東方双交伝~裏切り者たちの幻想入り~《更新停止》 作:アルシェス
一人の青年が巨大なミサイルの前に走って来た。
年齢は20少し前、少年と言った方がいいかもしれない。
雨が降っているわけでもないのに、黒いレインコートを羽織っている。
しかし、それよりも目を引く点があった。
傷だらけなのだ。
体のあちこちに打撲痣、切り傷、火傷に凍傷の跡、
果てには銃創や動物にひっかれたかような
爪の跡に嚙み傷まであり、何より背中側から腹に突き刺さっている鉄パイプが
目を覆いたくなるほど痛々しかった。
「止めてやる……絶対に……」
擦れた声でそう言いながら、少年は鉄パイプを引き抜き、
投槍を投げるような構えを取る。
すると鉄パイプが砂を巻き上げ、一本の槍に変わる。
少年はそれを投げようとする、すると
ミサイルの前に、眼鏡をかけた長髪の男が立った。
「コードウェル!?」
「私も、このやり方は賛同できん」
首がヘンに傾いている上に傷まみれ、少年同様
目を瞑りたくなるほど痛ましかった。
「私は現実という闇を、お前は未来という光を
見ていた物は違えども、私達は共に、同じ物を求めていたのかもしれんな」
男は腕を変化させ、鋭い刃に変える
そしてそれを振り上げる。
「お前達が作る物を見ていよう、霞の世で!」
振り下ろされた刃がミサイルを破壊し、あたりは爆風と爆炎に包まれる。
その光景を最後に、少年は気を失った。
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幻想郷、そう呼ばれる場所がある。
現実の世界から隔離された場所。
妖怪、神仏、妖精、魔法、現実世界で忘れ去られたもの
実在しないとされたもの、そういった存在が最後にたどり着く
忘れ去られた者達の楽園。
その幻想郷の一画、天狗達が住まう妖怪の山の頂上に神社がある。
守矢神社、信仰を得られなくなったので、[外]である
現実世界から神社ごと引っ越してきたのだ。
その神内を、一人の少女が竹箒で掃除をしていた。
緑色の髪を長く伸ばして蛙と蛇を模った髪飾りを付け、
袖がなく、赤い部分が青い巫女装束に身を包んでいる。
[祀られる風の人間]
「~♪、あら?」
ふと、早苗は地面に黒い点があるのに気付く。
それは液体が乾いた後に見え、点々と続いていた。
「いったいなんでしょう?」
不審に思った早苗は点を追っていく。
すると本殿の裏側、そこで壁に寄り掛かる様に気を失っている少年がいた。
黒髪の日本人特有の特徴を揃え、雨が降っていたわけでもないのレインコート、
そして、全身の彼方此方についている怪我や血の跡。
「え!?ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、肩を揺する。
呼吸は聞こえてくるうえに、胸に耳を当てれば心臓の音もする。
見た感じ怪我もすでに塞がっているようだ。
「ん?どうした早苗?」
「あーうー、せっかく寝てたのに」
突然の早苗の大声に、二人の人物が様子を見に来る。
片方は紫に近い髪をショートにした、赤い服と紺に近いスカートを着用し、
蛇を連想させる大きな注連縄でできた輪を背負った女性
[山坂と湖の権化]
もう片方は金髪ショートの弥生時代を彷彿とさせる服を纏い、
蛙を連想させるデザインの大きな帽子をかぶった10歳ほどに見える少女
[土着神の頂点]
どちらもこの神社で祀られている神である。
「え!?人間!?」
「落ち着け!」
パニックになりそうな諏訪子を一喝し、神奈子が少年に近づく。
「見た感じ、気を失っているだけだな
怪我も塞がってるし、永遠亭に運ぶ必要は無さそうだ
早苗、布団を用意しろ、諏訪子は運ぶのを手伝ってくれ」
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少年を布団で寝かせた三人は、少年が着ていた
レインコートを見て言葉を失なった。
爪でひっかかれた跡に牙で噛みつかれた跡、これだけなら
幻想郷によくある妖怪に襲われた結果だと思えるだろう。
しかし刃物で斬られた跡に焼けた、あるいは凍った跡
止めとばかりに銃で撃たれた跡まであった。
「いったい……何があったんだ?」
この少年が恰好からして[外来人]、外の世界の住人だとわかる。
