TS長尾狐っ娘異世界物語   作:きし川

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霊峰道中から太陽教神殿にて

 白き一角獣に乗って、霊峰の山道を登る長尾狐っ娘。標高が高くなるにつれ気温が上がっていく中、額の汗の玉を手の甲で拭う。

 

 普通の山ならば、標高が高くなるごとに気温は下がるものだが、この霊峰の場合は逆に上がっていく。なぜならば、ここは太陽にもっとも近い霊峰。別名『太陽の寝所』なのだから。

 

 この世界の太陽は生き物なのだと、長尾狐っ娘は魔女に教えられていた。太陽は決まった時間に起きると霊峰の頂上から光と熱を放ちながら浮き上がるのだ。そして、高くまで上った太陽は今度はゆっくり下りていき、霊峰の頂上で眠るという。

 

 そんな太陽を大地に恵みを 与えてくれる聖獣として奉る団体がいる。その名も太陽教。信仰者たちが太陽が安心して生きていけるように活動をしている団体。

 

 彼らとの接触が今の長尾狐っ娘の目的だった。というのも、長尾狐っ娘の下腹部にある印の一つである太陽のマークが太陽教に関することを指しているのでないかと魔女の調べで分かったからだ。

 

 いったい自分はこの世界で何をするべきなのか長尾狐っ娘はようやく知れると思い、白き一角獣を急かした。

 

 

 

 霊峰の中腹辺りに来た頃、目の前の道の先に光が見えた。日中だというのにそれは太陽と同じほどに輝いて見え、長尾狐っ娘は目を細めた。

 

「なんだこれは」

 

 長尾狐っ娘は驚愕した。

 

 山道の幅の広くなっている場所でグレートヘルムを被った全裸の男が大の字になって寝ていたのだ。そして、何故か男の股間は太陽のように光を放っていた。

 

『……行こう』

 

 ブルブルブルブルッ!

 

 関わらないほうがいい。そう直感し、静かに素通りしようと思ったが白き一角獣はこれ以上男に近づきたくなく首を振って拒否した。

 山頂への道のりはまだ長い。ここから白き一角獣の背を借りずに歩いていくのは骨が折れることだろう。

 

『はぁ……』

 

 長尾狐っ娘はため息を吐いて、白き一角獣の背から降りた。

 いつでも腰のジャマダハルを抜けるようにしながら近づく。音を殺して、ゆっくりとだ。

 

「グウオォォ……グウオォォ……」

 

 近づくにつれ男のグレートヘルムの中から、いびきが聞こえてくる。完全に熟睡しているようだった。長尾狐っ娘はそんな男の様子に良くこんな所で寝ていられるものだと、少しだけ感心した。

 

『おい』

「グウオォォ……グウオォォ……」

『……おい』

「グウオォォ……グウオォォ……」

 

 長尾狐っ娘の呼びかけに男は起きる気配はない。仕方なく、長尾狐っ娘は男の体を揺すって起こそうと手を伸ばした。

 次の瞬間、長尾狐っ娘の細い腕を男の大きな手が掴み、抵抗させる暇も与えず抱き寄せ、その日焼けした逞しい胸板に長尾狐っ娘を押し付けた。

 

『っ! うっ!』

 

 男の身体は驚くほど熱かった。熱した鉄板に触れたようである。だが、不思議なことに火傷にはならず痛みはない。

 

「ああ……我が導きの太陽精よ……グウオォォ……私のような者に添い寝していただけるとは……グウオォォ……」

『離せ……!』

 

 寝言をほざく男の腕の中で長尾狐っ娘は暴れた。しかし、男の膂力の前には無力であり、腰のジャマダハルも両腕を巻き込むように抱かれたせいで抜けずにいた。

 

 ブルルッ

 

 長尾狐っ娘の様子に見るに見かねたのか、白き一角獣が男へ近づき、前足を引っ掻くようにふり男のグレートヘルムを叩いた。

 

「むっ!? 何事だ!? ……お、ぉぉおおっ!?」

 

 爆睡中だった男も流石にこの一撃で目が覚めた。そして、自分の腕に抱かれながら藻掻く獣人の少女を見て、驚きの声を上げる。 

 

『さっさと離せ……!』

「す、すまん!」

 

 男の拘束から解放された長尾狐っ娘は、飛び退いて距離を取り、ジャマダハルを引き抜いた。

 

「まっ、待て! わざとではないんだ!」

『……とりあえず服を着ろ』

 

 正座をして、命ごいをする男を睨みながら長尾狐っ娘は言った。先程から謎の原理で光る股間が眩しくて敵わないならだ。

 

「承知した。少し待ってくれ」

 

