ハロウィンが終わり、3ヶ月が過ぎようとしていた。
秋も終わり、クリスマスも終わり、新年を迎え、もう少しで節分という時期だ。
この日も一人の少女が例の本屋にやってきていた。
彼女はキョロキョロとあたりを見回して、店内で一際目立つポップを見つけた。
「若き天才芸術家アリナ・グレイが放つ少女漫画『盗作・魔法少女マジカルかりん』第2巻好評発売中!!!」
「異例! 10月31日発売の「盗作・魔法少女マジカルかりん」年間売り上げ一位を奪取!!」
見つけるなり、彼女は駆け出した。
山のように並べられた物の中から一冊を手に取ると、また走るようにレジに持っていった。
死にたいと願っていた、あの少女だった。
本屋を出た彼女の足取りは3ヶ月前とは比べものにならないほど早かった。
ほとんど走っている。
そのスピードや上気した顔、荒い呼吸は競歩の選手が練習をしているのだと勘違いされそうだ。
実際、勘違いされたのだろう。
すれ違った子供が振り返り、彼女の後ろ姿を不思議そうに見送っていた。
「ただいまご飯さき食べててお風呂もどうぞあと部屋入ってこないで!」
帰宅すると、出迎えてくれた母親に捲し立てて、まっすぐ自分の部屋に入ってマジかりの封を開ける。
表紙には一人の少女。
魔法少女というより、魔女っ娘とでも言った方がよさそうな衣装。
黒いとんがり帽子をかぶり、手には背丈ほどもある大鎌。
いたずらっぽい笑みを浮かべて、ペロッと舌を出しているのが何とも可愛らしい。
彼女こそ、この漫画のヒロインかりんちゃんだ。
期待に胸をときめかせてページをめくる。
実のところ、本編の内容は知っていた。
ファンの間では
「マジカルハロウィンシアター編」
と呼ばれる、かりんちゃんが仲間を集めて劇をやる話だ。
学校一のマジかりストを自称する彼女は、すでに週刊誌で読んでいた。
だが、週刊誌で一話ずつ追うのと、単行本で一気に読むのとでは違った楽しみがある。
なにより今回の単行本には、おまけとして担当編集者へのインタビューが載っているのだ。
週刊誌の情報によると、アリナ・グレイが『マジかり』を持ち込んで来たときの話や、制作中の秘話が載っているのだという。
マジかりストとして興味を惹かれるというものだ。
彼女は読了済みの本編はひとまず置いておき、おまけの載っているはずの後半のページを開いた。
――――早速ですが、佐藤さんが「マジかり」の担当編集になった経緯を教えていただけますか?
ええ、はい。
まあ劇的な出会いじゃないので恐縮なんですが、アリナさんが持ち込んでくださったときに、ちょうど私と編集長以外、出払ってたんですよ。
それから成り行きで担当をやらせていただいてます。
――――へえ、持ち込みだったんですか。
一部では「芸術家アリナ・グレイ」に目を付けていた角海文庫さんから執筆を依頼した、という噂もありましたが?
それは根も葉もないガセです。
先ほど言ったように、アリナさんが持ち込んで来てくださり、私が読み、これは売れると思って企画会議にかけた、という流れでした。
何なら、その日の日誌があるので読んでみますか?
――――いやいや、疑っているわけじゃないので大丈夫です(笑)
いやぁ、でも持ち込み……。
あのアリナ・グレイが漫画の持ち込みって、どうも想像が付かなくてですね(笑)
よければ、そのときの様子を伺ってもいいですか?
もちろんです。
あっ、詳しく思い出したいので、日誌を見てもいいですか?
――――何ですか(笑)
そんなに日誌を見せたいんですか(笑)
去年の8月初頭の昼休みでした。
当時の編集長から、いきなり
「佐藤ちゃん、漫画の持ち込みがあったから見てあげてよ」
なんて言われましてね。
指示された通り、待たせてるっていう会議室に行ったんですよ。
まあ、ご存知の通り綺麗な娘でね。
西洋人形のような、って形容詞がありますけど、まさにそれです。
思わず、見惚れそうになりましたよ。
見惚れませんでしたけど。
というのも、ね。
態度が恐ろしく悪かった。
本物の西洋人形だったら、足は机の下で行儀よく揃ってるはずでしょう?
