盗作・魔法少女マジカルかりん   作:ノッシーゾ

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第九話 環いろは(1)

 

『盗作・魔法少女マジカルかりん』には何人かの人気キャラクターがいる。

 

 主人公のかりんは言うに及ばない。

 

 先輩のきりんも大人気だ。

 このキャラクターを語るのに欠かせないのは『怪盗少女マジカルきりん』の主人公をベースにしている点だ。

 その原作再現力は『マジきり』の原作者も唸るほどだ。

 原作と違って、美術部に所属していたり、自分で漫画を描いたりという点も含めて

 

「きりんの魅力を十分に引き出している」

 

 と、第三章で敵になった後でさえ『マジきり』ファンからのものも含めて評価が高い。

 

 

 

 七美やちよも人気キャラクターだ。

 

 第一話で登場したとき、彼女は「怖い先輩」だった。

 端麗な容姿。

 戦闘能力の高さ。

 ベテラン魔法少女としての経験値。

 そういう情報が開示されていたこともあり、グリーフシードを盗んだかりんを厳しく叱責する姿は強く読者の印象に残った。

 

 ところがマジカルハロウィンシアターだ。

 ここを切っ掛けに、読者からの評価は逆転する。

 

 ハロウィンシアターにおいて、その演技下手で醜態を晒し。

 スーパーでタイムセールに群がる主婦に混ざっているのを目撃され。

 訳あって同居している玉木いろはや観月フェリシアに、だだ甘な愛情を注いでいる姿が描写され。

 そうやって凄まじい勢いで化けの皮が剥がれていく様は、読者の心を鷲掴みにした。

 

 今となってはファンからの愛称が「やちよママ」である。

 彼女のモデルとなった七海やちよ共々、タイムセールとポイント10倍デーには必ず現れる女として親しまれている。

 

 

 

 泉十七夜も人気だ。

 何しろキャラが濃い。

 彼女を形作る主な“属性”だけを挙げ連ねて行くと、以下のようになる。

 

 泉十七夜とは。

 ある貧乏一家の長女であり。

 働けない父に代わって一家を支える大黒柱であり。

 魔法少女であり。

 強力なカリスマ性で東をまとめるリーダーであり。

 戦闘能力が高く。

 読心能力があり。

 独特な男口調で話す。

 美人で真面目でカッコいい。

 ちょっと変わった人気メイドである。

 

 積載過多というものだろう。

 さらにに愛称が「なぎたん」で、決め台詞は「なぎたんにお任せ、だぞっ!」というのだから、よく載せ切ったと感心する他ない。

 しかも彼女にも実在するモデルがいて、ほとんどそのままの性格というのだから、これはもう神の所業であろう。

 

 そんな彼女の初登場は第八話「駆け出しメイド十七夜 闊達自在!」だ。

 ここで慣れぬメイド業に苦戦していたところをかりんが手伝ったことで、かりんと良好な関係を築くことになる。

 その後はきりんとは少し違ったポジションの先輩として度々登場し、その度に笑いと感動を読者にもたらした。

 

 ちなみにモデルとなった和泉十七夜が務めるメイドカフェは「リアルなぎたん」に会える店として、連日の大盛況となっている。

 さらにちなみに劇中で言い放った

 

「客に愛情なんてあるわけないだろう」

 

 という台詞は、世の接客業に携わる者の心を打ち、流行語大賞の最終候補にノミネートされた。

 もう一つちなみに、このとき大賞に輝いたのは秋乃かえでの台詞をもじった

 

「○○感ないよね」

 

 である。

 

 

 

 第二部から登場したキャラクター達も人気だ。

 土岐女静香は純朴さと、田舎から出てきたにしても限度があるだろうと言いたくなるレベルの世間知らずぶりを愛された。

 紅葉結奈は愛情の強さゆえに復讐の鬼になるしかなかった悲劇性で読者の涙を誘った。

 藍加ひめなは意外性のある作戦で抗争をひっかき回すトリックスター的な魅力で人気がある。

 

 

 しかし、そんな大人気キャラクターたちも、人気投票では三位止まりになる。

 一位は言うまでもなく御園かりんなのだが、二位のキャラクターも桁違いに人気なのだ。

 人によってはマジかりをこのように評するほどだ。

 

「マジかりの唯一の失敗は、二位のキャラを主人公にしなかったことだ」

 

 そのキャラクターの名前は「玉木いろは」という。

 

 

 

『静香ちゃん、ごめんね、手伝ってもらって……』

『いいのよ、環さんの頼みだもの。まあ、えすえぬえす……? っていうのが何なのか、まだよく分かってないんだけど……そこは、すなおとちゃるが手伝ってくれるし、問題ないわ』

 

