ようこそ狂愛主義者のいる教室へ   作:トルコアイス弐号機

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11話

5月から2週間が経った。

 Cクラスの生徒はその大半が勉強嫌いで、当初はことあるごとに悲鳴を上げる文句垂れ共ばかりだったけれど、2日目から開いた勉強会はようやく実を結び始め、赤点候補者たちもなんとか赤点を免れる兆しが見えてきた。それに伴って、みんな少なくとも勉強すること自体に文句を言うことはなくなり、意外と簡単とか、やってみたら案外できるとか、そういうポジティブな意見も増えてきた。いい兆候だ。

 1週間前まで私のストレス発生源となっていた池君と山内君も、堀北さんが勉強会を新たに引き受けてくれたおかげでなんとか勉強させる段階まで漕ぎつけた。須藤君曰く勉強会自体はいたって順調らしく、池君も山内君も櫛田さんに良いところを見せたいと、意外と真面目に取り組んでいるらしい。あくまでも動機が下心なのが実にあの2人らしいけど、当初懸念したような生徒同士のトラブルとかもないし、堀北さんの計画通りに勉強会が進めば、このクラスから赤点を取る生徒はいなくなるだろう。あとはテストまでじゃなくても勉強する癖をつけてほしいもんだ。

 まぁそういうわけで、目下の悩みはほとんどなくなった。他クラスがとっくに全員勉強していることを考えると、出遅れもいいところだけど、一度とはいえバラバラだったクラスがまとまったんだから上々だ。あとはクラス全員の結束力が高まるようなイベントがあればいいけど、まぁそれは先の話になるでしょう。

 私としては、ストレス発散用のサンドバッグを買わなくて済んだと安心もひとしおだけど、しかし懸念点がないわけじゃない。過去問を見ていて気づいたけれど、私たちに知らされているテスト範囲と、過去問に出題されている範囲が結構ずれているのだ。いまだに茶柱先生からはテスト範囲の変更については知らされていないので、ここにきて今年は過去問が役に立たないという可能性が出てきた。一応過去問を使わなくても退学を回避するプランも先週から走らせているけれど、いい成績を納めればクラスポイントが得られることも考えるとやはり過去問作戦に期待したくなるし、いきなり各方面に借りを作ることになってしまうので避けたいところだ。時間もないし、タイムリミットは今日になるだろうな。最悪自分から確認しに行くつもりだ。

 兎にも角にも、中間テストまで残り1週間。だんだんと近づいてくる試練の日を前に、教室内の空気は徐々にピリピリしてるけど、決して悪いものじゃない。最初の試練を無傷で乗り越えられれば、きっとみんなにとって前を見るいい機会になるはずだ。

 

 

「授業受けてみて思ったんだけどさ、地理とか化学って結構簡単じゃね?」

 

「あ、俺もそれ思った。ほとんど覚えるだけだし楽だよな」

 

 全員で食堂で昼食を取った後、そのまま図書館に直行して始まった勉強会。だんだん問題が解けるようになって調子づいてきたのか、池と山内がそんなことを言った。

 

「確かにそうだな。数学とか英語と違って基礎ができてなくても解けなくもない科目だ」

 

「油断は禁物よ。現代社会のテストでは時事問題が出ることも考えられるわ」

 

 今のところこの学校の出題傾向はわからないが、堀北の言うように時事問題が出る可能性は十分にありえる話だ

 

「ジジイ問題? なんだそれ」

 

「時事よ。時事問題、最近起きた社会の出来事から出題される問題。本来は教科書には乗っていないから、テレビやネットで調べないといけないけど、黒華さんたちが時事問題の対策もしてくれてるみたいだから、それを覚えてもらうわ」

 

「うはー黒華ちゃん様様だな」

 

 池の言う通り、今回のテスト対策における黒華の貢献度はすさまじい。勉強会の教師役にテスト範囲の絞り込みから問題、解答解説の作成、そして今言ったように時事問題の対策など、活動は多岐にわたる。過労死しないかが心配になるレベルだ。

 

「時事問題は最後でいいわ。今はできることをやりましょう」

 

「そうだな、あれこれ話している時間もない」

 

 テストまであと1週間しかないのだ。決して余裕があるわけじゃない。

 

「はい、じゃあ私から問題ね。帰納法を考えた人は誰でしょう」

 

「くっそ。さっきの授業で習ったよな? 確かベーコンだ」

 

「はっはっは。まだまだだなぁ健。答えはズバリ『フラスコ・ベーコン』だ!」

 

