盗作・魔法少女マジカルかりん   作:ノッシーゾ

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第十六話 アリナ・グレイ(1)

 

「いまッ! 私はッ! 宇宙の中心にいるッ!!!」

 

 神浜市内の大通り。

 そこで唐突に叫んだ少女に、道行く人のギョッとした目が集中した。

 

 視線を向けられた少女は、どこ吹く風といった様子。

 その視線すら心地よいと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 

「フフフフ、フンっ♪ フフフンっ♪ フフフン、フンフン♪ フン♪ フフフン♪ フフフフフン♪ フフフフン♪ フフフン、フフフーフっフ♪ すーすむよー♪」

 

 それも無理からぬことなのかもしれない。

 何しろ、いま彼女の身には奇跡が起きている。

 その奇跡とは、一度の邂逅によってもたらされた、四つの連続した事象から成る。

 

 一つ、『盗作・魔法少女マジカルかりん』の偉大なる作者アリナ・グレイと話せたこと。

 二つ、そのアリナから目の前で書き下ろしたイラストをもらったこと。

 三つ、アリナから「アナタの漫画、読ませてヨネ」と言われたこと。

 四つ、アリナから「漫画の描き方ならアリナが教えてあげる」と言われたこと。

 

 もはや、ただの奇跡ではない。

 宇宙史上第二位の奇跡である。

 この奇跡と比べたら、ビッグバンなどスズメの屁と大差ない。

 

 そして今は、アリナとの約束を果たしにメディカルセンターに向かう道中。

 つまり、アリナ・グレイに自分の漫画を読んでもらい、ご指導をいただくための道中である。

 

「フ──ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 高笑いが里見メディカルセンターに響いた。

 

「……」

 

 鋭い視線も何のその。

 飛ぶようにアリナの病室に向かう。

 

 と、病室のドアに手をかけた所で急ブレーキ。

 中から声がした。

 

「……どう?」

 

 聞き覚えがある。

 七美やちよの声だ。

 彼女はドアに耳を当てた。

 

「ダメだな。わからん」

 

 もう一人の声。

 この声も聞き覚えがあった。

 いや、聞き慣れていたと言っていい。

 生粋のマジかりストである彼女は、当然ながら"リアルなぎたん”のメイド喫茶の常連客でもある。

 

「アリナ、わかってると思うけど……」

「あー、ハイハイ、わかってるカラ。まだ明日も決めてなかったら……って言うんだヨネ?」

「ええ、そうよ。決行は明日。変更はないわ」

 

「……」

 

 どうやら取り込み中のようだ。

 彼女は自作の漫画を抱えて、そそくさと退散した。

 敬虔なる信徒は神に迷惑をかけないものである。

 

 

 

 

 

 出ない。

 電話に、出ない。

 

 マジかり担当編集、佐藤は携帯電話を放り投げ、天を仰いだ。

 

 事の発端──発端の、さらに発端はもっと前からあった気がするが──は、二日前。

 佐藤の務める出版社にかかってきた、里見メディカルセンターの院長からの電話だった。

 こんな内容だ。

 

 あなたの出版社で漫画を描いている、アリナ・グレイさんが私の病院に運ばれてきた。

 その原因は明らかに長時間の労務と、過重なストレスによる。

 私は医者として、このような状態の人物に、なお異様な量の仕事を強制していた貴社の態度を許すことが出来ない。

 これ以上のことは患者から直接の話を聞いてからにしたいが、ともかくもこちらから連絡をするまで貴社からアリナさんへの接触は厳に謹んでもらいたい。

 

 背筋が凍った。

 語気から察するに、メディカルセンターは明らかに訴訟か、告発を考えている。

 裁判の結果がどうであれ、裁判になること自体が大問題だ。

 何しろ、今やマジかりは世界的な大人気漫画になっている。

 その作者を入院まで追い込んだという話が広がれば、その悪名は海を越え、世界に広がることになる。

 担当である佐藤のクビなど、簡単に宙を舞うことにもなるだろう。

 

 次に浮かんできた感情は、怒りだった。

 すこし考えてみれば、こんなに理不尽な話もない。

 

