ようこそ狂愛主義者のいる教室へ   作:トルコアイス弐号機

7 / 21
6話

 前略

 

 お父さん、お母さん、元気ですか。

 私は元気です。最初は一切外出できないと聞いて不安だったけれど、友達もできたし、学校にはいろんなお店や施設があって、毎日とても充実しています。

 入学から一週間が経って、初めての一人暮らしにも慣れてきました。

 念願の高度育成高等学校に入学して、私は今──

 

 守り続けてきた、純潔が奪われそうになっています──! 

 

 ◇

 

「憂鬱だ……」

 

 だらりと、だらしなく椅子に座った私、黒華梨愛の口から盛大なため息が漏れた。入学から一週間、こんな風に気分が落ち込むのは今日が初めて。その原因は、一部のクラスメイト達にあった。

 

「いやぁ今日の授業が楽しみすぎて全然寝れなくてさぁ」

 

「なはは。この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ! 水泳って言ったら、女の子! 女の子と言えばスク水だよな!」

 

 今まで見たことがないほど目を輝かせ、喜色に溢れた大声を出すのはクラスメイトの池君と山内君だ。2人はいつもは遅刻ギリギリで教室にやってくるくせに、今日に限ってやたら早い。彼らの言う通り、今日は体育の授業で水泳をする予定なのだ。そしてその水泳の授業は男女合同、彼らは女子の水着が見れるということで、周囲の目も気にせず大はしゃぎしている。

 

「おーい博士ー。ちょっと来てくれよー」

 

 博士というのは、外村君というぽっちゃりした眼鏡をかけた生徒のあだ名だ。典型的なオタクであり、高円寺君以上に変な話し方をする。

 

「フフッ、呼んだ?」

 

「博士、女子の水着ちゃんと記録してくれよ?」

 

 は? 

 

「任せてくだされ。体調不良で授業を見学する予定ンゴ」

 

 その後も男子による思わず閉口してしまう最低な会話が続く。なんでも外村君が水泳の時間、私たち女子の身体を観察して胸の大きい女の子のランキングを作るらしい。あわよくば携帯で撮影するとか言ってるし、最悪すぎる……。

 こんな最低な会話、聞くつもりなんてまったくないけれど、男の子たちが大声で話すせいで嫌でも耳に入ってくる。せめて聞こえない声で、見えない場所でやってほしい……。

 周りの女子の蔑むような目線には気づかず、こんなことを明け透けにやって彼女ができると本当に思っているの? 

 

「うぅ……」

 

 自らの体を抱いて声を漏らしたのはみーちゃんだ。こころちゃん(井の頭さんの名前、この一週間で下の名前で呼ぶことにした)も大体似たような反応。私ですら結構きついんだから,気の弱い2人にあの男子の猥談は堪えるものがあるだろうな。

 

「大丈夫? みーちゃん」

 

 櫛田さんが心配そうにみーちゃんの顔を覗き込む。私以外の3人は席が近いので、ここ最近の朝の時間は、私がみーちゃんの席に座り、膝の上にみーちゃんを乗せるスタイルになっている。私からみーちゃんの顔は見えないけれど、まぁいい笑顔ということはないだろうな。

 

「なんていうか、すごい会話だね……」

 

「あはは……まぁ思春期の男の子だからね……」

 

 普段人の悪口を1つも言わない櫛田さんのフォローも苦々しい。そんなこんなで4人でダウナー状態でいると、身の毛がよだつような会話が聞こえてきた。胸の大きさランキングで賭けをするつもりらしい。その話を聞きつけた他の男子も一部を除いて我も我もと参加するし、ほんとこのクラスの人選はいったいどうなっているのか、クラス分けをした人に問い詰めたくなる。

 

「はぁ……」

 

 頼みの綱があるとしたら平田君だけど、彼は男子連中に注意しに行くような素振りは見せず、軽井沢さんといったイケイケ女子に囲まれながら代わりに謝っている始末だった。軽井沢さんたちも今の池君たちには近づきたくないだろうし、櫛田さんも男子と仲違いしたくないのか、ただ我慢するだけみたいだ。

 もはやこの状況をどうにかできるのは私くらいに思えた。あんまりきつく言いすぎると、男子に嫌われちゃうし、そもそも今は彼らに近づきたくないけれど、ほかならぬみーちゃんたちのためだ。腹をくくろう。

 

「さて、ちょっと行ってくるね」

 

「え?」

 

 立ち上がってみーちゃんを椅子に座らせる。

 一体何をするつもりかと、私へと集まる注目を浴びながら男子の塊に近づいてみると、彼らの猥談が鮮明に聞こえてくる。

 

