(初めて死にたいと思ったのは、いつだっけ?)
学校からの帰り。
夕暮れの通学路を歩いていたとき、ふと彼女は考えた。
小学校に通っていたとき、ではなかった。
この時代、彼女の目に映るものは全てが輝いていた。
そのせいか、自分自身すら輝いているように思えて、自分の未来が虹色の光を放っているのを疑ったことすらなかった。
なら、中学に入学したときか?
いや……と彼女は自分で否定した。
まだ自分は未来虹色症候群を脱していなかった。
小学生の気分を引きずり、根拠もなく虹色の未来を信じていた。
では、夢を叶える第一歩として、漫画研究部に入ったときだろうか?
これも違う。
部に入ったばかりのときも、まだ未来は光り輝いていた。
先輩は優しく、同じタイミングで入部した同級生は楽しい友達ばかり。
彼女には、この中に虹色の未来を奪う要素を、ほんの1ミクロンといえど見つけることはできなかった。
そればかりか、未来から届く虹色の光はこの時期が一番眩しかった気さえする。
とすると、ここで「才能のある人」に出会ってしまったときか?
かもしれない、と思った。
でも違う気もした。
まだ彼女は才能なんて努力で覆せると思っていた。
相手が1をやって100の成果を出せるなら、自分は100でも1000でもやればいい。
そう言って、むしろ燃えていた。
あと思いつくのは、努力して、努力して、努力して、それでも開き続ける実力の差を目の当たりにしたときか?
いや、このときでもない。
彼女は現実というものを理解しはじめていたが、彼女の未来虹色症候群は根深かった。
『白い妖精と契約して魔法少女になれば、何でも願いを叶えてくれる』
という都市伝説を聞くと、それに飛びついてしまうほど根深かった。
幼いころに見た虹色の未来は、彼女に言わせると絶対にやって来ないといけなかった。
そのために奇跡と魔法が必要なら、奇跡だろうが、魔法だろうが、存在していなければいけなかった。
だから一年間、白い妖精とやらを昼夜を問わず探し続けた。
死にたいと願う余裕もなく、探し続けた。
そこで思い至る。
いつから死にたいと思うようになったのか。
それは、白い妖精は見つからない、そんな物は嘘だったんだと理解したときだ。
この世に奇跡も魔法もないという当たり前の事実を実感したときだ。
それに気づいたとき、あれだけ眩かった虹色の光は、どれだけ目を凝らそうと見えなくなっていた。
私は漫画家になれない。
そう思ったときに
(あぁ、死にたいなぁ……)
と、そう思ったのだ。
(いっそのこと、今これから死んじゃおうか?)
すでに暗くなった足下を見て、彼女は思う。
ちょうどお誂え向きの高いビルが目の前にある。
未来が虹色だったときに通っていた本屋も中に入っている高層ビルだ。
屋上は出入り自由だったはずだし、そこから飛び降りるのは簡単だった。
(よし、行こう)
彼女は自分でも意外なほど、あっさりと決意した。
最後に一冊だけ好きな漫画でも立ち読みしよう。
そうしたら、あの世に旅立とう。
彼女の足は軽やかに動いた。
「最後の一冊」も簡単に決まった。
本屋に踏み入れ、この漫画の表紙が視界の端をかすめた瞬間、これを読むべきだ、と思ったのだ。
タイトルは『盗作・魔法少女マジカルかりん』
作者の名前は『アリナ・グレイ』
この作者の名前、どこかで聞いたな……。
なんとなく引っかかりを覚えながら、彼女は最初のページを開いた。
そして人生が変わった。