 佐藤はアリナの健康状態にも、ちゃんと気を配っていたのだ。

 半年くらい前には、内容がどうのとか、締め切りがどうのとか、そんなことは一切言わなくなっていた。

 ただひたすら

 

「お願いだから休んでください」

 

 と繰り返す機械と化していた。

 人生で初の土下座までした。

 

 今年の六月には、こんなこともあった。

 

 アリナが血を吐いたのだ。

 その体のどこに入っていたのだと不思議になるくらいの量の血だった。

 吐いた後は、夏日だというのに顔を真っ青にしてガクガクと震えだした。

 

 いくら何でもこれはヤバいと思った。

 なりふり構わず、全力でアリナを休ませようと決意した。

 

 もう全力でだ。

 金も、物も、権力も、人脈も、人情も、用意できる物は全て用意した。

 

「アリナさん、どうかお願いだから休んでください」

 

 と、したくもない土下座をするために、まず社長を説得した。

 次に雑誌に広告を載せている関連企業の社長たちを説得した。

 アリナにも影響力がありそうな、名だたる創作家たちも説得した。

 

 そうやって集めた、富も名誉も実力もある、そうそうたる五十人。

 その全員でアリナのアトリエに出向き、土下座をした。

 もはや会社の全てどころか、会社がかき集められる物は全てを賭けた、正真正銘の全力の土下座をした。

 

 お願いだから休んでください。

 休んでくださったら、お金でも、物でも、人でも、時間でも、我々が用意できるものは差し上げます。

 もし他にご要望があるなら仰ってください。

 我々は全力でそれを叶えます。

 なので、お願いだから休んでください。

 

 創作家たちも口々に説得した。

 アリナさん、あなたの作品は素晴らしい。

 けれど、死んでは元も子もない。

 もっと創作をするためにも、いま貴女は休むべきだ。

 

 アリナは血走った目で、一人一人の顔を睨み付けて言った。

 

「殺す」

 

 どうしても休載しろと言うなら殺す。

 刑務所に容れられても殺す。

 何年かかってでも殺す。

 たとえ死んでも殺す。

 この場の全員、皆殺しにする。

 

 人にはオーラという物がある。

 雰囲気とも言う。

 なんとも説明できないが、その人を見ると何となく感じ取れる、人となりのことだ。

 

 それが言っていた。

 アリナ・グレイは、やる。

 躊躇さえしない。

 

 しかもアリナには実績があった。

 芸術のために自殺した『アリナの九相図』

 文字通り血を吐きながら描いている『盗作・魔法少女マジカルかりん』

 これらに比べたら赤の他人を五十人殺すことなど、どう考えても遙かに容易ではないか。

 

「アナタたちの顔、覚えたカラ」

 

 為す術なく引き下がる五十人の背に、アリナが言った。

 

 後日、アリナから出版社宛に、あの場にいた五十人の肖像画が送られてきた。

 連載の片手間に描いたからか、簡素なものだ。

 しかし顔の特徴をよく捉えた、それはもう素晴らしい肖像画だった。

 

 

 

 そうだ。

 佐藤は止めたのだ。

 何の言い訳もいらないくらい、全力で止めたのだ。

 

 それでもアリナは描いた。

 アリナが勝手に描いた。

 

 なのに、どうしてこうなっている。

 SNS上でアリナ入院が発覚して以来、もう世論は出版社を悪者と決めつけている。

 抗議の電話が鳴り止まず、会社ビル前には「ブラック出版社」と大書された横断幕が掲げられている。

 

 ことの経緯を説明しようにも、証拠がない。

 証拠もなく説明したところで、アリナ・グレイという狂人と接したことのない大衆には嘘にしか聞こえないだろう。

 唯一の望みはアリナの口から説明してくれることだが、電話に出ない。

 

 このままでは会社が潰れてしまう。

 自分は路頭に迷う。

 

 作者の体調管理もできない無能。

 高校生の少女が死にそうになるまで漫画を描かせる鬼畜。

 そういう入れ墨付きだ。

 

