魔法少女リリカルなのは Acta est fabula   作:めんどくさがりや

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死者とのダンス

とある場所を黒髪の少年が歩いていた。名は小金井 祐介。

彼は転生者である。神様の部下のミスで亡くなりその詫びとしてこの世界に転生した。そしてこの世界には、自分以外にも転生者がいる。

一人は水無月 蓮華。剣術を得意とする少女であり、かなりの実力を持っている。

二人目は王城 天牙。性格が悪く、友人であるなのは達を嫁と呼んでいる。個人的に好きになれない。

神様が言うには転生者は全部で四人。そう、あと一人がわからなかった。今迄接触せず何処に潜んでいるのかすらわからなかった。もしや別の場所にいるのかもしれないとも考えた。

だが、ついに目処が立った。転入生として学校に来た男。名をメルクリウス・A(アレッサンドロ)・カリオストロ。

そいつへの第一印象は存在感の無い男、というものであった。影が薄いとかそんなんじゃなく、純粋に存在が不鮮明。そこにいるのにまるでどこからか映し出されたもの、あるいは蜃気楼のようである。何か裏があるんじゃないかと見ていたが魔力などは感じられず隠蔽のようなものも感じられない。

 

「・・・あいつは一体」

 

一度王城に思いきって質問してみた。最初はいつものようにキレたが、彼の名前を出すと途端に静かになった。彼はこう言った。

 

(オレ)がモブに言う事などない。だが、嫁達に危害が加わるのは度し難い。故に言っておこう。奴は異常だ。

関わったら最後、破滅しかないだろう』

 

王城が何を感じ取ったのかはわからないが、警戒はしておくに限る。

 

「とは言ったものの、ジュエルシードの件もあるしな。どうしたものか」

 

ただでさえ眼前の問題を解決出来ていないのに別のことに意識をさける余裕などない。

 

「あークソ、あいつの特典を知っていたら対応ができるんだけどな。あいつは一体何を手に入れた?」

 

そのように首を傾げていると、突然けたたましい音が鳴り響く。不審に思いそちらを見る。そこにはーー

 

「ちょっと何すんのよ‼︎」

「いや‼︎離して‼︎」

「うるせえ‼︎さっさと乗れ‼︎」

 

ガラの悪い男達が二人の少女を黒塗りの車へと押し込んでいる。しかもその少女というのが、友人であるすずかとアリサであった。

 

「クソ‼︎」

 

慌てて走り出した車を追跡していく。友人の無事を祈りながら。

 

 

ーーこの世界は面白い。

 

メルクリウスは素直にそう思う。この世界は様々な思惑が交差している。転生者などを抜きにしてもなかなかの舞台だ。友情愛情歓喜憎悪嫉妬ーーああ、なんと美しい。

人々のあらゆる感情が複雑に混ざり、絡まり、形を成していく。それらが舞台を彩る。

 

「だが、嘆かわしきかな。私の劇にくだらぬ横槍を入れる輩がいるとは」

 

メルクリウスの眼下には黒塗りの車が公道を爆走している。それだけなら交通違反の車で片付けられるだろう。

だが、その車内にいるのは明らかにカタギで無い男達と、二人の少女。アリサ・バニングスと月村 すずかだ。彼女らは誘拐されたのだ。

 

「ああ、なんと愚劣なる無知蒙昧。もはや憐れみさえ浮かんでくるよ」

 

このまま、あの男達の存在そのものを消し去ってやってもいいが、

 

「しかし、私が出てきては舞台の興を削いでしまう。ここは彼に任せよう」

 

視線を別方向へと向ける。そこには車を追跡している黒髪の少年がいた。 小金井 祐介だ。

 

「これは本番前の演習だ。これを越えられぬなら舞台に上がる資格は無い。故に、存分に舞うがいい」

 

 

車を追跡していき、たどり着いたのは人気の全くない倉庫であった。

 

「よし・・・クラウ、中の様子はわかるか?」

 

祐介は自分の愛機(デバイス)であるクラウに喋る。

 

『はい。男が数人、マスターのご友人が二人です』

「よし、その程度なら・・・投影開始(トレース・オン)