「え? 『フランシスコ・ベーコン』が正解だろ。微妙に違うぞ春樹」

 

「あれー?」

 

 山内も須藤も間違えたが、最初のころに比べればまだ成長したと言える。何でもかんでも最初から『わからない』、『無理』のオンパレードだったからな。池に関してはきちんと正解してるし、残り1週間必死にやれば赤点はなんとか免れそうだ。

 

「よっしゃ、これで満点確実だろ!」

 

「いや全然だろ……」

 

「でも、あと1週間頑張ればきっと大丈夫だよ。だから体調だけは崩さないようにしないと」

 

「大丈夫よ。何とかは風邪をひかないと言うし」

 

「あ、それ聞いたことあるぜ! なんだっけな……」

 

「『バカは風邪をひかない』だろ……」

 

「え、どういう意味だ?」

 

 しまった、思わず漏れてしまった。なんて誤魔化そうか考えていると、隣で勉強していた生徒が顔をあげた。

 

「おい、うるさいぞ。集中できないから静かにしてくれ」

 

 どうやら騒ぎすぎたらしい。不機嫌そうな顔を向けて注意してくる。

 

「すまない、次から気をつけさせる」

 

「いやぁ悪いな。問題が解けたのが嬉しくってさ~。帰納法を考えたのは『フランシスコ・ベーコン』だぜ? 覚えといて損はないからなぁ」

 

 そんなへらへら笑う池を見て、注意してきた生徒が怪訝な顔をした。

 

「お前らまさか『元Dクラスの生徒』か?」 

 

 男子生徒の言葉に、隣で勉強していた他の生徒たちも顔をあげてこちらを見てきた。

 それにしても、『元Dクラスの生徒』か……。

 その独特な表現だけで、この男子生徒がどこのクラスなのかがわかる。

 

「あ? なんだその言い方。俺らは今Cクラスだっつうの」

 

「よく言うな、どうせ黒華とかいう女のおこぼれ貰っただけの不良品のくせによ」

 

 その挑発にいち早く乗ったのはもちろん須藤だ。

 

「なんだとテメエ! 喧嘩売ってんのか?」

 

「いやいや事実を言っただけだろ? カッカするなよ」

 

「上等だぜおい。殴られる覚悟はできてんだろうな」

 

 まずいな……。

 堂々と暴力宣言する須藤に嫌でも周囲からの視線が集まる。暴力を示唆した今の発言を報告されると、何らかの処罰が下る可能性だってある。

 

「やめなさい須藤君。ここで問題を起こしても不利益になるだけ。もし停学になったら、テストを受けられない可能性だって出てくるわ。そうなったらどうなるか、あなたには想像できる? 最悪何の抵抗もできずに退学になる可能性だってあるわ」

 

「っ! た、確かにな。ちょっと熱くなりすぎたぜ――ていうかよ」

 

 頭を冷やして座った須藤が気づいたように言う。

 

「お前どうせDクラスだろ。俺らのことバカにしてる場合か?」

 

「なんだと!」

 

 鼻で笑う須藤の挑発に、今度は男子生徒の方が激昂する。やはり図星だったらしい。

 

「ハッ! やっぱそうなんじゃねえか落ちこぼれ野郎がよ」

 

「コイツ……! たった20ポイント差だろうが、いい気になるなよ」

 

「たった20でも上は上よ。現実を見たらどうかしら?」

 

 おいおいお前まで煽るなよ……。

 Dクラスの生徒は今度は堀北を睨みつける。

 

「顔がいいからって調子に乗るんじゃねえぞ」

 

「脈絡もない話をありがとう。今まで自分の容姿をそこまで気にかけたことはないけれど、あなたみたいな情けない人に褒められても不愉快なだけね」

 

「ふざけんじゃ……!」

 

 ついにDクラス生徒が机を叩いて立ち上がる。このまま殴りかかって来そうな気迫だ。

 

「お、おいやめとけって山脇。もし俺らから仕掛けたなんて広まったら……」

 

 同席していた生徒が慌てて袖をつかむ。

 『広まったら……』なにか起こるとでもいうのだろうか。

 

「クッソ! まぁいい。どうせすぐにわかるさ、今回のテストでも何人退学者が出るんだろうな?」

 

「他人の心配より先に自分の心配をしたらどうかしら? Dクラスさん」

 

「好きなだけ言ってろよ。お前らさっきフランシスコ・ベーコンだとか言ってたよな? テスト範囲もろくにわかってねえ奴にどうやって負けろってんだ?」

 

 なに? どういう意味だ?

