ようこそ狂愛主義者のいる教室へ   作:トルコアイス弐号機

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3話

 入学式。

 それは全ての人間が人の話をスルーすることを覚える最初のイベント。

 校長、理事長、市長、その他来賓の方々。

 歳をとって偉くなった方々の話というのは私たち若者にたって大変退屈であり、その上いったい何時まで話し続けるんだと思わざるを得ないほどに長い。あらゆる行動を制限されるその時間は苦痛以外の何ものでもなく、そのため私たちはその苦痛の時間をなんとか乗り切るために、人それぞれ戦う方法を身につける。

 

 あるものはただ無心となった。

 虚ろな目で俯き、ただひたすらに時が経つのを待ち続ける。あるものは貧乏揺すりを、あるものは手遊びをしたりと、人によってその戦闘スタイルが異なるのが特徴だ。ただし正気に戻ってしまうと、実はあんまり時間が経ってないことに気づいてダメージを受けてしまうのには注意する必要がある。

 

 あるものは妄想した。

 この体育館に突如悪役が現れ、それを颯爽と退治し一躍みんなのスターとなる。都合のいい妄想も極限まで突き詰めればそれは夢と変わらぬ思考の淀みとなり、故に気がつけば時間が経っているという。しかしニヤケ顔を他人に見られて気持ち悪がられないように注意が必要だ。1人でニヤついている人間ほど気色の悪い人間もいない。

 

 また、あるものは寝た。

 睡眠とはそれ即ち意識の跳躍であり、入学式においては先生方の冷たい目線を除けば、目覚めた時には疲れるどころかスッキリする最強のやり過ごし方である。故にその難易度は高く、緊迫した空気の中でも寝るという図太さ、そして確固たる意思が要求される。

 

 私、黒華梨愛もまた体育館で発せられるありがたいお言葉の数々を一言一句全て残らず右から左へと聞き逃がしていた。

 この特別な学校の入学式も、例に違わず非常に退屈なものであり、暇を持て余した私はどうせマスクが邪魔でバレないと堂々と欠伸をかまし、ただひらすら余計なことばかり考え、この退屈な時間を潰す。

 そう、例えばこんな風に脳裏にひたすら文章を思い描き続けることで──

 

 中略

 

 すなわちこうやってどうでもいい事の思考に脳のリソースの全てを回すことで時間は刻一刻と過ぎてゆく。

 そうすればこのように、気がつけば入学式は終わり、Aクラスから順に教室へと帰っていくことになるわけだ。

 今回もまたこの退屈な時間をなんとか乗り切った。この後は先生から軽くこの学校についての説明を受けた後、昼前には解散となる予定だ。程なくしてDクラスも退出するよう言われたので、私も思考を打ち切り、茶柱先生に続いて体育館を出ていく。

 なんというか、この辺は小中高全部一緒なんだ? 

 

 ◇

 

「さて、今日の説明はこれで以上となる。この後は自由時間だが、明日は朝8時45分から平常授業が始まるのでそのつもりで。入学初日からあまり羽目を外しすぎるなよ。では解散」

 

 入学式が終わってから、茶柱先生からこの学校の敷地内の説明を受けた。どうもこの学校は全生徒が暮らす寮。各学年の校舎やグラウンド、体育館などが揃う学校エリア。そしてケヤキモールと言われるショッピングモールの他、スーパーやカラオケなどの各種娯楽施設、商業施設が立ち並ぶ娯楽エリアの3つで構成されているらしい。配布された携帯にプリインストールされている地図アプリで見たところ、その他にも多くの建物やヘリパッドなどを見つけたけれど、まぁこれは私達学生には関係ない場所だろう。

 教室ではほとんどの生徒が寮に戻るつもりなのか、いそいそと帰宅準備を始めていたけど、一部の生徒はこの後遊びに行くつもりらしく、カフェがどうだの、カラオケがどうだの話に花を咲かせていた。私もあの中に混ざりたいけれど、今から混ぜて! なんて声をかけても引かれるだけ。

 仕方がないし私も寮に帰るか、そう考えて席を立った私に急遽救いの手が差し伸べられた。

 

「黒華さん! よかったらこの後、私たち3人とお昼食べない?」

 

 突如現れた救世主は櫛田さんで、相変わらずの眩しい笑顔だ。傍には緊張の面立ちで私を見つめる女子生徒が2人。たしか井の頭さんと、王さんだ。井の頭さんは自己紹介に詰まったのを櫛田さんにフォローされたおかっぱ頭の女の子。ツーサイドアップにした黒髪を揺らす王さんは中国からの留学生だと言っていた。

 涙が出るほどありがたい申し出だけれど、遊びに行くより先にやりたいことがあるのを思い出す。

 

「あ~先に寮で荷物の整理をしたいから、私はそれからでもいいかな?」

 

 遊びに行くにしてもたぶん買い物メインになるので、先に何が必要か把握しておきたい。お昼にはちょっと遅れるかもしれないけど、それはそれで好都合だ。

 

「もちろん私は大丈夫だよっ。2人はどうかな?」

 

「あ、私も先に部屋を見てみたいかも……」

 

「私も……」

 

 おずおずといった様子で手を挙げる。

 

