盗作・魔法少女マジカルかりん   作:ノッシーゾ

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第十七話 アリナ・グレイ(2)

 

 神浜市水名区。

 竜真館道場。

 

 そこは普段からマギアユニオンの集会場になることが多い。

 今日もそうだった。

 ただ今回は、少しだけ様子がちがう。

 

「それじゃ、今回の議題は終わりだけど、質問がある人はいる?」

 

 まず、集会を仕切っているのが、十咎ももこだった。

 いろは、やちよ、十七夜など、ユニオンの主要メンバーが病院に行っているためだ。

 

 もう一つちがっているのは、他の街の魔法少女も参加している点だ。

 

「一つ、いいでしょうか?」

 

 手を挙げたのは、巴マミ。

 見滝原チームの代表として参加している魔法少女だ。

 今回の対アリナの作戦では、拘束魔法のスペシャリストとして、特に重要な存在でもある。

 

「なに、マミちゃん?」

 

 ももこが促すと、マミは一瞬だけためらってから言った。

 

「あの、話を蒸し返すようで申し訳ないんですけど……本当にアリナさんの記憶を消してしまうんでしょうか?」

 

 その言葉は、はからずも他の魔法少女たちの気持ちも代弁していた。

 そういう少女たちの視線が、一斉にももこに注がれた。

 

(うっ……)

 

 内心、ももこはたじろいだ。

 

『本当にやるのか?』

『やる必要があるのか』

 

 ももこにも疑問がないではなかった。

 だから言葉に詰まった。

 チラッと頼れるはずの仲間に視線を向ける。

 

 まず水波レナと目が合った。

 瞬時に逸らされた。

 

 つぎに秋野かえでと目が合った。

 口パクで『頑張って』と伝えてきた。

 

 最後に梓みふゆを見た。

 何かを考え込んでいて、ももこの視線に気付かなかった。

 

(……仕方ない)

 

 覚悟を決めて答えようとしたとき、別の声が上がった。

 

「ちょっといい?」

 

 プロミストブラッドの智珠らんかだ。

 

「あたしはマギウスの芸術家がどうなろうが知ったこっちゃないんだけどさ。アイツ、このまま行ったら本当に死ぬよ?」

 

 続いて、いくつか連続して声が上がった。

 

「あ、あの! 私もそう思います!」

「これ以上やったら本当に……」

「わたしも、ちょっと見てられなかった」

 

 みんな栄総合学園の生徒だ。

 つまりはアリナが日に日に病的になっていく姿を、間近で見ていた魔法少女たちだった。

 

 思わぬ援軍に、ほっと息をつく。

 ももこはそれらの声を引き取って、もう一度マミに向き合った。

 

「私も最近のアリナは知らないんだけどさ。こうして実際に見てたみんながこう言ってるし、やちよさんと、いろはちゃんも実際に会って同じことを言ってる。だから私は信じてもいいと思うんだ」

 

 まだマミは踏ん切りがついていない様子だ。

 けれど、一応は納得したようだった。

 

「……そうですよね。いえ、すみません、時間を取らせてしまって」

「大丈夫だよ、こっちこそごめんね。また神浜の問題に巻き込んじゃってさ」

「い、いえ! マギウス問題の責任は私にもあります。これくらいのお手伝いは……イタっ!」

 

 もうマミちゃんはそれ引っ張りすぎだって。

 それに今回はアリナが勝手にやってるんだから、全然マミちゃんとは関係ないよ。

 

 綾野梨花と木崎衣美里だ。

 二人に突っ込まれてマミは困ったような笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ、改めて今日の集会は終了です。皆さん、ありがとうございました」

 

 

 

 

「ほんっとアイツ、なに考えてんのかしら!」

 

 里見メディカルセンターの病室の一つ。

 ここ数日で『新みかづき荘』の観もでてきた部屋に戻ってくるなり、七海やちよは吐き捨てた。

 

