当初の予定より、だいぶ長くなってしまいました。
にも関わらず、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
カルーア・ノイジ
話題の女子高生漫画家。
半年前に世界を席巻した名作『盗作・魔法少女マジカルかりん』の作者アリナ・グレイに才能を見出され、同作に唯一のアシスタントとして参加。
同作完結後に連載を開始した『芸術の魔女』は『盗作』に続く、業界を牽引する作品として期待されている。
今回は名作『マジかり』完結から半年を記念して、同作の魅力を味わい直すために、消息を絶った作者に代わり、お忙しい中わざわざ時間を作っていただいた。
────こんにちは、カルーア・ノイジ先生。ええと、いきなりですが、何と呼べばよろしいですか?
こんにちは、よろしくお願いします。
ええと……呼び方、ですか?
とくに拘りはないですけど、そうですね。
じゃあ「ノイジ」とかでお願いします。
このペンネーム、気に入ってるので。
────わかりました。では、ノイジ先生と呼ばせていただきます。ちなみに、このペンネームって何か由来があったり?
ああ、はい。
もちろんありますよ。
実は、アリナ先生が私の名付け親なんです。
────へえ、あのアリナ・グレイが。ノイジ先生とアリナ・グレイの師弟関係は有名ですが、『漫画家とアシスタント』という以外にも、何か交流があったりするんですか?
いえ、アリナ先生と私との関係は、もう完全に『漫画家とアシスタント』です。
年が近いからって、どこかに遊びに行くとか、そういうのは全くないです。
私がアリナ先生をどう思ってるのかって言われると
「この世界の最高神」
なんですけど。
関係性って言われると……。
アリナ先生は、あんまり私のこと気にしてないんじゃないかな(笑)
────「最高神」ですか(笑)それだけ漫画家として尊敬なさっている、と。
はい、それはもちろん。
あと、ちょっと聞いていただきたいんですけど、わたし一時期自殺しようとしてた時期があるんです。
漫画家になる才能がないから、生きてる意味ないって。
それで、ビルから飛び降りよう。
でも漫画が好きだから、最後に一冊だけ漫画を読もうって。
まさにその時に手に取ったのが『盗作・魔法少女マジカルかりん』なんですよ。
────それは運命的ですね!
そうなんですよ!
最期にしようと思ってた一冊が、こんなに素晴らしい作品だった。
しかも、まだ1巻でした。
巻末に「2巻に続く」っていう煽り文も書いてありました。
これは「読み終わるまでは生きろ」っていう神様のお告げに違いないって(笑)
じゃあ、そのお告げをくださった神様は誰かって言ったら、もう疑いようもなくアリナ先生じゃないですか(笑)
────たしかに(笑)
それからは、もう典型的な「マジかりスト※」生活です。
もう毎週末、神浜に通い詰めて。
ありとあらゆるグッズを集めて。
自分でも作って。
同人誌も書いたり。
つい先日まで自殺しようとしてたのが、何かの勘違いだったんじゃないかってくらい幸せでしたね。
※マジかりスト
『盗作・魔法少女マジカルかりん』の熱烈なファンのこと。
彼ら彼女らが世界中から聖地『神浜市』に集うことによって
「休日は神浜の人口が10%増える」
という名言が生まれた。
ちなみに神浜市の調査によると正確な数字ではなく、実際は20%増える。
────じゃあ、そのマジかりスト活動で、アリナ・グレイの目に留まったんですか?
あっ、いえ。
そんなことはないです。
私とアリナ先生が会ったのは、本当に偶然で。
ああ……と、あの……そう。
『マジかり』の9巻が発売された直後に、アリナ先生が倒れたってニュースになってたじゃないですか。
────なってましたね。同日の内閣総理大臣辞職より、世界的にはよっぽど大きいニュースになってましたからね。
ああ、ありましたね。
ネットニュースでも
「アリナ・グレイ、内閣総理大臣に勝利」
とか、書かれてたり(笑)
────ありました、ありました(笑)あ、それでノイジ先生、そのときがどうしたんですか?
あっ、すみません。
えっと、実は私もちょうど、その日に風邪を引いてて。
それで病院に行かないとって、なったんですけど。
せっかく病院に行くなら『マジかり』に何度も出てくる里見メディカルセンターがいいなって。
────さすがマジかりスト。病身を押して(笑)
えへへ(笑)
それで、あの……詳細は伏せますけど。
マジかりって何人か実在の人物をモデルにしたキャラクターが登場するじゃないですか。
────はいはい、モデルの七海やちよとか。あと劇中の「里美灯火」は宇宙物理学の天才児「里見灯花」がモデルらしいですね。
はい、そうらしいです。
それで、病院に行ったとき、わたし会ってしまったんですよ。
あの、あくまで詳細は伏せますけど、そういうモデルになってる人に。
────伏せるんですね(笑)
伏せます(笑)
それで、わたし興奮しすぎてしまって(笑)
風邪とかまったく関係なく、それで気絶してしまったんですよね(笑)
────アッハッハッハッハッハっ!!
そのときは『モデルになってる人』に助けてもらって事なきを得たんですが、入院することになって。
入院すると、アリナ先生も入院してるって情報を小耳に挟んでしまって。
もういても立ってもいられなくて、病室に突撃して(笑)
────ノイジ先生、意外にアグレッシブですね(笑)
普段はそんなことないんですけど。
マジかりのことになると、ちょっと歯止めがですね……(笑)
まあ、それはよくて。
そのあと、色々あってアリナ先生がこう言ってくださったんですよ。
一言一句忘れもしません。
「アナタの漫画、読ませてヨネ」
「漫画の書き方ならアリナが教えてあげる」
って。
────へーっ!! それは凄い!! それで読んでもらって、才能があるって話になってっていう感じですか?