「ふへっ……!」

 

 唐突に佐藤の顔に笑みが浮かんだ。

 

「アヒャひゃひゃひゃひゃひゃヒャヒャひゃひゃッ!」

「あ、さ、佐藤……さん?」

「アヒャひゃひゃひゃひゃひゃヒャヒャひゃひゃッ!」

「え、え、あ、えっと……」

「アヒャひゃひゃひゃひゃひゃヒャヒャひゃひゃッ!」

「……」

「アヒャひゃひゃひゃひゃひゃヒャヒャひゃひゃッ!」

「……」

「アヒャひゃひゃひゃひゃひゃヒャヒャひゃひゃッ!」

 

 同僚たちの視線が集まっても、佐藤は笑い続けた。

 いつまでも、いつまでも、オフィスに佐藤の笑い声が空しく響いた。

 

 

 

 

 

「アリナ・グレイ入院」

 

 そのニュースは美術評論家の彼にとって、決して意外ではなかった。

 ついにか、と思っただけだ。

 

 マジかりの記事を書いて以来、彼はさらに考察を深めていた。

 その中で、また一つの仮説が浮かび上がっていた。

 アリナ・グレイは“完璧な漫画家”になろうとしているのではないか、というものだ。

 

 どうしてそう思ったのか、と聞かれても困ってしまうが、あらゆる状況証拠がそう言っていた。

 

 例えばファンの間では「アリナ先生は締め切りを守る」という話は有名だ。

 こんなことは以前の芸術家アリナ・グレイであれば、ありえなかった。

 クオリティのためなら、締め切りなど何年遅らせても気にしないのがアリナ・グレイだ。

 なのに、連載開始から今まで締め切りを落としていない。

 一週間に一話は必ず掲載している。

 この一事でも何かしらの意図があると読み解ける。

 

 積極的にメディアに出ることなど、天変地異の類いだ。

 連載初期こそ、担当編集の佐藤氏が代わることが多かった。

 しかし、三巻が発売されたころには自分がメディアに出てくるようになった。

 雑誌のインタビューであったり、ラジオであったり、ネット動画であったり。

 TVのバラエティ番組に出演していたときは目を疑った。

 しかも、そのときの言動があまりにも“まともな漫画家”だったせいで、偽物説が囁かれたくらいだ。

 これはつまり“完璧な漫画家”として、漫画家の義務である、漫画の宣伝をしているということではないだろうか。

 

 マジかりの作画にも“完璧な漫画家”を目指しているような気配がある。

 そもそも芸術の絵と漫画の絵は違う。

 前者は一枚の絵に全てを込める。

 それに対し、漫画は一巻あたり約1000コマの細かい絵の連なりから成る。

 一枚の完成度ではなく、数が必要なのだ。

 自然、一コマごとの絵は簡素にせざるを得ない。

 そして手塚治虫以来、漫画家は簡素でも絵として成立する絵を研究してきた。

 悪く言えば、手を抜く技術を磨いてきた。

 芸術の絵とは相反するとも言える。

 

 そしてアリナ・グレイは漫画の絵が上手い。

 いや、どんどん上手くなっている。

 一巻の時点でも上手かったが、まだ芸術家が抜けていなかった。

 しかし時が経つとともに漫画の絵になっている。

 今では『世界で一番売れている漫画家』の名に恥じぬ、完璧な漫画の絵だ。

 

 このように“完璧な漫画家”になろうとしていると考えれば、あらゆることが説明できる。

 編集者の意見を素直に取り入れるというのもそうだ。

 読者からの要望があればファンサービス的な話を描くというのもそうだろう。

 作中のかりんの台詞からも、そういう“完璧な漫画家”像がうかがえる。

 

 問題は、向いていないという点だ。

 

 締め切りを守ることにせよ。

 メディア上の露出にせよ。

 漫画的な作画にせよ。

 どう考えてもアリナ・グレイにできることではない。

 

 いや、実際にできているのだから、できないと断言するのは明らかに間違っているが、それにしても向いていない。

 できているということは、よほどの苦しみが伴っているはずだ。

 