いったい何があったのかと考えながら、三人は少年の顔を覗き込んだ。
どこか優しげに整った顔立ちをした、早苗より少し上くらいに見える。
しかし服を捲って見れば、様々な戦いの跡である古傷が大量にある。
起きたら事情を聴こうと、三人は決めるのだった。
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少年……
[裏切り者]として仲間達と戦い続けた夢。
大切な物を失った日の夢。
[裏切り者]となった日の夢。
[人間だった]時の夢。
そして……[前世]での夢。
彼は[転生者]と呼ばれる存在だった。
しかしどこぞ二次創作の様に神や悪魔にあった訳ではない。
前世で社会人として働き、その日も遅いから眠った。
しかし目が覚めた途端、全く違う人物になっていた。
そして流されるまま[亜守千裕]として生活し、ようやく
今の自分を受け入れられるようになった時、それは起きた。
突如街中で大爆発が起きたのだ。
そして目が覚めると病室で数人の人物から説明を受け、
彼はこの世界が前世で慣れ親しんだゲーム、
TRPG[ダブルクロス]を元にした世界だと、
自分が[いずれ化け物に変わる超能力者]になったことを知った。
最初は絶望し、自殺だって考えた。
しかし、目の前で火災事件が起き、中に子供が一人取り残されているのを知るや否や、
彼は自身の監視役として傍にいたエージェントの制止を振り切り、
火の中に飛び込んで子供を救出したのだ。
自分が[超能力者]になったからか、それとも最初からそうゆう性格だったのか、
それは彼自身にもわからない、だが理由を聞かれた彼はこう答えた。
「確かに俺はもう人間じゃない、だが、目の前に助けられそうな命があるのに
黙って見ていられるほど、[心]も人間をやめたつもりは無い」
それから、彼は[組織]の協力者となり、時に大切な物を失いながらも
必死で戦い、[世界]を、そして人を守り続けた。
そして最後は敵対組織の指導者的な存在と一騎打ちで戦い、
相打ちに近いながらも勝利した。
しかし、千裕は達成感を感じなかった。
まだやらなければならないことが残っていたからだ。
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体の所々から感じる痛み、自分が呼吸をする感覚
千裕はそれで自分が生きていることを実感する。
次に暖かい陽射しと柔らかな布団の感触を感じながら、ゆっくりと瞼を開ける。
最初に見えたのは、木造の天井だった
そして視線を動かすと、青空と森林が見えた。
(なんだと!?俺はいつの間に地球に!?)
宇宙ステーションで戦っていたはずの自分がなぜここに居るのか
それは千裕自身には分からなかった。
救出されたにしては場所があまりにも不自然だ、文明…というより
科学の気配が一切ない。
明らかにここは医療施設ではない。
思わず体を起こし、まだ残っている痛みに顔を顰める。
「気が付いたか」
振り向き、見えた三人の人影に目を丸くした。
巨大な注連縄でできた輪っかを背負った女性、
巫女装束らしい服装の少女、
蛙にしか見えない帽子をかぶった幼女。
どこのコスプレだと思わずにはいられない恰好だった。
「貴方方が、俺を?」
「そうなるね、私は八坂神奈子
こっちの巫女は東風谷早苗で、
こっちの小さいのが洩矢諏訪子さ、あんたは?」
「亜守千裕です」
「じゃあ千裕と呼ばせてもらう、いったい何があった?」
神奈子は千裕が着ていたレインコートを見せる。
「この雨合羽とあんたについてた傷跡、ただの事故の跡には見えない」
「それは……」
千裕には答えられなかった。
目の前の三人からは[同胞の気配]がしない
つまり自分の係っていたこととは無関係だということだ。
言ったところで信じないだろう。
「まあ、言いたくないならいいさ」
誰しも隠したいことはあるものだ。
問い詰めるようなことはせず、神奈子は立ち上がる。
「早苗、飯の準備を頼む、千裕の分もね」
「わかりました」
早苗はパタパタと台所に向かっていく。
「まだ体が痛むだろう?ゆっくり休むといい」
諏訪子も立ち上がってレインコートを返す。
そして神奈子と共に部屋を出ていった。
「ここが何処か聞きそびれたな」
静かに、千裕は横になった。