なのに、あの生きた西洋人形と来たら、足をもう……こうやって机の上に投げ出してるわけですよ。
もう座ってるっていうか、椅子の上に寝そべってるんです。
しかも手持ち無沙汰にペン回しなんかしてて。
で、私が会議室に入ると、そういう体勢のまま顔だけ向けて言うわけです。
「漫画、読んでほしいんですケド」
――――それはまたインパクトのある……。
マジかよって思いましたよ。
適当に読んで、適当にあしらって帰ってもらうしかないなって。
まあでも、マジかよって思うのはまだ早かったわけですが。
原稿の1ページ目を見た瞬間、またマジかよって思いました。
絵が上手いんですよ。
それも並の上手さじゃない。
週刊スキップのベテラン漫画家だって、こんな綺麗な絵は描けないぞっていう。
もっと言うと、単に上手いだけじゃなく、自分の味がある。
自分の味っていうのはつまり、一目で「この人の絵だ」ってわからせる力っていうか。
とにかく、そういう魅力があった。
最悪の第一印象なんて忘れて、2ページ、3ページと読み進めました。
で、5ページ読み終わる頃には確信したんですけど、話の作り方もめちゃくちゃ上手いんです。
――――刊行されている本編で5ページと言ったら、あそこですか。
かりんがベテラン魔法少女の七美やちよからグリーフシードを盗んで、へっぽこ魔法少女の秋乃かえでに渡すまで。
そうですそうです。
読者の方がお読みになった部分が、そっくり私が読んだ部分になります。
原稿からほとんど修正してないんです。
この時のかりんの行動って、客観的に見たら強盗犯の泥棒なんですけど、ここを本当に魅力的に描くんですよね。
かりんは少しお馬鹿というか、考えが足りないところがある。
けど、良いことをしたい、かっこよくありたいっていう憧れをもってる。
そこが読者から見たら可愛くて堪らない。
可愛くて堪らなくなるように、計算して描いてる。
――――話作りの上手さは私も感じましたね。
このあとの展開もよかった。
かりんが七美やちよに諭されて、反省する。
でも自分は弱い。
一人では魔女に勝てない。
どうしたらいいか悩んでいると、秋乃かえでが自分のチームに入れてくれる。
仲間を作ることの良さ、みたいな物を知る。
ああ、これでいいんだ、と思う。
で、ここからが素晴らしい!!
そうなんですよ!
普通の漫画なら、仲間ができた素晴らしい!
で終わる所なんですけど、マジかりは終わらない。
なぜなら、かりんは孤高の魔法少女で部活の先輩でもある「きりん」に憧れて魔法少女になったからです。
グループに入ると憧れの「孤高の魔法少女きりん」から遠ざかってしまうんですよね。
そのことに、かりんは部活で「きりん」と接しているときに気づく。
――――そう!
そこからかりんは決断する!
自分は弱いけど。
一人で戦うのは危険だけど。
仲間と戦うのは安心するけど。
それでも憧れに近づくために孤高の魔法少女でいようと!
さらにですよ!
ここで重要なのは仲間の大切さも否定してないってことなんですよね。
仲間は大切で、素晴らしい物だ。
そこはちゃんとわかってる。
けど、その大切な物よりも、きりんへの憧れはもっと大切なんだっていうのが、ここの決断なんです。
――――そうそうそうそう!!
良い!!
かりんちゃん最高!!
(両者とも興奮して話が進まなくなったため、一部割愛)
――――ええ、すみません。
話を本題に戻しましょう。
そうしましょう。
――――しかし、もう時間がないですね……。
ええと、というわけでこうしましょう。
あと三つ、あと三つだけ質問に答えていただきましょう。
佐藤さん、よろしいですか?
もちろんです。
いやぁ、本当に変なところで盛り上がってしまって申し訳ない。
――――いやいや、それは私の方こそ……。
と、そんなことを言っていると、また時間がなくなるので、質問に移りましょう。
先ほども話題に出ました、かりんの先輩「きりん」ですが、この「きりん」と、同紙で連載中の「怪盗少女マジカルきりん」の「きりん」
ネット上では色々な憶測が飛び交っていますが、ズバリ関係はあるんですか?
キャラクターのデザインも口調も、そっくりそのまま「怪盗少女のきりん」に見えるんですが?
ああ、読者の方は気になるところですよね。
お答えしましょう。
まず、世界観が一緒とか、そういう関係は一切ございません。
「マジかりの先輩魔法少女きりん」と「マジきりの主人公きりん」は全くの別人と考えていただいて結構です。
ですが……
――――ですが?