「じゃあ荷解きが終わったらもう1回集合する感じにしよっか。これ、私の連絡先ね黒華さん。終わったら連絡してね」

 

 メールアドレスと携帯番号が書かれた紙を手渡してくる。準備がよすぎるけど、いつの間に用意してたんだ。私も学生手帳のメモ欄に手早く連絡先を書き込み、ちぎって渡す。

 

「ありがとう黒華さんっ。それじゃ、せっかくだし寮まで一緒にいこっか」

 

 綾小路君の羨ましがる視線を背中に感じながら教室を出ていく。校舎から寮まではすぐ近くで、短い道のりをおしゃべりしている途中、ふと気になったことができたので聞くことにした。

 

「井の頭さんと王さんって、もしかして黒いマスクつけた人苦手?」

 

 人見知りであることを考えても、私と話す2人は若干ぎこちなかった。一応これでも話しやすい雰囲気づくりや会話を心掛けているから、解消できるならしておきたかったのだ。

 

「え、いえいえ全然そんなことは!」

 

「う、うん! そうだよ、ね」

 

 ありがたいことに身振りまでつけて慌てて否定する。過剰な反応は図星であることが丸わかりで、少しおかしくなって笑えてくる。

 

「あははっ、ごめんね。次から黒はやめとくよ」

 

「うう、すみません気を使わせてしまって……」

 

 ちょっと落ち込んでしまう王さん。この後遊びに行くのに、そんな風にテンションを下げてしまったのはこちらの落ち度だ。

 落ち込まなくていいよと笑顔を向ける。マスクで顔は隠れていても、目が笑っていれば、笑顔というのは伝わるものだ。

 

「全然気にしないで。黒いマスクつけた人が攻撃的に見えるのはしょうがないよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 お礼を告げる井の頭さんの緊張が若干ほぐれる。王さんも同様で、気が楽になってくれたならなによりだ。

 そうして歩いていると、寮にはすぐにたどり着いた。エントランスの受付で名前とクラスを告げると、なにやら冊子と部屋のキーカードを渡される。私のキーカードに書かれた番号は『1207』。この寮は13階建てだそうなので、かなり上の方の階に当たったことになる。そんなに高い建物には登ったことがないので、窓からどんな景色が見えるんだろうと考えると、少し楽しみだ。

 3人とも私とは部屋の階層が違ったので、エレベーター内で一旦別れを告げる。そのまま12階に着いたら、エレベーターから右手に少し歩いけば、1207号室、私の部屋に到着だ。

 扉を開けた私の目に飛び込んできたのは積み重ねられたダンボール箱。学校に合格時、ある程度の重量までなら、私物の携帯などを除いて好きなものを学校に送れるようになっていた。このダンボール箱の中身はその私物だ。生徒一人一人の部屋にいくつもダンボール箱を運び込むのは相当大変だったと思う。やってくれた業者さんに感謝だ。

 

「結構広いな」

 

 居間の広さは8畳ぐらいかな? 

 大手を広げて大はしゃぎできる訳では無いけれど、一人で暮らす分にはもちろん、友達を数人呼ぶくらいなら十分な広さだと。思う目につく家具はベッド、勉強机に椅子、テレビに固定電話などなど。あとは丸いセンターテーブルが部屋の真ん中にちょこんと置いてある。このテーブルは1人で使うには若干大きく、『友達と囲んで使え』という学校からのメッセージをヒシヒシと感じる1品となっている。カーペットとクッションが欲しいな。

 

「教科書はもう揃ってるんだ」

 

 勉強机には既に授業で使う予定の教科書や問題集がズラリと並び立てられていた。高校から科目数が爆増するため、中学校の時より使う教科書の数はかなり多くなる。分厚さもなかなかなもので、『数ⅠA』と書かれた黒い問題集は百科事典もかくやという分厚さだ。カバンの大部分を占領するこいつを毎日持ち運ぶのは、ちょっと大変だな。

 机の中には他にもいくつかクリアファイルが入っていた。見たところこの学校オリジナルのものらしく、徽章がデザインされている。卒業後高く売れるかもしれないので、私はこのクリアファイルのうち1つは使わずに綺麗に保存することに決めた。

 次にキッチンに向かう。

 コンロ、洗い場、冷蔵庫に電子レンジと、必須クラスの設備は一通り揃っていて、なんと小型とはいえオーブンまで備え付けられていた。これならお菓子やパンも焼けるだろう。コンロはガス火ではなく、IHで掃除も楽々といういたれり尽くせり具合だ。

 ただ私からすると足りないものも数多く、まずまな板と包丁が見当たらないのは問題だ。フライパンや鍋もないし、食器類も一切用意されていない。ポットがないからお湯も沸かせないし、なにより炊飯器がないのは致命的だった。明らかにここに炊飯器を置けと言わんばかりの場所があるのに、炊飯器がないのはいったいどういう了見なんだろう? ずっと既製品のご飯を使う気なんてサラサラないので、いくらポイントが足りなくとも炊飯器の購入は絶対だ。せっかく自炊しようと思ってたのに、これだと必要なものを用意するだけで結構ポイントを持っていかれそうだ。もしかしなくとも自炊より食堂とかで済ませた方が安上がりになるかもしれない。

 

「こっちが洗面所か」

 