「ばっか、お前可愛くなくても巨乳なら付き合うべきじゃねーの!?」

 

「俺は櫛田ちゃんや長谷部クラスじゃないと付き合わねーんだよ。女の子に妥協はなしだ」

 

 誰のことを話しているのかはわからないけれど、なかなかどうして失礼を通り越した会話をしているらしい。そりゃあ女子だって誰がイケメンとか、誰が根暗とかそういう話をすることも多々あるけれど、それでも本人には聞かせないようにしている。そういう話を陰でするのは、本人に嫌われない以上に、聞かれて不愉快な思いをさせないことの方が大きい。

 さて、男子は女子の胸の話をするのに夢中で私が近づいていることには気づいていない様子。長引かせることもないしさっさと始めよう。

 

「何の話してるの?」

 

 男の楽園に、聞こえるはずのない女子の声が響く。一斉に振り返った男子がいつの間にかそこにいた私の存在に大きくどよめいた。

 

「く、く、黒華ちゃん!?」

 

「おはよう山内君、みんな楽しそうだったからさァ、何の話してたのかな~って? 来ちゃったァ」

 

 目に見えて狼狽する山内君は、なんとここで驚くべき機転を見せた。机の上に置かれていたタブレット端末をさりげなく隠すよう外村君にさりげなくアイコンタクトを送ったのだ。普段の彼なら口に出していてもおかしくないはずだったけれども。窮鼠猫を噛むとは違うけど、追い詰められた獲物の必死の抵抗というわけか。

 まぁ外村君が気づかなかったら意味ないけど。山内君の必死の視線にまったく気づかず、完全に固まって動かない外村君にターゲットを定める。

 

「外村君、もしかしてそれ新しく買ったの?」

 

「え? いやいや、これはその、なんというか、気にするなでござる」

 

「ポイントいっぱいもらえたからさァ、私もそういうタブレット欲しいと思ってたんだよねェ。よかったらどんな感じか見せてくれない?」

 

 私の要求に顔から血の気が引いていく。具体的に何が書いてあるのかわからないけれど、女子の目に触れたら社会的に死ぬようなことだろうな。

 

「なんてね」

 

 追い詰めるのもここまでにしておこうと、おどける口調で言った。

 

「あのさ、言っとくけど君たちの会話、女子に丸聞こえだからね?」

 

「ええ!?」

 

 私の言葉を受けて一斉に教室を見回し、そして気づく。周囲の女子が向けるゴミを見るような目つきに。

 自分たちの醜態に気づいた男子たちの顔が真っ青になっていく。

 

「ハァ……。思春期の男子高校生だからさ、欲情するなとは言わないけど、せめて周りのこと考えてからやりなよ」

 

 こんなもんでいいかな。自分たちの破廉恥が女子にバレたと知って撃沈する男子(主に池君と山内君)を見届け、自分の席に戻る。

 

「ありがとう、黒華さん」

 

 なんと堀北さんにお礼を言われた。普段冷静沈着な彼女も、男子にあからさまな性欲をぶつけられるのは、なかなか堪えるらしい。

 

 ◇

 

「いやホントこのクラスの男子ヤバイわ。黒華さんさっきはありがとねマジで」

 

 昼休みが終わり、いよいよ水泳の授業が始まるということで、更衣室で着替えている最中に声をかけられた。軽井沢さんだ。

 

「どういたしまして。私もきつかったし」

 

「やっぱそうよね!? せめてもっと隠せっての。あれで彼女ほしいとかありえないでしょ」

 

 朝の時間、好き勝手言われていた女子の溜飲は、私が男子に注意したくらいじゃ下がらなかったらしい。更衣室内は男子への罵詈雑言で溢れかえる。キモイだの最低だの、こうしてみるとまぁどっちもどっちだ。

 

「梨愛ちゃんは見学なんだね」

 

「まぁね。あの最悪なランキングの1位だったし。桔梗ちゃんは泳ぐんだ」

 

「うん。泳ぐの気持ちよくて好きだからさ」

 

 私が見学するのは単純に顔を見せたくないからだけど、まぁわざわざこれを言う必要はない。面白がって無理やり顔を見ようとする無粋な輩がいないとも限らないし、言ったところで若干空気が悪くなるだけ。

 体操服に着替えるために制服を脱ぐと、やたら強い視線を1つ感じた。振り返った私と目が合ったのは佐藤さん、先日仲良くなった松下さんや、篠原さんたちと仲のいい女子生徒だ。

 