「マジかりの先輩魔法少女きりん」は「怪盗少女マジカルきりんのきりん」を登場させたいという、アリナさんの強い希望で出演させています。
言ってしまえば「きりん」だけは「怪盗少女マジカルきりん」の二次創作キャラクターというわけですね。
もちろん原作者から許可も取っています。
――――へえ、アリナ・グレイの希望ですか!
あまりイメージにはありませんでしたけど、元々漫画好きだったりするんですか?
私は基本的にプライベートに踏み込まないようにしてるので、断言は出来ないんですが、嫌いではないようですね。
マジかりのコマ割りとかを見ても、漫画を読んでない人間に描ける物じゃない。
そもそも漫画嫌いが漫画を持ち込んだりしないですし。
まあ、いずれにせよ「怪盗少女マジカルきりん」は本当に好きみたいですね。
打ち合わせのときなんか、よく話題に出ます。
すこし前まで原作者の体調不良で「怪盗少女マジカルきりん」の連載が止まってたでしょう?
あの時期なんて打ち合わせの度に
「マジきり、まだ再開しないワケ?」
って。
――――アリナ・グレイ、まさかのマジきらーだった!!
いや、思いがけず気になるネタが飛び出してきましたが、時間がない。
深掘りしたいところですが、次の質問に行きましょう。
アリナ・グレイと言えば気難しい人物として有名ですが、そういった点で佐藤さんが苦労することってありますか?
やっぱりアリナさんを知っている人からすると、そういうイメージなんですか。
でも編集者としては、本当に楽な漫画家なんですよ。
アリナさんって。
まず締め切りを絶対に落とさない。
あれだけ書き込むのにですよ。
本当に今まで一度だって落としたことがない。
編集者のテクニックに、漫画家には実際の締め切りより早い日程を伝えるっていうのがあるんですが、それも要らないくらいキッチリ時間を守ってくれる。
あと、権利関係の問題も楽ですね。
著作権やら商標やら出版倫理やらの問題で、その表現はマズいとなったとき、編集者としては「それはダメです」って言わないといけない。
これが気難しい先生だと「いいや、これを表現しないとダメなんだ」って、ゴネられんですが、それもないんです。
「ふぅん、そう」
なんて言うだけで、パパッと描き直してくれる。
ああ……ただ、出版前にいくつか条件を出されたのが、少しキツかったくらいですか。
――――条件、というと?
三つありました。
一つ目は10月31日に発売すること。
二つ目は「きりん」を登場させること。
三つ目がタイトルを「盗作・魔法少女マジカルかりん」にすること。
特に「盗作」って言葉には強いこだわりがあったみたいですね。
企画会議で、タイトルに「盗作」はマズいって話になったんですよ。
「怪盗少女マジカルきりん」へのリスペクトを表現したいなら「魔法少女マジカルかりん」ってタイトルでも十分だろうって。
でもアリナさん
「絶対にこのタイトルで行くカラ」
「変えるくらいなら出版の話はなかったことにして欲しいワケ」
とまで言い張りましてね。
――――盗作、ですか。
たしかにインパクトの強い言葉ですよね。
そういえばネットでも話題になってたなぁ。
「きりん」を登場させる、つまり「怪盗少女マジカルきりん」を半分盗作するから「盗作」なんだ、とか。
かりんの能力である窃盗から採ってるんだとか。
佐藤さんはここの由来は聞いたりしてるんですか?
それが聞いてないんですね。
教えてくれないんですよ。
ですが、いま挙げられた2点も理由の一部ではあると思います。
あとは今後の物語の重要な伏線になってたり……するのかもしれません。
――――気になるなぁ。
まあでも、これ以上問い詰めても佐藤さんが困るだけでしょうからね。
この辺にしておきましょう。
ありがとうございます。
あとは本当に手のかからない漫画家ですよ。
アリナさんは。
――――そこ本当に意外なんですよね。
私は以前から芸術家アリナ・グレイを追っているんですが、私から見たアリナ・グレイは本当に……こう言うと悪いですけど、エゴの塊みたいな印象があって。
良い作品を作るためなら人を殺せそうというか。
そんなに意外ですか(笑)
いやぁ、そんなことないと思うんですけど。
でも、たしかに社内でも同じことを言われるんですよね。
――――ほう、その話も気になりますね。
詳しく聞かせていただけますか?