 玄関のすぐに左手には脱衣所と一緒になった洗面所があった。あるのは鏡と洗面台、そして洗濯機だけで、収納棚を開けてもどれも空っぽだった。歯ブラシやバスタオルなんかの生活必需品は自分で買えということか。

 お風呂も覗いてみたけれど、シャワーと浴槽、あとバスチェアがあるだけで、やはりシャンプーなどは用意されていなかった。

 まぁここはホテルではないからね。お風呂も充分広いし文句はない。

 ちなみに風呂とトイレはちゃんと別々で、玄関の右手にトイレがあった。ウォシュレットまでついた便利なやつ。初めて見る高機能な家具の数々に感動する。貧乏家庭のうちでは到底考えられない豪華な部屋だ。成金ってこういう気分なのかもしれない。

 一通り部屋を探索し終わったので荷解きにかかる。この分だと今日のお昼ご飯はちょっと遅めになりそうだ。最初のダンボールを開けると中身は私服の山だった。きちんとビニールで小分けに包装されていて、グチャグチャになってしまった、なんてこともなく綺麗な状態で届いている。収納するためにクローゼットを開けると、学校で着る制服が何セットか用意されていた。この学校の制服の規定は割と緩く、シャツの色も白だけじゃなく水色や黒色など数種類用意されていて、またスカート丈の指定もそんなに長くない。今日も多くの女子生徒がその魅惑の太ももをチラリと露出させていた、というかスカート自体が短いのでどうしても見えてしまう。デザインは可愛いけど、冬場はさすがに寒そうだ。髪色も自由で、このように比較的緩いけど、ピアスはさすがに禁止で、あと何故かブレザーだけは着用が義務付けられていた、夏場もそれは変わらないらしく、一応薄めの夏用のブレザーも用意されているらしいけれど見当たらない。個別にポイントで買わないといけないのかもしれない。

 衣服の片付けは終わったので、次に雑貨類に取り掛かる。小学生の時から世話になっている目覚まし時計に、運命の出会いを果たした安眠枕。スタイル維持に必須の腹筋ローラーに、風呂上がりに使う足ツボマット。あと存在を認識したくないけどなくてはならない体重計、その他もろもろエトセトラ。ちなみにほとんど人に譲ってもらったやつだ。こんなに私物を買うお金は私にはなかった。

 あとは洗って使えるマスクが10個くらい。これが無いとクラスの皆に迷惑をかけることなるので、ほかの何を差し置いても必要になる。

 

「こんなもんか」

 

 携帯を確認してみると、3人もつい先ほど片づけを終えたらしく、『ラウンジで待ってるね』とメールが届いていた。私も今から行くと返信し、何を買うか頭の中でサッと整理する。

 ラウンジに着くとすぐに櫛田さんたちを見つけた。ソファーに座ってなにやらパンフレットのようなものを読んでいる。

 

「お待たせ~」

 

「これ読んでたから大丈夫! じゃあ早速だけど行こっか」

 

 2-2で並んでエントランスを出る。3人とも先程からパンフレットを気にしている様子だったので、それについて聞いてみることにした。

 

「櫛田さん、その手に持ってるのってなに?」

 

「これはね実はさっき部屋のポストを確認してみたら入ってたんだ。見たかんじオススメのお店とか、よく使うお店とかが載ってるっぽいね」

 

 なにその便利アイテムは……。

 櫛田さんに横から見せてもらったけれど、言う通りに敷地内での人気店や、遊ぶのによく使われる娯楽施設などが紹介されていた。レイアウトもかなり見やすいし、一瞬学校が用意したものかと思ったけれど、至る所に『新聞部』の文字が載ってある。新入部員獲得に向け早くも動き出してきたということか。

 

「ほんとうにたくさんありますね」

 

「だね。ラウ〇ドワンにジャン〇ラまであるし、これ今月中に制覇するの絶対無理でしょ」

 

「テレビで見たことあるお店とかもあるみたいだし、ほんといたれり尽くせりだね」

 

 あまりにもいく場所の候補が多すぎるので、適当なベンチに腰掛けてこの後の予定を決めることにした。4人でパンフレットを睨みながら相談した結果、ひとまずお昼を食べに、学内でも屈指の人気を誇るらしいレストランに向かうことにした。どうやらこの学校が設立した30年前からずっと営業を続けているらしく、なんでも食堂と並んでこの学校の食を司るシンボルとなっているとのこと。

 

「人多いね〜」

 

 娯楽エリアに着いたけど、至る所に楽しそうな生徒の姿がある、というか生徒の姿しかない。3,4人でグループを組んでいるところが多いので、ほとんど上級生かもしれない。見渡す限り色んなお店があって、どれもこれも私たちの為に用意されたものなのだと思うと、改めてこの学校の特別さを思い知る。頑張って勉強してきてて本当に良かった。

 賑やかな光景に、4人でキョロキョロしながら歩き続け、程なくして例のレストランに到着する。扉を開けると来店を告げる鈴がなり、すぐに店員さんが接客にやって来た、どうやら待つことなく4人席に入れるらしい。席に案内されながら見た店内はすでに多くの生徒で席が埋まっていたので、12時台なら待たないといけなかったかもしれない。学内屈指の人気店の称号は伊達ではないということか。

 

