天音っちは目の届く範囲に居ました。ただ――――」

 

 

 

 結果として、澄香の予感は的中する。

 

 

 

「――――日向が見つかりません。多分学園の敷地内には居ないと思います」

 

 切迫した状況下で発生した、日向の失踪。

 

 報告を受ける澄香の視線の先では、剣闘士が全てを見透かすかのような笑みをこちらへ向けている。その表情を目にした瞬間、彼女はこの襲撃者達の目的と意図を理解した。

 

「クソ……そういう事か……!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 協会ビルの地下訓練場にて、侵入者(ゼロ)に応戦していた本郷と柊。しかし、管理局屈指の実力者である彼等を以てしても――――覆す事の出来ない、絶対的な戦力差がそこにはあった。

 

「オイ……まだ生きてっか……」

「えェまァ……辛うじて……」

 

 度重なる過剰強化によって、本郷の肉体は限界に近付きつつある。その後方では強力な術式を連発していた柊が、鼻血を出しながら片膝を突いていた。

 

 一方で二人と相対するゼロは一切のダメージを負う事無く、無傷のまま平然とその場に佇んでいる。

 

「コイツ多分……恭夜さんとタメ張るんじゃないスか?」

 

 怪物揃いのS級魔術師の中でも更に、次元の異なる強さを誇る男。"彼"と恐らく同格と思しき規格外の力を、この眼前の敵も有している事を二人は感じ取っていた。

 

 

 

「ったく、毎度の事ながら……損な役回りばっかだな俺達ァ……!!」

「でもまァ流石に、()()()()でしょ……!!」

 

 しかし彼等の表情に、窮状を感じさせる焦りは見えない。その笑みの中にあったのは、絶対的強者への『信頼』だった。

 

 

 

 直後。

 

 轟音と共に天井を粉砕しながら、一人の人物が地下訓練場へと降下して来た。

 

 

 

「遅くなった……生きてるな!?正、俊哉!!」

 

 猛々しく豪快な声が、空間に響き渡る。鍛え上げられた体躯に荒々しいオーラを纏ったその姿は、偉丈夫と形容するに相応しい。

 

 

 

 協会内の級位に於いて、唯一順位(ランキング)制度が導入されているS級。その決定基準は、魔術師としての純粋な『実力』と級位取得後に認められた『実績』の二つによる総合評価である。

 

 そしてS級魔術師(ランカーウィザード)である、その老年の男の序列順位は――――

 

 

 

 ――――"1位"。

 

 

 

 

 

 魔術界の頂点に立つその男の名は、鬼龍院 王我。

 

 

 

 紛う事無き"世界最強"にして、『鬼神』の異名を持つ魔術師である。

 

 

 

「あと何分か遅かったら死んでましたよオレら。何してたんスか?」

「あー悪かった、何人か崩落に巻き込まれたのを運んでてな。オマエらも出る時気ィ付けろ」

 

 半壊状態のビルから、怪我人を担ぎ出し救助していたと柊に応える王我。

 

「内通者は風切でした。アイツの幻術に出し抜かれた結果このザマです。それと……春川日向の身柄(ガラ)を持ってかれました」

「ハッハッハ、結構面倒なコトになってんなァ!!やるじゃねェかアランの奴」

「どの辺が笑い事なんスかね……」

 

 険しい表情で状況を伝える本郷だったが、その報告を王我は豪快に笑い飛ばした。

 

 

 

「やる事ァ分かってんなお前ら。『表』で人員かき集めて、まずは何としても日向を奪い返せ。そしてその後は――――」

 

 魔術によって手元に召喚した大太刀を担ぎ上げながら、王我は獰猛に笑みを深める。

 

 

 

「――――この国(俺達)に喧嘩売って来たカス共を、一人残らず叩き潰せ」

 

「ウス」

「了解……!!」

 

 動き出す本郷と柊。そして渾身の力を以て、その刃は振り下ろされる。

 

 

 

「よォし、行け!!」

 

 叫びと共に叩き付けられる、王我の一刀。巻き起こされた煙と塵芥が、瞬く間に視界を埋め尽くす。

 

 

 

 しかし――――繰り出された一撃は、ゼロによって()()()()()()()()()。更に次の瞬間、その手に掴んでいた刀身を()()()()

 

 

 

 やはりその力は圧倒的かと思われたが――――直後、ゼロの姿が一瞬で掻き消える。そして遠方の壁際から聞こえて来る衝突音。

 

 地下訓練場の端から端までゼロを吹き飛ばしたのは、王我が放った正拳の一撃だった。

 

 

 

 "速く"、"硬く"、"重い"。その『剛撃』は、武装すら必要としない。魔術を構築せずとも、魔力を纏わせるだけでその攻撃威力は『必殺』の物となる。それが『鬼神』鬼龍院王我の、戦闘能力の根幹だった。

 

 

 

「成程なァ、大方恭夜(アイツ)の読み通りだ。物質破壊の特殊魔術(アビリティマジック)ってトコか」

 

 以前ゼロと交戦した恭夜から、その術式についての推測を聞かされていた王我。折れた大太刀を放り捨て、拳を鳴らしながら歩き出す。

 

 

 

「久々に本気で遊べそうだ……お互い、楽しもうぜ」

 

 瓦礫の中から起き上がりつつ、嗤う王我と対峙するゼロ。

 

 

 

 

 

 激突した魔力が、爆発的な衝撃を生み出した。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

【――――魔術管理局魔術特務課・本郷正、柊俊哉両名より魔術師協会全エージェントへ通達。

 

 現時刻を以て風切アランの魔術師資格並びに権限を剥奪、及び当該者を拘束対象とする。

 

 以降、春川日向の奪還・保護を最重要目標として行動せよ――――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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