「ともあれ……」

 

 彼は独り言ちながら、テレビに視線をやった。

 ニュース番組がアリナ・グレイの入院を取り上げていた。

 

「SNS上にアップされた、件のアリナさんの写真を見ると、こんな状態になるまで漫画を描かせた出版社の責任を問わずにはいられません」

「詳しい容態はわかりかねますが、命以上に価値のあるものなどありませんからね。長期の休載……悪くすると打ち切りも覚悟しておくべきでしょうね」

 

 さあ、どうだろう、と彼は思う。

 果たして出版社に責任があるのかどうか。

 命以上に価値があるものがないと、アリナ・グレイが考えているかどうか。

 あの天才が休載や打ち切りを飲むかどうか。

 

 少なくとも一つ、言えることがある。

 アリナ・グレイは途中で作品の方向性を変えたことはある。

 しかし、途中で放り出したことは一度もない。

 

 

 

 

 

 アリナ・グレイ入院の報せは、もちろん栄総合学園にも衝撃を与えた。

 学校の上層部や教育委員会などは、ほとんど狼狽した。

 アリナに近い教員は全員、調査会という名の針のむしろに集められた。

 

 その中に美術部顧問である彼もいた。

 しかし彼の心は、狼狽する上の人間たちとは対照的に凪いでいた。

 

「せ、先生は、落ち着いてますね……」

 

 調査会から呼び出しを食らった直後。

 一緒に呼び出されたアリナのクラス担任が言った。

 

 彼女は今年からアリナを受け持っている。

 アリナ・グレイ歴半年の、謂わば新人だ。

 しかも、今となっては不運なことに、彼女が受け持ってからのアリナは大人しかった。

 せいぜいが教師の話を聞かず、授業中に漫画を描き、美術以外のテストでは平気で赤点を取り、不意に学校から消えるくらいだ。

 圧倒的にアリナ・グレイ経験が不足していた。

 

 可哀想に。

 美術部顧問は優しい笑みで答えた。

 

「まあ、なるようになりますよ」

 

 しかし、クラス担任はまだ不安なようだった。

 青ざめた顔で、こう続けた。

 

「で、でも、私、教員を続けられなくなるかも……」

 

 美術部顧問は、あくまでも優しい笑み。

 

「そのときは『私の教え子、アリナ・グレイ』とか、そんなタイトルの本でも書きましょう。今なら一財産築けますよ」

 

 美術部顧問の菩薩のような笑みと、担任の化け物を見るような目が交差する。

 そこへ、声をかけられた。

 

「先生方、早く来てください」

 

 美術部顧問がスッと立ちあがる。

 そのまま颯爽と針のむしろが敷かれた教室に入っていった。

 

 

 

 美術部顧問の彼は同情していた。

 これから責任を追及してくるであろう、教育委員会や学校上層部の面々に、心の底から同情していた。

 

 彼はしみじみと昔を思い出す。

 思えば、自分もそうだった。

 アリナを何とかコントロールしようと、色々と手を尽くした。

 そして、それらは全て失敗に終わった。

 

 アリナが投身自殺をはかったときなどは、顔面蒼白になったものだ。

 今となっては「その程度のことで」と反省しているが、当時は大事だった。

 

 教員を続けられないかもしれない。

 クラス担任の漏らした不安を、このときは彼も感じていた。

 

 一方で、肩の荷が下りた気もしていた。

 さすがにこんな事件を起こしたのなら、最低でも顧問は外されるだろう。

 そうなればアリナと関わらなくて済む。

 

 しかし、現実は厳しい。

 巻き起こる擁護論。

 教育委員会に「彼以外にいない」と訴える同僚たち。

 アリナと関わりたくない一心でかけられる、仲間たちからの心温まる激励の言葉。

 ついには減給処分のみで留任が決定してしまった。

 

 あのとき悟ったものだ。

 もうアリナ・グレイからは逃れられないのだ、と。

 