「佐藤さん、なにか用かな?」

 

「え? あ、ううん! なんでもないの!」

 

 しどろもどろになって退散していく。いったいなんだったんだ。

 明らかに私になにか話したげな様子だったけれど、特に接点があるわけでもないので心当たりは当然ない。着替え終わった私は首をかしげながら見学席に至る階段を上る。

 

「あれ? 黒華さんも見学なんだ」

 

 見学席に着くなり声をかけられた、先客の軽井沢さんだ。さっきまで一部を除く男子を罵倒していたけれど、どうやら彼女も見学する模様。見た感じ見学者は私と軽井沢さんの2人だけ。女子を観察するとか言ってた外村君もちゃんと授業に参加するようで、女子の視線から隠れるようにプールサイドに佇んでいるのが見えた。

 

「そうなの、泳ぐのは苦手じゃないんだけど、好きじゃなくてさ。軽井沢さんは?」

 

 ただ顔を出したくないだけだけど、建前上こう言っておく。

 

「私は単純にあいつらに水着姿を見られたくないだけ。どんな妄想されるかわかったもんじゃないし」

 

 そう言って震え上がりながら体を抱く。あいつらとは、言うまでもなく山内君や池君、あとこの場合は外村君もだろうな。池君と山内君はなにやら櫛田さんと話しているのが見学席から見えた。女子に嫌われたのを慰めてもらっているのかもしれない。

 

「ねぇ、見学だったら成績落ちるとかあると思う?」

 

 見学者が私たちだけしかいないのを気にしたのか、少し周りを見回しながら聞いてくる。軽井沢さんが聞いてきたことは私も一度考えたことだ。

 

「ちゃんと事前に連絡してるならいいんじゃない? 私も生理ですって言ったよ」

 

「うわっ! 私何にもいってないんですけど! あちゃー」

 

 わかりやすく頭を抱える。女子は特にポイントが何かと入用なので、私の話した授業態度を守ることには男子に比べなお厳しい。休み時間に私語した男子に罵倒が飛ぶこともたまにあった。女子がその原因となれば今後大きな顔はできなくなるからな。

 

「言い出しっぺの私も休んでるんだし大丈夫でしょ」

 

「あ、確かに。黒華さんマジサンキュー! 女神だわ女神」

 

 女神扱いする前に反省してほしい。私は水泳の授業はすべて見学することが確定しているので、強く言うことはできないけど、軽井沢さんが懸念するように理由もなく見学すればズル休みと判断されてポイントが削られる可能性は全然ある。

 次の水泳を何と言って休もうか考えていると、授業が始まった。この見学席も監視されている可能性があるので、雑談もそこそこに授業の見学に入る。

 正直、今更水泳の授業を見学しようと改めて学ぶこともないので、女子の私には誰の筋肉が1番好みか、ということしか見ることがない。ぱっと見で一番ムキムキなのは高円寺君だけど、私の好みではないな。彼は水も滴るいい男だとアピールしたいのか、ここぞとばかりに水を浴びている。もちろん変人の奇行などみんな見て見ぬふりだが。あと筋肉がすごかったのは綾小路君か。てっきり平田君か須藤君のどっちかだと思っていたけど、綾小路君の鍛え方はちょっと尋常じゃなかった。高円寺君ほどじゃないけど、明らかに須藤君以上に引き締まった身体をしている。相当鍛えないとああはならない。事なかれ主義とか言っていたくせに、筋肉フェチの女子をひっ捕まえるための訓練はしていたらしい。

 ちなみにここまで筋肉の話をしているけれど、私自身別に筋肉フェチということはない。ただそれ以外にすることがなくて暇なのだ。

 いよいよ頬杖を突くことも厭わないほど暇を極めた授業だったけれど、ここでレースをすることになった。女子は現役水泳部の小野寺さん一強だろうけど、男子の方は誰が勝つのか興味がある。高円寺君か、平田君か、須藤君か、綾小路君か。はたまた別の誰か──はさすがにないかな。彼ら以外に鍛えられてる生徒はほとんどいない。ちなみにこのレースに勝つと5000ポイントもらえるらしい。羨ましい、私なら確実にゲットできたのに。

 案の定女子は小野寺さんが優勝だった。2位は堀北さんだ。素人にしては結構早かった。そして次に男子のレースが始まる。注目株は綾小路君と須藤君だ。

 

「え、おっそ」

 

 私の目を引いたのは綾小路君だ。筋肉量のわりにあまりにも推力が出ていない。

 力任せに泳いでももう少し速度出るでしょあの筋肉なら! 

