じゅじゅあくたあじゅ   作:しゃんぷ〜

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「今日からよろしくおねがいします!」

 

ぱちぱちぱちと劇団員の人たちに囲まれて、私は天球に所属することに決まった。

 

「へぇ、君おもしろいね」

 

ついでに劇団内に生息していた不審者から目をつけられた。

 

「臭うね」

 

「えっ、私やっぱり臭いの?!」

 

 

 

 

数日前。

花子さんに、

 

「この前、っていうのは遅くまで帰らなくてみんなに迷惑をかけた日なんだけど。巌さんに覚悟がついたら来いみたいなこと言われたの」

 

「それは、それは。すごいですね」

 

「で、覚悟ってなんだろうって」

 

「ふむ」

 

「言いたいこと、なんとなくはわかるの。でも、どういう状態なら覚悟がついたって言えるのか全然わからなくて。私はいつ行ってもよくなるのかしら」

 

「景さんの中では、所属するつもりではあるってことなんですね」

 

微笑むように花子さんが言う。こういう顔の花子さんを見るとなんだかくすぐったい。

 

「んー、楽しそうだなって思ったの。七生さんって人と亀さんっていう人がいてね、おもしろい人たちだったわ」

 

「そうですね、まずはその人たちに嫌われたと仮定しましょう」

 

「えっ?!」

 

ピンと人差し指を伸ばした花子さんは、それを下唇まで運んで、

 

「それでも天球でやっていける自信はありますか?」

 

首を傾けた。花子さんの口元にあるほくろがアクセントとなって妙にさまになってる。

 

「そ、それは、どうなのかしら。考えてもみなかったわね」

 

ちょっと夜凪さぁ、缶コーヒー買ってきてくんない?わ、わかったわ!わかったわ、じゃなくてわかりましたでしょう?わ、わかりました。

 

あらぬ妄想をすると、恐怖に慄いてしまった。いやいや、そんなことあるわけないわよ!ぶんぶん首を振って、妄想を追い出す。

 

「それに役者って、けっこう心を壊しやすいそうなんです。極道を演じた人が、終わった後も役が抜けなくて乱暴になってしまった話もあるみたいですね。役の影響で、自分含めた周囲の人を傷つけてしまう可能性とちゃんと向き合って選択しよう、っていうのも考えられますね」

 

レイ、ルイ、それから花子さん。背中から腕にかけて入れ墨を入れた私が着流しから右腕を露わにして、みんなに向かってシャーっとネコみたく威嚇している姿を想像する。なりたくない姿ね。

 

「決めた。私、役者やめる!」

 

「ええ……。いったいどんな想像をしたんですか」

 

青ざめつつ宣言する私に、呆れたような反応。役者になりたかったのは、あくまでもみんなを幸せにしたいからだった。不幸の種をわざわざまき散らす必要もないでしょう。私のささやかな熱意は風船みたいに急激にしぼんでいった。

 

「そんなに深刻に捉えなくてもいいんですよ。可能性を理解しつつ、私はそんなふうにはならないぞって思えるだけでいいんです、きっと」

 

「うん」

 

「いつまでに決めてこいって、期限を定められたわけでもないなら、じっくり考えればいいと思います。一応いっておくと、やりたいことはやったほうがいいですよ。私はそういうふうにやってきました。他人のことなんて気にせずに、ね」

 

「うん。じゃあもうちょっと考えてみて、決めたら花子さんに話すからね!」

 

「はい」

 

 

 

 

 

次の日、給食を食べ終わってお昼休憩になった。最近では今井さんとよく話す。

 

「へぇ、すごいね。劇団なんて。巌さん?ってよく知らない人だな。すごい人なの?」

 

屋上に向かう階段。その先の扉は常に封鎖されているけれど、それ故にかここは生徒たちのたむろする場所として機能していた。今日に限って誰もいなかったから、二人で階段に腰を下ろして顔を合わせて笑っていた。

 

「私もわからないの。でもすごいみたいね」

 

「芸能人だよ芸能人。すごいな、憧れちゃうな」

 

「今井さんは、役者とかやってみたい?」

 

今井さんは座る姿勢さえ定規が背中に入ってるみたいにまっすぐで美しかった。話し合うときまっすぐに私を捉えるその目にはなんの威圧感もなく、ただただ私に濁りのない水晶を幻視させていた。

 

「うーん、どうかな。考えたこともなかった。刺激的な感じがするよね」

 

爪を噛んで考え込む今井さん。

 

「私が役者してるところなんて想像もつかないかな。私は夜凪さんのこと応援する係になるからね!」

 

「ありがとう!……まだ、なるのかはちゃんと決めてないけどね」

 

「やってみなよ、当たって砕けろってよく言うじゃない?」

 

ファイティングポーズからの、ストレート一発。今井さんはお茶目だわ。心に清々しさをもらいながら、最近の悩みを話してみることにした。

 

