神浜マギアユニオンは魔法少女たちの互助組織だ。
その活動内容は多岐に渡る。
浄化システムの管理。
定例会議の開催。
強力な魔女が現れたときの対応。
グリーフシードの相互融通の仲介。
その他、雑多な仕事も含めれば、とても数えられる物ではない。
といっても、その活動理念自体は極めて単純だ。
つまり
「仲間の命を守ること」
これに尽きる。
そんなマギアユニオンの議題を、近ごろ独占している人物がいた。
アリナ・グレイである。
アリナが最初に本格的な議題に上ったのは、かりんの魔女化から一週間が経ったころだ。
栄総合学園に通う恵萌花から
「最近、アリナさんの様子がおかしいんです」
と、相談されたときだ。
当時、かりんのことも落ち着きはじめたと感じていたユニオン首脳部は驚いた。
アリナのことは、まったくのノーマークだったからだ。
たしかに、かりんと一番親しかったのはアリナだった。
普通であれば、かりんが魔女化したときに、真っ先にフォローすべき場所にいる人物ではあった。
それでも、この情報はユニオンにとって衝撃だった。
まさかアリナが……という空気がユニオン全体にあったからだ。
あの他人に無関心なアリナが。
自分の作品以外に興味がないアリナが。
まさか深刻なダメージは受けないだろう。
そう考えていたからだ。
ともかく、問題が発生したなら対応が要る。
ユニオンの存在意義を考えても、かりんに続いてアリナまで魔女化するような事態は許せなかった。
ユニオンの首脳は、とりあえずの対応として、梓みふゆにアリナとコミュニケーションを取ってもらうことにした。
みふゆの柔和な性質は、マギウス時代から比較的に相性がよかった。
問題の解決とは行かずとも、解決の糸口は掴めるだろうとユニオン首脳部も、本人も考えていた。
しかし、結果は違った。
「ダメです。何を言っても上の空で……」
打つ手なし。
それがみふゆからの報告だ。
ソウルジェムの濁りも早く、一人にしていたら簡単に魔女化してしまうだろうとの情報も追加された。
他の魔法少女が行っても結果は変わらなかった。
何を言っても反応が薄い。
体を揺すったりしても、それを振り払いもしない。
ただ、ソウルジェムの濁りは早くなっていく。
仕方なくユニオンは定期的に誰かをアリナのお見舞いに行かせることにした。
栄総合学園でもアリナの現状を憂えていたのだろう。
アリナの友人を名乗る他校の生徒たちを怪しむこともなく、学校への立ち入りを許してくれた。
それからは二日に一回のペースでユニオンのメンバーが栄総合の門をくぐって、見舞いに行くようになった。
状況が変わったのは、さらに一ヶ月が経ったころだ。
この日、アリナの様子を見に行ったのは秋野かえでだった。
彼女は、ある決意をしていた。
アリナに「立ち直ってください」と面と向かって言う決意だ。
かえではかりんの友人である。
それもかりんの交友関係の中では上位の親しい友人だった。
かりんなら、アリナの現状を見たら悲しむだろうと確信していた。
アリナに対して苦手意識、というより恐怖を感じている彼女だったが、それでも言わなければいけないと決意していた。
彼女は鼻息も荒く、栄総合学園の門をくぐった。
しかし、彼女の決意は無駄になった。
アリナの方から話しかけてきたからだ。
「アナタ、よくフールガールと話してたヨネ?」
「ふぇっ!? え、えと……!」
「どんな話してたワケ?」
かえでにはアリナの内心にどんな変化があったのかなどわからなかった。
だが、これはチャンスだと、彼女は直感した。
記憶の糸を辿りながら、かりんとの思い出を話していった。
もともと話が上手い方ではない。
分かり難かったり、重複したりする部分もあった。
人によれば、途中で飽きてしまうような話でもあった。
そんな話をアリナは静かに聞いていた。
「ご、ごめんなさい、話しすぎました……!」
かえでが話を止めたのは、下校のチャイムが鳴ったからだ。
話を始めてから、まるまる一時間以上が経過していた。
かえでは失敗したと思った。
アリナが短気なことは、よく聞いていた。
きっと不快だったろうと思った。
しかし、アリナの反応は思いのほか良好だった。
「別にいいカラ。そんなことより、まだ時間はある?」
「え……あ、はい、まだ一時間くらいなら……」
「じゃあ、それまで話の続き、聞かせてくれる?」
それから二人は、かえでとかりんの思い出の場所を回りながら話をした。
はじめて会い、グリーフシードを押しつけられた場所。
落ち込んでいたときにチームに誘った場所。
一緒に戦った魔女の結界があった場所。
家族と暮らしているかえでには門限がある。
なので思い出を全部回るわけにはいかなかったが、思い出深い場所は一通り回った。
このときも、かえでは上手く話せたか不安だった。
でもやはりアリナの反応は良好だった。
「今日は付き合ってくれてセンキュー」
などという、らしくない言葉さえ飛び出した。
あまつさえ
「アナタ、家はどこ?」
「えっ、し、新西区ですけど……」
「じゃあ、送るから案内してヨネ」
「ふぇ!? だ、大丈夫ですよ! 私も魔法少女ですし、このくらい一人で帰れ……」
「そう言って目を離したら魔女になってたフールガールを一人知ってるんだヨネ。いいから、hurry up」
なんて会話が二人の間で行われたりもした。
以前のアリナでは考えられない。
魔女に操られているんじゃないかと、心配になったほどだ。
帰路で、かえでは何度もアリナの首元など、魔女の口づけをつけられやすい場所を盗み見た。
もちろん見つからない。
ならば、かりんのことで、何か心境の変化があったのだろうと、かえでは結論した。
「ねえ、アナタ以外にフールガールとよく話してた奴って誰か知ってる?」
秋野家に着くと、アリナはそう言った。
かえでは少しの間だけ考えた。
考えて「ああ、かりんちゃんと向き合おうとしてるんだな」と何となく理解した。
悪くない傾向なのだろう、と思った。
正直に答えた。
「栄の人以外だと十七夜さんかなぁ。あっ、一緒に劇もやったし、色々教わったっていってたから、やちよさんとも話してたのかも。あと……」
話しを聞き終わると、アリナは言った。
「ふうん、センキュー」
その日からアリナは他の魔法少女のもとに現れては、かりんとの思い出を聞いていくようになった。
はじめ、そうして訪ねられる魔法少女たちは戸惑っていた。
あまりの変化について行けなかったのだ。
しかし、そういうときのアリナが以前のようにエキセントリックに振る舞うこともないことから次第に慣れてきた。
アリナ自身の様子も変わってきた。
顔色はよくなり、以前のように何をしても上の空ということもなくなった。
グリーフシードの穢れも、普通の魔法少女と同じくらいになっていった。
それを確認したユニオンも、胸をなで下ろして安堵していた。
『盗作・魔法少女マジカルかりん』を描き始めたのは、そんなときだった。