 そう言って男は立ち上がり、長尾狐っ娘に背を向けた。今更だが、少女の前で出すべきものではないものを見せてはならないという男の気遣いだった。もっとも、今度は鍛え上げられた臀部を長尾狐っ娘に見せつける形になったので、その配慮はほぼ無意味になっている。

 男は直ぐ側に置いていたトランクスに似た下着を履き、長尾狐っ娘に向き直って、その場に座った。

 

「改めて、先程はすまなかった。寝ぼけていたとはいえ、そなたのような年頃の娘を抱きしめるという不躾な行い――許されるものではない。何なりと処断されよ」

 

 男は頭を下げ、そう言った。誠心誠意の謝罪である。しかし、長尾狐っ娘はそれどころではなかった。

 

『……おい、服はどうした?』

「ん? 服なら、今しがた着たが?」

『いや、それは下着だろう』

 

 長尾狐っ娘の言葉に男は首を傾げる。

 

「異なことを仰る。服といえばこれだろう」

 

 長尾狐っ娘は困惑した。言葉が通じるのに会話ができないことに。

 まさか、この首輪がちゃんと機能しなくなったのでは、と訝しんでいると、

 

「ん、そうか、わかったぞ!」

 

 バチンッと木の幹のように太い大腿部を平手で叩いて、合点がいったという素振りを見せた。

 

「そなた、異国の者だな?」

『……そうだ』

 

 男の問いに長尾狐っ娘は素直に答える。その方が、話を円滑に進められると判断したからだ。

 

「やはりか! ならば、この食い違いも納得できるというもの。ハッハッハッ、いや、ここへ異国の者が来るのは何年ぶりことだろうか!」

 

 男は嬉しそうに笑う。

 

『なぜ、そんなに嬉しそうなんだ?』

「ここは太陽教の聖地である。そのため、太陽教の信者はよく参拝に訪れるのだが……悲しいことに国外には太陽教の信者は少ない。わずかにいる信者達も遠すぎて辿り着けないと聞く。だからか、この霊峰を登る異国の者は滅多にいないのだ――だが、私は外の国について話を聞くのが好きでな、異国の者が来るのを楽しみにしているのだ」

『そうか……だが、あいにくとこちらは訳ありだ。話せることはない』

「む? 訳ありとな? ……そうか、ならば仕方がない。此度は諦めるとしよう」

 

 少ししょぼくれたように男の声が若干沈んだ。

 

「して、私への処断はどうするのだ?」

『別になにもしなくていい。避けられなかったこっちも悪い』

「……そなたの寛大な処置に感謝する」

 

 男はグレートヘルムを地面に擦り付けるように頭を下げた。

 

「そういえば、自己紹介がまだであった。私はこの霊峰にある神殿を守る太陽騎士の騎士長を務めているものだ」

『神殿の……騎士』

 

 神殿。

 それは、長尾狐っ娘が目指していた場所だ。長尾狐っ娘はこれは好機だと思った。太陽教について、魔女からは太陽を信仰する宗教という事以外知らされていない。魔女自身が太陽教の信者ではなく、偶像崇拝が好みではなかったためだ。

 

『その神殿に用がある』

「ん? そなた、神殿に行きたいのか。まぁ、この霊峰を登って来たのなら、当然か……しかし、訳ありのそなたが神殿にか――なかなか入り組んだ話だな」

 

 長尾狐っ娘は、グレートヘルム越しに騎士長の懐疑的な視線を感じた。痛くもない腹を探られたくなかった長尾狐っ娘は、用件を包み隠さず話した。

 

『知りたいことがある』

「知りたいこと? ……ふむ、何を知りたがっているのかは分からないが、神殿に行けば、そなたの答えがあるのだな?」

『そうだ』

 

 長尾狐っ娘は頷く。

 

「そうか。ならば案内しよう。今は太陽教にとって重要な時期でな、神殿への信者以外の出入りは禁止されているのだ」

『入れないのか……』

「普通ならばな。だが、此度の失礼の詫びとして、特別に私が許可しよう。見たところ、そなたは我々の()ではないようだからな」

『……敵とはなんだ?』

「近頃、神殿の近くで無惨に殺された動物の死体が何者かに置かれるようになった。死体には羊皮紙が括り付けられていてな、脅迫文が書かれていたのだ。――次の太陽を生み出すべからず、生み出そうすれば、神殿の者に命はない。とな……まったくどこの不埒な輩は分からないが、どこで知ったのか……」

 

 騎士長はため息をつく。だいぶ件の脅迫状に気を揉んでいる様子である。一方、長尾狐っ娘は脅迫状の一部に引っかかりを覚えた。

 

『次の太陽とは、どういうことだ?』

「……すまないがそれについては教えられない。我々の内では、もっとも秘匿すべきことなのだ」

『……』

 