「ここはオムライスが美味しいんだって。ほらっあのトロトロして綺麗なの、なんて言うんだっけ?」

 

「ドレスドオムライス?」

 

「そうそれ! 私まだ食べたことないから楽しみだなぁ」

 

「私も初めてかも……」

 

 メニューに写真は載っていないけど、大きな文字で『オススメ!』と書いてあるし、たしかにこれが1番人気なんだろうな。それにしてもオムライスか……ドレスドオムライスなら十中八九デミグラスソースがかかってるだろうけど、ま、いっか。

 結局全員がオムライスを注文し、到着を楽しみに待つ。

 

「黒華さんってお料理が趣味って言ってましたよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

 料理を待つ間、王さんの方から声をかけてきてくれた。

 

「そのオムライスも作れたりします?」

 

「ふふんっ、作れるよ。まぁデミグラスソースが買っても作っても高いから、普通のオムライスを作ることの方が多かったけどね」

 

 胸を張ってドヤ顔を決める。三ツ星レストランのコース料理を再現しろと言われても流石に無理だけど、それ以外なら大抵のモノは作れるのが私の料理の腕前だ。貧乏家庭の限られた予算で可能な限り美味しく、たくさん料理を作るのはなかなかいい花嫁修業となった。

 

「すごいね。せっかくだし私も料理始めてみようかな」

 

「料理はいいよ、たまにめんどくさくなるけど。井の頭さんは裁縫と編み物が得意って言ってたよね」

 

 自己紹介の時、言葉に詰まりながらもそう言っていた。今ドキの学生の趣味としては珍しいと思ったので機会があれば聞いてみたいと思っていたのだ。

 

「うんっ、人形とか作ったりするの。私が使ってる筆箱も自分で作ったんだよ」

 

 そう言ってカバンから筆箱を取り出して見せてくれる。

 え、すご、ガチじゃん。

 3人でその完成度の高さを褒めちぎり、照れた井の頭さんの耳が赤くなる。

 

「いいなぁ。私趣味とかないので……」

 

「実は私もなんだよねっ。何かいい趣味に巡り合えたらいいんだけど」

 

 なんでも王さんは日本語を覚えるので精いっぱいで趣味どころじゃなかったとのこと。新しい言葉を覚えるのって大変だよね。私も慣れるまでは時間がかかった。

 そうやって雑談しているうちに、ほどなくしてオムライスが4つテーブルに並べられる。

 なるほど、確かにこれはおいしそうだ。見事なまでに綺麗に盛り付けられたトロトロのオムライスの上に、いい匂いのするデミグラスソースがたっぷりとかけられている。上にトッピングされた細かく刻んだパセリも見た目によいアクセントになっていて、否応なしに期待が高まる。

 

「おいしそ~! これは写真撮らなきゃだねっ」

 

「今ドキ女子だね櫛田さん」

 

 櫛田さんは早速パシャパシャ写真を撮っている。

 

「こういうのはちゃんと記録に残さなきゃだからね。あ、そうだ。皆で写真撮ろうよ」

 

「えええ~!?」

 

 猛烈に恥ずかしがる王さんだけど、何気嬉しいのかあっさりと承諾した。

 

「うん、撮れてる撮れてる」

 

「黒華さんってマスクだけど、外さなくてよかったの?」

 

「うん、あんまり顔を見せたくないんだよね。だから食べるときも視線は外していただけると」

 

 3人ともずけずけと見えてる地雷に踏み込んでくる人じゃないのはここまでの会話で把握している。マスクを外し、極端までに下を向いて、なおかつ手で顔を隠しながらオムライスを口に運ぶという行儀の悪い私を咎めることもなく、また気を遣って食事中に話しかけるようなこともしてこなかった。その配慮が私にはとてもありがたい。

 口にしたオムライスはトロトロのオムレツ、濃厚なデミグラスソース、そしてふっくら粒の立ったご飯にパンチェッタや刻んだ玉ねぎが調和した見事なものだった。正直これは通ってもいいと思えるほどにおいしい。

 4人とも、夢中になってオムライスを平らげる。

 

「いや~初めてあんな美味しいオムライス食べたかもっ」

 

 店を出ると、満足げな様子で櫛田さんが呟いた。

 この学校での初めての食事のレベルが相当に高かったので、私も今後の学校生活を思うと期待で胸が躍る。

 

「この後はお買い物だったよね」

 

「うん、えっと……」

 

 櫛田さんがパンフレットを広げる。どこを回るか、色々書き込んだのだ。

 

「まずホームセンターでしょ? 次にコンビニ行って、ケヤキモール行って、最後にスーパーだね」

 

 櫛田さんの持つパンフレットには『新入生必須! 今すぐ買うべきアイテム一覧』なるものがあり、その中には炊飯器の写真もあった。やっぱりオーブンより炊飯器を用意するべきだと思うんだけど、学校は炊飯器を生徒に買わせることに並々ならぬ思いがあるのかな? 