 

祐介がそうつぶやくと、一本の剣が現れる。

 

「ふっ‼︎」

 

それを倉庫の扉へと投げつけ、

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

その瞬間、剣が爆発した。それにより倉庫に穴が空き、そこに突入していく。中には縛られたアリサとすずかがいた。

 

「なんだこのガキ‼︎」

 

男達が喚きながら銃を撃ってこようとする。

 

「時よ止まれ」

 

瞬間、世界がモノクロに変わる。男達は銃を構えたまま動きを止めてしまった。

祐介が持つ能力である『時を操る程度の能力』を使用したのだ。

その隙に投影した剣を男達の足元に投げていく。そして能力を解除すると、

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)‼︎」

 

剣が爆発し、男達が吹き飛ばされる。全員気絶したのを確認すると、二人の元へ行く。

 

「二人共無事か?」

「え、ええ。何とかね」

「うん、大丈夫」

 

その時、

 

「ふん、使えない奴らだ」

 

一人の男が出てきた。男は懐から拳銃を取り出すと、

 

「お前達はもう用済みだ」

 

その言葉とともに近くにいた男へと発砲する。

 

「お前、自分の仲間を・・・‼︎」

 

男は祐介に視線を向けると言う。

 

「コイツらは仲間じゃない。物だ」

 

次に男はすずかへと視線を向ける。

 

「まあ要望通り月村の化物を連れてくる事は出来たみたいだが」

 

そう言い放った男の言葉に、すずかは怯えたような表情になる。

 

「すずかが化物ってどういう事よ‼︎」

 

アリサの怒声に男は笑みを浮かべる。

 

「なんだ、知らないのか。ならば教えてやろう。その小娘はな「やめて‼︎」吸血鬼である夜の一族の末裔、人の血を啜る化物だ‼︎」

 

吸血鬼?すずかが?

 

「ふざけるんじゃないわよ‼︎すずかが化物ですって⁉︎取り消しなさい‼︎すずかは、化物なんかじゃない‼︎」

「俺も同意見だ。すずかは大切な友人だ‼︎化物なんて言わせない‼︎」

 

その言葉にすずかは涙を流す。

 

「アリサちゃん・・・祐介君・・・」

 

男はそれを見て顔をしかめる。

 

「ほざけ‼︎貴様らはここで死ね‼︎」

 

そう叫び拳銃をすずかへと向ける。

 

「させるか‼︎時よ止まれ‼︎」

 

瞬間時間が停止し、同時に男へと駆け出して能力解除と共に顔面に蹴りを入れる。それで男は吹き飛び、そのまま気絶する。

 

「ふう・・・」

 

それを確認すると同時に友人達が無事で良かったと安堵する。

 

 

「見事。無事友人達を救出する事が出来たようだね」

 

笑みを浮かべながらメルクリウスは言う。先ほどから工場内の出来事をずっと見ていたが彼らの友人の秘密を知り、それでなおその思いは崩れない。とても素晴らしい劇であった。

 

「だが、まだだ。この程度の障害で満足してはいけない。塵芥を排しただけでは無意味でしかない」

 

そう、これは序章の始まりに過ぎず、物語はまだ終わっていないのだから。

ちょうど、近くに一つの死体がある。

 

「さて、『カイン』には遠く及ばんだろうが急造の演者としてはなかなかだ。見事乗り越えてみせたまえよ」

 

そう言ったメルクリウスは手を倉庫に向ける。

 

天が雨を降らすのも(Da sich die Himmel regen Und) 霊と身体が動くのも(Geist und Krper sich bewegen )

 

神は自らあなたの許へ赴き(Gott selbst hat sich zu euch) 幾度となく使者でもって呼びかける (geneiget Und ruft durch Boten ohne Zahl )

 

起きよ そして参れ 私の愛の晩餐へ (Auf, kommt zu meinem Liebesmahl――)

 

形成ーー(Yetzirah―― )

 

蒼褪めた死面(Pallida Mors)

 

メルクリウスが謳い上げた瞬間、空気が変わった。

 

 

「「ーーッ⁉︎」」

 