 それ以上の言及を長尾狐っ娘はしなかった。語りたくないのであれば、無理強いすることはない。下手を打てば、目的である印の意味を知ることが出来なくなってしまう可能性があるのだ。

 

「さぁ、では参ろう。そこの見事な一角獣も連れて行くと良い。神殿には馬小屋があるのでな、神殿の中へ入れる」

 

 騎士長は側に置いていた鞘に入ったツヴァイヘンダーを肩に担ぎ、立ち上がった。

 

『わかった』

 

 長尾狐っ娘は短く応える。白き一角獣の背に跨り、騎士長の後に続いた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 お互い、無言のまま山道を登っていく。神殿のある地点に近づいてきた頃、道の先から喧騒の音が聞こえてきた。

 

「何事だ?」 

 

 騎士長は歩く速度を早め、音の方へ向かう。長尾狐っ娘と白き一角獣も後を追った。

 

「む!? あれは!」

 

 坂を登りきると開けた場所があった。そこには白磁色の石で作られたパルテノン神殿に似た建造物が建っている。その建物の正面で、神殿の騎士達と黒ずくめの集団が互いの武器を振るっていた。

 明らかに襲撃を受けている。そう認識すると同時に、騎士長は走り出した。

 

「何者だ、貴様ら! ここが太陽教の総本山と知っての狼藉か!」

 

 鞘を投げ捨てるようにツヴァイヘンダーを引き抜き、猛然と襲撃者に剣を振り下ろした。襲撃者は後ろに飛び退き、剣を躱すが、さらに踏み込んで放たれた横薙ぎの二撃目によって胴体を両断された。

 

「よくも同胞を……死ねぃ!」

「むっ!」

 

 襲撃者の一人を倒した騎士長を背後から襲撃者の仲間が襲い掛かる。

 迎え撃とうと構える騎士長。しかし、襲撃者の曲刀が騎士長へ振るわれるより先に小さな影が襲撃者にぶつかった。

 

「! ……そなた!」

『助太刀する』

「かたじけない!」

 

 影の正体は、長尾狐っ娘だった。

 長尾狐っ娘は襲撃者達の姿を見た時、魔女の家に赴いた時に襲ってきた黒装束の女と同じだと気づいた。以前、長尾狐っ娘が迷い人だと判明した瞬間に襲いかかってきたことを省みて、今回は先手を打つことを長尾狐っ娘は決定したのだ。

 襲撃者の左脇に突き刺したジャマダハルを引き抜き、血を振り払って、構える。

 

「例の迷い人だ!」

「魔女の家を調べていた同胞を殺したヤツか! ヤツも必ず殺せ!」

 

 長尾狐っ娘の姿を見た襲撃者達はより殺気立った。気づけば、他の騎士達へよりも、長尾狐っ娘と騎士長へ刃を向けている者の方が多くなっていた。

 

「そなた、迷い人であったのか!? ……なるほど、ではそなたが予言の……」

『予言……?』

 

 騎士長の言葉に長尾狐っ娘は眉をひそめた。

 予言。

 そのことについて問おうとしたが、それより先に襲撃者達が動いた。

 複数の襲撃者が二人に迫る。

 騎士長は、ツヴァイヘンダーを豪快に振るい、襲撃者を武器ごと真っ二つにしていく。

 長尾狐っ娘は、攻撃を避けながら隙をついてジャマダハルの刺突を放つ。ジャマダハルは突き刺した後に切り裂くことが可能な武器だ。たとえ急所でなくとも、多量の出血を免れない。

 

「チッ……強い」

「……退くぞ!」

 

 二人の実力に不利に感じたのか、襲撃者達は撤退していった。追いかけようとする騎士達を騎士長は制止させ、けが人の手当を命じた。

 

「ふぅ……いやはや、お見事。その小さな体でよくやったものだ」

『いや、まだまだ、だ……』

 

 血を振い落したツヴァイヘンダーを鞘に戻し、ドカッとその場に座り込む騎士長。長尾狐っ娘はジャマダハルに付いた血を返り血で汚れたワンピースのスカートで拭い、腰に戻した。

 

「彼奴ら、いったい何者なのだ?」

『分からない。こちらも意味もわからず襲われている』

「そうか。……うーん、わからん事ばかり起こるなぁ……」

 

 腕を組んで唸る騎士長。

 長尾狐っ娘は、聞きそびれていたことを聞くことにした。

 

『予言とは、どういうことだ?』

「そのことについては、神殿内で話すことにしよう。それに、そなたを神殿長に会わせなければならないからな――だが、それよりも身を清めよう。血に汚れた格好では神殿に入れぬのでな」

『わかった』

 

 長尾狐っ娘は二つ返事で了承した。返り血まみれの体に不快感があったのは間違いないからだ。

 

 

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