 たしか山脇と呼ばれていたか、その生徒の言葉を堀北も一瞬理解できなかったらしく、目を丸くしている。

 

「いい加減にしとけよテメエ。こっちは勉強で忙しいんだよ」

 

 先に妨害したのはこちらだが……まぁ長引かせたのは向こうの方か。

 さすがに周囲の視線も痛いので、そろそろ引き留めようとすると、また新たな生徒がやってきた。

 

「はいもうそこまでにしとこう!」

 

 間に入ってきたのは桃色の髪を伸ばした美少女だ。

 なんというか、顔もそうだが、凶悪な胸部装甲が嫌でも目を惹きつける。

 

「あ? 誰だお前」

 

「私が誰でもどうでもいいでしょ? 同じ図書館で勉強してる生徒なんだから、さすがにそろそろ静かにしてほしいなーって。これ以上やるなら外でやってもらえる?」

 

「わ、悪い。そういうつもりじゃなかったんだよ一ノ瀬」

 

 俺たちに対する態度とは打って変わって、むしろどこか怯える様子を見せるDクラスの生徒。そんな恐ろしい気配の女じゃなかったが、どういう知り合いだ?

 

「おい、もう行こうぜ。これ以上こいつらといるとバカが移りそうだ」

 

「そ、そうだな」

 

 そんな情けない捨て台詞を残してそそくさと退散していく。

 

「君たちも図書館では静かにね。以上っ」

 

 一ノ瀬と呼ばれる生徒も颯爽と自分の元いた席に戻っていく。

 

「なんで挑発したんだ堀北、あの女子生徒みたいに場を治めればよかっただろ」

 

「挑発したつもりはないわ。向こうが短気なだけよ」

 

 どんな暴論だそれは……。

 

「なかなかいい挑発だったぜ堀北」

 

「褒めるなよ。ていうか、それよりもさっきアイツ、テスト範囲外って言ってたよな?」

 

「うんっ……。どういう意味かな? クラスごとに範囲が違うとか?」

 

 櫛田の言うことも可能性としてありえなくはないが、クラスごとに争うこの学校の仕組み上、与えられる試験の難易度に差がつけられることは考えにくい。となると考えられるのは1つだけだ。

 途端に胸の内に沸いてくる最悪の未来予測を握りつぶす。ようやくなんとなく居心地のいい場所を見つけたばかりだ。まだ失いたくはない。

 

「茶柱先生に確認に行きましょう。今すぐよ」

 

 反対する人間などいるはずもない。

 

 

「はい! 終わり! 今日はもうおしまい! 終わり!」

 

「あ~もう頑張ったアタシ!」

 

「うんうん。頑張った頑張った」

 

 昼休みがそろそろ終わりということで、勉強会を終了した途端に机に突っ伏したのは軽井沢さんと篠原さんだ。Cクラス女子のカーストトップ2であるこの2人は、私の受け持つ勉強会のメンバーなのだ。くじでこの2人が私のメンツにぶち込まれたときはいったいどうゆう了見だったのか、運命の女神を問いただしたくなった。まぁこの2人を平田君と組ませると勉強の能率が落ちるので、これでよかったわけだが。ここ最近はなんとか1時間くらいは集中してくれるようになったので、こうやってダウンするのも昼休み終了直前になってきた。

 

「あ~平田君が恋しいよぉ~」

 

「いつでも会えるでしょ軽井沢さんは」

 

 平田君と軽井沢さんはカレカノの関係だ。あの2人が付き合い始めた『ということになっている』のは4月の後半になってからだ。なんでも平田君から告白したとのことだけど、なんでこの2人が恋愛ごっこをやっているのかは私にもわからなかった。まぁ別に興味もないわけだけど。

 

「そうだけどさ~。やっぱり勉強教えてもらうなら彼氏がいいな~って」

 

「は? 勉強に歯ごたえがなくなってきた? しょうがないなぁ軽井沢さん! 宿題の量を倍にしてあげよう!」

 

「いやぁ! 違うの黒華さん! 冗談、冗談だって」

 

 笑顔で告げられた死刑宣告に必死に懺悔する。まぁ私も当然冗談なのは軽井沢さんもわかってるので、ただの悪ふざけだ。

 

「でもさぁ、やっぱり憧れるわ彼氏と一緒に勉強なんてシチュエーションは」

 