 4人でホームセンターの中をうろちょろしながら、アレを買うコレを買うと、必要なものを買い揃えていく。私も家電製品売り場でしっかりと炊飯器を確保した。一人暮らしの人向けのIH炊飯器でお値段1万2千ポイント。

 た、高い……、初日にこの出費は痛すぎる、が、背に腹はかえられぬ。お米は絶対必要だ。

 ああいった重い製品は寮の部屋の前まで運搬してくれるらしく、明日の夕方には届くとのこと。残念なことに、今日はもうお米が食べられないことが確定した。適当にパスタでも作るか……。

 櫛田さんたちもドライヤーだとか延長コードとか、とにかく金にものを言わせて買いまくった。

 

「一気にお金使うのって気持ちいいね」

 

「黒華さん!? その考え方は絶対危険だと思う!」

 

 コンビニに向かう途中で呟くと、3人から猛烈なお説教を食らった。大丈夫、散財するのはいろいろ入用な今日だけだよ。

 

「私こんなに大きいコンビニ初めて見た」

 

 ど田舎の私の地元は、一応コンビニなるものは存在したものの、売ってる商品のバリエーションがしょぼく、雑誌なんかは月に一度更新されればいい方という有様だった。

 それに比べてここのコンビニは品ぞろえ豊富で、見たことのないジュースやカップ麺なんかがたくさん並んでいた。

 

「話してて思ったけれど、黒華ちゃんの地元って結構田舎?」

 

 首をかしげる井の頭さんはだいぶ普通に話せるようになってきた。なんでも緊張するのは人前と、初めて会う人と話すときぐらいで、それ以外は全然ハキハキとしゃべる女の子だ。こうして私もちゃん付けで呼んでくれるようになったしね。

 

「そうなんだよね~ほら見て、こんなカップ麺初めて見た」

 

 適当に手に取ったカップ麵を見せつけると、井の頭さんの視線がちょっと下に降りた。

 

「Gカップ……」

 

「はい?」

 

「ううん何でもないの! 気にしないで」

 

 私の手元からカップ麺が奪い去られる。呆気にとられるほど迅速な手口だった。私は知らないけれど、そんなに美味しいやつなのかな? 興味はあるけど、カップ麺は健康にあまりよくないので、私は買うつもりはない。

 化粧品やシャンプーといった日用品を小さな買い物かごに放り込んでいく。高いも安いも揃っている中、私の手は勝手に安いものを選んでいく。まぁこれはもう癖というか、身に着いた習慣というやつだ。そうしてコンビニ内を探索していると、立ち止まって商品を見つめる櫛田さんと王さんが目に入った。2人とも何か手に取って吟味している様子。

 

「あれ? どうしたの2人とも」

 

「あ、黒華さん。見てこれ」

 

 そう言って櫛田さんは手に持つハンドクリームではなく、見ていた商品コーナーそのものを指さす。

 

「無料……?」

 

 歯ブラシや絆創膏などが雑多に詰められていたワゴンには『無料』の文字。付け加えてプライスカードの代わりに、『1か月3点まで』と但し書きされたカードが添えられてあった。

 

「そうなんです。安物だけど、粗悪品ってわけでもないみたいで……」

 

「ポイントを使い切った人向けの救済措置なのかな?」

 

 櫛田さんの言う通りならいくらなんでも生徒に甘すぎる気がするけれど……。生活必需品を揃えたなら、ポイントを使う機会はそれこそ娯楽と食費しか残らない。後者も計画を立てれば月にいくらまで使えるかの算段がつくし、余程愚か者じゃなければポイントを使い切るなんて考えられないな。それに──いやまぁ確かに、もし間違いでポイントを使い切ってしまった場合、お恵みがなければ餓死するからね。あり得ない話ではない……のかな? 

 

「無料ならせっかくだし貰っていこうかな」

 

 タダより高いものはないなんて偉い人は言うけど、全然そんなことはない。1円もかからないならありがたくもらっていこうじゃないの。

 歯ブラシはホームセンターで電動のやつを買ったので、歯磨き粉1つとスポンジ2つをかごに入れた。

 

「みんなでバラバラに買って、使い心地でも報告しあう?」

 

「あ、いいねそれ賛成」

 

 櫛田さんの提案を受けてスポンジを1つ差し戻し、代わりにリップクリームを買うことにした。

 レジにはそれなりの列ができてたけれど、すぐに私の番まで回ってくる。会計は機械に学生証をかざすだけ。処理も一瞬で、せいぜいレジ袋に商品を詰め込む時間がかかるくらいだ。現金以外で会計するなんて今日が初めてだったけれど、最高に便利だ。卒業したらすぐにクレジットカードを作ろう。

 

「お、重い……」

 

 王さんに限らず、私たち全員の手にぱんぱんに膨れ上がったビニール袋が吊り下げられている。どれも底が破けてないのが不思議なくらいだ。

 

「先に寮に帰ろうか。王さん、重かったら私持つよ」

 

「そ、そんな、申し訳ないです」

 

「いいからいいから」

 

 王さんのちっちゃい手にビニール袋が食い込む絵面は見ていてなかなか痛々しい。ずっと力を込めてるせいで真っ赤になってるしね。半ば奪うように王さんのビニール袋を片方人差し指に引っ掛ける。

 

「黒華さん……力持ちだね」

 

「え? ああ、一応鍛えてるから」

 

 櫛田さんはちょっと驚いた様子で、井の頭さんは信じられないものを見たような顔をしている。伸び切ったビニール袋を指一本で保持する私は、傍から見たら怪力女に見えるだろうか。

