この時期の神浜の魔法少女たちは、たしかに気が緩んでいた。
原因は主に二つ。
プロミストブラッドなど、他の魔法少女グループとの抗争が終わったのが一つ。
自動浄化システムを世界に広げるという目的こそ達成できなかったが、範囲を広げたり、自由に動かせるようになるなど、一応の成果を得て浮かれていたのが一つ。
いつ終わるとも知れなかった抗争、死の恐怖からの解放。
魔法少女を魔女化の運命から解放するという、賞賛されてしかるべき、偉大な仕事の達成。
その二つが同時に来た。
気を緩めるな、という方が無理だったのかも知れない。
だが、この世には「無理だった」では済まされないことが、往々にしてある。
その最たる事柄が死だ。
今回の例で言うなら、御園かりんの死である。
その日、御園かりんはいつもと同じように単独でパトロールをしていた。
自動浄化システムで魔女は著しく減ったとはいえ、使い魔から成長した魔女もいる。
魔法少女として。
神浜市で生活する者として。
そういう魔女を野放しにしてはいけないと、パトロールを面倒くさがる先輩に常日頃から言い聞かせていた彼女だ。
熱心なパトロールの末、魔女の反応を探し当てた。
その瞬間、彼女の脳裏に過ったはずである。
(すぐに倒さないと……あっ、でも今日は自動浄化システムが二木市に移動してるはずなの。グリーフシードも少ないし、手伝ってもらった方が)
だが、彼女は一人で戦う決心をした。
(ううん、ダメなの。手伝いを頼んでる間に誰かが結界に迷い込んじゃうかもしれないの。逃げられちゃうかも知れないし……やはりここは、この魔法少女マジカルかりんが退治する!)
魔女との戦いの危険など、わかっていたはずだ。
どんな弱い魔女であっても、その能力は様々。
ちょっとした油断が命取りになる。
そんな事例は気持ち悪くなるほど聞いていたはずだ。
なのに、このときの彼女は、そんなことを少しも考えなかった。
この魔女を退治したら今日のパトロールはお終わりにするの、などと考えていた。
気の緩み、というしかない。
かりんはグリーフシードも使わないまま結界に足を踏み入れた。
魔女化に関して、神浜市は他の街とは明らかに違う点がある。
ドッペルが発現すること、ではない。
すでに自動浄化システムの移動によって、ドッペルは神浜の特有現象ではなくなっている。
では、何が違うのか。
それは神浜の魔法少女たちは、仲間が魔女化したときの姿を知っている、という点だ。
すでにドッペル――謂わば仲間の半魔女化――を見慣れている彼女たちは魔女を見れば、それが誰の成れの果てなのか、理解できてしまうのだ。
一度チームを組んだ者たちなら、なおさら。
かりんが結界に足を踏み入れた数時間後、別のチームが魔女の結界を発見した。
十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでの三人組だ。
彼女たちはレベルが高い神浜の魔法少女たちの中でも、特にコンビネーションに定評がある。
使い魔たちの妨害も物ともせず、ごく短時間で結界の最深部に到達した。
そこで、見た。
「おい、この魔女って……」
「嘘でしょ……」
「…………かりん、ちゃん?」
その後、動揺した三人はリーダーである十咎ももこの判断で撤退を決断。
結界を脱出した後、かりんと連絡が取れないことも確認。
さらに翌日には学校にも来ておらず、家にも帰っていないとわかった。
御園かりんの魔女化。
その情報はマギアユニオンを通して、神浜市に住む全ての魔法少女に通知された。