もちろん大丈夫ですけど、どこから話そうかな……。
……ええと、はい。
まず私、実はマジかり出版の話がかなり進むまで、アリナさんが著名な芸術家だって知らなかったんですよね。
ペンネームをどうするか聞いたとき、アリナさんはそのまま
「じゃあ、アリナ・グレイでいいカラ」
って、しっかり名乗ってくれたんですけど、私はどこかで聞いた名前だなぁと思ったくらいで、芸術家のアリナ・グレイだなんて、思いもしなかった。
――――知らなかったんですか!
知らなかったんです。
でも芸術家アリナ・グレイを知っている後輩からすると、担当の私なら当然、知ってると思ってたんでしょうね。
私がアリナさんの打ち合わせに行く度に、戦場に向かう兵士に対するような口調で言ってくるんですよ。
「先輩、本当に大丈夫ですか?」
なんて。
――――後輩さんの気持ち、よくわかります。
「著作権の関係で、その内容は使えません、直してください」なんて言ったら殺されそうですから。
実際のアリナさんは、そんなことないんですけどね(笑)
先ほども言った通り、この表現は権利関係でダメですって伝えれば
「ふぅん、そう」
で直してくれる。
まあ、ともかく私はアリナさんが芸術家だと知らなかったんです。
だから、何でそんなに心配されるのか、意味がわからなくて。
仕事も忙しい時期だったから調べたりもしなかった。
で、本誌への掲載が、ほぼ決まったって段階で、事件が起こった。
編集会議のとき、アリナさんの描いた原稿に権利関係でややこしそうな部分が見つかったんです。
ここを直さないと、出版は難しいぞって感じでした。
当然、こういうときは作者に直してもらわないといけないし、いつも直してもらってる。
もちろん、このときも直してもらおうとしました。
「ああ、じゃあ直してもらいますよ」
って。
そしたら会議の参加者が全員ギョッと私を見て、必死に止めるんですよ。
「死ぬ気なのか!?」
「出版社内で殺人事件なんか冗談じゃないぞ!?」
「アリナ・グレイに毒されて気が狂ったのか!?」
「原作者に黙って直す気か? それはあとで問題になるぞ……!」
果てには、後輩の、私が教育を担当した女の子なんか
「お願いだから行かないでくださいぃ……!!」
って、泣きながら訴えてきた。
――――本当に戦場に向かう兵士にかける言葉ですね(笑)
いまだに釈然としないんですけどね。
ああ、そうだ。
こんな機会もないんで、逆に教えてもらいたいことがあるんですけど、よろしいですか?
――――はい、どうぞ?
私、芸術には疎くてアリナさんの作品も二つか三つしかしらないんですけど、そんなにヤバいんですか?
確かに少し不気味な作品はありましたけど、皆さんが言うほど異常かって言われたら、そんなことない気がしてるんですが。
――――ちなみに見た作品っていうのは?
ええと、たしか『絶叫羅漢』っていう絵画と『ひとりの群』ってインスタレーションです。十二才と十三才のときの作品ということで、凄まじい才能だなとは思ったんですけど。
やっぱり皆さんが言うほどかっていうと、やはり疑問で。
――――ああ、なるほど……。
では『サイケデリック青春賛歌』と『アリナの九相図』は見てない?
見てないですね。
その二つの作品が特に有名なのは聞いています。
ですが、いくら探しても見れないんですよね。
どの美術館にも展示されていないようですし、それだけ有名ならネットに落ちてそうだとも思ったんですが、まったく落ちてなくて。
――――ああ、たしかに今は見れないかも知れないですね。
それだけインパクトがありましたから。
いや、ありすぎた。
インパクトがありすぎた?
――――あっ、いや、ええと、何というか。
とにかく、あれは言葉では伝わらないので……。
どうしても見たいなら、ご本人なら映像も持ってるでしょうから聞いてみては?
あまりお勧めはしませんが。
ふーん?
そんなこと言われると余計に気になるんですが、わかりました。
――――では最後の質問に移らせていただきます。
アリナさんが一番こだわっていた部分はどこですか?