それを感じ取ったのは祐介とすずかだった。何か得体の知れないものの存在を感じる。

 

「二人共?どうかしたの?」

 

唯一常人であるアリサが疑問の声を上げる。だが祐介はそれに答えず周囲に意識を傾ける。

 

「(なんだ?一体何処から)」

 

その瞬間、すずかの短い悲鳴が聞こえる。そちらに目を向けた瞬間、思わず息を飲む。

先ほど殺された筈の男が上半身を起き上がらせていたのだ。その体には生気が全く無く、顔を覆っているねずみ色の仮面があった。

仮面の男はそのまま立ち上がると下にある剣を拾い上げてゆっくりとこちらを振り向く。その時、その足元に先ほどすずかを罵倒した主犯の男がいた。

 

「た、助けろ・・・俺はお前の主人だぞ・・・」

 

仮面の男へと手を延ばす。瞬間、男の腕が切り飛ばされる。

 

「ぎゃあああああああ⁉︎」

 

咄嗟に二人を気絶させる。これを見せてはいけない。

 

「き、貴様・・・何を・・・‼︎」

 

それに仮面の男は顔を向ける。

 

『・・・・・・』

 

仮面の男はただ無言で剣を振り上げる。

 

「や、やめーー」

 

男は最後まで言葉を発せず絶命する。

仮面の男は男を殺し、こちらを向く。祐介は手に投影した夫婦剣を持つ。

 

「お前はなんだ?」

 

その質問に仮面の男はしわがれた声で言う。

 

『私・・・誰カ。此処ハ・・・何処カ。オ前・・・何カ』

 

そして仮面の男は体を震わせる。

 

『ワカラナイ・・・ワカラナイ・・・ダガ殺シタイ・・・殺ス・・・殺ス・・・殺ス』

 

次の瞬間、仮面の男は凄まじい勢いで向かってくる。

 

「ぐっ・・・‼︎」

 

仮面の男の剣を手に持った夫婦剣で受ける。

 

「はあ‼︎」

 

剣を弾きそのまま斬りかかるがそれを受けられる。

 

「(なんだコイツは・・・死体が動く?バイオハザードでもあるまいし)」

 

また仮面の男が向かってくる。それを何度も受け、そこで違和感を感じる。この死体ははたから見れば完全自立しているように見えるが、どこか違う。まるで何かに操られているような。

 

「あの仮面・・・」

 

あれが一番怪しい。先ほどまであんな物は無かった。あれをつけてから様子が変わったのだ。

 

「だったら‼︎」

 

能力で時を止める。相手が死体でも時間の檻から逃げられない。祐介は仮面の男の元へと疾走して能力解除と共に首に剣を突き刺し、

 

「終わりだ‼︎壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)‼︎」

 

それと同時に男の首で剣が爆発する。煙が治まると同時に男は倒れて元の死体に戻った。

そこで祐介は先ほどの仮面が落ちている事に気づく。

 

「あの爆発で傷一つついていないだって?」

 

仮面を拾い上げようとした瞬間、仮面が煙のように消えてしまった。

 

「一体なんだったんだ?」

 

今回は不可解な事が多すぎる。死体を操るなど聞いた事がない。

 

「まさか・・・」

 

その時、祐介の脳裏にあの影のような者が浮かんだがすぐに否定する。

 

「まだだ。勘違いで決めつけるわけにもいかない」

 

そう言うと気絶している二人の元に戻っていく。

 

 

「ふむ、やはり急造の役者では無理があるか」

 

メルクリウスは蒼褪めた死面を手に持ちながら言う。

メルクリウスの持つ仮面の能力は仮面を被った死者を自由に操れるというもの。本来意思が存在しない死者を己の意のままに操ることができるのだ。

 

「まあいい。カインの調整もすぐに終わる」

 

そう言うとメルクリウスは蒼褪めた死面をしまう。

 

「時間を操る、か。まるでツァラトゥストラのようではないか」

 

それと同時にメルクリウスは消えていく。

 

「願わくば、私に未知を見せてほしいものだ」

 

その言葉と共にメルクリウスは完全に消えた。

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