 

「ありがとうございます!」

 

「いいって。2人のも持とうか?」

 

 冗談のつもりだったけれど、井の頭さんはおねがいと言ってなんと見るからに重そうな方を手渡してくる。え、遠慮しないなこの子、さすがに4つはちょっと重いかもしれない。コンビニから寮までの道のりを談笑しながらとぼとぼ歩き、エレベーター内で2人に荷物を渡す。井の頭さんは感激した様子で拍手を送ってくれた。

 この後はケヤキモールに行く予定だったけれど、ちょっと疲れたのでまた今度にしようということで、櫛田さんの部屋にお邪魔して駄弁ることになった。各人買ったものを部屋に置き、櫛田さんの部屋に再集合する。

 さすがにまだ私物を荷解きしたばかりなので、櫛田さんの部屋は私のそれと大差はなかった。目立つのはベッドに置かれた大きなクマのぬいぐるみくらい。殴り甲斐がありそうな重量感だ、という感想は野蛮人過ぎるかな? 

 床に直座りだと、お尻が痛くなるということで、ベッドに腰かけるよう櫛田さんに促される。細かな気遣いはさすがといったところ。4人で並んでおしゃべりしていると、あっという間に時間が過ぎていく。入学式とは大違いだ。

 

 ◇

 

「あ、黒華さん、そろそろ時間じゃないですか?」

 

 おしゃべりの最中、みーちゃんがはっと気づいたように教えてくれる。ちなみに『みーちゃん』というのは王さんのあだ名だ。なんでも親しくなった人にはそう呼んでほしいとのこと。腕時計を確認してみると午後5時半を回っていて、確かにそろそろスーパーに寄りたい時間帯。

 

「じゃあそろそろ行くね。3人はどうする? ついてくる?」

 

 私以外はスーパーに何の用事もないので特についてくる理由はない、ので、一応聞いてみる。

 

「もちろん行きます! 荷物持ってもらいましたしっ」

 

 櫛田さんと井の頭さんも頷く。みーちゃんはともかく、井の頭さんには荷物を持ってもらおう。

 すっかり身軽になり、体力も回復した私たちはてくてくとスーパーを目指して歩く。この時間帯になると行き交う生徒の数も減ってきていて、生活のための買い出しをしに来たのか、1人で娯楽エリアを歩き回る生徒の姿が目立つようになってきた。

 たどり着いたスーパーはなかなかの大きさで、入ってすぐの野菜や果物コーナーにも数多くの食材が取り揃えてある。みーちゃんは桃に興味津々な様子で、気づけば1つ手に持っていた、好物なのかもしれない。

 

「Tボーンステーキとか売ってあるんだけど」

 

 お目当ての食材や調味料を次々と買い物かごに放り込んでいくなか、精肉コーナーで見つけた厚さ2センチはあろうかという分厚いそのステーキ肉は、お値段なんと3200ポイント。これならステーキハウスで1万円くらいのものを食べに行くほうが全然マシだ。調べたけどそういう高級店もちゃんと用意されているらしい。卒業までに絶対に1回は行くと決意したのは、櫛田さんの部屋でどんな施設があるのか調べていたときのことだ。驚きの品ぞろえは野菜に肉だけでなく、魚コーナーにも鯛の尾頭付きが売ってあった。いったい誰が買うの……? 

 

「あれ?」

 

 ついでにということで、櫛田さんが買うお菓子やジュースも買い物かごに放り込み、いよいよ会計というところで、私は妙な場所を見つけた。

 

「あれ、ここにも無料品コーナーあるんだね」

 

 櫛田さんも気がついたらしく、顔を見合わせた私たちはとりあえず向かってみることにした。コンビニで見かけたものと同じく、デカデカと『無料』と掲げられたそのコーナーには例によって『1日当たり8点まで』というプレートが張り付けられていた。ここはどうやら日替わりらしい。

 

「レタスにトマト、合挽のミンチ……こっちは缶詰か」

 

 売られている野菜は萎びているわけではないけれど、決して瑞々しいわけでもなく、ミンチはどう見ても量が少なかった。缶詰については外見上特に変なところはないし、賞味期限ぎりぎりというわけでも内容量が少ないわけでもない。もしかしたら缶詰には問題がないのかもしれないな。他にもティーパックや海苔、サーモンの切り身に醤油に砂糖など、ここにある食材には共通点らしき共通点もない。せいぜいどれも多少小さかったりするくらいで十分使えそうなものばかりだ。

 

「コンビニにもあったよね。やっぱりポイントを使いすぎちゃった人向けなのかな?」

 

 少し眉をひそめた櫛田さんが不安そうに尋ねてくる。いろいろと華やかなこの学校においてこの無料品コーナーは異質な雰囲気を放っているから、少し怯む気持ちはわかる。

 さらに言えば、この無料品コーナーの食材はそれなりに数が減っていた。ポイントが振り込まれたはずの1日なのに、だ。まぁケチな人が持っていく可能性は十分にあるわけだけども。

 私が思い出したのは、今日の昼娯楽エリアで見かけた上級生らしき生徒たちの楽しそうな姿。もしこういった無料品コーナーに頼らざるを得ないほどもらえるポイントが減るのなら、あんなに楽しそうな表情ばかりなのは少し違和感がある。

