ヨルムンガンドに愛されて   作:賃現地

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第3話『模擬戦』

『戦場に勝者はいない、その場にいる全員が敗者なのだから』

 

 

 インドネシアの路上で立ち往生していた私こと『東條秋彦』は、現在HCLIに雇用され、キャスパーの元で働いている。

 

 キャスパー達と別れた私は彼女達の到着前に、ホテルに着いた。

 ホテルロビーにはくつろげる空間があり、カフェがある。

 私は一度トイレで新しい服装に着替えた。

 トイレを後にした私は、歩いていたウェイターに注文を聞いてもらい、席に着いて冷たい珈琲を頼んだ。

 

 

 財布にあった余り金で、代金とチップを払おうとした。

 しかし、私が何処に泊まっているかを察すると、ウェイターは「キャスパー様のお客様でしたら、お支払いは結構です」と言って引き下がった。過去の私も東條という記憶の男も、『無料』という魔力には勝てなかった。

 

 

 キャスパー・ヘクマティアルという影響力を、最大限に利用してしまった罪悪感が私を苦しめる。それ以上に、権力という欲望に抗えなかったのも事実であった。

 

 

 こうして『冷コー(冷たいコーヒー)』を待つ間、私の情報を整理することにした。

 

 

 情報を整理するとコネクションの確認が出来た。幾つかはメモに書き出してみる。

 

 

 ・SR班五代目班長『日野木一佐』

 ・SR班隊員『黒坂』

 ・日本国中央情報局

 ・実家

 

 

 携帯に入っている電話番号と記憶は随分と寂しい結果だった。

 だが、諜報員であったことから、最低限の連絡先しか存在しないのは、至極当然だ。

 

 実家の電話番号があったことに意外性を感じた。東條という男は元の家族を心配していたのだろうか。

 

 他に特筆するべき点としては、『SR班』の2名が記録されていたことだろう。

 

 日野木一佐は理解出来る。彼は私に戦場での生き方を教えてくれた恩師だからだ。元の私が残していたのも、今後何かしらに役に立つとのことだろうと考えた。

 

 だが、『黒坂』という女の連絡先が入っていることに私は疑問を覚える。彼女は原作においては敵側で登場し、私に会うことすら無く、キャスパー・ヘクマティアル達に返り討ちに遭った。彼女はチェキータの銃撃により、命を落としている。

 

 東條秋彦の記憶を思い出す、鮮明では無いが彼女との接点は無いように思えた……。

 ウェイターが運んできた珈琲を啜ると冷たさから、ある記憶を思い出す。

 

 黒坂と私、トージョには関係性が乏しいものだと思っていた。

 しかし、私の予想とは違って、黒坂は私のことを大変心配していた。

 

 

 

 SR班を抜ける前夜、現地の仲間を置き去りにした作戦に、文句を言った決別の日。

 高速船に搭乗していた多くの隊員は私を馬鹿にしたが、彼女だけは私を心配していたんだ。

 

 

「私達は現地の人々を犠牲にして国家を守っている。仲間を見捨てる作戦を平気で行うなんて、可笑しい話ですよね」

「黒坂……」

 

「私も批判的なことは言いました。でも、東條さんみたいに現地のメンバーも大切に思う組織が、本来の姿なんだって私は気づいてますよ」

 

 

 

 あれ、私の記憶と随分と違う。黒坂って皮肉屋で冷酷な女性じゃなかった?

 

 記憶中の私を見る黒坂の目が、なんかすごく優しい……。

 

 

 まあ今は気にすることではないだろう。後は着信記録か。

 黒坂から大量の着信が掛かっていたが、きっと東條が突然組織を抜けたからだろう。何故かは不明だが、体の持ち主が黒坂のアドレスを『着信拒否欄』に入れていた。

 

 それならば、私は去った東條を尊重する。

 きっと、その決断が正しいだろうと信頼して。

 

 

 

 

 情報を整理していると、遅れてキャスパー一行がホテルロビーに現れた。

 私を見るや否や、キャスパーは私の胸に飛び込んできた。

 

「ムフーフ❤ トージョは良い匂いだな~」

「? 着替えたからでしょうか。おろしたてのシャツの匂いはするかもしれません」

「”そういう意味”じゃないんだけどね、フフーフ。まあいい」

 