「篠原さんは彼氏いても勉強しないでしょ」

 

 即座に軽井沢さんのツッコミが入る。

 

「し、失礼な! 多分するわよ!」

 

「いや多分って言っちゃってるし」

 

 まぁこんな感じで、話していて楽しい生徒が多いのでこの勉強会も退屈はしない。進捗も順調で、このまま何事もなければ全員が赤点を回避できる感じになっている。

 

「あ~平田君みたいな彼氏が欲しい~。他クラスは敵同士だから難しいし、テストが終わったら上級生から探すかぁ……」

 

「Cクラスにはまだまだ男子がいっぱいいるけど?」

 

「いや無理無理、あんな子供っぽい変態! 中学生みたいじゃん」

 

「付き合うならやっぱり落ち着いた人のほうがいいよね~」

 

 女子高生が年上の男性に憧れるというはままある話だ。原因は篠原さんが言うように、同年代の男子に幻滅したりだとか、年上の落ち着いた雰囲気に憧れるとか、そういうのが多い。

 

「黒華さんは付き合うなら年上? 年下? どっち?」

 

「えーどうだろ。中学生の時好きだった人は年下だったけどなァ」

 

「えー意外! 黒華さんこそ年上好きそうだもん!」

 

 それ、何の根拠があって言ってるんだ?

 

「黒華さんもやっぱり彼氏は欲しい感じ?」

 

 それはもう間違いない。

 

「めちゃくちゃ欲しいけど、つくるのはきびしそ~。わたしめちゃくちゃ嫉妬深いんだよね」

 

「えっなんか意外。どんな感じなの?」

 

「もう他の女と話してるだけで嫌になる」

 

 もっと言えば他の女と友達なだけで我慢ならない。というか男でもそうだな。交友関係は私1人に限定してほしい。記憶の中の知り合いも私だけにしてほしい。私のことしか知らない人。うん、これだな。

 

「こ、こわ。けど焦るのはわかるかも」

 

「でも彼氏欲しいって言う割に、黒華さんって全然浮ついた話……あっ! 須藤君はどうなの!?」

 

 須藤君の話は4月の間に散々なされた。

 

「別にそういう関係じゃないよ。普通の友達」

 

「でも須藤君って黒華さんと仲良くなってから丸くなったよね。まだ時々怖いとこあるけど、最初の頃よりよっぽどマシだわ」

 

 須藤君はまだまだ喧嘩っ早いところがあるけれど、少なくとも道行く人みんな威嚇するとか、そういったことはなくなった。私の調教の賜物である。いやまぁ普通に朝練してるだけなんだけど。

 Cクラスのカースト上位の女子が集まると、話題になるのはこういう浮ついた話ばかりだ。あのクラスのあの人がかっこいいだの、付き合うならこういう人がいいだの同じような話ばかりである。まぁそういうのが意外と楽しかったりするわけだけど。

 特別棟教室のカギを職員室に返し、そうやって雑談しながら教室に戻ると、出ていく前とは違う空気が私たちを迎えた。

 

「うん……? どしたのみんな」

 

 軽井沢さんも気づいたようだ。

 見回した教室では、今朝と打って変わって暗い空気で満ちていた。生徒たちは多くが不安げな表情をしていて、教壇でなにやら話し込んでいる平田君たちの顔も厳しい。そんな中、櫛田さんが私たちに気づくと、すぐに駆け寄ってきた。

 

「梨愛ちゃん! 大変なことになっちゃったのっ」

 

「桔梗ちゃん、何があったの?」

 

 切羽詰まった様子の櫛田さんは私の質問を受け、なぜか堀北さんの方を見た。

 

「テスト範囲が変更されたのよ」

 

 思いがけない凶報に軽井沢さんたちが目を見開く。テスト1週間前のこのタイミングにテスト範囲の変更など、彼女たちのような学力の低い生徒にとっては死刑宣告に近い。そしてどうやら話はそれだけではないようだった。

 

「佐枝ちゃん先生、先週の金曜日にはテスト範囲の変更が決まってたのによ、忘れてたとか言って今まで俺らに黙ってたんだ!」

 

 池君が半ば叫ぶように補足する。

 

「落ち着いて、詳しく説明してほしい」

 

 説明を要求すると、頷いた堀北さんが、口を開いた。

 

堀北さんたちのグループは、今日も昼休みから勉強会をするべく図書館にいたらしい。内容としては暗記科目の勉強で、その時は問題の出し合いをして勉強していたとのこと。池君たちが問題1つ1つに一喜一憂する様子を見かねた生徒が静かにするよう注意してきたという。