 言い知れない不安が募ってきたけれど、今その話をしても仕方がない。無料品コーナーの食材の質がどんなものかも知りたくなったので、今日の晩御飯は無料品コーナーの食材中心で作るとしよう。

 サーモンの切り身とレタスを手に取り、少し考えてから海苔。あとはなんでもいいので醤油に砂糖、塩、あと食パンと缶詰を買っておくことにした、中身はツナだ。

 毎日これだけ買い揃えられるなら、毎日1食分以上の食費を浮かせられるだろうな。素晴らしい試みだと思うのでぜひ全国のスーパーで実施してほしい。

 

「なんか手慣れてるね黒華さん」

 

「趣味って言ったけれど、半分仕事みたいなもんだったからね。毎日家族のご飯を作ってたわけだし、スーパーの買い出しも私がやってたの」

 

 小学校4年生から始めた料理は最初はなかなか大変だったけれど、今はいちいちレシピを見なくても作れるし、みじん切りだってお手の物だ。

 さすがに重くなってきた買い物かごを櫛田さんと2人で持ちながらレジに並ぶ。井の頭さんは何も買わないらしいけれど、みーちゃんは手に桃を2つ持っていた。いつの間にか増えてる。

 この学校のことだからセルフレジかと思ったけれど、店員のおばちゃんたちが商品1つ1つをバーコードリーダーに通していく古き良きスタイルだった。一方で決済は学生証をかざすだけ。なんというか落差がすごい。

 食材を小分けにしてビニール袋に詰めるて、遠慮なく3人に押し付けて寮に戻る。こういうのはギブアンドテイクだ。並んで歩く私たちの間を吹き抜ける風はまだ少し冷たく、スカートがスースーする。4月もまだ始まったばかりだ。

 

「誘ってくれてありがとうね3人とも。今日は楽しかった」

 

 別れの挨拶もそこそこに、エレベーター内で解散となる。部屋に帰って時間を確認すると、もう6時を過ぎて久しかった。

 

「あ~疲れたぁ」

 

 マスクを洗濯機の上に放り投げ、制服のままベッドに飛び込む。携帯を取り出してポイントを確認してみると、『72241』という数字。今日1日で3万弱のポイントを使ったことになる。必要なもの全てを買い揃えたとはいえ、結構な出費だ。

 炊飯器を買ったのは失敗だったかも……、いや、それはないな。あれは用意していない学校が悪い。

 できるだけ無料の商品や安めの商品を選んで買っていったのは正解だった。一応無駄なモノは一切買っていないので、極端な話残りのポイントは全て遊びに回すこともできる。え? 電動歯ブラシはどう考えても無駄だロッテ? あれはどうしても使ってみたかったので必要な出費だ。まぁちょっと後悔してるけど。とにもかくにも、例のパンフレットを作ってくれた新聞部に感謝だ。

 

「そういえば無料品コーナーのことはなんにも載ってなかったな」

 

 気になった私はエントランスまで降りて自室のポストを確認する。櫛田さんが言ってた通り、見覚えのある派手な一面が見えた。部屋のベッドに飛び込んでから、隅から隅まで見落とさないように見てみるけれど、やっぱり無料品コーナーについては一切記述されていなかった。

 

「不気味だなぁ」

 

 新入生を応援するためのパンフレットなら、無料品をうまく使うコツくらい載せてくれてもいいはずだ。パンフレットの出来栄えは見事なものだったので、私が気づくことに新聞部の先輩たちが気づかないとは思えない。

 

「救済措置……か」

 

 櫛田さんはそんな風に考えていたけれど、1か月でそんなにポイントを浪費するような人間が果たして日本社会を背負えるような人間に成長できるだろうか? 

 来月からポイントが減ると言われた方がまだ現実的だ。思い返してみれば、そもそも茶柱先生は毎月初めにポイントが振り込まれると言っただけで、『毎月10万ポイント振り込まれる』と言ったわけじゃない。10万ポイントはこの学校に入学できたことへの報酬、ならば、来月からは何を報酬にポイントが支払われるんだろうか。

 これは明日先生に聞いてみるべきかもしれない。

 詳しいことは何もわからないけれど、考えれば考えるほど不信感が募る。言い知れぬ不安を感じたけれど、疲労感に重くなっていく瞼を、そのまま閉じることにした。

 

 ◇

 

 ああ、疲れた状態でする料理ほど面倒くさいことってあるんだろうか。

 

 ベッドから起き上がった私はキッチンに立った。

 今日作るのは『サーモンとレタスのクリームパスタ』だ。クリームパスタはソースから作ると主に生クリームのせいで材料費が馬鹿にならないので、こんな手の込んだものを作るのは入学初日の今日と、あとは気が向いた日だけになるだろうな。

 

 冷蔵庫から取り出しますは、無料だったサーモンの切り身とレタス。あとは生クリームにバターだ。玉ねぎも入れたかったけれど今日は我慢することにした。あとは塩コショウがあれば足りる。まず最初にまな板と包丁を用意して、パックから取り出したサーモンの皮を取る。包丁が安物なのでそんなにきれいにとれるわけじゃないけど気にしない。

 

「意外と臭みはないな」

 