 彼女は少しムッとした表情をした後、私を部屋まで案内してくれた。

 先程頼んだコーヒーの礼を彼女に言うと「構わないよ、此処は僕が投資しているホテルの一つでね。縁があるホテルが世界中に幾つかあるのさ」と気にしていない様子であった。

 

 金持ち恐るべし……私はそんな雇い主に拾われたのだなと思った。そして彼女の庇護を当然のように、享受している私兵一同を見ると、彼女らが雇用主に忠実であり、長年付き添った仲だということも理解できた。

 

 エレベーターで貸し切りの階層に上がり、私の部屋に案内してくれた。

 だが、すぐに荷物を置いて出てくるように指示された。

 

 次に集められたのは、キャスパーが泊まっているスイートルームだった。

 

 

「トージョ、僕の私兵達を紹介する。君の先輩にあたる人々だ。仲良くしてくれ」

彼女は私が到着するまでに、ソファーで(くつろ)いでいた四人を目視する。

 

 私兵は全員女であり、一人は朝の巨乳女。

 もう三人は失礼だが、個性があまりなさそうな女性達だった。

 

 

「まず始めにチェキータさんから、よろしくお願いします!」

彼女は巨乳女にバトンを渡した。やはりあの女性がチェキータだったか。

 

 

 彼女はズイッっと私に向かってくると『マジの後ろ回し蹴り』を放ってきた。

 

 

 その瞬間、私の視界はスローに映る。彼女が体勢を変えた時点からゆっくりと世界は動き始めた。始めに起きた変化は、私の視界、全てが赤のエフェクトによって瞬時に染まったことであった。体は臨戦態勢に入り、頭脳は彼女の行動を予想し始めた。

 

 後ろ蹴りはスロー時間経過でも明らかに駿足だった。

 私は体の全神経を、筋肉と関節へ集中し、体幹を中央部分から下段へシフトすることで、ギリギリ躱すことが出来た。

 

 私の後ろにあった、スイートルーム入り口の重厚な木で出来た扉が、チェキータの蹴りによって留め具が破壊される程度に、外側へ折り曲がっていた。

 

 間違いなくあの蹴りを頭に喰らったら、簡単な怪我ではすまなかったはずだ。

 

 

「へぇ~やるじゃない。『今の』を避けられるんだ?」

チェキータさん、恐るべし。私は心の中で彼女を怒らせないことを誓った。

 

 

「マジか! あの一撃って避けられるもんなの!?」

「いやいや、ヤーパン凄すぎwwwwww」

「私、あれ初めて喰らった時、鼻折れた……」

寛いでいた残りの私兵三人は、全員喰らったんだなと予想。

 

 

 私は心の中で合掌した。

 

 

「トージョ!? 大丈夫かい!!!」

キャスパー、君が仕組んだんじゃないのか。どうやらチェキータの独断だったらしい。

 

 

 間一髪の出来事だった。

 まさか荒い歓迎で自身の能力を発現するとは思わなかった。

 それ程までに、目の前に居る人物が、異常な人型戦闘マシーンであることを私に認識させてくれた。内心は漏らし掛けていたなんて、恥ずかしいことは口が裂けても言えないだろう。

 

 

「チェキータっていうわ。ここにいるPMCのまとめ役って感じかしら?」

彼女は私に手を伸ばして握手を求めてきた。私もそれに応じる。

 

「東條秋彦です。トージョとお呼びください、チェキータさん」

彼女の手は温かい。手からは生物としての力強さが感じられた。

 

 

「・・・。チェキータさん? 何をしているんですか?」

キャスパーはそんな私達を見て笑っていたが、顳顬(こめかみ)を怒らせていた。

 

「キャスパー、貴女のお婿さんを試していたところよ。とりあえずは合格ね」

彼女はヤレヤレといった様子で、キャスパーを見て皮肉そうに笑った。

 

「チェ、チェキータさん!?///」

「? 何を言ってるんですか」

「こっちの話よ、トージョ」

彼女の言っていることは分からなかったが、キャスパーは私から顔を背けていた。

 

 

 キャスパーが落ち着いた後、続いて三人の紹介があった。

 

 

 

 エドガーは金髪の白人でオールバックの髪型をしている女性だった。

 