「巌さんに覚悟を固めてから来いって言われたのよね。覚悟って、難しいなって」

 

「ちゃんと楽しむ覚悟とかかな?せっかく役者になれたのに、楽しくできないんじゃ、やった意味ないもんね」

 

「なるほど、楽しむ覚悟!ふふ、今井さん、参考になったわ!」

 

「てきとうに言っただけだよ?でも役に立てたならうれしいな」

 

朗らかに微笑む今井さんからは温かい感じがする。

そういえば、私は今井さんとよく話すようになったけれど、友達なのかしら。友達ってなんなのかしら。

 

「今井さん、私たちって友達?」

 

「なあに、いきなり。へんな夜凪さん」

 

口を手で押さえながらくすくすと笑う今井さんの品のいいこと。

 

「じゃあ、こうしようか。今から私と夜凪さんは友達!どうかな」

 

私に向かって伸ばされる手に、宝石を触れるようにおそるおそる手を伸ばしてみる。手のひらと手のひらが重なり合う数センチのところで、きゅっと今井さんが包み込むように私の手を握ったので、握り返した。

 

「これで友達。やったわ!」

 

こうして学校では私に、初めての友達ができた。

 

 

 

ーー

 

 

色々な人から少しずつ手がかりを得ながら、覚悟という言葉の意味を考えてみた。手触りは、ふわふわしているようでゴワゴワとしている。掴みどころのない曖昧さだった。現に私の手の中には色々な解釈が転がっていて、漠然とした形ごと了解しなければいけなかった。

 

今日は花子さんの来ない日。

晩ごはんを食べ終わって、天井を見上げて、少しあくびをして、そういえばお皿を洗ってなかったわねって立ち上がって、スポンジを手に取った。ゴワゴワしているようでふわふわしていた。皿を擦りながら、ミートソースを洗い落としていく。

スパゲッティを入れる皿は平らな形。汁物を入れる容器は底が深くて、コップはお椀よりも縦長。曖昧な全体をしているスポンジが包み込むようにそれらの形を読み取っていく。

水を垂らしながら、皿は光沢を取り戻していた。

 

 

「ルイ!ちゃんと寝る前におしっこ行った?」

 

「行ったもん!」

 

「よし!レイは……ふふ、ちゃんと行ったわね。じゃあ寝ましょうか」

 

「「はーい!」」

 

蛍光灯からぶら下がる紐を2回引っ張ると、光は消えた。布団に入る。ふわふわとしたようでゴワゴワしたものがどさりと私にのしかかってくる。それを受け止めながら眠りにつくのは、容易に思えた。

 

明日、花子さんに伝えようと思った。私がどうしたいのか。

 

いつも眠るのは早いのに、今日に限ってはやけに早く眠れた。

 

 

 

ーー

 

 

そんなこんなで冒頭に時間は移る。

 

花子さんにいいよーがんばってねーってくらいの軽い感じでオッケーをもらって、巌さんに覚悟あります!って伝えて、今日から本格的にお世話になる天球。

電話を求めてドアをバンバンさせてたときとは違った感慨を入り口から見上げる外郭に馳せた。夕方、電灯はまだついていない。深呼吸しつつ肺の広がるにつられるように目を見開いた。瞳孔がぐっと開いて、目に取り込まれる光量が上がった。

 

「よしっ!」

 

誰にともなく頷いて、今度はちゃんと丁寧にドアをぐっと押し込んだ。

 

「景!」

 

七生さんだった。押し込む腕を元に戻すと、ドアはまた元通りに閉じた格好になった。振り向くと、手を振る金髪の姿。

景、と。そう呼ばれた。

家族、というかお母さん以外でそう呼ばれたのは初めての経験だったからその新鮮さのおかげで、とってもわくわくした。始まるのね。ゴクリと唾を飲んだ。

 

夜凪景の新しい生活が、幕を開ける……!

 

映画のキャッチコピーならこれね。そう思っていたのに、これである。

 

「臭うね」

 

「えっ、私やっぱり臭いの?!」

 

私はさっそく明神阿良也って人に絡まれていた。

 

私、臭くないもの!




13話で終わるとかっこいい。いきなり所属しても役はもらえないでしょう。原作の銀河鉄道は、天球のみんなを導く人を用意するためには天球以外のところから役者を引っ張ってくる必要があったっていう需要と供給の奇跡的な釣り合いのおかげで夜凪景が起用されただけなので。というわけで天球のみんなが頑張ってるところを研修生が見てるだけの章になります。13話にまで長くできるのでしょうか?無理です。

勇み足で書いたので文体がしっちゃかめっちゃか。完成度を落とすレベルの自己満足です。原作キャラ一人称視点の作品でこんなことやるべきじゃないんです、本当は……。
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