 対する須藤君は圧倒的に早かった。タイムまでは聞こえなかったけれど、先生がはしゃいでいることから相当いいタイムが出たらしい。

 その後のレースも私の予想通りのメンツが順当に勝ち進み、いよいよ最終レースに行く。

 

「黒華さんさぁ、誰が勝つと思う?」

 

 ただ眺めるだけに限界が来たのか、軽井沢さんが声をかけてきた。まぁ見学だし、生徒の泳ぎのフォームとかを見て誰が早いか予想しましたとでも後で言い訳しとけば大丈夫でしょ。

 そう判断し、真っ当に誰が早いか予想する。

 

「私高円寺君に一票で」

 

「え!? あんな変人絶対ないわ。私は平田君一択ね」

 

 平田君のいったい何がそこまで信頼できるのかわからないなぁ。まぁ平田君だって運動能力は十分高いように見えるけど、泳ぎだけなら私の方が速そうな感じもする。

 そして私たちの想いが乗った(?)最終レースが始まる。

 圧倒的だったので結果だけ言うと、高円寺君がすべてをぶち抜いて勝利した。ポイントでも賭けとけばよかったと思ったのは、まるで自分のことのように悔しそうにする軽井沢さんを横目に見てからだ。

 

 ◇

 

 その日の放課後、スーパーで日替わりの無料食品を買って寮に戻ってきた私の携帯が鳴った。電話をかけてきたのは櫛田さんだ。冷蔵庫に食品を入れながら電話に出る。

 

「もしもし? どうしたの?」

 

「あ、梨愛ちゃん。明日の放課後って暇かな?」

 

「放課後? 空いてるよ」

 

 何もなかったよねと言った後で思い返す。

 

「よかったぁ。あのねっ、梨愛ちゃんに協力してほしいことがあるの」

 

「協力?」

 

 櫛田さんからこんな相談を持ち掛けられるのは初めてのことだった。

 

「うん、私、堀北さんとお友達になりたくてさ。明日の放課後、綾小路くんに協力してもらって、パレットでばったり鉢合わせようって計画してるんだよね」

 

「ええ……」

 

 櫛田さんには悪いけど、若干引いた。

 確かに堀北さんは櫛田さんどころか、クラスの誰とも友達と言えるような関係にない。せいぜい綾小路君が彼女と多少話すくらいで、堀北さんはたいていクラスで孤立している。前の席の私ともそんなに話すわけじゃないレベルだ。平田君がそんな彼女のことを気にかけていたのも記憶に新しい。

 とはいえそれは堀北さんが自分で望んでやっていることだ。堀北さんは友達なんて必要ないなんて言うけど、それは決して不器用だからとか、恥ずかしいから言ってるんじゃなくて、本心から、心の底から友達なんて必要ないと思ってる。それが良いか悪いかは別として、そんな人とわざわざ一計案じてまで友達になりたいという櫛田さんの心境が、私には全くの意味不明だった。

 自分を拒絶するような人とわざわざ関わり合おうとする神経がわからない。

 櫛田さんはそんな私の困惑には気づくことなく言葉を続ける。

 

「梨愛ちゃんには、こころちゃんと一緒に先にパレットで席を確保してもらって、綾小路君が堀北さんを連れてきたら、2人のために席を空けてほしいのっ。2人がそこに座ったら、隣に確保したもう1つの席も空けて、私がそこに偶然たまたまやってくるっていう──どうかな?」

 

「どうかなって……そもそもどうして堀北さんにかまうの?」

 

 これがわからないと疑問で夜も眠れなさそうだ。

 

「だって、堀北さんいつも教室で1人じゃない? そんなのって寂しすぎるよ」

 

 実に櫛田さんらしい理由だけど、堀北さんがそのお節介を聞いたら怒るだろうな。それに納得できる理由でもなかった。

 

「ダメ、かな?」

 

 逡巡する私を見抜いたのか、不安げな声がスピーカーから漏れる。正直企てがバレたら私にも飛び火しそうなので、断りたいのは山々だけど……。

 

「いや、引き受けるよ。その様子だと、私が断ってもどうせ他の人に頼むでしょ?」

 

 他の人が嫌われるくらいなら、私が汚れ役を買って出よう。

 

「あはは、バレちゃってたか。でも、ありがとね! 梨愛ちゃん」

 

「どういたしまして。話はこれで終わり?」

 

「終わりだけど、どうせならお話しようよ」

 

 その後は取り留めもない雑談が始まる。正直、櫛田さんが堀北さんと仲良くしたいと考える理由が気になって、私は心ここにあらずといった感じだった。バレてなきゃいいケド。

 