 

「全面的に私たちが悪かったので、その場ですぐに謝罪したのだけれど、彼ら、私たちがCクラスの生徒とわかると態度を変えたのよ」

 

「あいつ、俺らが不良品だとか、何人退学するのか楽しみだとかほざきやがったんだ。不良品はむこうだってのによ」

 

「とにかく低レベルで滑稽な連中だったわ。どうでもよかったし勉強会の邪魔だったところに他クラスの生徒が注意しに来たのだけれど、Dクラスの生徒が気になることを言ったのよ。『テスト範囲もろくにわかってないやつ』と」

 

 聞き逃せない台詞を聞いて、堀北さんたちはすぐに職員室に向かい、そして茶柱先生に確認したところ、茶柱先生はテスト範囲の変更をあっさり認め、範囲をメモしたプリントを手渡してきたとのこと。教師としてあるまじき失態だけど、悪びれる様子などはまったくなかったという。

 

「そのプリントを見せてもらえる?」

 

 受けとったプリントに記されたテスト範囲は、私が持つ過去問の内容と一致していた。全然範囲の変更が通知されないと焦れていたけど、まさか『忘れていた』なんて――。

 いや、そんなのありえるはずがない。退学がかかってる定期テストに関する重大な連絡を忘れるなど、教師どころか社会人として問題だ。報告されれば更迭されてもおかしくないレベルの失態だと思うんだけど……。

 今はこれはいいか。

 テスト範囲の変更を『私に』知らせなかったのは茶柱先生だけじゃないしね。あの女……。

 

「黒華さん、アタシ達大丈夫なの?」

 

「軽井沢さんたちは大丈夫。今日の放課後からでも対策すれば間に合うよ」

 

「僕たちのグループもなんとかテストには間に合いそうなんだ。けれど――」

 

「私たちの方は正直かなりギリギリよ。まったく手を付けていない範囲だったから」

 

 平田君と私のグループが5月が始まってすぐに勉強会を開始したのに対し、堀北さんたちは先週始めたばかり。それも相手は3バカトリオと、Cクラスで最も学力の低い3人だ。元々の学力差に加え、勉強時間自体も劣っている。順調に回り始めた堀北さんの勉強会だったけれど、ここにきて思わぬ壁が立ちはだかった。

 

「ふざけやがって……こんなとこで退学なんて絶対ごめんだぜ!」

 

「ああ、絶対乗り越えてやる」

 

 一番不安だったのは池君たちのモチベーションだったけれど、意外と大丈夫そうだ。茶柱先生のあんまりと言えばあんまりな態度と、Dクラス生徒の煽りが逆にやる気を出させたか。

 

「とりあえず出題内容の絞り込みをしなきゃいけない。このテスト範囲は全員がいつでも確認できるようにクラスのグループチャットに貼り付けよう」

 

 なんともまぁ白々しいことだと自分で思う。

 テスト範囲が変わることなんてわかっていたし、そもそも赤点を免れるどころか、全員が100点を取る手段すら持ってるのに、それを隠してこうやって危機を乗り越えようと足掻く生徒を演じているんだから。

 でもしょうがないよね。だっていつか私がありのままを晒した時。皆にとって私は必要な人間じゃないといけない。

 今度は否定されないように、遠ざけられないように、私なしでは生きていけないように依存させなきゃいけないんだから。そのためだったらなんでもやる、そう決めたはずだ。

 

「それと須藤君。こんなこと言いたくないけど、1週間は部活を休んでほしいの」

 

「ん? ああ、最初からそのつもりだぜ。もう堀北に言ってある」

 

 え、マジ?

 想定外の答えに驚いたけど、堀北さんも頷いているし本当みたいだ。しかも須藤君から言い出したっぽいし。須藤君の成長速度は想像以上だな。

 と、このタイミングでチャイムが鳴る。5分経てば授業が始まるので、もう話し合う時間はない。

 

「とりあえず、残りの話は次の休み時間でやるから。思いつめて授業に集中できなくなるのは避けてね」

 

 それだけ言い残して解散する。

 どちらにせよ私たちの勝ちはほぼ決まっているのだ。焦らずにこのまま中間テストを迎えればいい。

よう実の詳細な時系列や特別試験のルール、設定などをまとめた資料を書くかどうか(詳細は1章幕間の後書き参照)

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