「よろしく、トージョ。キャスパーさんから話は聞いてる」

「ええ、よろしくお願いします。エドガーさん」

「エドガーでいいよ、それと・・・」

私は耳打ちで彼女に言われた。

 

 

「昔、お嬢様(キャスパー)を救ってくれたことを感謝している。『あの時』はありがとう」

 

 

 私は意味が分からなかった。

 昔に誰を救ったのだろう。キャスパーとなら初対面はあの”麺屋”のはずだった。

 よく分からないがその耳打ちは、応えようが無いのでスルーすることにした。

 

 

 頭が痛い。もしかしたら東條はキャスパーと昔、面識があったのだろうか。

 だが、記憶をどれだけ巡っても、彼女らしい人物との邂逅(かいこう)は思い出せなかった。

 

 

 次にアランを紹介された。

 彼女は刈り上げの髪型に黒い髪と白人にしては珍しい外見をしていた。

 

 

「アランっていいます。トージョ、これからよろしくね」

「ええ、こちらこそ。アランさんよろしくお願いします」

 

「アランでいいよ、エドガーも呼び捨てなんでしょ?」

彼女の笑顔はとても素敵だった。

 

 アランはムードメーカーのような存在で、その快活な笑顔はチームを和ませているんだなと私は感じた。

 

 

 最後にポーだった。

 彼女はナイーブそうな表情で私を見た。アシンメトリーピクシーカットと呼ばれる珍しい髪型で、表情は透けた前髪から見える程度だった。

 

 

「……。ポーです。トージョさんは凄い。チェキータさんの蹴りを避けるなんて」

「トージョです、よろしく。チェキータさんの蹴りを避けれたのは紛れですよ」

私は”運命視(デスティニー・ビジョン)”が無ければ直撃していたから恥ずかしそうに返答した。

 

 

「紛れじゃないよ、トージョは体も視覚も追いついていた」

「そうですか?」

ポーは羨ましそうな顔で答えた。よっぽどあの蹴りがトラウマになったのだろう。

 

 

「じゃあ自己紹介が終わったところで、次はエドガー・アラン・ポー。貴女達がトージョの相手をしなさい」

 

「は?」

「え?」

「・・・・???」

チェキータの一言はその場を凍りつかせただけでなく、三人を困惑させた。

 

 

「トージョの個対集団も見てみたいの。ちなみにトージョに一発も喰らわせなかった子はスイーツ抜きだから」

 

 

 その瞬間、三人の目に鬼神が宿ったのが見えた。

 自己紹介の時にフランクだった三人は、やる気(殺気)を溢れさせていた。

 ポーに至っては完全にヒステリックな笑いを上げていた。

 

 

「トージョ、入隊早々、一発殴らせてくれない?」

「ねえ、トージョ。女にとってスイーツは快楽物質の一種みたいなものなの。分かるでしょ?」

「トージョ、イヒヒヒヒヒヒ。ごめんね」

 

 

 エドガーはナイフを手に、他二人は拳で向かってきた。

 私の視界の端が深紅に染まる。また危険信号が発している。

 数秒後の拳とナイフの軌道が、数秒遅れた時間の中で、陰となり私に教えてくれた。

 

 

「(いや、それでもこれは無理でしょ……)」

私が心の中で嘆いたことには理由があった。

 

 

 どんな動きで回避したところで、三人の攻撃は避けきることが出来なかった。

 エドガーのナイフを避ければ、アラン・ポー両名に捕足される。

 他の二人のどちらかを避けても、エドガーのナイフが体に直撃する。

 

 チェキータという女はなかなかに鬼畜だ。

 相手は捕縛及び殺しのプロが三人。しかも、集団戦闘ときたもんだ。

 こっちは東條の体にまだ馴染んですらないのに、まあ戦闘に卑怯もクソもないか。

 

 ゆっくりとした時間の中でも、対象は動き続ける。

 早くしなければこちらが何も出来ないまま終わる。

 

 最早”避けること”は不可能だった。

 ならば私から手を出すしか方法は無い。

 

 

 私の思考を能力に同調する。

 視界の紅はいつの間にか、通常の視界に戻る。

 それと同時に世界は、緩急した時間からリアルタイムに加速した。

 

 

「トージョー! 恨むなら姉さんを恨んでくれ!」

エドガーが私を目指し、突っ込んでくる。

 