「おお……、荒れてるねぇ……」

 

 すこし身を引きながら由比鶴乃が反応する。

 それがよくなかった。

 

「そりゃ、荒れるわよ! こっちが心配してあげてるのに『はいはい、わかったカラ』って、ほんっと……ほんっとムカつく!」

 

 言い終わるや、勢いよくベッドに倒れ込む。

 そのモデルらしからぬ振る舞いに、ベッドがギギッと悲鳴をあげた。

 

「やちよ! ギョーザがわりーぞ!」

「……行儀かな?」

「それなっ!」

「……くっ」

 

 悔しげに顔を歪めながらベッドから降りる。

 足の部分などが壊れていないか確認する。

 

 大丈夫、どこも壊れていない。

 

 ふーっ、と一息。

 もし本当に壊れていたら、里見院長に何と言っていいかわからない。

 

「いろはと小学生組は?」

 

 落ち着きを取り戻したやちよの問いに、二葉さなが答える。

 

「いろはさんは明日の確認で、紅晴さんと連絡を取るって言ってました。ういちゃんたちは里見先生に呼ばれて、となりの病室で話をしているみたいです」

「里見先生が? なにか言ってた?」

「明日のことについて、聞きたいことがあるって言っていました」

 

 明日のこと、というのはアリナの記憶を消す件だろう。

 もちろん記憶を消したら、またメディカルセンターにいてもらうことになる。

 万が一、脳に障害でも残ったときも、やはりメディカルセンターの世話になる。

 その辺りで、確認したいことがあるのだろう。

 

「……わかったわ。とにかく、いろはが忙しいなら、ももこに任せた会議の様子は私たちから聞いておきましょうか」

 

 言いつつ、携帯を取り出す。

 ももこは『会議が終わったらメッセージ送るよ』と言っていたのだが、まだ届いていないようだった。

 

「長引いてるのかしら?」

 

 だとしたら、こちらから連絡しては迷惑だろう。

 待つしかないようだ。

 とすると、他にやれることは……

 

 と、仲間に意見を聞こうとして、鶴乃が自分を見ているのに気付いた。

 いつになく、迷いの見える目。

 なにが言いたいのか、それでわかった。

 他の二人にも視線をやると、同じような目で自分を見ていた。

 

「ねえ、やちよ……」

 

 鶴乃が口を開こうとした。

 それを遮るように、やちよは言った。

 

「命より大切なものはないわ。そうでしょ?」

 

 鶴乃は口をつぐんだ。

 さなとフェリシアも顔を俯けた。

 

 

 

「……で、これらの事象から深月フェリシアの魔法は記憶を消去するというより、記憶にロックをかける魔法だと言えるんだよ!」

「なるほど、ロックをかけるなら、心因性の記憶喪失の症状に近いね。忘却させるというより、意図的に記憶喪失を引き起こす魔法といった方がいいね」

 

 里見医師は娘の言葉に頷きながら、しみじみと思った。

 やはり娘は天才だ。

 

 だって、そうだろう。

 自分は弟から魔法なるものの存在を示唆されたとき、まったく相手にしなかった。

 そんなものは存在しない、と初めから決めてかかっていた。

 

 対して、娘はどうだ。

 たしかに自分が魔法を使えるというアドヴァンテージは大きいだろう。

 しかし、それを抜きにしても、父親が理解しようとすらしなかったものを理解し、素人にもわかるように説明できる。

 

 天才も天才。

 1000年に一人の大天才だろう。

 

「ありがとう、灯花。それなら健康に悪影響を及ぼす確率は、ほとんどないと言えるだろうね」

 

 そう言いながら、ぐっと伸びをする。

 医者という仕事柄、一応自分では学力は悪くないはずと思っている彼だが、専門外の話を理解するのは疲れる。

 