 無料だったので少し怖かったけど大丈夫そうだ。いやまぁ大丈夫じゃないのがスーパーにおいてあったら大問題だけどね? 皮を剥いだらぶつ切りにし、水気を拭き取ってから塩を振ってサーモンの下準備は終わり。次はレタスだけど、水で洗ってから一口かじってみることにした。

 

「んー」

 

 微妙。

 味はそんなに悪いわけじゃないけれど、レタスに一番大事なシャキッと感が若干失われている。できればレタスは最後に軽く和えてシャキシャキした状態で使いたかったけれど、これならパスタと一緒に茹でてクタッとさせた方が美味しくなるかも。1食で全部使い切れるわけもないので、今日使う分以外はポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室に戻す。材料の準備が終わったのでパスタを茹でる。ちなみに使うのはペンネだ。普段このパスタを作る時はスパゲッティーを使うけれど、まぁちょっとした気まぐれみたいなもの。鍋に水を入れ火にかける。IHは初めて使うけれど、ぱっと見で火力がわからないのはちょっと不便かも。お肉を焼くときなんかは慣れてないと困るかもしれない。塩を入れて沸騰したら、ザルに入れたペンネとレタスを投入。疲れているからアルデンテではなく柔らか目に仕上げよう。茹で時間は表示通りにするべくタイマーをセットする。あとはソースを作って和えるだけ。フライパンにバターを投入し、溶けてきたら切り分けたサーモンを投入する。レタスに食感を期待できないので、サーモンは崩さないようにし、火が通ってきたら茹でたレタスと生クリームを入れ、味見をしながら塩コショウをし、弱火にして馴染ませる。

 

「あっ」

 

 ミスった。本来このパスタには玉ねぎを入れるけど、今回は入れておらず、その玉ねぎを炒める時間分ソースが早くできてしまったのでペンネがまだ茹で上がっていない。サーモンに火が入りすぎると固くなるので火を止めることにした。まぁ使い慣れていないIHもあるし、仕方ない仕方ない。

 ペンネが茹で上がったので軽く水を切り、フライパンに投入。手早くソースと和えて、お皿に盛り付け、最後に海苔を細かく刻んでトッピングする。

 これで完成だ。

 ペットボトルで買ったお茶をコップに注いでテーブルに並べ、準備完了、あとは食べるだけ。

 

「いただきます」

 

 うん、我ながら悪くない出来映え、クリーム系のソースにはやっぱり太めのパスタがよく合うな。それにレタスを茹でたのも正解だった。しんなりしてるけど疲れてる今はコッチのほうがいい。ただ1つ注文を付けるなら、やっぱり玉ねぎを使うべきだったかも。とはいえ無料の食品を3つ使ってこれなら十分すぎる。かなりリーズナブルに作れたし、これならポイントを節約できるはず。

 ほどなくして食べ終わり、使った食器やフライパンなんかを洗う。食洗器が欲しいけれど、一番安いもので3万近くした。まぁこれは本当にポイントに余裕ができたときに買うか考えよう。片付けが終わったので、今度こそ本当にやることがなくなった。

 適当に寮のマニュアルでも読んでおこうかな。

 マニュアルには特別注意することは書かれておらず、せいぜいゴミ出しの日と時間に気を付けていれば大丈夫そうに見える。適当に読み進めていくと、少し驚くべきことが書かれていた。

 

「電気代も水道代もかからない……」

 

 そういえば当たり前のこと過ぎて存在を忘れていた。しかしまさか無料とは……、使いたい放題というわけでは決してないと思うけれど、それでもサービスが過ぎる気がする。あとはもう服屋を確認して無料品コーナーがあれば、衣食住は全てポイントをかけずに確保することが可能なレベルだ。生活保護も真っ青の超待遇。

 

「エッチも禁止か……」

 

 破れば最悪退学とのこと。いやまぁそれはそうか。私たちは高校生なんだから不純異性交遊が認められているわけがない。ただこの寮は防音性も高いらしいし、まさか監視されているわけじゃないだろうから、バレずにやろうと思えば可能に思える。まぁ今の私にはそんな相手いないのが現実だけど。

 

「…………」

 

 あとは特に気にすることもないな。

 結局マニュアルは一瞬で読み終わり、机の中にしまってからお風呂を沸かしてベッドに飛び込む。

 長い1日だった。振り返ってみると、バスでのひと悶着と、櫛田さんにお礼を言われ、堀北さんと綾小路君と出会い、自己紹介をし、入学式を乗り切り、櫛田さんたちと遊んだ後、ご飯作って今に至る。

 今日は櫛田さんたちとずっと一緒にいたし、明日は堀北さんを誘ってみようかな……でもやっぱり断られそうな気もする。無理やり付きまとってもいいけどたぶんあの子はマジギレするだろうな……。もしくは綾小路君に声をかけて男子に手を出すか。言い方が悪かった、男子と仲良くなれるように頑張るのもいいかもしれない。

 とにもかくにも、ゆっくりでいいからクラスのみんなと仲良くなって、黒華梨愛という存在を受け入れてもらわないといけない。

 そのためにも、しばらくはいろいろ頑張らなきゃいけないだろうな。

 

よう実の詳細な時系列や特別試験のルール、設定などをまとめた資料を書くかどうか(詳細は1章幕間の後書き参照)

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