 ナイフを持って、彼女は横一線、大きく振りかぶった。

 その程度は素人すら予測出来ることだった。

 

 私はエドガーのナイフを……

 避けなかった。いや、言い方を変えよう。

 

 ”ナイフに突っ込んだ”というのが正しい。

 

 

「馬鹿野郎! 死にたいのか!? 何で向かってくるんだよ!」

 

 エドガーさん、そいつは違うだろ。

 ナイフってのはリーチが短い上に、握るグリップ部分が少ないから、腕を取られたらお仕舞いなんだ。

 私はエドガーが振るナイフの先に突っ込み、ナイフの刃が当たらない位置まで、エドガーの動きよりも早く近づいた。彼女は慌てて、ナイフの軌道修正を行おうとしたが、もう手遅れだ。私は彼女の腕関節を捕まえると、地面を支点として梃子の原理を利用し、地面に叩きつけた。

 

 

「いっ……てぇ!!!」

「エドガー!? やるねぇ、トージョー!!」

声の主はアランだった。その声は私が向いている視界の後ろから聞こえていた。

 

 

 アランはエドガーを助けるために、必ず無鉄砲に私に向かってくるはずだ。

 それはアランという人柄を即時に判断した、私の賭けだった。

 

 人は視界外からの攻撃を、基本的に避けることは不可能に近い。

 

 だが、予想しなかった場合だ。つまり、予測出来る行動であれば、対処可能だった。私は、地面に抑えつけたエドガーへの力を緩める。

 エドガーは緩んだとばかりにこちらに再度、攻撃を仕掛けてくる。地面へ叩きつけた衝撃でナイフは何処かへ飛んでいったので、タックルの姿勢を取っていた。

 

 

「こっちがお留守だぜ トージョー!!」

エドガー、利用させて貰うよ

 

 

 私はエドガーのタックルを避けた。

 彼女の体を、一つの軸として見立てたのだ。

 アメリカンフットボールで選手を避ける際の、回避行動を思い浮かべて欲しい。

 

 

「嘘だろ!! ちょっ」

「エドガー!? トージョ、ちょっとま・・・」

待つわけ無いだろ、さよなら二人とも。

 

 

 私はエドガーを避けた後、先程のチェキータと同じ体勢を取る。

 ”後ろ回し蹴り”だ。エドガーのタックルも利用した。

 

 エドガーをアランの方向に、押し込んで私は跳び蹴りをかました。

 

 

『ガラガラガッシャーン!!!!』

 

 

 私の”後ろ回し蹴り”を喰らった二人。

 (アランに限ってはエドガーのタックルも喰らってる)

 

 彼女らは蹴りを放った方向に飛んでいった。

 その途中にあった、幾つかの調度品を巻き込みながら、跳ねていった。

 

 

 一息終えるや、また視界は紅に染まった。まだポーが残っていたな。

 彼女の気配は分からなかったが、先程のエドガーが持っていたナイフが消えていた。

 

 彼女達が飛んでいったすぐ後、次の瞬間、天井から何かが外れた音がした。

 位置は私にも予想外の場所だ。

 天井にあった回転中の木製シーリングファンからだ。

 

 

 私は咄嗟にそちらに身を構えた。そして一本のナイフが上から、勢いよく降ってきた。

 明らかに重力で落ちる速度では無い。シーリングファンにはポーが掴まっていた。

 

 彼女がどうやって上に行ったのかは知らないが、

 高所を取られていることは非常に不味かった。

 

 ポーの投擲力が加わった、降ってくるナイフを避ける。

 ナイフの投擲が、彼女の罠だと気づいたのは、避けた後だった。

 

 ナイフを間一髪で、首の左右運動で避けた時、彼女は同時に、私へ目掛けて飛び降りてきたのだ。私はすれ違い様に拳を打とうとしたが、天井から降ってくる女性は脚で私の拳を牽制することにより、いなした。こうして私は彼女に騎乗される形で拘束されたのだった。

 

 

「トージョ。ナイフを間一髪で避けて、更に拳を振るうなんて、反射神経凄すぎ」

「貴女に拘束されてるんですから、私の負けです」

私は開いている両手を上げて降参のフリをした。

 

「でも、反撃されてないよ。ここから組み替えされたら、私はたぶん負ける」

「……。バレてましたか」

 

 