 聞きたいことは、大体聞けたところでもあった。

 彼は話を変えることにした。

 話のタネは、ここ最近、彼女たちの間で話題の人物だ。

 

「君たちからみて、いまのアリナ君はどうだい?」

 

 それに答えたのは、環ういだった。

 

「……かなり、危ない気がします」

「どうしてそう思うんだい?」

「なんだか、病気が治る前の私たちに似てる気がするから……」

 

 なるほどと、うなずく。

 たしかに、あの静けさは死を覚悟した人間のものに近い。

 

 里見医師は改めて三人を見回した。

 

 見れば見るほど面白い三人組だ。

 理系の天才と文系の天才。

 その間に何の特徴もなさそうな少女が挟まっている。

 しかし、その少女が肩身の狭い思いをしているのかといえば、そうでもなく、むしろ彼女こそが三人の中心だというのだから面白い。

 

 例えばだ。

 滅多にないことだが、彼女が何かをしたいと言い出せば、他の二人は自分の意見を引っ込めてでも希望に沿おうとする。

 大の大人たちでさえ手を焼く二人が、だ。

 

 何かの拍子に彼女の機嫌を損ねたときなど、見ていて哀れになるほど、二人揃ってオロオロしはじめる。

 その言葉で、各界の著名人さえ動かせる二人が、だ。

 

 どうしてこんな関係になるのだろうと、不思議に思って観察していたことがある。

 それでわかったのだが、彼女は“人間ができている”のだ。

 

 彼女は優しかった。

 我が儘三昧の我が娘と、笑顔を絶やさずに話ができるほど優しかった。

 

 そして彼女は強かった。

 自分の命が長くないと知りつつ、それを静かに受け入れてしまえるほど強かった。

 

 おそらく賢くもあった。

 他の二人とはちがった種類の賢さだ。

 人の目を見るだけで考えを察することができる、といったような、そういう種類の賢さを彼女はもっていた。

 

 そういう娘の言葉だ。

 一考に値する。

 

「ねむちゃんは、いまのアリナ君をどう思う?」

 

 里見医師は、これまで黙っていた最後の一人に声をかけた。

 

 柊ねむ。

 理系の灯花に対する、文系の天才。

 小説家を一種の芸術家とするなら、アリナ・グレイの同業者ともいえる少女。

 

 彼女は窓の外に向いていた視線を里見医師に戻すと、一呼吸おいてから言った。

 

「たぶんアリナは死んでいるつもりなんじゃないかな」

 

 その言葉は、すこし突飛に聞こえた。

 

「どういうことだい?」

「『盗作』なんて言葉を自作につけるのは、創作家として自殺に等しいということさ」

 

 その言葉でも、まだよくわからない。

 

「『盗作・魔法少女マジカルかりん』のことかな? あのタイトルをつけた時点で、アリナ君は死んだつもりだったと?」

「少なくとも芸術家としてはね」

「でも、アリナ君は現に生きているよ」

「芸術家としての死と、肉体の死は同義ではないよ。ただ、芸術家として死んだ自分の残り滓に、アリナが価値を見いだしているかは、はなはだ疑問だけどね」

「……」

「そう考えていくと、いまアリナが大人しいのは、みんなが言うように不自然ではなく、むしろ自然だよ。なにしろ、ほとんど死んでいるんだから」

 

 たしかに、そうであれば腑に落ちることがたくさんある。

 しかし、そうだとすると、今度は新しい疑問が生まれてしまう。

 

「だとすると、アリナ君の記憶を消す必要もないんじゃないかな? 君の見立てによると、芸術家のアリナ君は死んでいる。なら新しい作品を作ることない。今回のように、死ぬ直前まで自分を追い詰めてしまうこともない……という気がするのだけどね?」

 

 ねむは首を横に振った。

 

「それはアリナを理解していない意見だよ。アリナが芸術家としての命を使ってでも何かを描く決意をした。ならアリナは描くよ。これは絶対だ」

 

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