 ◇

 

 そしてやってきた翌日の放課後。さっさと席を取らないといけないのでチャイムが鳴ってすぐに教室を飛び出し、パレットに向かう廊下でそのままこころちゃんと合流する。

 

「こころちゃんも引き受けたんだ」

 

「うん。せっかく櫛田さんの力になれるならって」

 

 2人で適当なドリンクを注文して2人席を確保する。少し遅れて同じクラスの女子2人が隣に座った。これで準備は完了というわけだ。かなり急いで来たのにもかかわらず、大人気のパレットはすぐに席が埋まっていく。

 

「私は正直気乗りしなかったなー」

 

「え、どうして?」

 

「バレたら堀北さんに怒られそう」

 

「あはは……確かに」

 

 脅かすつもりはなかったけど、こころちゃんの顔が若干引き攣る。堀北さんみたいなタイプは苦手らしいのはまだ分析し終えてないことだ。

 この後すぐに同じクラスの4人がこのカフェを出ていくのはかなり不自然な気がするけど、まぁ堀北さんが気づかないことを祈るしかないな。彼女は他人に興味がないようだし、私以外の顔を忘れていれば勝機はあるかもしれない。

 

「あ、来た」

 

 会話らしい会話もせず、できるだけ視線を送らないように入り口の様子を見ていると、少し遅れて綾小路君と堀北さんがやってきた。傍目にはデートしに来たカップルにしか見えないな。2人とも美形なので、美男美女カップルだ。

 手筈通り、2人を席に座らせるために立ち上がる。とはいえこれは──相当、いやかなり不自然だ。こころちゃんはともかく、私は綾小路君とも堀北さんとも少しは話す関係なので、ここで全く見向きもせず立ち去るのは怪しすぎる気もする。かといってDクラスの生徒が集まっていると悟らせるのもちょっと……。

 よし、綾小路君に丸投げしよう! 

 綾小路君が話しかけてくるならそれに応じ、気づかないふりをするなら私もそれを貫き通す。私は2人に一切目を向けないように、こころちゃんに話しかけながら出口に向かう。

 

「それでね──」

 

「…………」

 

 綾小路君は声をかけないという選択肢を選んだ。

 これ、私がいたこと絶対バレたでしょ。2人とすれ違った後、露骨に振り返る視線を背中に感じた。やっぱり断ればよかったな。仕掛け人として、私はどう考えても不適任だったし、こんなに早く席を立つのは不自然だ。

 そう、あまりに不自然。堀北さんは他人に興味はないけどバカではない。おそらく気づかれるだろうな。

 

「うまくいったかな?」

 

 若干不安げな様子でこころちゃんが聞いてくる。こういったことは初めてとのことだった。

 

「さぁねぇ。あとは桔梗ちゃんたちに丸投げだし」

 

 堀北さんに咎められたら、その場で謝ろう。たとえ堀北さんに嫌われようが絶交だと言われようが、彼女が私に興味を示さない以上、どういう関係になろうと、ハッキリ言って些事だ。

 

 ◇ 

 

「黒華さん、ちょっといいかしら」

 

 翌日の朝、教室にやってきた堀北さんが着席することもなく声をかけてくる。その表情は不機嫌そのもので、それを見るだけで櫛田さんの計画は失敗したのだとハッキリわかった。あの後、櫛田さんは成功したとも失敗したとも言わなかったのが不思議だったけど、この様子だと堀北さんにかなりキツイこと言われたのかもしれない。

 

「なにかな?」

 

「金輪際、ああいったことはやめて。不愉快だから」

 

 それだけ言い捨てて席に座ると、私物の小説を読みだす。私の返事すら待たないということらしい。正直ここまで不機嫌になるとは思ってなかった。

 

「ごめんね、堀北さん」

 

 私の謝罪も完全スルーだ。

 正直いくらなんでもその態度はどうなんだと思ってしまうけれど、堀北さんを騙そうとしたのは事実なので、私に彼女を咎める資格はない。

 怒られたのは綾小路君も同じなのか、居心地の悪い雰囲気のまま、今日の授業は終わった。

よう実の詳細な時系列や特別試験のルール、設定などをまとめた資料を書くかどうか(詳細は1章幕間の後書き参照)

  • 書け
  • 是非書いてくれ
  • 投稿が遅れてもいいので書いてほしい
  • どちらでもいい
  • 投稿が遅れるなら書かなくていい
  • 別に書かなくてもいい
  • 書くな
  • 閲覧用
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。