えーと……。
どうなんでしょう。
っていうか、どこまで言っていいのかな……。
────まずいことなら編集のときに削除するんで、結構踏み込んだことを言ってもらっても大丈夫ですよ?
そうですか?
じゃあ……。
マジかりの『御園かりんちゃん』って、行方不明になってしまった、アリナ先生の部活の後輩で名前も同じ『御園かりんさん』がモデルなんですよ。
────そうなんですかっ!?
ええ、そうらしいです。
アリナ先生が直接そう話してたこともあるので、間違いないと思います。
それにアリナ先生が通っていた栄総合学園なんかだと、有名な話らしいですよ。
────それは、知らなかったなぁ……
行方不明って重くて、外に話したくなる話でもないですからね。
ほとんどの外部の人は知らないんじゃないかと思います。
それでマジかりの話になるんですけど。
マジかりって、全部
「『御園かりんさん』を漫画家にするため」
に描かれてるんですよ。
たぶん大衆に受けるように描いてあるのも。
ファンサービスが多めなのも。
ファンとか大衆のためじゃなくて、究極的には
「『御園かりんさん』を漫画家にしてあげるため」
なんです。
────ほう?
アリナ先生が言ってたとかじゃなく、私がアリナ先生を見て感じたってだけの話なんですけど。
でも、たぶんそうなんだと思います。
たとえば第一話の冒頭の、かりんちゃんの描いた似顔絵があるじゃないですか。
────ああ、アリナ・グレイの直筆だという、あれ。
あっ、ご存じでしたか。
でも、アレって『原作』が存在するんです。
────原作?
はい、漫画家志望だった『御園かりんさん』が自室の壁に貼っていた絵なんですけど。
マジかり一話冒頭の絵は『原作』を完コピして描いた絵なんです。
というか『かりんちゃん』が描いたっていう体の劇中作は、全部そうです。
────え、でも『かりんちゃん』の絵って、ちょっとずつ上手くなってくじゃないですか。それはどうなってるんですか?
『御園かりんさん』がちょっとずつ上手くなってるからです。
冒頭では、ちょっと絵の上手い小学生だった。
あれは『御園かりんさん』の実際に描いた絵がそうだったからです。
最後には結構上手い高校生になってるのも『御園かりんさん』が上手くなってたからです。
その過程を、全部アリナ先生が完コピしてるんです。
上達してる点も、してない点も含めて。
────ははぁ……それは…………
すごい執念ですよね。
でもこれって、ファンとか大衆には関係ないじゃないですか。
じゃあ、何であんなことしてたのかって言ったら、そんなの『御園かりんさん』の漫画を世に出すため、っていう以外に考えられないっていうか。
──── ……
たぶんアリナ先生が私に教えてくださったのも、その一環で。
私の才能を見出したからじゃないんです。
漫画家志望の私がなんとなく『御園かりんさん』に似ていたから『御園かりんさん』を漫画家にするために私に教えてくれたんだと思います。
もっと言うと……これは変な話ですけど。
アリナ先生が教えた私が漫画家になれた。
なら、アリナ先生が教えた『御園かりんさん』も漫画家になれるはずじゃないですか?
────すごい“重い”ですね、アリナ・グレイ。
あははっ。
そうなんです。
アリナ先生は、すごく“重い”人なんですよ(笑)
でも、そこがまたカッコいいんですよね。
あと、タイトルに『盗作』って言葉がついてるじゃないですか。
これも私が思うに『御園かりんさん』を漫画家にするためにつけたんだと思うんですよね。
────というと?
まず『盗作』って創作家からすると、敗北宣言みたいなものなんです。
「私はあなたに勝てないから盗むしかありませんでしたー」
っていう。
頭を垂れて、ひれ伏すみたいな。
加えて、『盗作・魔法少女マジカルかりん』が世界一の漫画ってことは、もう誰も否定できないじゃないですか。
その世界一のはずの漫画が、敗北宣言をしてる。
誰にっていうと『盗作・魔法少女マジカルかりん』が散々『盗作』してきた『御園かりんさん』に対してです。
こういう場合、世界一の漫画家は誰なのか。
御園かりんさんなんですよ。
これは『盗作・魔法少女マジカルかりん』に勝つまで、誰も否定できない。
──── ……なるほど。
つまるところは、もう死んでしまっている『御園かりんさん』を、誰にも文句の言えない漫画家にする、っていうのが
『盗作・魔法少女マジカルかりん』
っていう作品だったんじゃないかなぁ。
──── ノイジ先生、今日はありがとうございました。最後に一つだけ聞かせていただいていいですか?
はい、なんでしょうか?
────いま現在、消息不明になっているアリナ・グレイさんですが、何か情報お持ちでしょうか。
近況は、本当に何もわからないですね……。
『マジかり』の連載が終わってからは一度もお会いしてもいないので。
――――連絡も取っていない?
取ってないですね。
もともと連絡取れないっていうことで有名らしいですけどね。
正直に言って、アリナ先生がどこにいるのか、何をしてるのかも全然わからないです。
――――うーん、じゃあ新作とかも期待できないんでしょうか?
それは大丈夫ですよ。
描きますよ。
アリナ先生は。
描かないと逆に死んじゃう人なので。
まあ、漫画なのかは分かりませんけどね。
────そうですか、次作がありそうですか! はい、では是非とも、次の作品に期待したいところですね。ノイジ先生、今回はありがとうございました!
ありがとうございました。
それから一月後のことだ。
ある漫画家が、新作を発表する。
タイトルは『全人類魔法少女化計画』
その作品は、作者の前作のようなハートフル路線を期待していた読者達を、1人の例外もなく阿鼻叫喚の地獄に叩き落とした。