『環さん、私たちも問題ないわぁ』

『紅晴さんも、ありがとうございます』

『フフッ……私たちも気遣いはいらないわぁ、マギウスの芸術家に一泡吹かせられるって言ったら、みんな喜んでたものぉ……』

「えっと……できればお手柔らかに」

「えぇ、一応その時はやりすぎないようには注意しておくわねぇ」

 

『いろりーん☆ 私たちもおけまるだよー☆』

「ネオマギウスのみんなも、ありがとうございます」

『いいのいいの☆ マジかりの続きが読めないかもって思うと、ちょっと下がるけど……まっ、誰も死んだりしないなら、それが一番ハッピーっしょ☆』

 

『フォークロアの皆さんも……』

『お礼はいらない。みんなも私も、環さんには本当に感謝してる。これくらいのことは当然』

 

『そうだぞ、環君』

『十七夜さん……』

『みんな君がリーダーということで納得したんだ。今回の件だって、君の判断は正しいと思う。だから胸を張っていい』

『……ありがとうございます』

 

『では、皆さん。行ってきます』

 

 

 

 環いろはは強い。

 この少女を深く知る者は、決まってそう言う。

 

 一見すると、彼女は弱そうに見える。

 争いごとが嫌いで人との衝突は極力避けたがるし、馬鹿にされても困ったような笑みを浮かべるだけで言い返したりはしない。

 後輩とか、妹分に対してさえそうだ。

 だからクラスメイトの大半は彼女を気弱だと思っている。

 環いろは自身、そう思っている。

 

 戦闘能力も高いわけではない。

 七海やちよや和泉十七夜には明らかに劣る。

 二人に一歩届かない深月フェリシアや由比鶴乃より、さらに一段は劣る。

 ボウガンが武器の遠距離戦闘タイプだからという面もあるだろうが、そもそも戦いが向いていないのだろう。

 

 魔力も大きい方ではない。

 普通より小さいわけではないが、平均的である。

 里見灯花・柊ねむなど、生まれながらに天才としての因果を背負った魔法少女とは比べるまでもない。

 

 それでもやはり環いろはは強い。

 他ならぬ、上に挙げた強い魔法少女たちが、そう認めている。

 七海やちよと和泉十七夜、もともと神浜の東西を代表していた二人も、今では神浜全体のリーダーとして、常にいろはを立てている。

 由比鶴乃も先輩として助言することはあっても、いろはが決めたことを否定したりはしない。狂犬呼ばわりされていた深月フェリシアもそうだ。

 里見灯花・柊ねむ、この生意気という言葉が人の形をしているような二人すら、いろはの前では子犬のようになる。

 

 では、なぜそこまで認められているのか。

 それはやはり、彼女たちが実際にいろはの強さを見てきたからだろう。

 

 例えば、だ。

 

 自分以外、誰もが忘れてしまった妹の存在を信じ続け、少ない手がかりから神浜市にたどり着き、厳しい戦いの末に助け出してしまったのは誰か。

 

 環いろはだ。

 

 神浜をエンブリオ・イブとワルプルギスの夜という二体の超巨大魔女が襲ったとき、最後まで諦めず、戦い続けていたのは誰か。

 

 環いろはだ。

 

 キモチの石をめぐった抗争のとき、神浜のリーダーとして矢面に立ち、本気の殺意を向けてくる魔法少女たちと戦っていたのは誰か。

 

 環いろはだ。

 

 上記の抗争で、たった一人「みんなにとって良い結果になるように」と主張し続け、最後には敵対チームの全てと良好な関係を築いてしまったのは誰か。

 

 環いろはだ。

 

 こういう姿を見てきた少女たちにとって、いろはが強いことなど、もはや論じるまでもないことなのである。

 

 そして、今。

 そんな強い少女が覚悟を決めて、里見メディカルセンターに到着した。

 もちろん目的地はアリナ・グレイの病室である。

 

 

 

「こんにちは、里見先生」

「ああ、待ってたよ、いろは君」

 

 病室の前に行くと、里見医師がいた。

 今回のことで彼には色々と迷惑をかけている。

 謝らなければいけないことと、お礼を言わなければならないことが、たくさんある。

 そういう諸々を込めた挨拶。

 

 しかし、里見医師は笑みを浮かべていた

 気にしなくてもいい、という風に手を振った。

 去り際、いろはの肩を叩いて

 

「また何かあったら頼ってくれ」

 

 と言い残していった。

 里見医師を見送ると、いろはは病室に足を踏み入れる。

 

「こんにちは、アリナさん」

「……アリナのソウルジェムは、どこ?」

 

 そんないろはを出迎えたのは、そんな言葉だった。

 鋭い眼がベッドの上からいろはを射貫いた。

 