 考えてみれば当然の話だ。

 学校上層部からすれば、アリナほど学校の宣伝になる生徒もいない。

 事実、アリナが在籍しているからという理由で、入学を希望する子供は多い。

 逆に退学でもさせようものなら、最近ますます宗教じみてきたアリナのファンたちに何をされるかわかったものではない。

 

 大多数の教員にとっても、それほど困る話ではない。

 アリナには特別扱いを許す雰囲気がある。

 教師であれ、他の生徒たちであれ、大抵の者はアリナが何をやっていようと

 

「アリナなら仕方ない」

 

 で済ませてしまう。

 それで済ませていれば、アリナが積極的に人と関わることはないから、問題が拡大することもない。

 仕方ないで済む立場であれば、それほど手のかかる生徒ではないとも言える。

 

 そういう視点で見ると、最良の選択は現状維持ということになる。

 生け贄は少ない方がいいものだ。

 

 

 

 彼は自分を半円状に囲むように座っている、教育委員会の面々に視線を向けた。

 

 彼らは一様に憤っていた。

 このままアリナの問題が大きくなれば、責任を追及されるかも知れない。

 そうなれば自分たちはどうなる。

 教育委員会に名を連ねるまでに積み上げてきた名声が、一気に崩れ去るのではないか。

 そんな不安の裏返しとして、憤っていた。

 

 ああ、哀れだ。

 

 美術部顧問の頬に、一筋の涙が伝った。

 彼らはこの期に及んでも、まだ自分たちの力でどうにかできると思っているのだ。

 だから憤っているのだ。

 

 いや、それも仕方ないのかもしれない。

 彼は涙を拭い、思い直す。

 教育委員会の構成員は法律で

 

「教育、学術及び文化に関し識見を有するもの」

 

 と定められている。

 例外はあるとはいえ、基本的には条件を満たす者の中から、とくに優れていると評価された者が教育委員会に選ばれる。

 謂わば、教育のプロの中のプロなわけだ。

 

 しかし、悲しいかな。

 彼らは教育のプロであっても、アリナ・グレイ歴は0日のド素人にすぎない。

 

 ああ、哀れだ。

 

 そんな彼らにはわからないのだ。

 もはや我々にできることは、覚悟を決めることだけだという真実が。

 

 拭ったはずの涙が、また流れてきた。

 かつて己が歩んだ苦難の道。

 そこに今まさに踏み込もうとしている者への憐憫の情が止めどなく溢れてくる。

 

 それが彼に口を開かせた。

 おそらくは伝わらない。

 けれど、もしかしたら彼らの苦しみを少しでも和らげられるかもしれない。

 努めて明るく言った。

 

「上手くいけば、我々はアリナ・グレイをよく支えた善き教師。下手をしたら生徒の健康管理すらできない失格教師。それでいいじゃないですか」

 

 全方向から罵声が飛んできた。

 

「それではよくないんだよっ!」

「それとも君、君が責任を取ってくれるのかね?」

「どうして、そんなに平然としていられるのだね、君は!」

「なんて無責任な発言だ!」

「教師としての自覚はないのかねっ!」

 

 やはり、伝わらなかったか……。

 まあ、仕方がないのだろう。

 

 覚悟を決めるしかないときは覚悟を決めるしかない。

 覚悟を決めた後のことは、アリナのみぞ知る。

 この理を体得するには、それなりのアリナ・グレイ経験が必要だ。

 

「もう一度言いますが、覚悟を決めてください」

 

 なお罵声を叫ぶ教育委員会の面々に、彼は

 

「では、仕事がありますので」

 

 と、一礼しながら、泣いた。

 

 彼らは優秀だ。

 真面目に職務に取り組んできた。

 そうして教育委員会に選ばれるだけの名声も積み上げてきた。

 何十年もだ。

 

 だというのに、それらが吹き飛ばされようとしている。

 もとを正せば高校生に過ぎない、一人のアリナ・グレイによって。

 なんて可哀想な人たちなのだろう。

 

 しかし、まあ。

 どうしようもない。

 




ここからしばらくアリナ・グレイ編です。
前半はアリナに振り回される周囲の様子を描き、後半はアリナ自身の心の動きを描いていけたらと考えています。
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