先ほどの締め切りを守るという話や、修正も簡単にしてくれるって話を聞いていますと、意外とビジネスライクに割り切ってるのかなと推察するんですが。
いえ、これが矛盾するようなんですけど、凄くこだわるんですよ。
「一番こだわってた部分」を聞かれると「全部です」って答えるしかないくらい。
それこそ背景の木の一本一本、葉っぱの一枚一枚までこだわる。
例えば、前にアリナさんが自主的に修正した箇所があるんですけど
「このコマ、直したカラ」
って言われても、どこを直したのかわからなかった。
それで質問したら背景の街路樹を直したって言うんですよ。
言われて見ると、確かに背景の隅っこにノミみたいな大きさで描かれた木の葉が微妙に違う。
聞けばイチョウの木から、かえでの木にしたと。
何でこんな細かい所をって思うでしょう?
そこがこだわりって奴なんでしょうね。
――――締め切りを落とさないって話でしたけど、そんなところまで直して間に合うものなんですか?
普通は間に合いません。
けど、アリナさんは間に合わせるんですよ。
描くのが尋常じゃなく速い上に、平気で二徹も三徹もする。
はじめてですよ。
締め切りって、そこまでして守るものじゃないんですよ?
なんて言ったのは。
――――本来は締め切りを守らせる仕事なのに(笑)
でも編集の私がここまで言っても、締め切りは守る。
本当に絶対に守る。
こだわりといえば締め切りに間に合わせること自体に、こだわりがあるのかも知れませんね。
あっ、そうだ。
間に合わないといえば、特に時間をかけて修正してたコマがありましたね。
――――どのコマですか?
1話冒頭の、かりんが描いた魔法少女たちの似顔絵のコマです。
あそこだけは本当に時間がかかった。
持ち込んでくれた段階から「ここは後で直すカラ」と言ってたんですが、結局修正が終わったのが出版間近になりました。
――――え、冒頭の似顔絵のコマっていうと、あのちょっと絵のうまい小学生が描いたような似顔絵でしたよね?
あそこも直してるんですか?
っていうか、あのコマもアリナ・グレイが描いてるんですか?
あの似顔絵ですし、あそこも直してます。
アリナ・グレイ完全直筆です。
いや、凄いですよね。
本当に絵のうまい小学生が、一生懸命描いたようにしか見えない。
これは解説が必要だと思うんですが、上手い人が下手な絵を描くのって難しいんですよ。
崩して描けば雑にはなるんですが、どうしても基本が出来てしまう。
下手に描こうとしてるのに、構図がカッコよく決まってしまったり、遠近法が上手く使えていてしまったり、デフォルメでちゃんと可愛くなってしまったり。
初稿だとアリナさんも例外じゃなかった。
下手に描こうとしてるのはわかるし、読者にも
「ああ、この絵はかりんちゃんが描いた絵なんだ」
って、意図が通じるくらいには下手に描けてたんですが、やっぱり上手さが隠し切れてなかった。
――――下手な絵を描くのにこだわってたんですか?
ここは本当にこだわっていました。
何百枚と同じコマを描いて、これは違う、これも違う、と。
一話はここを除いて全部完成してるのに、このコマだけ延々と直してました。
頭を抱えて、たまに奇声を発したりしながら。
見てて、ちょっと面白かったですよ。
突然
「ヴァァァァアアアアアアアッ!!」
なんて叫びだしたり、自己暗示みたいに
「アリナはフール……アリナはフール……!」
と唱えだしたり、
「――――(出版倫理にもとる発言のため削除)――――! ――――(出版倫理にもとる発言のため削除)――――!」
っていうのも面白かった。
あと、三徹のあと絞り出すように言った
「これじゃ、あの娘の絵じゃないんですケド……!!」
っていう言葉は、妙に印象に残ってます。
――――アリナはフール(笑)
なんか、もう本当に追い込まれてた感がありますね(笑)
本人としたら追い込まれてたんでしょうね(笑)
私は結構、心理的に余裕があったんですが。
と言うのも、似顔絵が上手く出来てしまっても出版すれば売れると確信してましたから。
まあ、そんな紆余曲折を経て、あのどこから見ても小学生が描いたようにしか見えない似顔絵が生まれたわけです。
この話で驚いた方は、もう一度1巻を見直すことをお勧めします。
本当に小学生が描いたとしか思えない仕上がりになってる。
――――ありがとうございました。
聞けば聞くほど聞きたいことが増えていってしまいますね(笑)
ですが、時間も予定の時間を過ぎてしまっているので、さすがにインタビューを終わりたいと思います。
あらためまして、佐藤さん。
本日はお忙しい時期に付き合っていただき、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。