 いろはは思った。

 前に見たときよりも、ずっと弱っている。

 体を起こしているだけでも辛そうはずだった。

 魔力を使わなければ体を動かすことも出来ないのだろう。

 

 なのに、だ。

 今のアリナは学校で見たときよりも、ずっと恐ろしかった。

 一緒にいるだけで死んでしまうんじゃないかという恐怖が襲ってきて、体が震えそうになった。

 一瞬でも弱気になったら雰囲気に飲まれてしまうだろう。

 

 だから、いろはは努めて平静に言った。

 

「それに答える前に、少しだけ話をさせてもらえませんか?」

 

 アリナから返って来たのは、さっきと同じ言葉だった。

 

「アリナのソウルジェムは、どこ?」

 

 その言葉は明らかに怒気を含んでいた。

 答え次第では殺してやる。

 赤くなった眼と語気が、そう言っていた。

 

 いろはは努めて胸を張り、一歩前に出た。

 

「少しだけでいいんです」

 

 返ってくる言葉は、まだ変わらない。

 

「ソウルジェムは、どこ?」

 

 しかし、いろははまだ食い下がった。

 

「お願いします」

「アリナの、ソウルジェムは、どこ?」

 

 アリナの眼がギラリと鈍い光を放った。

 まるで噴火直前の火山だ。

 次の返答次第では、アリナは目の前の少女を八つ裂きにするだろう。

 並の人間なら、これほどの怒気を受けたら、恐怖のあまり失神するに違いない。

 

「……」

 

 現に、こうして相対している環いろはも恐怖していた。

 心の片隅で、逃げ出したいと確かに思っていた。

 

 しかし、この自分を気弱だと思っている少女は、自分が怖がっているのに気づくと、一回だけ深呼吸をした。

 深く息を吸って、深く息を吐いた。

 そうしてから彼女のクラスメイトの大半が卒倒するようなことをした。

 

 キッとアリナを見返したのだ。

 いや、睨み返した。

 それだけでなくほとんど傲然として、こう言い返した。

 

「病院のどこかです。灯花ちゃんと、ねむちゃんが持っています。二人には、みかづき荘のみんなにも付いてもらっています」

 

 アリナの眼の光が一層鋭くなる。

 

「……なに? つまり言うことを聞かないと返さないってワケ?」

 

 その問いに対する答えも単純明快だった。

 文字にして、たった四文字。

 アリナの眼を真っ直ぐに見返したまま、はっきりと言った。

 

「そうです」

 

 火山が爆発したのは、その瞬間だった。

 

 アリナの体が光った。

 変身したんだ、いろはがそう思う間もなく、緑色のキューブが襲いかかってきた。

 

 いろはの反応は間に合わなかった。

 まず、キューブは右の上腕を直撃し、その骨を真っ二つにへし折った。

 次に、左の膝を打ち抜き、立っていられなくなったいろはが床に倒れた。

 

 最後はソウルジェムだ。

 倒れた衝撃で取り落とした桃色の宝石へ、まっすぐに高速のキューブが飛びかかった。

 ただし、これは直撃する寸前で静止した。

 触れるか触れないかの、すこし魔力を込めれば一瞬のうちにソウルジェムを破壊できる距離で。

 

 アリナが言った。

 

「ねむと灯花が素直に言うことを聞いたら返すから、少し大人しくしててヨネ」

 

 ベッドから抜け出すと、桃色のソウルジェムを拾い上げる。

 いろはの命が、アリナの掌に載せられた。

 

 そうした瞬間、アリナの意識は完全に切り替わった。

 いろはから、ねむと灯花に。

 

 もう環いろはは問題ではなかった。

 ソウルジェムを握られて、逆らう魔法少女がいるわけがない。

 

 あとは、ねむと灯花だ。

 もっとも、こちらも大きな問題ではなかった。

 あの二人には、環いろはのソウルジェムを突きつけて、こう言ってやればいい。

 

「ソウルジェムを返さないと、環いろはのソウルジェムを砕く」

 

 いろはを慕っている二人のことだ。

 そう言われて、逆らってくるわけがない。

 一緒にいるという、みかづき荘の面々も同じだ。

 足を動かすたびに頭が割れそうになるが、まだ体が動かせるのだから、病院のどこかにいる。すぐに見つかるだろう。

 

 ねむと灯花を見つけてソウルジェムを取り返す。

 取り返したら結界を張る。

 結界を通してアトリエに帰る。

 そうすればマジかりの続きが描ける。

 

 アリナの頭は、それでいっぱいになっていた。

 だから後ろから肩を掴まれる可能性など、少しも頭になかった。

 

「待ってください」

 

 アリナは振り返った。

 その先にいたのは、もちろん環いろはだ。

 彼女は先ほどまでと変わらないテコでも動かないと言わんばかりの顔のまま、そこにいた。

 

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