 ポーは私の次の行動を読んでいた。

 先程のヒステリックな笑いに似合わず、彼女の行動予測は完璧だった。

 ポーは「降参しますー」と一言だけ言い残し、私から離れた。

 

 

 

 

 

 個と集団の対決という模擬戦は、スイートルームの破壊によって終了した。

 私がチェキータ達の方向を振り返ると、キャスパーが見たこと無いような形相で怒っていた。

 

 まるでボトルシップを壊された子供のように怒っていた。

 

 一方でチェキータは、キャスパーの怒りを受け流して「はいはい、ごめんなさいね」と反省の色が全く見受けられなかった。

 

 

 キャスパーは「トージョーが死んだらどうしてくれるんだ!!!――スイートルームの修繕費が――入隊式で模擬戦を始めるのは止めてください、っていつも言ってるじゃないですか――」とお説教が止まらない様子だった。

 

 

 私はそんな二人を背に、自分が起こした後始末を行っていた。

 

 まずはエドガー・アランの救出だった。

 幸い二人に酷い怪我はなく、私の蹴りを食らったエドガーが、背中の皮膚が足形に赤くなっていた程度であった。私は気絶しているアランを起こしながら、エドガーの介護にあたっていた。

 

 

「トージョ、お前は本当に強いな」

「エドガーさん、どうして本気を出さなかったんですか?」

「なんのことだ?」

白々しい返事。まあ彼女らしい答え方だ。

 

 

「とぼけないでください、あんなナイフの振り方は素人でも出来る」

「やっぱりそう思う? 良い演技だと思ったんだけどね」

彼女は舌を出して、キャスパー達に見えないように笑った。

 

 

「・・・。アラン、まだ気絶してるの?」

「ポーか。こいつは当然の報いだ、本気で死角から攻撃しやがった」

 

「私も視角の外から攻撃したよ?」

「ポーの攻撃は予定されていた『最後の関門』としての動きだったろ。こいつはスイーツ欲しさにアドリブを混ぜやがった」

「アランは悪い子だね」

 

 

 気づくとポーがアランのそばにやって来て、気絶しているアランをゲシゲシと蹴っていた。

 

 当の本人は顔色を悪そうにしながら「・・・けーき」と一言呟いているだけだった。

 

 

 そんな後ろでは、キャスパーの説教がより大きくなっていた。

 チェキータを見ると、聞いているふりをしているが、鼻提灯(はなちょうちん)が出ていた。

 

 

 チェキータさん? 貴女、説教されているのに寝ていません???

 

 

「あのモードに入ったキャスパーさんは、二時間くらい止まることがないだろうな」

「うん。アランを部屋に置いて、スイーツでも食べに行こ」

「もうこいつ、此処に放置でよくないか?」

「いいと思う」

 

 エドガーとポーは、アランをその場に置き去りにすることを決めたらしい。

 

 そうして彼女ら二人は、私をホテルのレストランに連行した。

 私はこの場に居ても、何も出来なかったので、彼女達に連れられるまま、レストランがある階層へ向かった。

 

 

 そこで丁度行われていた、アフターヌーン・サービスを頂きながら、彼女達二人と先程の反省会、このチームの面白かった話などを聞いたり、日本のあるある話を織り交ぜながら、会話を楽しんだ。

 

 夕日がレストランのバルコニーに差し込み始めた頃、残りの者が上から降りてきた。

 アランは恨めしそうに二人を見つめていたが、チェキータにその視線がバレると、チョーク・スリーパーを掛けられていた。それを見たエドガーとポーは爆笑していた。

 

 キャスパーは私を見つけると「トージョー!? 大丈夫かい、怪我は? 何処か痛いところはないかい!?」と全力で抱きつき、手と体を擦りつけてきた。「大丈夫です、キャスパー」と言ったが、それで許して貰えるはずが無く、その光景は修繕されたスイートルームに上がるまで、永遠に続いた。

 

 

 何故かキャスパーの顔が真っ赤だった。

 理由は不明だが、気にしないことにしよう。

 

 

 それよりも、キャスパーのお餅は、チェキータ程ではないが大きい。

 その胸に顔を埋められて、私はとても幸せだった。

 

 

 

 

 こうしてホテルでの喧騒は過ぎ去った。

 

 

 

 




次回予告:『壮麗な星夜の下にて』
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